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領主として
だまし合い
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「ふぃ~……美味かった。
俺の説明だけで、あそこまで再現するなんて、凄ぇなぁミアはさ」
場面は、コータの自室へと戻り――今は朝食を終え、皆が散り散りに個々の作業へと向かった、現世の時刻で言えば、午前10時を周った頃と言った頃合いである。
「うふふ♪、コータ様ったら、またその様な世辞を……誉めたトコロで、今の私が出せるのは、この様な食後の茶ぐらいしかございませんよ?」
――と、コータからの誉め言葉に応えたのは、先のセリフにもあったミア、その人。
彼女は淹れて来た茶を彼の机へと置き、照れ臭そうな笑みを浮かべてそう呟いた。
彼女が例の朝食に出した『コータ様監修、異界の朝食』は――まず主食として、もちろんマコラを炊いたモノこと、ゴッファ。
スープ=ダーヌとして――ホビル族がよく用いるという発酵調味料、ソッラをベースにしたホビル風ダーヌ――異界名『ミッサシュル
主菜として――例の『身が赤くない鮭』こと、サンレヌのエト《塩》焼きと、ニワトリに似た鳥――”チェーラ”の卵を、出し汁で混ぜ溶き焼いた異界名『ダスマック』、副菜としては、ドワネ族が食べるという、葉物野菜の漬物が添えられた、現世の海外に在りがちなエセ日本料理店などは軽く凌駕している、高いクオリティを誇っていた。
「現世に居ても、あのクオリティの和定食を喰えた事なんて、俺の生活じゃあ殆ど無かった……強いて言えば、ちょっと味が薄かったけど」
「それは、仕方ありませんねぇ♪、コータ様が食されるモノには、クレア様の厳しい目が光っておりますから♪」
――と、遠くを見てあの味の残身に耽り、強いての愚痴を吐露したコータに、ミアは笑みを浮かべながら、彼を現実へと引き戻す事柄を告げる。
コータが脳出血の再発を警戒する上で、最も大事なのは血圧の管理――故に、塩分の接種量には、常に気を配らなければならない。
そのために肝要なのは、医官であるクレアと料理番のミアが、ガッチリとしたタッグを組み、彼の食生活を管理する事だ。
だから、コータの膳だけ味噌汁は無いし、サンレヌの塩焼きも、塩という表記が果たして必要だろうかというレベルの薄味――その分、味付けには更なる工夫が凝らされているらしいが。
「解ってますよぉ……言われなくても、自分の身体の事ぐらいはさ。
ただ、ミッサシュルって、味の再現はどうだったのかなぁ……って、気になってるだけですよぉ」
コータは頬を膨らまし、頬杖を突いてミアから顔を背けた。
「うふふ♪、さて、これからのガムバスマ様との打ち合わせと、書類の確認と捺印を終えたら、見回りに発たれるとの事なので、ココに昼食の分のおにぎりを置いて行きますね。
では――コータ様、失礼致します」
ミアは、丁寧にこれからの予定の確認を交え、弁当入れを机の上へと置き、部屋から出て行った。
そして――コンコンと、彼女と入れ替わる様に、自室の中にノックの音が響いた。
「――どうぞぉ~」
ノックの主に検討が着いているコータは、実にぶっきらぼうに、やる気の無さを醸した口調でそう返事をした。
「おはようございます――コータ様」
入って来ると一礼をし、そう朝の挨拶をするノックの主は執政官トラメス――ミアからのスケジュール確認にもあった、打ち合わせの相手である。
「トラメスさん、おはようございます……今日も、よろしくね」
「ははぁ~っ!」
コータが笑みを浮かべてそう返すと、トラメスは一礼で既に下げている頭を、更に深く垂らし、領主への敬意を称して見せる。
「――こうして、毎朝トラメスさんと顔を合わせる様になって、そろそろ3ヶ月かぁ……」
「そうですなぁ……時の流れとは、実に早く感じるモノです。
しかし、赴任を祝した式典や、移民の方々の住居配置や仕事の割り振りなども一段落し、そろそろ暮らしが落ち着いた頃合いではございませんかな?」
何気ない世間話風に、領主生活の経過について触れたコータに、トラメスは彼を気遣う体で、コータにご機嫌を伺う返しをした。
「うん、そだね……ほとんど気兼ねなく暮らせてるよ。
トラメスさんみたいな、優秀な人材を付いてくれてるおかげかな?」
「はっはっはっ!、私は、世辞をマトモに受け取るタチですぞ?、コータ様」
――と、コータのお世辞感バリバリの応対を、トラメスは笑い話へと持って行って、場を和ませようとする。
(――ホント、どこの国どころか、どこの世界にも居るモンなんだなぁ……こーいう『人たらし』って。
んでもってこーいう輩ほど、ウマいやり方で儲けたり、偉いのに取り入っては、出世出来たりする事も同じってワケだよね……)
精神世界から俯瞰で、その様子を眺めている方のコータは、トラメスの顔に嫌悪の表情を向けながらそう呟く。
(ふふ……お主も言えた立場ではなかろう?
こうして、見事に対処出来てるという事は、お前にもその素養があるという事であろうが?)
(ああ――否定はしないよ。
それは『社会』っていう、おどろおどろしい大勢の中で生き残っていくためには、欠かせない術だからね――『やり過ぎない程度には』、だけどさ)
サラキオスからの指摘に応えたコータは、冷ややかな表情も覗かせて、そう論評してみせていた。
「――トラメスさんこそ、俺が主棟に入ったせいで、左塔に引っ越した事で不便になってない?」
――と、今度はコータが気遣う体で、トラメスの居住環境の変化に触れる。
主棟は元々――執政官の公邸と執務室を兼ねた、邸宅として使われており、領主としてコータが主棟に入ってからは、その機能は左塔へと移されていた。
左右の塔は、頂上にある部屋に衛兵が常時交代制で島中に睨みを効かせ、その途中の階は有事に備えた武器庫や食糧庫が設けられているという、その形状から言っても、軍事的、防衛面の備えという役割が主だったが――今回の領主制への意向で、その機能は右塔へと集約される事となり、左塔はトラメスを主とした文官たちの執務場所へと変じ、頂上の見張り部屋も改装され、彼はそこを居としたのだった。
「――何も不便などはございませんよ、狭く思われるでしょうが、窓からの見渡しが良い分、逆に開放感を覚える程です」
「そうですか――追い出してしまった立場としては、そう思って貰えてれば安心ですよ」
トラメスは、仰々しく手を振って見せて、彼の気遣いを一蹴すると、コータもそれをありがたく受けて、安堵する体で小さく頷く。
(ふん――そういう開放感は、頂上に住みたがる、執政官サマ故の自己顕示欲の表れかい?、それとも何か、ヤバい事にでもなった場合、逃げ込むために欲しい安心感かな?)
――などと、コータは心中でニヤリと笑いながら、トラメスの言葉を嘲笑った。
「――って、今日も捺印する書類が多いみたいだね……その束を見たら、朝の良い気分が萎えてしまいそうだよ」
コータは、トラメスが小脇に抱えた書類の束を、軽く指差して顔を引き攣らせた。
「執政官としては、コータ様を煩わせる事を少なく出来ればと、常々思ってはいますが――押印者の識別が出来る『魔法印』の捺印は、私が変わって遂行出来る事柄ではありません故、申し訳ございませぬ」
トラメスは、悔いが混じる表情でそう呟き、机の上に置かれた『領主承認』という意味の言葉が彫られている、魔法印の姿を苦々しく眺めていた。
魔法印とは――押印者として登録された者以外が捺印すると、彫られた字が紙に写らないという魔道具で、クートフィリアの重要書類には全てこの魔道具が用いられている。
手順としては、まず捺印を始める前に、押印者は人差し指に小さな針を刺し、そこから出た微少量の血液を魔法印に染み込ませる――すると、彫られた字が浮き上がり、捺印が可能になるという仕組みだ。
コータがアルムから手渡されたこの魔法印には、更に上級のセキュリティとして、精霊魔法の類も封じられていて、押印者の識別とそれに因る拒否権を、印章自体が持っているという最高国家機密レベルのモノが付せられている。
これは、コータに与えた権限を、彼以外が悪用しようとする事を避けるためであり、この処置を施す事に、頗る拘ったのはミレーヌだった。
ヒュマド政府筋の一部が画策していた、コータから謀略的に決裁権を奪う形での不正継続構想に、果して気付いていたからの拘りであったかは定かではないが……これに因り、コータが”裸の王様”的な傀儡領主へと追いやられる事は、少なくとも避けられていた。
(――王子殿下も、別にここまでする必要はなかろうて……我らヒュマドの民の事を思えば)
――そんな、苦々しい表情のまま、トラメスは印章を睨み……
(――着任早々に『魔法印を私にお預け下さい、領主様の手を煩わせる事を無くすために……』って、言われた時には、思わず『王子!、ミレーヌちゃん!、いきなり大当たりだよぉっ!』って、心中で笑っちまったモンだぜ)
――対するコータは、そんなトラメスの企みを見透かし、彼の視線の意味を邪推して含み笑いを見せた。
「――では、今日も書類の承認をお願い致します。
確かこの後は、北部地域の視察に向かわれると聞き及びましたが?」
「ええ、南部地域の港湾事業、東部地域の手工業団地再編と商業街の様子、西部地域の農村地帯には、新たな領主として顔を出させて頂きましたが、採集や狩猟が盛んな北部地域には、まだお邪魔していないのでね」
側付きたち並みに、コータのスケジュールを把握しているトラメスからの確認に、コータは順序立てて意向も込めた理由も添えて応えた。
「『お邪魔』などと……その様な遜った物言いでは、民たちを付け上らせるだけですぞぉ?」
トラメスは珍しく、苦言を呈する様な物言いをコータにした。
「いやいや――現世じゃ、俺もその『民』でしたからね、偉そうに出来る立場じゃないでしょう?」
(ふん――だから、そんな貴様が視察などして一体、何になると言うのだぁ?、下賤な異界人め)
コータが、彼の苦言に応じている時、トラメスの表情は笑っていても、心中ではそう言ってコータを嘲笑っていたのだった。
俺の説明だけで、あそこまで再現するなんて、凄ぇなぁミアはさ」
場面は、コータの自室へと戻り――今は朝食を終え、皆が散り散りに個々の作業へと向かった、現世の時刻で言えば、午前10時を周った頃と言った頃合いである。
「うふふ♪、コータ様ったら、またその様な世辞を……誉めたトコロで、今の私が出せるのは、この様な食後の茶ぐらいしかございませんよ?」
――と、コータからの誉め言葉に応えたのは、先のセリフにもあったミア、その人。
彼女は淹れて来た茶を彼の机へと置き、照れ臭そうな笑みを浮かべてそう呟いた。
彼女が例の朝食に出した『コータ様監修、異界の朝食』は――まず主食として、もちろんマコラを炊いたモノこと、ゴッファ。
スープ=ダーヌとして――ホビル族がよく用いるという発酵調味料、ソッラをベースにしたホビル風ダーヌ――異界名『ミッサシュル
主菜として――例の『身が赤くない鮭』こと、サンレヌのエト《塩》焼きと、ニワトリに似た鳥――”チェーラ”の卵を、出し汁で混ぜ溶き焼いた異界名『ダスマック』、副菜としては、ドワネ族が食べるという、葉物野菜の漬物が添えられた、現世の海外に在りがちなエセ日本料理店などは軽く凌駕している、高いクオリティを誇っていた。
「現世に居ても、あのクオリティの和定食を喰えた事なんて、俺の生活じゃあ殆ど無かった……強いて言えば、ちょっと味が薄かったけど」
「それは、仕方ありませんねぇ♪、コータ様が食されるモノには、クレア様の厳しい目が光っておりますから♪」
――と、遠くを見てあの味の残身に耽り、強いての愚痴を吐露したコータに、ミアは笑みを浮かべながら、彼を現実へと引き戻す事柄を告げる。
コータが脳出血の再発を警戒する上で、最も大事なのは血圧の管理――故に、塩分の接種量には、常に気を配らなければならない。
そのために肝要なのは、医官であるクレアと料理番のミアが、ガッチリとしたタッグを組み、彼の食生活を管理する事だ。
だから、コータの膳だけ味噌汁は無いし、サンレヌの塩焼きも、塩という表記が果たして必要だろうかというレベルの薄味――その分、味付けには更なる工夫が凝らされているらしいが。
「解ってますよぉ……言われなくても、自分の身体の事ぐらいはさ。
ただ、ミッサシュルって、味の再現はどうだったのかなぁ……って、気になってるだけですよぉ」
コータは頬を膨らまし、頬杖を突いてミアから顔を背けた。
「うふふ♪、さて、これからのガムバスマ様との打ち合わせと、書類の確認と捺印を終えたら、見回りに発たれるとの事なので、ココに昼食の分のおにぎりを置いて行きますね。
では――コータ様、失礼致します」
ミアは、丁寧にこれからの予定の確認を交え、弁当入れを机の上へと置き、部屋から出て行った。
そして――コンコンと、彼女と入れ替わる様に、自室の中にノックの音が響いた。
「――どうぞぉ~」
ノックの主に検討が着いているコータは、実にぶっきらぼうに、やる気の無さを醸した口調でそう返事をした。
「おはようございます――コータ様」
入って来ると一礼をし、そう朝の挨拶をするノックの主は執政官トラメス――ミアからのスケジュール確認にもあった、打ち合わせの相手である。
「トラメスさん、おはようございます……今日も、よろしくね」
「ははぁ~っ!」
コータが笑みを浮かべてそう返すと、トラメスは一礼で既に下げている頭を、更に深く垂らし、領主への敬意を称して見せる。
「――こうして、毎朝トラメスさんと顔を合わせる様になって、そろそろ3ヶ月かぁ……」
「そうですなぁ……時の流れとは、実に早く感じるモノです。
しかし、赴任を祝した式典や、移民の方々の住居配置や仕事の割り振りなども一段落し、そろそろ暮らしが落ち着いた頃合いではございませんかな?」
何気ない世間話風に、領主生活の経過について触れたコータに、トラメスは彼を気遣う体で、コータにご機嫌を伺う返しをした。
「うん、そだね……ほとんど気兼ねなく暮らせてるよ。
トラメスさんみたいな、優秀な人材を付いてくれてるおかげかな?」
「はっはっはっ!、私は、世辞をマトモに受け取るタチですぞ?、コータ様」
――と、コータのお世辞感バリバリの応対を、トラメスは笑い話へと持って行って、場を和ませようとする。
(――ホント、どこの国どころか、どこの世界にも居るモンなんだなぁ……こーいう『人たらし』って。
んでもってこーいう輩ほど、ウマいやり方で儲けたり、偉いのに取り入っては、出世出来たりする事も同じってワケだよね……)
精神世界から俯瞰で、その様子を眺めている方のコータは、トラメスの顔に嫌悪の表情を向けながらそう呟く。
(ふふ……お主も言えた立場ではなかろう?
こうして、見事に対処出来てるという事は、お前にもその素養があるという事であろうが?)
(ああ――否定はしないよ。
それは『社会』っていう、おどろおどろしい大勢の中で生き残っていくためには、欠かせない術だからね――『やり過ぎない程度には』、だけどさ)
サラキオスからの指摘に応えたコータは、冷ややかな表情も覗かせて、そう論評してみせていた。
「――トラメスさんこそ、俺が主棟に入ったせいで、左塔に引っ越した事で不便になってない?」
――と、今度はコータが気遣う体で、トラメスの居住環境の変化に触れる。
主棟は元々――執政官の公邸と執務室を兼ねた、邸宅として使われており、領主としてコータが主棟に入ってからは、その機能は左塔へと移されていた。
左右の塔は、頂上にある部屋に衛兵が常時交代制で島中に睨みを効かせ、その途中の階は有事に備えた武器庫や食糧庫が設けられているという、その形状から言っても、軍事的、防衛面の備えという役割が主だったが――今回の領主制への意向で、その機能は右塔へと集約される事となり、左塔はトラメスを主とした文官たちの執務場所へと変じ、頂上の見張り部屋も改装され、彼はそこを居としたのだった。
「――何も不便などはございませんよ、狭く思われるでしょうが、窓からの見渡しが良い分、逆に開放感を覚える程です」
「そうですか――追い出してしまった立場としては、そう思って貰えてれば安心ですよ」
トラメスは、仰々しく手を振って見せて、彼の気遣いを一蹴すると、コータもそれをありがたく受けて、安堵する体で小さく頷く。
(ふん――そういう開放感は、頂上に住みたがる、執政官サマ故の自己顕示欲の表れかい?、それとも何か、ヤバい事にでもなった場合、逃げ込むために欲しい安心感かな?)
――などと、コータは心中でニヤリと笑いながら、トラメスの言葉を嘲笑った。
「――って、今日も捺印する書類が多いみたいだね……その束を見たら、朝の良い気分が萎えてしまいそうだよ」
コータは、トラメスが小脇に抱えた書類の束を、軽く指差して顔を引き攣らせた。
「執政官としては、コータ様を煩わせる事を少なく出来ればと、常々思ってはいますが――押印者の識別が出来る『魔法印』の捺印は、私が変わって遂行出来る事柄ではありません故、申し訳ございませぬ」
トラメスは、悔いが混じる表情でそう呟き、机の上に置かれた『領主承認』という意味の言葉が彫られている、魔法印の姿を苦々しく眺めていた。
魔法印とは――押印者として登録された者以外が捺印すると、彫られた字が紙に写らないという魔道具で、クートフィリアの重要書類には全てこの魔道具が用いられている。
手順としては、まず捺印を始める前に、押印者は人差し指に小さな針を刺し、そこから出た微少量の血液を魔法印に染み込ませる――すると、彫られた字が浮き上がり、捺印が可能になるという仕組みだ。
コータがアルムから手渡されたこの魔法印には、更に上級のセキュリティとして、精霊魔法の類も封じられていて、押印者の識別とそれに因る拒否権を、印章自体が持っているという最高国家機密レベルのモノが付せられている。
これは、コータに与えた権限を、彼以外が悪用しようとする事を避けるためであり、この処置を施す事に、頗る拘ったのはミレーヌだった。
ヒュマド政府筋の一部が画策していた、コータから謀略的に決裁権を奪う形での不正継続構想に、果して気付いていたからの拘りであったかは定かではないが……これに因り、コータが”裸の王様”的な傀儡領主へと追いやられる事は、少なくとも避けられていた。
(――王子殿下も、別にここまでする必要はなかろうて……我らヒュマドの民の事を思えば)
――そんな、苦々しい表情のまま、トラメスは印章を睨み……
(――着任早々に『魔法印を私にお預け下さい、領主様の手を煩わせる事を無くすために……』って、言われた時には、思わず『王子!、ミレーヌちゃん!、いきなり大当たりだよぉっ!』って、心中で笑っちまったモンだぜ)
――対するコータは、そんなトラメスの企みを見透かし、彼の視線の意味を邪推して含み笑いを見せた。
「――では、今日も書類の承認をお願い致します。
確かこの後は、北部地域の視察に向かわれると聞き及びましたが?」
「ええ、南部地域の港湾事業、東部地域の手工業団地再編と商業街の様子、西部地域の農村地帯には、新たな領主として顔を出させて頂きましたが、採集や狩猟が盛んな北部地域には、まだお邪魔していないのでね」
側付きたち並みに、コータのスケジュールを把握しているトラメスからの確認に、コータは順序立てて意向も込めた理由も添えて応えた。
「『お邪魔』などと……その様な遜った物言いでは、民たちを付け上らせるだけですぞぉ?」
トラメスは珍しく、苦言を呈する様な物言いをコータにした。
「いやいや――現世じゃ、俺もその『民』でしたからね、偉そうに出来る立場じゃないでしょう?」
(ふん――だから、そんな貴様が視察などして一体、何になると言うのだぁ?、下賤な異界人め)
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