世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

文字の大きさ
44 / 61
領主として

見回り

しおりを挟む
「――おっ!、こりゃあ確かに……"海苔"、だわ」

「――だろ?、ミアたんが、試しにって僕のトコに持って来た時には、ビックリしたよぉ~!」

 ――とは、コータとシンジ、二人の異界人の会話である。


 時は、日が中天に昇った昼時に差し掛かり、場面は鬱蒼と樹々が茂った様子を眼下に抱く山中――そこで、その両名は、おにぎりを片手に懐かしむ様で微笑み合った。


 ココは、島の北部に聳える山――”ランジュルデ山”。

 この島の名の由来でもあり、一部では宝の山とまで呼ばれるほど、資源に溢れた秀峰である。


 先立っての打ち合わせのとおり、この山へと登山を兼ねた見回りにやって来たコータは、丁度天然のコルベ豆の採取と調査に赴くというシンジと合流し、今は昼食時となってそれを共にしている状況だ。


 シンジの普段の言動からでは、少し想像にし難いかもしれないが――彼も、10年に渡ってコルベ豆の生産に従事していた、農夫ファバンスマとしての一面がある。

 彼自身も、現世では農学部を専攻していて、転移前は食糧メーカーの研究部に在籍していた経緯があり、転移場所始まりの地にコルベ豆農場を開くというのも、彼の立案だというから人は見かけに……ならぬ、"言動にも寄らず"である。

 ――で、このランジュルデ山には、まだ人の手が入っていないコルベの木の群生地があるという話が、シンジの耳に届き、これまではその採取だけだったモノを、生産力が安定した農場化が出来ないだろうかと、彼が調査に出張る事となり、それに合わせてコータはこの地への見回りを決めたのだった。


「確かに、この”シバム”とやらで包むだけで、また一味違いますなぁ~♪」

「――だね、このオーギリとやらは、食べ易いだけでなく、本当に奥深い食べ物だよ」

 ――とは、コータに付き従って同行している、アイリスとカミュの二人。

 両人も、コータたちと共に、昼食にとミアが手渡したおにぎりに、舌鼓を打っていた。


 アイリスが言った『シバム』とは、このランジュルデ島の漁民がよく食べるという、海藻を板状に干したモノ。

 つまり、海苔に似た食べ物で、コチラでは"パネ"――まあ、要はパンに挟み、共に炙り焼きにして食べるのが、主な食し方である。


 コータから「――おにぎりって、ホントは海苔っていうモノで、包むんだけど……」と、伝え聞いたミアが、海藻を板状に干すという手法だけを頼りに、行き着いたのがこのシバムだった。

 彼女が食材の買い出しに出た先で、市場に出回ってはいないが、漁民の中にそういう食べ方をしている者が居ると聞き、ミアは早速それを手に入れたが……

「――海風で干しているせいか、塩気が強く感じられるわ。

 コータ様に味の確認をお願いするのは、クレア様のチェックに引っ掛かりそう……」

 ――と、至ったミアは、コータと同じ日本人だという、シンジの下へと持って行き、晴れてオーギリは真の完成を迎えたのだった。


 ――尚、余談として……

「えっ?!、ミアがシンジの所にだってぇっ!!!、ナニかされたり、言われたりしたのではっ?!」

 ――と、コータは血相を変えて、彼女の両肩を掴んでそう問い掛けた。

「?、別に何も……ただ、何やら『――う~んっ!、惜しいなぁ……僕、人妻属性ヒトヅマゾクセーは、持ち合わせていないんだよぉ……』とか、よく解らない事を呟いていらっしゃいましたが……」

 ――という事があったそうなので、一応補足しておく。



「――で、どうだったんだよぉ~!、俺が飲めないミッサシュル……もとい、味噌汁の再現度はさ?」

 一つ目のおにぎりを平らげたコータは、シバムと同様に例の和定食の味見を務めていたシンジに、味噌汁ミッサシュルの感想を尋ねた。

「もちろん『座布団一枚』な味だったさ、コレを食べてるだけに♪」

 シンジは、おにぎりをコータの前に差し出し、薄笑いを浮かべてそんな戯れ言で返す。

オーギリ大喜利だけにか?、お前にしちゃあ、随分とベタな……」

 異界の日本人であるコータは、苦めの笑みで応じたが――現地人であるアイリスとカミュは、シンジのジョークを理解出来ずに顔をしかめた。


「――うぅんっ!、それで、シンジ殿。

 この山でのコルベ豆の栽培、適いそうですかな?」

 ――と、カミュはそれら戯れ言を振り払う様に咳払いすると、シンジにマジメな話題を振った。

「う~ん……まずは今、採った分をちゃんと焙煎して、淹れてみない事には定かじゃあないけど、僕の経験だけで言えば、そんなに悪い品質には見えなかったね。

 一応、この群生地を農場として整備する方向で動く事を提案するよ、領主様♪」

 シンジは大きく頷き、コータに対してニヤニヤとした笑みを浮かべながら、そう彼に進言する。

「――そっか。

 でも、その話――本決まりまでは、ちいと待って貰いたいんだが……」


 今になっての新規事業への着手は、コータの思惑――トラメス一派を糾弾する事を、更に遅らせる結果になってしまう。

 彼は、友の進言を一蹴せざる負えない事に、険しい表情を浮かべていた。


「――解ってるよぉ。

 いくら領主様でも、まだ好き勝手には動き難い事ぐらいはさ」

 コータの険しい表情に、シンジは得たりと言ったモノで応じ、彼の肩に手を置く。

「居るのは異世界でも、目の前に起きてる事はラノベやアニメのソレじゃなくて、至極現実リアルだからねぇ……

 在りがちな、政治にまでもを瞬時に引っ張って見せるなんてのは、いくらチート知識があったって、無理のある設定だってのは解ってよぉ。

 一応、オタではあっても、大人で社会人なんだしね」

 シンジは渋い表情で水筒の中の水を喉元に呷ってから、コータにそう言って微笑みかけた。


「さて――僕の用事は無事終わったけど、コータはこれからどうするの?」

「ああ、もう少し登った先にある、鉱石の採掘坑道にも顔を出すつもり――高炉が完成したら、鉱石の需要が伸びそうってんで、一旦休止させていたっていう、その坑道での採掘を再開するんだってさ」

 シンジからの問いかけに、コータは淡々とそう答えた。


 魔神蹂躙の影響と、魔神封じへの方針変更で世界の需要は一変した――その最たる例が、鉄の需要であった。

 魔神再来の報に因り、世界には軍需拡大を望む杞憂が高まり、例のシュランス谷の決戦をピークに、鉄の製造のための鉱石の採掘量は伸びていたが、各国軍への壊滅的な打撃に因り、武器防具の需要は激減。

 世界の雰囲気自体も、滅びを待つばかりといった様相となり、致命的レベルの不景気と化し、それに応じる形で、坑道を一旦閉じる処置が各地で施されていた――辺境に当るこの島でも、それは例外ではなかった。


「こんな頼りない領主だけど、どんな塩梅かは目で見ときたいと思ってね……丁度、近くに来てるワケだし」

「うんうん――良い心掛けですなぁ。

 美少女メイドだらけのハーレム城に住んでたら、是非とも日がな一日、楽しいコトにしけ込みたいと思うのが、オトコのサガというモノ……

 それを、断腸の思いで断ち切り”好色”――もとい、”公職”に打ち込むだなんて、僕は立派な友人を得たモノだよ」

 コータのマジメなセリフに、シンジは何時もの軽薄なジョークで返し、場を和ませるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...