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"指輪の君"
"指輪の君"
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ヨクセ商会オウク支店から出たソウタは、オウクのメインストリートを抜け、皇の居宅である、御所の南門へやって来た。
その道すがら、ソウタは記憶を辿って――
『――私を、訪ねて来た時は……こっ!、この指輪をぉっ!、御所の門番に見せてね?
見ただけで、私の……"客人"だと、解かるはずだから――』
――という、サトコが別れ際に、酷く緊張した素振りで、指輪を自分に渡す際に言った、言葉を思い出していた。
――何故、"刀聖"であるソウタと、"皇"であるサトコが、旧知の仲で、あまつさえ……サトコがソウタへ、一種の"求婚"紛いのコトまで、していたのかというと――ソウタとサトコの由縁は、4年前に遡る。
当時、アヤコの養子として、彼女が父であるヤスミツの戦犯の刑を肩代わりする形で、蟄居させられている大陸の最北端――クバシ城で暮らしていた、16歳のソウタは――その城に滞在していたリョウゴの下で、剣術の修行に明け暮れていた。
――とは言っても、アヤコの養子というのは、事実上は"名ばかり"で……ほとんどソウタは、城の近くに居を構えていた、当時の刀聖であるリョウゴと、生活を共にしていた。
今、思えば――既に、リョウゴはソウタを盗賊の襲撃から救った時から、彼を"次の刀聖"へと定めた上で、修行させられていたのかもしれないと、ソウタは自戒している。
――対して、15歳となったサトコは、アマノツバサノオオカミを始祖に持つチハエ一族における"次の皇"として、通例となっている、1年間の"市井降り"の時期を迎えていた。
"市井降り"とは、15歳となった次の皇は、三大国のどこかへと秘かに留学し、その国の国守から帝王学を学び、同時に、忍んで民の暮らしの様子を知る事で、君主としての立場や責任を覚える通過儀礼の事を指す。
――だが、ハクキ、コクエの二大国が瓦解し、スヨウは当時の皇が降りた地であったため、2代続けて同じ場所では、如何なものかと、当時の皇や重臣の議論を呼び――三大国体制が崩れた今のツクモでは、そんな儀礼もそぐわない状況だったのだ。
ならば――蟄居中とは言っても、ハクキの息女として帝王学を学んだ経験がある、アヤコに白羽の矢が発った。
アヤコは、蟄居と共に任された、クバシ城一帯の辺境を領主として治める仕事も立派にこなしていたため、満場一致で留学先へ決定――サトコは、アヤコの下で学ぶ事となった。
二人は、その縁で出会い……親交を深める内に、サトコはついに、求婚をしてしまうまでに、至ったのである。
ちなみに――皇の夫に選ばれる男には、前例を紐解いても、まったく身分出自は考慮されておらず、純粋に皇の恋愛感情が尊重されている。
それは、初代であるチハエノオウメが、ひょんなコトで出会った男に惚れ、皇の立場を蹴ってまで、一緒になりたいと駆け落ち寸前までに至り、アマノツバサノオオカミも、我が娘が見せたその情熱に負け――以後の代でも、皇に与えられた、最大唯一の自由意志として、限り無く尊重すべしと言い残した逸話に端を発している。
現に、サトコの父に当たる、ケントという男は、先代の皇が領内を巡行した際、休憩時に水を一杯、彼女に提供した青年であったいう。
――ソウタは、徐に左手の人差し指にある指輪を外し、まじまじとそれを舐め回す様に見詰める。
(指輪一つを……門番に見せたら会えるって、皇様の警備としては、問題アリ過ぎじゃねぇのか?)
指輪を、片手で弄びながら、ソウタは顔をしかめて――
(――まっ、それが本当かも疑わしいんだけどよ)
――そう思いながら、荘厳な趣きの南門を見渡す。
この南門は、ツクモに生まれた者ならば、一生に一度は行ってみるべき場所だと言われている。
それは、もちろんアマノツバサノオオカミの子孫である、皇が住まう場所であるのが主な理由だが、物見遊山で翼域を巡る者や、熱心な萬神道信者からは、旅の基点としてココを選ぶ者が多いのも理由である。
この、御所の南門から、マレイという街にある"婚の丘"、そして――そこからテンラクのセイジ湖の真ん中にある、"天船の艦橋"の遺跡に至るのが、翼域巡行の定番スポットと化している面もあるのだ。
(――さて、とりあえず、名跡は観させて貰ったから、行くとするかね)
ソウタは、意を決した表情で、門に近付き――
「あっ、すんません――」
――と、警護している門番に声を掛けた。
「――ん?、なんだ?」
流石は、観光客が多い、この南門の門番である――高圧的な態度も無く、凄くナチュラルに門番は返答した。
「あ~……"コレを"渡せば、解かって貰えると、言われたんだが……」
ソウタは少し、躊躇いを見せながら、握っていた金糸龍の指輪を門番に差し出した。
「――ん~っ?」
門番は最初、ソウタの言っている事がピンと来ず、"なんだぁコレ?"という態度で、渡された指輪を観ていたが――
「――っ?!、!!!!!!!!!!っ!?、うえっ!?」
――変な嗚咽音まで付けて、驚いた顔で何度も、何度も見直す。
――そして、これまた何度も、ソウタの姿や格好を、まじまじと見返し、慌てた様子で――
「――ちょっ!、ちょっとココで、待っていてくれるか?
わっ……私の立場では、判断に困る故――上役と相談して、失礼を承知で言わせて貰うが、こっ!、指輪が、本物であるかどうかも、確認せねばならない……」
門番は、額に汗を滲ませながら、そう言う。
「ああ、別に構わないですよ、特段、急ぐ理由も無いですから」
対してソウタは、平然とした顔でそう返す。
「――ありがたい、では、しばし待たれよ」
門番は、慌てて近くの詰め所に入る。
「――あ?、もう、交代ッスか?」
詰め所で休んでいたらしい、交代要員の門番は、寝ぼけ眼の顔に、口元からはよだれを垂らしながら、そう応えた。
その気の抜けた様子に、指輪を受け取った方の門番は、眉間にシワを寄せ、交代要員を小突いた。
「――バカッ!、大変なんだぞ?!、この間の"占報並み"に!」
門番は、興奮気味に慌てた様子で、指輪を薄布で包む
「――へっ?」
交代要員は、ワケが解からず、呆けた様にそう言う。
「呆けてないで、ちゃんと見張ってろよ!、俺は報告してくる――"指輪の君"が、現われたって!」
"指輪の君"とは、もちろん……皇が、求婚した男の事を指す、コウオウの民たちが使う隠語である。
一方――御所内の皇の自室では、サトコが深くうな垂れながら、公者たちからの報告書に目を通していた。
(――大巫女様を通しても、他国経由の伝手を使っても、スヨウ側の返答は"交渉には応じず”、かぁ……)
――読んでいるのは、もちろん、スヨウからの宣戦布告に関した、外交上の報告である。
サトコと、宰相であるロクスケは、思い付く手を全て尽くして、会戦回避へ向けた交渉をスヨウ側に打診したが――その、全てをサトコを操って出させた、ロクスケの詭弁だと一蹴し、会談の一つも行われないまま決裂した。
ロクスケからは――
「……私の身を、スヨウに差し出せば、会戦を避けられるのでは?」
――という、最終手段も提案されたが、交渉の間に入った、クリ社と大巫女からは、"それは、内政干渉の術として、悪しき前例となってしまう!”と、指摘され、語る間も無く水泡に帰し、最終決定権を持つサトコ自身も、それはあってならないと、ロクスケが独断で進言したその指示書に、印を押す事は固辞していた。
(――でも、八方塞がりに拍車を掛けてしまったわ。
もう……戦に発展させるのは避けられない――私は、歴史上に例が無いほどに、愚かで無力な皇だわ)
サトコは頭を抱え、側に報告書を放ってしまう。
「――失礼、致します」
――と、女の声が部屋に響いた。
「……何か?」
自分に用があっての声掛けと悟ったサトコは、慌てて報告書を巻物状に丸めながら、そう用向きを尋ねた。
「――はい、ご確認……して、頂きたいモノがございます」
声の主は、サトコが子供の頃から付き従っている、キヨネという侍女である。
「確認して貰いたいモノ?、何です?」
サトコが、そう訝しげに聞き返すと、キヨネは躊躇わずに襖を開け、部屋に入って来た。
入室したキヨネの手には、白い布に覆われた"小さい何か"が、大事そうに両手で抱えられている。
キヨネは、サトコの側に座り、無言のまま、その白い布を外すと、そこには――
「――っ!、えっ!?」
――金糸の龍が彫られた、白金の指輪が置かれていた。
その道すがら、ソウタは記憶を辿って――
『――私を、訪ねて来た時は……こっ!、この指輪をぉっ!、御所の門番に見せてね?
見ただけで、私の……"客人"だと、解かるはずだから――』
――という、サトコが別れ際に、酷く緊張した素振りで、指輪を自分に渡す際に言った、言葉を思い出していた。
――何故、"刀聖"であるソウタと、"皇"であるサトコが、旧知の仲で、あまつさえ……サトコがソウタへ、一種の"求婚"紛いのコトまで、していたのかというと――ソウタとサトコの由縁は、4年前に遡る。
当時、アヤコの養子として、彼女が父であるヤスミツの戦犯の刑を肩代わりする形で、蟄居させられている大陸の最北端――クバシ城で暮らしていた、16歳のソウタは――その城に滞在していたリョウゴの下で、剣術の修行に明け暮れていた。
――とは言っても、アヤコの養子というのは、事実上は"名ばかり"で……ほとんどソウタは、城の近くに居を構えていた、当時の刀聖であるリョウゴと、生活を共にしていた。
今、思えば――既に、リョウゴはソウタを盗賊の襲撃から救った時から、彼を"次の刀聖"へと定めた上で、修行させられていたのかもしれないと、ソウタは自戒している。
――対して、15歳となったサトコは、アマノツバサノオオカミを始祖に持つチハエ一族における"次の皇"として、通例となっている、1年間の"市井降り"の時期を迎えていた。
"市井降り"とは、15歳となった次の皇は、三大国のどこかへと秘かに留学し、その国の国守から帝王学を学び、同時に、忍んで民の暮らしの様子を知る事で、君主としての立場や責任を覚える通過儀礼の事を指す。
――だが、ハクキ、コクエの二大国が瓦解し、スヨウは当時の皇が降りた地であったため、2代続けて同じ場所では、如何なものかと、当時の皇や重臣の議論を呼び――三大国体制が崩れた今のツクモでは、そんな儀礼もそぐわない状況だったのだ。
ならば――蟄居中とは言っても、ハクキの息女として帝王学を学んだ経験がある、アヤコに白羽の矢が発った。
アヤコは、蟄居と共に任された、クバシ城一帯の辺境を領主として治める仕事も立派にこなしていたため、満場一致で留学先へ決定――サトコは、アヤコの下で学ぶ事となった。
二人は、その縁で出会い……親交を深める内に、サトコはついに、求婚をしてしまうまでに、至ったのである。
ちなみに――皇の夫に選ばれる男には、前例を紐解いても、まったく身分出自は考慮されておらず、純粋に皇の恋愛感情が尊重されている。
それは、初代であるチハエノオウメが、ひょんなコトで出会った男に惚れ、皇の立場を蹴ってまで、一緒になりたいと駆け落ち寸前までに至り、アマノツバサノオオカミも、我が娘が見せたその情熱に負け――以後の代でも、皇に与えられた、最大唯一の自由意志として、限り無く尊重すべしと言い残した逸話に端を発している。
現に、サトコの父に当たる、ケントという男は、先代の皇が領内を巡行した際、休憩時に水を一杯、彼女に提供した青年であったいう。
――ソウタは、徐に左手の人差し指にある指輪を外し、まじまじとそれを舐め回す様に見詰める。
(指輪一つを……門番に見せたら会えるって、皇様の警備としては、問題アリ過ぎじゃねぇのか?)
指輪を、片手で弄びながら、ソウタは顔をしかめて――
(――まっ、それが本当かも疑わしいんだけどよ)
――そう思いながら、荘厳な趣きの南門を見渡す。
この南門は、ツクモに生まれた者ならば、一生に一度は行ってみるべき場所だと言われている。
それは、もちろんアマノツバサノオオカミの子孫である、皇が住まう場所であるのが主な理由だが、物見遊山で翼域を巡る者や、熱心な萬神道信者からは、旅の基点としてココを選ぶ者が多いのも理由である。
この、御所の南門から、マレイという街にある"婚の丘"、そして――そこからテンラクのセイジ湖の真ん中にある、"天船の艦橋"の遺跡に至るのが、翼域巡行の定番スポットと化している面もあるのだ。
(――さて、とりあえず、名跡は観させて貰ったから、行くとするかね)
ソウタは、意を決した表情で、門に近付き――
「あっ、すんません――」
――と、警護している門番に声を掛けた。
「――ん?、なんだ?」
流石は、観光客が多い、この南門の門番である――高圧的な態度も無く、凄くナチュラルに門番は返答した。
「あ~……"コレを"渡せば、解かって貰えると、言われたんだが……」
ソウタは少し、躊躇いを見せながら、握っていた金糸龍の指輪を門番に差し出した。
「――ん~っ?」
門番は最初、ソウタの言っている事がピンと来ず、"なんだぁコレ?"という態度で、渡された指輪を観ていたが――
「――っ?!、!!!!!!!!!!っ!?、うえっ!?」
――変な嗚咽音まで付けて、驚いた顔で何度も、何度も見直す。
――そして、これまた何度も、ソウタの姿や格好を、まじまじと見返し、慌てた様子で――
「――ちょっ!、ちょっとココで、待っていてくれるか?
わっ……私の立場では、判断に困る故――上役と相談して、失礼を承知で言わせて貰うが、こっ!、指輪が、本物であるかどうかも、確認せねばならない……」
門番は、額に汗を滲ませながら、そう言う。
「ああ、別に構わないですよ、特段、急ぐ理由も無いですから」
対してソウタは、平然とした顔でそう返す。
「――ありがたい、では、しばし待たれよ」
門番は、慌てて近くの詰め所に入る。
「――あ?、もう、交代ッスか?」
詰め所で休んでいたらしい、交代要員の門番は、寝ぼけ眼の顔に、口元からはよだれを垂らしながら、そう応えた。
その気の抜けた様子に、指輪を受け取った方の門番は、眉間にシワを寄せ、交代要員を小突いた。
「――バカッ!、大変なんだぞ?!、この間の"占報並み"に!」
門番は、興奮気味に慌てた様子で、指輪を薄布で包む
「――へっ?」
交代要員は、ワケが解からず、呆けた様にそう言う。
「呆けてないで、ちゃんと見張ってろよ!、俺は報告してくる――"指輪の君"が、現われたって!」
"指輪の君"とは、もちろん……皇が、求婚した男の事を指す、コウオウの民たちが使う隠語である。
一方――御所内の皇の自室では、サトコが深くうな垂れながら、公者たちからの報告書に目を通していた。
(――大巫女様を通しても、他国経由の伝手を使っても、スヨウ側の返答は"交渉には応じず”、かぁ……)
――読んでいるのは、もちろん、スヨウからの宣戦布告に関した、外交上の報告である。
サトコと、宰相であるロクスケは、思い付く手を全て尽くして、会戦回避へ向けた交渉をスヨウ側に打診したが――その、全てをサトコを操って出させた、ロクスケの詭弁だと一蹴し、会談の一つも行われないまま決裂した。
ロクスケからは――
「……私の身を、スヨウに差し出せば、会戦を避けられるのでは?」
――という、最終手段も提案されたが、交渉の間に入った、クリ社と大巫女からは、"それは、内政干渉の術として、悪しき前例となってしまう!”と、指摘され、語る間も無く水泡に帰し、最終決定権を持つサトコ自身も、それはあってならないと、ロクスケが独断で進言したその指示書に、印を押す事は固辞していた。
(――でも、八方塞がりに拍車を掛けてしまったわ。
もう……戦に発展させるのは避けられない――私は、歴史上に例が無いほどに、愚かで無力な皇だわ)
サトコは頭を抱え、側に報告書を放ってしまう。
「――失礼、致します」
――と、女の声が部屋に響いた。
「……何か?」
自分に用があっての声掛けと悟ったサトコは、慌てて報告書を巻物状に丸めながら、そう用向きを尋ねた。
「――はい、ご確認……して、頂きたいモノがございます」
声の主は、サトコが子供の頃から付き従っている、キヨネという侍女である。
「確認して貰いたいモノ?、何です?」
サトコが、そう訝しげに聞き返すと、キヨネは躊躇わずに襖を開け、部屋に入って来た。
入室したキヨネの手には、白い布に覆われた"小さい何か"が、大事そうに両手で抱えられている。
キヨネは、サトコの側に座り、無言のまま、その白い布を外すと、そこには――
「――っ!、えっ!?」
――金糸の龍が彫られた、白金の指輪が置かれていた。
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