世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

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竜の棲む穴

竜の棲む穴

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 オルバは一応、近衛3名の中では最年長だし、彼もシュランスの決戦を生き抜いた戦績を持つ。

 カミュの場合は、貴族である事が由縁の決して前線とは言えない配置での生還だったが、オルバの場合は所属部隊の7割が戦死した最前線での軍歴を経たモノ――言ってみれば、この場で一番の経験値を持つのは彼と言って良い。


「動いてる音って……何をしている音か解かるか?」

「はい、つるはしの様なモノで、岩盤を掻いて切削する音に似ています。

 ですが、一掻きの規模は、人が道具を用いて出来る規模の音では……」

 オルバは、鉱業を主な生業としているドワネ族の一人――その手の音は、故郷の日常で聞き慣れている。


「ブルドーザーとかショベルカーとか、重機が現世から転移して来たってワケは無さそうだから……」

 コータの呟きは、彼の尋ねに対するオルバの答えが、例の竜がコータたちの接近に気付き、討って出て来ようとしている事を示していた!

「――丁度、今居るのは、比較的動き易そうな広めの空間だし、ココで迎え撃つのが定石かな?」

 コータが続けてそう呟くと、近衛3人は一様に表情を強張らせ、その中でもオルバは、坑道の壁の部分を指差し、その壁をなぞる体で音がする方向を示す。


 同時にコータは、魔神モードを発動――黒い波動を纏った、炸裂系の火の魔法を右手に錬成する。


「――さあて、出て来いよぉ……お痛が過ぎた、野良竜にお仕置きの時間だぁっ!」


 コータは裂帛の気合と共に、火の魔法を壁へ向けて投げたっ!


 ドドンとした爆音と共に、猛々しく魔法光が炸裂すると、ボロボロと岩盤崩れ始める――坑道の中は、轟音と共に舞い上がった土埃に覆われ、まさに一寸先の様子すら知るに至らない様相と化した。


『――グワァッ⁈』


 その土埃の先から――獣が驚いた様な鳴き声が聞こえた。


 4人全員が、その声に応じて頷き、それが幻聴の類ではない事を確認し合う。


 コータは間髪入れずの体で、もう一発、炸裂魔法を錬成し始める。


(――たぶん、次の一発で竜が居る方まで通じる……先制攻撃を兼ねたいから、次は貫通性能付与でっ!)

(ふん、随分と注文の多い依り代だな、だが――その策は、正しいっ!)


 精神世界の依り代と魔神が、そんな会話をして、コータの意識が現実の方へと戻って来ると、先程とは違う音がしたり、魔法光がチカチカと閃いたりして、魔力の波動がコータの手の平へと集中して行く。


「――せっ、性能付与に因る魔法光の変換っ⁉

 エルフィ族の中でも、扱えるのは両手の指で数え切れる人数しか居ない、超高度な魔法錬成術を、異界人のコータ様がぁ……?」

「すっ、凄い、事なのでしょうな……その言い方だけで、魔法に疎い私にも、それはひしひしと伝わっております」

 カミュは、驚愕して震えながら、今のコータが如何に難儀な事を軽く熟しているかを語り、アイリスも、険しい表情でそれに応じた。

「――カミュ殿やアイリス殿は、コータ様の『魔神もーど』を直に見るのは初めてでしたな。

 コレを目の当たりにした時、改めて実感するのです――自分が、魔の神と共に居るのだという事を」

 先の海賊騒動で、魔神モードを直に見知るオルバが、冷や汗を額に滲ませながらそんな言葉を続けた。


『――⁈、グッワァワァァァァァッ⁉』


 コータの炸裂魔法は、再び岩盤を破壊しその先の空洞を露出させた。

 そして、魔力を帯びたまま、その場に停滞していた炸裂魔法の残身が、空洞に居た竜の身体へと直撃し、その爆風をマトモに喰らった竜は、困惑した呻き声を挙げながらその場に横転したっ!


「――よしっ!、取り囲むぞっ!」

 ――という、コータの号令に応じて、4人は散開し、横転した竜を包囲する。


『――グッ!、グッ……グッワァッ!!!』


 竜は、その巨体に似つかない鋭敏な動きで大きな翼を震わし、小規模のホバリングを敢行して、素早く横転した状態から立ち直って見せ……


『――グワァワッ!!、グラァァァァァッッ!!!!!』


 ――長い首を、4人へ向けて巡らせ、凄む形相で叫びを挙げながら4人を睨んだ。


 野良竜の容貌は――"白銀の鱗"に全身が被われ、言わずもがな巨大な体躯。

 それを支えている2本の太い両脚は、その先端の3本の鉤爪が岩と土の地面をガッチリと噛んでいて、その上肢にある2本の腕は、その巨大な下肢には似つかない程に短いが、脚と同様に、その先端にも鈍く光る3本の鉤爪が生えていた。


「――えっ⁉、鱗の色が……リンダと違う⁈」


 その意外な事実を口に出したのはコータだったが、4人は一様にその事実には驚愕していた。


 リンダに限らず、クートフィリアの竜の鱗色は――人に飼われたモノだろうと、野生のモノだろうと総じて"黒"。

 これは、竜騎士の里で学んだというアイリスお墨付きの定説であったし、それは、リンダしか知らないコータにとっては尚更で、今まで、鱗の色などに気を向けていなかったのも頷ける。


(――ほぅ?、ちとコレは……面倒な展開を覚悟せねばならぬかもしれぬな)

 ――と、精神世界から唸って聞かせたのはサラキオスであった。

『このデュルゴは恐らく、ゴグドヴァーノの眷属――いや、子孫に当るデュルゴと言ったトコロか。

 つまり、純粋に人界の理で生まれたデュルゴではないという事じゃ……彼奴は時々、人界に降りては、若い雌デュルゴに悪戯をし、子を腹ませておった助平デュルゴでもあったからなぁ』

 精神世界越しに、サラキオスからその事を告げられたコータは、瞬時に血相を一変させる。

(ゴグドヴァーノって……じゃあ、まさか魔法のブレスを吐けるって事かよ?)

『いや――ゴグドヴァーノの血筋が、かなり薄まった世代のモノじゃろう……故に、金色の鱗が脱色した体となっておろう?

 しかし、見たとおり、横転状態から一息で立ち上がって見せた程、身体能力に関しては、女近衛が知るデュルゴとは、桁が違う存在と思うておけ』


「――解った、みんなっ!、この竜は……ん?」

 そう告げられたコータが、小さく頷いて警戒を強めながら、その注意事項を残りの3人に伝えようと、各々の顔を見渡す――が、その各々の顔は、困惑した様子でコータの方に目配せをしている。

「……コータ様、今、脳裏に響いた妙齢の少女の様な声は一体?」

 ――と、竜の動きを注視したまま、怪訝として尋ねたのはカミュだった。

「――えっ?、もしかして……」

『ああ――他の者にも、精神感応魔法で直に伝えておる。

 いくら魔神もーどのお前が居たとしても、彼奴らに油断があっては、楽に事を運べる相手ではない様じゃからな』

 カミュの尋ねから、何かを悟ったコータに、サラキオスは達観した口ぶりでそう彼に告げた。


 そう――”()”であったはずの、精神世界でのサラキオスの声が、急に”『』”に変ったのは、誤植ではない。

 現在、サラキオスの声は、近衛の3人にも聞こえているが故の表現なのだ。


「ふっ……やはり、そうでしたか。

 コータ様の脳裏には、常に魔神の声が聞こえておられるというのは、こういう事なのですね」

 アイリスはそう言いながら、額には冷や汗を滲ませ、驚愕を通り越して呆れたという様子で苦笑いを浮かべた。

「魔竜の末裔――ですか、この尋常ならざる雰囲気にも頷ける……」

 続けてそう呟いたのはカミュで、彼は細身の剣を握る力を強め、改めて構えも修正して開戦に備えた。
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