世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

文字の大きさ
51 / 61
竜の棲む穴

逝く竜の願い

しおりを挟む
(――って、話をしながら、みるみると擬人化変身をして行くから、途中からは回想のイメージが滅茶苦茶になっちゃったぜ……)

 コータは、回想中に目の前で起きた面倒な様相に、顔をしかめながらそんな苦言を吐露する。

(何を言うか、お前が解り易くなる様に、我がせっかく気を廻したというのにぃ……

 さて、確かに、情状酌量の余地があった事は認めるが――心臓を突かれる前に、コータが言った様に、お前は何も知らぬ大勢の人を殺めておる……ならば、コータがこうした事の意味は解るな?)

 サラキオスは、不満気にコータへツッコミを入れてから、厳しめの声音で、レオナに自分が行った事への覚悟を確かめた。

(――はい、人間の卵狩りは、このクートフィリアでデュルゴと人が共存して行く上で、我らデュルゴが増え過ぎないための必要悪だと、よく理解はしております。

 今回の私が行った殺戮は、それらへの激情性な報復に当ると解釈したとしても、過剰であった事は否めません……

 それに人らは、母デュルゴの育児放棄の末に孤児となった子たちなども保護し、飼い慣らす形で生育し、生存機会を与えてくれている……我らデュルゴにとって、大事なパートナーであると重々理解しております。

 この、我ら魔竜族の始祖で在られる、ゴグドヴァーノ様が諭した教えを思えば、此度の私の行為は、依り代殿に裁かれて当然にございます)

 そう言って、人間体レオナは本当に申し訳なさそうな表情で、一筋の涙を両目から漏らす。

(その上で、死する前に、是非ともサラキオス様と依り代殿にお伝えしたい――いえ、『お願い』したい議とは、孵化寸前であると告げた、私が産んだ卵の事にございます)

 決意が篭った口調でそう言ったレオナは、沈痛な面持ちを浮かべながら、縋る様にコータの前へと一歩出る。

(もうすぐ、生れ落ちるであろう我が子を、人の手で保護して貰える様に取り計らって欲しいのですっ!

 あの子は――我ら魔竜族全体にとって、種の存続を担う大事な子なのです!)

 レオナは、声色を高く上げ、懇願する体でコータの前への平伏する。

(――なに?、付属の理由の意味がどうにも解せぬ……

 確かに、デュルゴの中でも、輝く鱗の魔竜族は希少種だろうが……我が知る上では、種の存亡云々に追いやられるほどの少なさや、性別の偏りはまだ無かったはずだが?)

 ――と、レオナの必死ぶりに、目の前のコータより先に口を挟んだのはサラキオス。

 魔神は、レオナの言い分にそんな疑問を呈して、訝し気にそう尋ねた。

(問題なのは、種族の個体数ではなく――代を重ねた事で、ゴグドヴァーノ様の魔竜の血脈が薄れている事なのです。

 それで――それで、ですねぇ……)

 レオナは、そこまで告げると――何故か急に、モジモジと恥ずかしそうに俯き……

(……その解決のため、我ら末裔は――ゴグドヴァーノ様に、神界から一旦の降臨を願い出たのです。

 そして、わっ!、私はその際――種の存続のために、ゴグドヴァーノ様との、こっ!、交尾をぉ……願い出た7頭の雌の内の一頭なのです)

 ――擬人化済みの美少女顔を、真っ赤に染めながら、彼女は驚く様なカミングアウトをした。

(えぇぇぇぇぇっ⁉、ソレってつまり、いわゆる近親……)

(――には当たるまい?、何せ、このデュルゴ娘は、ざっと20世代は経た末の子孫じゃろうしな)

 レオナの言葉から、何やら早合点をしているコータに、サラキオスは冷静に状況を解説する。

(――しっかし、あの助平デュルゴめ。

 子孫からの懇願とはいえ、随分とお盛んな事じゃなぁ……)

 サラキオスは、呆れた様な口調で、溜め息混じりにそう呟いた。

(一族の始祖が、子孫とって事は……ヨボヨボ爺さんと、若い娘ってワケ?

 どんなマニアックAVなんだよ……)

 コータは、言葉尻から幾分かの妄想を膨らませ、彼の場合は呆れた様子に嫌悪も付与した表情で苦笑する。

(えっ、『えーぶい』とやらが、なんなのかは解りかねますが……数万年前から生きる始祖様と言う事でしたから、私もてっきり、同様の懸念を思ってはおりましたけれど、前にしたゴグドヴァーノ様の御身は実に若々しく、精力の方も思いのほか……)

 レオナは、恥ずかしそうに目を逸らし、彼女は更に頬を紅潮させ、モジモジと身体をくねらせながら説明を続ける……

(――じゃろうなぁ。

 『生物が神界に上る』という事は、その時点で老いは止まるし、むしろ全盛期と言える身体へと昇華する事となる故、必然的に『アッチ』の方も、永久不滅に現役という事になるであろうからなぁ♪)

(……もう、もう、このハナシは止めよう。

 これ以上詳しく語られちゃあ、俺がポリシーとしている『STOP!、18禁展開!!』に抵触する……

 ――で、要は、その孵化寸前の卵……いや、そこから生まれる子竜の事を、俺に頼みたいワケだな?)

 コータは、ニヤニヤとした声音で話を拡げようとするサラキオスを制し、話題を要点の根幹へと一気に反転させる。

(はい、そのとおりにございます――依り代殿。

 殺戮を犯した者の不躾な願いかとは存じますが、どうか……どうかぁっ!)

 レオナは、擬人化している事を用い、静々と土下座をしてコータに懇願する。

(――解った。

 生まれて来る子竜に罪はないしな)

(ありがとう、ございますぅ……これで私は、思い残す事無くぅ……)

 コータからの快諾を聞いたレオナは、目に涙を浮かべながらそう言うと、彼女の思念体の末梢が、徐々に色を失って行き……

(――依り代殿。

 そして何より、私が殺めてしまった人の皆様……誠に、申し訳ございませんでした)

 ――と、謝罪の言葉と共に擬人化も解かれ、彼女は竜の姿へと戻って行き、その思念体はゆっくりと、精神世界の空間に溶けて行く様に消えて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定。

処理中です...