世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

文字の大きさ
49 / 61
竜の棲む穴

連携

しおりを挟む

『――よし、良いか者ども。

 彼奴の鱗は恐らく、己らが持つ様な、人がこさえた武器ナマクラでどうこう出来るシロモノではないと心得よ。

 攻撃は、魔神もーどのコータと、エルフィの色男が魔法で担え――女近衛とドワネの木偶は、牽制に徹して二人の錬成中の隙を補え。

 鉤爪は鱗ほどは硬くない故、貴様らの武器でも弾く事ぐらいなら出来よう』


 サラキオスが軍師さながらにそう下知をすると……


「――はっ!」

「承知……っ!」


 ――順に、アイリスはコータの前へと立ち位置を微妙に変え、オルバも同様に、カミュを援護出来る体勢に入った。


「ふっ――可愛らしい少女の声で、老練な指示をされるのは実に妙だけれど……」

 カミュは、複雑な表情でそう呟きながら、両の手の平に光球を錬成し始める。


『――ほぅ?、まだ何も言わぬのに、球形の魔法光――即ち、炸裂魔法を選んだか』

「ええ――シュランス谷において、堅牢な鱗を持つ竜たちに対して、魔神あなたは氷結魔法と炸裂魔法の合わせ技で、温度の急転を利してその鱗を破砕せしめ、裸同然となった竜の腹を手刀で裂いて殺していた。

 恐らく、それで行くのだろうと思いましたが、私は残念ながら、氷結魔法は得手ではないので」

 サラキオスがニヤリとばかりに声を掛けると、カミュは魔法の錬成を淡々と続けながらそう応えた。

(ふん――コータよ、随分と聡い部下を持ったモノだな。

 我に対して、皮肉を込めて返す度胸が実に良い♪)

(――って、感応魔法を外して、俺にだけ言うのは何故よ?)

 サラキオスが感応魔法を一旦解除している事に気付いたコータは、魔の神に意図を不思議気に尋ねる。

(我は人を、不必要に褒めるのは嫌いじゃからな。

 今の会話を請けて、既に何も言わずとも氷結魔法を練っている”誰か”とて――我は褒めぬぞ?)

 サラキオスがまた、ニヤリとばかりの言い草でそう呟いた時――コータの右手の平には、蒼白く光る氷結魔法の魔法光が輝いていた。



『――グルォワァァァッ!!!!』


 4人の動きに何かを察した竜は、警戒を最大限にまで強め、首を巡らしながら威嚇する咆哮を坑道中に響かせたっ!


 そして――転倒した鉱夫の身体を踏み潰していたという、グーフォから聞いた逸話にも頷ける、巨大な脚で足踏みして徐々に距離を詰めて来る。


「比較的――天井が低い部分で迎え撃てたのは幸いでしたな。

 一気に飛びかかって来られる心配が無い分は」

 それに合わせる様に後退する4人の中から、そう呟いたのはオルバだった。


「アイリス――確か、竜の心臓があるのって……」

「はい、長い首の喉元にございます」

 氷結魔法の錬成を進めているコータからの尋ねに、アイリスは自分の喉元に触れて見せると……

「――解った。

 カミュ、喉元の鱗を氷結させるから、そこを炸裂魔法で爆発させてくれ」

 ――と、カミュに指示を出すと、半身の黒い文様が更に黒みを増し、彼はフォーメーションから飛び出す体で駆け出すっ!


『グゥッ!!!、グァラグワァッッァ!!!!』


 コータの飛び出しに呼応し、竜もけたたましい咆哮を挙げてその首を伸ばす――これが、開戦を告げる戦鍾となった!


「万全を期して、魔力の発破じゃなく――目標への接触で行くっ!」

 蒼白い魔法光を手の平に湛えたまま、竜へと襲い駆けるコータは――竜の首を一杯に伸ばした末の”噛み付き”を、寸出で避ける!

『――グワラァァッ!!!!』

 ――更に竜は、巨体を反転させて返す刀……いや、”返す尾”とでも言うがの如くその長い尾を、さながら鞭の様に振るって見せるが、これもコータは紙一重で避け、続いて極小規模の飛行魔法を発動!、坑道の低い天井まで飛び上がったっ!


(異界では、市井の一般人であった上に、身体には障害を負っていたというコータ様が、この動き……っ!

 これが『魔神もーど』とやらの成せる業なのか)

 後方で炸裂魔法の錬成を続けているカミュは、心中で驚嘆を込めたそんな呟きをしていた。


(――あれかっ⁉、心臓の位置の鱗はっ!

 へへ――っ!、まるで場所を教えてる様に、ご丁寧にも生えてる向きが逆さま……あっ、これが『逆鱗』の語源ってワケか?)

(如何にも――だが、触れると怒り狂うというのは、後説の脚色だろうがな。

 それに、コレには意味もある――竜の鱗は逆向きに沿って厚くなる故、心臓という最も大事な部分を、より強固に守るための理に適っておるじゃ)

 飛び上がった自分の姿を、俯瞰で見下ろしている形の精神世界で、コータがサラキオスからの講釈を聞いている内に――その”逆鱗”に触れた、現実世界のコータの手の平から、冷気の魔力が竜の喉元へと伝わって行く。


『――グルワァ⁉、フィギャァァァッ!!??』

 自分の喉元に起きた異変と、その違和感に竜は、例の後説どおり、猛烈に錯乱して見せた。

「暴れてたんじゃ、カミュが狙い難いっ!、牽制してその気を削ぐぞっ!」

「――はっ!」


『ブフゥ…ッ!、グッルギャア!!!』

 コータの号令と共に、まるで虫でも纏わりつく様にウロチョロし始めるアイリスに、竜は極度の苛立ち見せて更に暴れ出すっ!

「――!、捉えたぁっ!」

 竜騎士ドラゴンライダーでもあるアイリスが、非常用の嗜みとして習得している、対竜の拘束魔法でその動きを制限し……

「――くぅっ!、おぉぉぉぉぉっ!」

 一連の展開に危険を察し、鉤爪をカミュへと振るった竜の一撃を、オルバが武器で受け止め、それを圧し留めた!


「――射程が開けたっ!、二人ともありがとうっ!」

 カミュは、アイリスとオルバへの謝辞に続けて、球体状の魔法光を竜の喉元に向けて放った!

『!!!???、ヒギュアァァッ!!!』

 竜は、続け様に喉元で起こった爆発に驚き、その喉元を掻きむしる様に手の鉤爪を振るう――すると、喉元の鱗がボロボロと外れ始めた。 

 コータは、腰に提げていた例の日本刀をゆっくりと抜刀――そして、またも極小規模の飛行魔法で、竜の喉元の前に浮かんだ。


 鱗が禿げた竜の地肌に当る、その毛皮は――クートフィリアでは、超が付く程に希少な服飾材料として知られており、以前それに触れる機会を得たコータは、現世におけるシルク並みに柔らかい事を認識していた。

 故に、地肌を晒した竜には、剣が通じないという定説は適さない。


『ヒギュッ……?』

 竜は、何故か目の前に浮かんでいるコータの顔を、つぶらな瞳で見やると……暴れるでも、錯乱するでもなく、ましてや脅えるでもない、何やら不可思議な反応を見せていた。


「竜――お前はただ、この穴の中で暮らしてただけかもしれないが、だとしてもっ!、お前はやり過ぎたんだよっ!」

 コータが竜の瞳を睨み、冷徹にそう告げ、飛行魔法の波動で勢いを付け、彼は竜の喉元に日本刀の切っ先を突き立てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...