世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

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竜の棲む穴

感応

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『――ヒビュ⁉、ヒギャァァァァッ!!!』

 心臓に刃を突き立てられた竜は、程なく断末魔の声を挙げ、長い首を岩盤に擡げながら、その場に横たわった。


「ふぅ……終わったかぁ」

 コータが一息を吐き、飛行魔法を解いて地面へと降りた、その時……


(――もし?、サラキオス様と、その依り代殿にございましたか?)


 ――と、サラキオスとは違う声が、コータの脳裏に響いた。


「⁉、何だ?、この声……」

「――コータ様?、どうかなされまし……」

 コータの変調に気付き、アイリスが声をかけて来たが、コータはそれを無視して、精神世界へのダイブを深くする……


(――魔神様、今の声……⁉)

 ――と、精神世界へと意識を移した、コータの前に居たのは……何と!、先程まで暴れていた、白銀の竜の思念体であった!


 竜の思念体は、実に穏やかな表情でコータの体躯を見下ろし、同時に悲痛な物腰の視線を彼に向けていた…


(一体、どーいう事だ?

 魔神モードには、こーいう心霊現象の類を司るスキルもあるのか?)

 コータは、目の前に立つ竜を睨み、警戒しながらサラキオスを問い質す。

(そーいう『すきる』もあるにはあるが、コレは、それらとは少し違うだろうな……

 何せ、唐突にも感応して来たのは、この臨終迫るデュルゴの方じゃからな)

(――あるのかよっ!、何か、ソッチの方がより気になって来たが……違うなら、とりあえずそれはパスで)

 魔神と依り代が、そんな漫才染みた掛け合いをしているのを他所に、竜の思念体は、おもむろにコータの前へ長い首を擡げ……

(――魔の神、サラキオス様とその依り代殿……先程までの非礼、平にご容赦下さい)

 ――竜は、甲高い女性っぽい声音でそう言い、なんと詫びを述べて来たのだった!


(⁉、喋ったぁ⁈)

 コータは、その事に驚愕し、恥ずかし気も無く大口を開け……

(ほぅ……思念体を飛ばす事に続けて、人語も解すか。

 流石は、魔竜の末裔と言ったトコロか?)

 ――サラキオスの方は、冷静に目の前の竜が見せる腹芸を、唸って見せた。

(はい、生体の際は、発音が間々成らぬために、人語話す事は叶いませぬが、思念体と成れば……と、思いまして)

(――解っておる。

 かの魔竜ゴグドヴァーノとて、感応魔法を用いずには人語を扱えなかったモノじゃからな――してこれは、死する前に、是非とも我とコータへ、伝えねば成らぬ事柄でもある故の行動か?)

 竜の返答に応じながら、サラキオスは会話の内容の一歩先までを読み、竜の思惑を探る問いをする。

(ご察し、痛み入りまする。

 おっしゃる通り、死する時が迫っている者として、何卒今一時、耳を貸して頂きたき議がございます……)

 ――と、竜はそうは言いながらも、まずは礼節を尽くす前置きを付けてから、ゆっくりとその思惑を語り始めた。


 私の名は――"レオナ"。

人の世に倣い、種族姓を足すのでしたら……レオナ・白銀鱗の魔竜族シギムゴクノ雌竜デュルゴナラとでも、言った所でしょうか。

 そう――人の目では、見分ける事も、ましてや人の鼻では、匂いでの判別も出来ないでしょうが、私は女にございます。

 その私が、人の世が暦で言う所の約10ヶ月前――急を要する事態に陥って、この地に降り立ち、已む無く駆け込んだのが、この洞窟でした。

 その急を要する事態とは、何かと申しますと……当時、憚りながら私は、身重の身でございまして、胎教と運動不足の解消を兼ねての軽い飛行中に、この島の上空に差し掛かった際、急に産気づいてしまったのです。

 産卵が初めてではない私は、コレは大陸にある住処に戻ろうと、飛び続けていたのでは間に合わないと察し、この洞窟で産卵する覚悟を決め――無事、洞窟のココより深い部分で産卵を果たしました。

 しかし、デュルゴの子を産み落とす上で、大変なのはむしろこれから――異界の方とお見受けする、依り代殿はご存じ無いかとは思いますが、産卵から更に10ヶ月、母がその身で温め続ける必要があるのです。

 産卵を決断するという事は、その先の10ヶ月も、この洞窟で暮らして行くという事と同議。

 幸い、この洞窟には飲み水となりそうな湧き水がありましたし、洞窟内を這う虫や、入り口近くに居る小動物などの餌となりそうなモノが、少々侘しくはあっても、遠出をせずに狩れる事が解かり、子を卵から返し、その子が飛行が出来る様に育つ頃までは、ココに留まろうと決心しておりました。


 ところが――先日から、何やら最深部の岩盤の方から、人語らしき騒がしい声が響き始めました。


 私は以前、食料の調達中に、人に因る”デュルゴの卵狩り”に合って、大事な卵を失ってしまった経験があり、人らしき者の卵への接近に、私は激しく動揺――とはいえ、此度の卵は既に殻の一部に皹が現れ始めていて、もはや温めずとも孵化しそうな段階でしたので、なんとか人の手に触れる前に生まれる事を願い、私は卵の側で身を潜めておりました。

 そして、昨日――ドンドンと近付いて来る人語の声にしびれを切らし、不安気に岩盤の裂け目を覗いて居ると、つるはし武器らしき刃物を持った人と目が合い、ついに錯乱した私は、ソコからの記憶があまりございません……

 ハッと我に返ったのは、魔竜族ゴクノの末裔として、伝説的に聞き及んではいた、魔の神サラキオス様の黒き波動が目に入った時。

 そして、それら情状を告げるにも、人語を話せないデュルゴが身の私にとって、この結果は、避けようの無い事態だったのでしょう……



(――こうして、死してしまった事を思えば、産卵は済ませても、卵を孵す事を諦めて、この場を去るべきだったかもしれませんが、それは出来ぬのが、母という者の性なのでございましょう……)

 ――と、白銀竜の思念体ではなく、いつの間にか、腰まで伸びた長い白髪を背に垂らす、若い人間の女性に扮した思念体が、この事件の真の経緯を話し終えていた。
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