流れ者のソウタ

緋野 真人

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光刃現眼

光刃現眼

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「!!!!!!!!!、なぁっ?!」

――そんな驚きの声が、平原のあちこちに響いた。


どよめきが包む野原の真ん中に立つ、光の刀を提げたソウタは、一斉に自分に集中する、大勢の視線に――

(なんか、こっ恥ずかしいな……)

――と、照れ笑いを見せながら、ニヤッと笑って頬を紅くする。


「――ゴホンッ!、んんっ!」

ソウタは一つ、咳払いをして喉を整えてから、おもむろに光の刀を天に掲げた。


そういえば――以前、ヤマカキ村で抜き放った時とは、刃の長さや太さが、かなり違う様相をしている。


これは、遠くからこの光景を観ている者にも、光刃の輝きが観える様にという、ソウタの意図に因るモノで――つまり、光刃自体の伸縮や大小は、ソウタの思うがままだというコトだ。

ちなみに――どーいう仕組みでそうなっているのかを、ソウタも歴代の刀聖も、よくは知らないのは秘密である。


「――我はぁ!、当世の刀聖!!!

この戦の発端に"世の乱れ"見出しぃ!、この戦場いくさばに馳せ参じたぁっ!!!!!」

ソウタは、辺り全ての者に自分の声を聞かせようと、思いっきり大声を張り上げて叫んだ!


「――おおおおおっっっっっ!」

――その言葉は、更なるどよめきを呼び、その事実は完全に辺りの雰囲気を支配し、それを見聞きした者の中には、一斉に、ソウタへ向けて平伏をし始める者も現われた。

満座の前での口上だけではなく、煌く光刃の輝きも観てしまったら――誰も、嘘や戯れ言だとは言えなかった。


「!!!!!、~~~~~~~~っ!」

カオリは、声にならない叫びを漏らし、彼女も慌てて跪き、平伏する一団に加わる。


「ソッ、ソウタが、刀、聖ぃ?」

タマは、口をあんぐりと開けて、只々驚いていた。


「これは――流石に、驚いたな……」

ギンは、鼻頭に汗を滲ませ、彼もまた、口を開けて牙を露わにする。


秘境育ちの亜人種たちの間でも、絶対的な武力の象徴として、刀聖伝承の認知度は別格である。


「――なんとぉ!」

丘の中腹で、全軍の後退を指揮していたシュウイチも、それだけをつぶやいて圧し黙る。


「刀の柄が、昔観たリョウゴ様の物と、似ているとは思っていたが……やはり、あれは光の太刀であったかぁ!」

カツトシは腕を組み、妙に納得した表情で唸る。


「――リョウゴ、なのか?、ええっい!、この距離では、顔が見えぬわい!」

先世の刀聖、リョウゴとは直に面識があるマサノリは、顔の確認が出来ない事に苛立つ。


「"光刃――現、眼"……まさか、自分の目で、そんな凄い出来事を観れるとは思わなかった……」

リノは、口元を抑え、震えながら光刃の光を凝視する


光刃現眼こうじんげんがん』とは、文字どおり"人の『眼』の前に『光刃』が『現』われる"事を指し、当世の刀聖が、多くの人の目の前で光の刀を抜く――つまり、自分が当世の刀聖である事を人々に示す事を表す。


「――っ!」

ソウタは、光の刀をスヨウ軍が集まる方へと、軽~く振り下ろした!

光刃は、ゆっくりと草むらに下りると、草刈でもする様に地を這い、草原を疾走して――スヨウ軍の先頭に立つ、マサノリとリノの下へと迫った!


「――むっ!?」

「ひぃっ!」

二人は、その光刃から逃れようと、慌てて馬を後退させる!


光刃は、二人を襲う前に止まり、薙ぎ払われた恰好で、大地には光刃にえぐられた様な軌跡を残した。


「――っ?!、!!!!!!!!!!!!」

その軌跡を見て驚いたのは、西の丘で様子を見守るシゲマルだった。


「いっ!、今の跡は――ヤマカキ村で見た、警備隊長の傷痕と同じ!?

それに、"この戦の発端"が云々とも……でっ!、ではっ!、まさかぁっ!」

シゲマルは、両膝を着き、ガタガタと震えながら――

「――我らの謀略はかりごとは、最初から、全て……刀聖様の知るところだったということかぁ?!」

――と、声を荒げて、絶望に満ちた表情でうな垂れた。


「――この戦!、スヨウに大義無しっ!

これ以上!、この"乱れ"を拡げようとするのならばっ!、人、自らを"邪"と化したと断じ!、光刃により、人は滅する道を辿ると心得よっ!」

ソウタは、これも大声で草原中へと叫び、光刃を柄へと仕舞った。


刀聖伝承の最後は、こういう一節で結ばれている――


『――乱れの末、人、自ら"邪"と化すならば、刀聖が滅するは、人であり、この地なり。

故、その時、刀聖、振るう刀は、全てを滅するも容易やすき、まが物へと変ず』

――と。


ソウタが以前、光の刀を掲げ"人が振るうには過ぎた力"と表したのは――この一節を指すのである。

刀聖の本質は、英雄に非ず――"邪"と化した、"人"を滅ぼす……"滅びの執行者"なのだ。


「おっ、おおおおおおおおっ!、おじいちゃんっ!」

リノは激しく狼狽し、顔色を真っ青にして、義父の甲冑をギュッと掴む。

「はっ!、早く退こう!、刀聖様がお怒りだから!」

――だが、マサノリは、義娘の懇願を無視する様に――

「……いや、確かめねばならぬ。

当世の刀聖とは、いかなる者か――そして、その刀聖が、乱れを見出した理由をな……はっ!」

――手綱をしごき、刀聖へと向って馬を駆けさせた。

「!、おじいちゃん!?」

「――リノ!、随伴は無用!、それと、兵たちを頼むぞ!」

マサノリは片手を掲げて、それだけを言って駆けて行った。


「ん?、誰か来るな」

ソウタは、刀を元に戻しながら、近付いて来る一騎を見詰める。


「――刀聖様に!、申し上げぇ~るっ!」

その一騎たる武者は、高らかにそう叫んで――

「我は!、スヨウ国守に任じられし、この戦におけるスヨウが将!、三軍将マサノリ!

刀聖様に、大義無しと断じられたとて!、我らにも、戦に到る理由がござぁ~るっ!

故!、抗弁の機会として、会い申す事をお許し願いたい!」

――と、まどろっこしい言い方ではあるが、要は面と向って話をしたいと言って来たのである。


ソウタは、それには何も答えず、黙って刀を鞘に仕舞う。


「――刃、収めしという事は、許しが下りたとお見受け致す……はぁっ!」

マサノリは、馬の脚を速めさせ、ドンドン近付いて来る。

ソウタの顔が、視認出来る距離まで来て、マサノリは――

(――若いな。

あやつも、今ならもう、五十に近付く齢のはず――では、"継承を経た者"だというコトか)

――彼の顔を凝視し、自分が面を知る刀聖ではない事を確認する。


ソウタは、まじまじと自分を凝視する、マサノリに――

「――敬語はいらねぇ。

孫みてぇな歳の若造に、畏まるのは窮屈でしょ?」

――と、眉間にシワを寄せ、睨み付けながら言った。

「そうか、ありがたい」

マサノリは、そう前置きをしてから、馬を止めてサッと鞍上から飛び降りる。


二人は、草原の上でジッと相対し、まず、マサノリは開口一番――

「リョウゴは……"逝った"のだな」

――と、口火を切り、寂しそうな眼差しをソウタに送り、閉じた唇をグッと噛む。

「――っ?!」

ソウタは、その一言に、明らかな動揺を見せる。

「刀聖の号と、光の刀の継承は……それ即ち、"先世の死"を意味する――それぐらいは知っておるよ」

マサノリは、目の前に居る若者の、動揺した表情へ向けて破顔を見せる。

「……そうか、アンタぐらいの歳の、スヨウ武士なら――」

「――ああ、先世とは、共に戦場を駆けた仲じゃ。

それに、刀聖とは如何なる"理不尽なことわり"の中を生きておるのかも……あやつの口から聞いておる」

続いて、マサノリは笑みを外し、今度は哀れみの表情をソウタに向けて――

「先世歿し、当世が光刃を継承しておるというコトは――お前が、リョウゴを殺めたのだろう?」

――と、衝撃的な指摘を口にした。

「……」

ソウタは、その指摘を聞いても、先程の様な動揺は見せず、ジッと目を閉じ、ほんの少しの間だけ下を向く。

「――へっ!、喋り過ぎだよ、あの人は。

おかげで、思い出したくもねぇモンを、思い出しちまったじゃねぇか」

そのセリフを口にしたソウタは、両目から一筋の涙を垂らし、これを問いへの返答とした。


「……非情な理よな。

人ならざる力を抱え、世界の全てを背負った勇者の後世とは――自らを殺してくれる者を見出し、育てる事でなければならないというのは」

マサノリも、両目に涙を浮かべ、それに気付かれない様にと、ソウタから目を逸らす。


「――あやつは、どんな顔をして……逝った?」

マサノリは、目を逸らしたまま、旧友の往生の様子を尋ねた。


「惚れた女の……腕に抱かれて、笑ったまま――逝ったよ」

ソウタは、垂れた涙を、拭いながらそう答えた。

「惚れた女……では、アヤコ様の下でか」


そう、実は――リョウゴとアヤコは"そういう仲"で、リョウゴに賊から救われたソウタは、その縁で、アヤコの養子となったのである。

しかも、この刀聖とハクキの姫のラブロマンスは、ツクモ中に知れ渡っている有名な逸話でもある。


「そうか――リョウゴらしい、最後だったのだな」

マサノリは、また、寂しそうな眼差しを見せながら、口元を微かに綻ばせた。


「――で?、そろそろ本題に入ろうや。

抗弁したくて、俺の前に出て来たんだろ?、まさか、嘘を吐いてまで、旧友の最後が知りたかったってワケじゃねぇだろ?」

ソウタは、冷ややかな目線でマサノリを睨み、あの口上の真意を探る。


「俺も、知りてぇしなぁ?

スヨウあんたらが、コウオウに濡れ衣着せてまで、この戦を仕掛けた理由ってのをさ?」

マサノリは、ソウタの発言に、険しい表情を見せて…

「――"濡れ衣"か。

光刃を現した刀聖が、そう言うというコトは……やはり、この戦には、理に叶わぬ"裏"があるという事なのじゃな?」

――と、逆にソウタの言葉の真意を問うてきた。

「"やはり"って……おいおい、知らばっくれんのかよ?

大義がどうとか、大層立派な理屈を並べて、てめぇらが守るべき自国の民を殺したり、陵辱おかしたりしたのは、アンタのお仲間だろうが!?」

ソウタは声を荒げ、睨む視線を強める。

「なっ?!、んじゃとぉ……!」

ソウタが言い放った、予想以上に衝撃的な事実に驚き、マサノリは思わず息を呑む。

「……まさか、本当に知らねぇのか?」

偽り無く写るマサノリのリアクションに、ソウタは表情を変えた。

「恥ずかしき、話ではあるが……我ら三軍には、先の占報と同等量の経緯しか、知らぬっ!

此度の戦は、ただコウオウ宰相を捕らえよと、駆り出されただけに過ぎぬのじゃあ!」

マサノリは、口惜しげに、唇を噛み締め――

「――お主は、この戦の発端に、世の乱れを見出したと言うた。

即ち、乱れの根幹は……先のヤマカキでの事にあるというコト――では、お主は、ヤマカキでの事の何を知っておるのだ?」

――と、憔悴した様子で、うつむきながらソウタに尋ねた。

「……どうやら、スヨウはスヨウでも、一部の連中の企みだったか……解った、話すよ」

ソウタは、マサノリの言葉に信を感じ、ふぅと息を整え、マサノリに自分が直に見聞きした、ヤマカキ事変の真実を語り出す。

――

――――

「――で、警備隊を皆殺しにしたのが俺……つまり、その弔い合戦を仕掛けてぇんなら、コウオウじゃなく、俺一人に布告するのが筋ってコトよ」

顛末を伝え終えたソウタは、そんな戯れ言も交えて語りを締め括った。


――いや、あながち戯れ言ではないのかもしれない。

恐らく、本気になった刀聖とは、一国家の全戦力などでは、遠く及ばないとまで言われているのだから。


マサノリは、啞然とした表情で、ソウタの語りを聞き終えると、心中で――

(――ヤマカキでの仔細を知るのは、御家方様に付いていた一軍の者たちのみ……か。

では、彼奴らはワシを――いや、ほとんどのスヨウの民をたばかっておるというコトかぁっ!)

――と、激昂し、彼はユキムネたちが控えているであろう、遠くに見える西の丘を見据えて、凄まじい形相で丘上を睨んだ。


「――ふっ♪」

その、遠くから来る激しい視線を、面越しにでも感じたかの様に、能面の淵から覗けるユキムネの口元は、何故か微かに綻んでいた。
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