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それぞれの大義
編み笠男
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「――ふわぁぁぁぁっ……」
旅籠の一室から見える朝日を見上げ、起き抜けの茶を飲んでいるソウタは、大きなあくびをした。
オウクの街で、サトコたちと別れたソウタは、クリ社からの召喚状に従い、大巫女と謁見するために、テンラクへと向かっていた。
オウクから、テンラクまで向かうには、一般的には徒歩や荷持ちの馬ならだいたい8日程度の道程で、早馬を使えば、ざっと3日……駿馬であるテンの健脚にかかれば、2日で着く事も可能な道程なのだが、書状には召還期限が設けられていなかったために、ソウタはそれに甘え、実にゆったりと道中を進んでいた。
(ふぅ、良い、朝だねぇ~♪)
――と、宿場ごとに旅籠を用い、こうして朝の日差しをたっぷりと浴びながら目覚め、起き抜けの茶を啜ってみたりもして。
それに――今回、やたらと荷を背負わされての旅立ちだったため、早駆けに踏み切るのは難しく、多めな荷物を抱えているのも、ゆったり道中の理由の一つである。
ソウタの旅支度だけなら、大きめの雑袋一つで事足りたのだが――今は、サトコ名義のクリ社への贈答品も預かっているために、大荷物を背負うに至っている。
(――刀聖"様"って、持て囃していた割に、こうやって、まあまあこき使うつもりだよねぇ……あの宰相様も)
――と、ソウタは御所の厩舎に、テンを取りに行った際……荷の完全装備状態で待っていたテンの姿を見て、苦笑いを見せながら、心中ではそう呟いていたのだった。
(――それにしても、やっぱり、路銀にゆとりがある旅ってのは、イイもんだねぇ~♪)
ソウタは、一気に伸びをして、腹帯に隠している財布に触れ、ニンマリと笑う。
オウビからオウクへの商隊護衛――先の合戦においての傭兵仕事と、この約1ヶ月間は、ほぼびっしりと仕事にあり付けていたソウタは、今、とても懐が暖かい状況にある。
路銀が枯渇し、大木の上で野宿していた頃とは――まだ、1ヶ月ちょっとしか経っていないとはいえ、もはやアレは、遥か昔の出来事と言った様相だ。
しかも、今回のテンラク行きは――皇名義の荷を預かる事に因り、路銀は全て、コウオウ政府負担!
まさに――至れり尽くせりな、旅路なのである。
「――ふわぁぁぁぁっ……」
ソウタはもう一度、大きなあくびをして――
「さぁ~てっ!、あと二日の道程だぁ~!、さっさと顔洗っちまって、さっさと発つかぁ!」
――と、気合いを入れて、床から立ち上がった。
「――確かか?」
「へぇ……荷の一部に、"龍の紋"がございます――テンラクへと向かう、コウオウの使者と見て、間違いございません――」
――ここは、ソウタが泊まった、旅籠の玄関である。
そこに設けられた、小上がりに腰を下ろしている、編み笠を深く被り、新聞を片手に持った武官風の男が、茶を持って来た、上顎の出っ歯が印象的な小柄な丁稚の男に対して、何やらを囁いていた。
ツクモの旅籠には、大概、客が出発前に荷を背負ったり、身支度を整えるために用いる、小上がりが設けられている。
中にはそこで、この編み笠男の様に、旅籠が用意した新聞を片手に、朝の茶などに興じる様は、まったく珍しくも怪しくもないが、この二人の会話の内容は実にキナ臭く、声のトーンにも真剣さが滲んでいて、その点はかなりアヤしい。
「――暗衆からの報告に因れば、コウオウは召喚された刀聖を使者に立てたらしいとの事――」
「お待ちくだせぇっ!、その荷の主――二階から降りて参ります……」
丁稚は、編み笠男を制し、小さく階段を指差す。
「~~♪♪」
階段を降りて来たのは、鼻歌混じりにご機嫌な、ソウタであった。
「――ふわぁぁぁぁっ……」
編み笠の男は、あくびをしながら降りて来るソウタの姿を、クイッと笠を上げて見やり…
「ほぅ――確かに若いな。
真に刀聖ならば……継承経ている者、そう思って間違い無かろう……」
――と、ニヤッと笑いながら、第一印象を吐露する。
「おはようございます――お客様、旅の疲れを癒して頂けましたか?」
編み笠男と、話していたのとは別の丁稚が、起きて来たソウタに挨拶をする。
「ええ」
ソウタはそう返事をし、愛想笑いをする。
「おい――」
――と、編み笠男は、小さくソウタを指差し、小柄な丁稚に何やら耳打ちをする。
「――"出来る"か?」
「……へぇ、相手が刀聖かもしれねぇと言われては、ちょいと肝が冷えますが――やってみましょう」
編み笠男の耳打ちに、小柄な丁稚は、顔を強張らせて頷く。
「――じゃっ、世話になったねぇ」
「へぇ、ありがとうございます」
ソウタと旅籠の店主は、そんなやり取りをして、ソウタは宿代を番台に置く。
ソウタは、ニコッと笑って踵を返し、客用の厩へと続く土間を進もうとする――が、その刹那、例の小柄な丁稚と交錯してしまい、体格的に小さい丁稚は、もんどりうって激しく転倒した。
「あっ!、悪ぃ――大丈夫っスか?」
「へっ、へぇっ!、すんませんっ!、お客様ぁっ!」
転倒から直ぐに立ち戻り、機敏に体勢を整えた小柄な丁稚は、慌てて土間に深々と平伏する。
「いやいや、そんなに大袈裟に謝らなくて、イイっスよ。
後ろをちゃんと気にしてなかった、俺も悪いんだしね」
ソウタは、後頭部をポリポリと掻き、バツ悪そうに小柄な丁稚の肩を叩く。
「へへぇっ!、すんませんっ!、すんませんっ!、あっ!、厩ですよね?、ご案内致しやすっ!」
小柄な丁稚は、平謝りをしながら、ソウタを厩へと促す。
ソウタは、苦笑いをしながら厩へと向かうと、小柄な丁稚は、テンが繋がれた馬房へと素早く先行して、低頭しながら長手綱を差し出していた。
今朝、馬で発つのは、ソウタだけらしく――馬房に居るのは、ソウタと丁稚だけである。
「――お客様ぁっ!、それではお気を付けてぇ!」
「あっ、ありがとう――」
ソウタは、長手綱を受け取り、馬用の出入り口に掛かっている、暖簾を手にして――
「――で、幾ら、欲しいの?」
――と、丁稚へピンと来ない、問い掛けを投げて来た。
「――へ?」
何の事なのか解らない丁稚は、生返事を返し、不思議そうにキョトンと立ち竦む。
「ふう――コレ、獲ったっしょ?」
――と、ソウタは、自分の財布を掲げ、ヒラヒラと振るう。
それにハッとなった丁稚は、慌てて懐を探る。
「!、たっ!、確かに、上手く行ったはず――あっ!、手綱を渡す時……!?」
――と、思わず自白してしまった小柄な丁稚は、ニヤッと笑っているソウタと目が合う。
「鼠族の兄さん――客の懐に、悪さをしちゃあダメでしょ?
態度に出してくれたら、少ないかもしれねぇが、多少の"袖の下"ぐらいは、ちゃんと揚げたのにさ」
ソウタは、顎に手をやり、残念そうに口を尖らせる。
ちなみに――"鼠族"とは、亜人種の一種で、外見の特徴は上顎の出歯と小柄な体型、特有の能力は、素早さと手先の器用さである。
素早さを用いて、飛脚の類に就いたり、手先の器用さを活かして、職工を生業とする者が多いが――その特有能力を、盗みなどの犯罪に使う例も少なくはない。
「おっ!、お見それしやしたぁっ!」
鼠族の丁稚は、慌てて土下座をし、またも深々と平伏する。
ソウタは、小柄な丁稚の渾身の謝罪を見やり――
「もう、んなコト、するんじゃねぇよ?」
――と、反省を促し、平伏する彼の目の前に、中銀貨一枚(※五千円相当)を置き、長手綱を引いて厩出口の暖簾を潜った。
「……俺、掏りの才能、有るのかな?」
――と、ソウタは丁稚の懐から取り返した、財布を握る自分の左手を、訝しげに見ながら街道を進んで行った。
ソウタが去った、厩の土間で、先程の鼠族の丁稚は、震えながら平伏し続けている。
「――どうであった?」
――と、そんな丁稚に声を掛けたのは、これも先程の編み笠男だ。
その声に、丁稚は震えるのを止め、ギョロっとした目を見開き――
「――へぇ、子供の頃から、掏りを始めてウン十年になりますが……あんな直ぐに見抜かれて、あんな素っ頓狂な取り返し方をされたのは、初めてでござんす……」
――と、こめかみに冷や汗をかき、ゴクリと唾も呑んで答える。
「ふん……我も、お前の手練手管には、舌を巻いたのだったな。
忍んで繰り出した、オウザンの歓楽街で」
編み笠男は、ニヤッとそう呟きながら笑って、ソウタの後ろ姿を見送る。
「――"御家方様"、あっしに財布を掏らせて、あの刀聖らしい野郎のナニを測ろうって、意図なんです?」
鼠族の丁稚は、思わず、編み笠男の素性を、匂わせてしまう敬称を口走りながら、請けた仕事への疑問を吐露する。
「これだけではもちろん、真に刀聖なのかの判断は着かぬよ。
今回はただ、果たして如何な者かと、胆力と注意深さを試しただけだ」
編み笠男は、そう言って、またも不敵な笑みを浮べる。
「――さて、我もそろそろ発とうか。
予定では、帰りの道中であったが……当世の刀聖らしき者に、挨拶もせずにスヨウに帰っては、些か不敬であろうて」
そう――呟いた編み笠男は暖簾を潜り、旅籠の外に出て、ソウタの後を追い始めた。
「ふぅ、もう少しだぞぉ……テン」
荷を背負い、坂道を力強く登坂する愛馬に、ソウタは労いの言葉を送った。
ソウタが向かう、テンラクの街とは、この坂――いや、正確に表せば、この台地の上にあるのだ。
翼域北部にあるこのカスミ坂と呼ばれる台地の頂上には、広めの高原が広がっていて――それが、天船がツクモに着陸した場所とされているクリン高原である。
唯一の宗教である萬神道を取り仕切る組織であり、統一通貨の発行権を唯一保持する、絶大な影響力を持つ国際機関――クリ社の名は、本部のあるその地名に由来している。
ソウタが今、向かっている街とは、言わば宗教上の『聖地』であり、世界の政治の基幹都市である、ツクモ世界の『首都』でもあるのだ。
そんな『聖都』たるテンラクへと至る上で、一番の難所となっているのが――巡礼者泣かせとさえ呼ばれてるこの急坂で、そんな巡礼者たちのために、坂の途中に宿場が設けられている程である。
まあ、翼域自体がココを除いて、平原続きなのも――旅する者に、そう思わせる理由かもしれないが。
「――おい、そこな流者よ」
――と、ソウタとテンが坂道を進むトコロに、背後から呼び止める声がした。
「はい?」
ソウタが、その声に応じて振り向くと――そこには、編み笠を深く被った、武官風の旅人が居た。
「すまぬが――飲み水を分けては貰えぬか?
この日差しの強さで、中腹の宿場に着く前に、すっかり飲み干してしまってな」
編み笠男は、片手を額に寄せて日差しを遮り、もう片方では竹筒を翳してそれを振るう。
確かに――今日の天候は快晴で、気温も高めな、水分が欲しい気候だ。
「――良いっスよ」
ソウタは快諾し、テンの腹帯から水筒を取り出し、後方へと足を向けたが――
「いやいや――分けて貰う方が、くれる方に足を使わせては無礼であろうて。
我が、そちらに向かう故……どうじゃ?、そこなる木立で、共に足を安めぬか?」
――と、編み笠男はソウタの側に見える街道沿いの群生林を指差し、ソウタに休憩を提案した。
どうにも――物言いが偉そうな編み笠男だが、提案の中身は実に低姿勢である。
「――じゃ、そうしますか……行きましょう」
ソウタも、テンの腹から汗が流れて来ているのを感じていて、そろそろ休憩を考えていたトコロなので、彼はすんなりと、編み笠男の提案を受け入れた。
「ありがたい――話の解る流者殿で、助かるわい」
編み笠男は、破顔した口元を覗かせ、群生林へと足を向けた。
「ふぅ、テン~!、ゆっくり休めよぉ~!」
群生林の中に生えた太めの樹に、ソウタは彼を引く長手綱を括り付け、自分も日陰になっている枝の下に腰を下ろす。
そこに、木立の周辺の砂地から、足音が徐々に近付く――編み笠男のモノだろう。
「はい、どうそ、お侍さん――」」
ソウタは、足音の方は見ず、半身で振り向き――水の入った竹筒、ではなく、居合い気味に、腰の鞘から抜刀した!
ソウタが振り向き終えると、編み笠男も抜刀していて――あっさりと、ソウタの斬撃を受け止めていた!
「――ホントの所望は、水なんかじゃなく、刀の方でしょ?」
ソウタは、不敵な笑みを覗かせ、編み笠男を睨み付けた。
旅籠の一室から見える朝日を見上げ、起き抜けの茶を飲んでいるソウタは、大きなあくびをした。
オウクの街で、サトコたちと別れたソウタは、クリ社からの召喚状に従い、大巫女と謁見するために、テンラクへと向かっていた。
オウクから、テンラクまで向かうには、一般的には徒歩や荷持ちの馬ならだいたい8日程度の道程で、早馬を使えば、ざっと3日……駿馬であるテンの健脚にかかれば、2日で着く事も可能な道程なのだが、書状には召還期限が設けられていなかったために、ソウタはそれに甘え、実にゆったりと道中を進んでいた。
(ふぅ、良い、朝だねぇ~♪)
――と、宿場ごとに旅籠を用い、こうして朝の日差しをたっぷりと浴びながら目覚め、起き抜けの茶を啜ってみたりもして。
それに――今回、やたらと荷を背負わされての旅立ちだったため、早駆けに踏み切るのは難しく、多めな荷物を抱えているのも、ゆったり道中の理由の一つである。
ソウタの旅支度だけなら、大きめの雑袋一つで事足りたのだが――今は、サトコ名義のクリ社への贈答品も預かっているために、大荷物を背負うに至っている。
(――刀聖"様"って、持て囃していた割に、こうやって、まあまあこき使うつもりだよねぇ……あの宰相様も)
――と、ソウタは御所の厩舎に、テンを取りに行った際……荷の完全装備状態で待っていたテンの姿を見て、苦笑いを見せながら、心中ではそう呟いていたのだった。
(――それにしても、やっぱり、路銀にゆとりがある旅ってのは、イイもんだねぇ~♪)
ソウタは、一気に伸びをして、腹帯に隠している財布に触れ、ニンマリと笑う。
オウビからオウクへの商隊護衛――先の合戦においての傭兵仕事と、この約1ヶ月間は、ほぼびっしりと仕事にあり付けていたソウタは、今、とても懐が暖かい状況にある。
路銀が枯渇し、大木の上で野宿していた頃とは――まだ、1ヶ月ちょっとしか経っていないとはいえ、もはやアレは、遥か昔の出来事と言った様相だ。
しかも、今回のテンラク行きは――皇名義の荷を預かる事に因り、路銀は全て、コウオウ政府負担!
まさに――至れり尽くせりな、旅路なのである。
「――ふわぁぁぁぁっ……」
ソウタはもう一度、大きなあくびをして――
「さぁ~てっ!、あと二日の道程だぁ~!、さっさと顔洗っちまって、さっさと発つかぁ!」
――と、気合いを入れて、床から立ち上がった。
「――確かか?」
「へぇ……荷の一部に、"龍の紋"がございます――テンラクへと向かう、コウオウの使者と見て、間違いございません――」
――ここは、ソウタが泊まった、旅籠の玄関である。
そこに設けられた、小上がりに腰を下ろしている、編み笠を深く被り、新聞を片手に持った武官風の男が、茶を持って来た、上顎の出っ歯が印象的な小柄な丁稚の男に対して、何やらを囁いていた。
ツクモの旅籠には、大概、客が出発前に荷を背負ったり、身支度を整えるために用いる、小上がりが設けられている。
中にはそこで、この編み笠男の様に、旅籠が用意した新聞を片手に、朝の茶などに興じる様は、まったく珍しくも怪しくもないが、この二人の会話の内容は実にキナ臭く、声のトーンにも真剣さが滲んでいて、その点はかなりアヤしい。
「――暗衆からの報告に因れば、コウオウは召喚された刀聖を使者に立てたらしいとの事――」
「お待ちくだせぇっ!、その荷の主――二階から降りて参ります……」
丁稚は、編み笠男を制し、小さく階段を指差す。
「~~♪♪」
階段を降りて来たのは、鼻歌混じりにご機嫌な、ソウタであった。
「――ふわぁぁぁぁっ……」
編み笠の男は、あくびをしながら降りて来るソウタの姿を、クイッと笠を上げて見やり…
「ほぅ――確かに若いな。
真に刀聖ならば……継承経ている者、そう思って間違い無かろう……」
――と、ニヤッと笑いながら、第一印象を吐露する。
「おはようございます――お客様、旅の疲れを癒して頂けましたか?」
編み笠男と、話していたのとは別の丁稚が、起きて来たソウタに挨拶をする。
「ええ」
ソウタはそう返事をし、愛想笑いをする。
「おい――」
――と、編み笠男は、小さくソウタを指差し、小柄な丁稚に何やら耳打ちをする。
「――"出来る"か?」
「……へぇ、相手が刀聖かもしれねぇと言われては、ちょいと肝が冷えますが――やってみましょう」
編み笠男の耳打ちに、小柄な丁稚は、顔を強張らせて頷く。
「――じゃっ、世話になったねぇ」
「へぇ、ありがとうございます」
ソウタと旅籠の店主は、そんなやり取りをして、ソウタは宿代を番台に置く。
ソウタは、ニコッと笑って踵を返し、客用の厩へと続く土間を進もうとする――が、その刹那、例の小柄な丁稚と交錯してしまい、体格的に小さい丁稚は、もんどりうって激しく転倒した。
「あっ!、悪ぃ――大丈夫っスか?」
「へっ、へぇっ!、すんませんっ!、お客様ぁっ!」
転倒から直ぐに立ち戻り、機敏に体勢を整えた小柄な丁稚は、慌てて土間に深々と平伏する。
「いやいや、そんなに大袈裟に謝らなくて、イイっスよ。
後ろをちゃんと気にしてなかった、俺も悪いんだしね」
ソウタは、後頭部をポリポリと掻き、バツ悪そうに小柄な丁稚の肩を叩く。
「へへぇっ!、すんませんっ!、すんませんっ!、あっ!、厩ですよね?、ご案内致しやすっ!」
小柄な丁稚は、平謝りをしながら、ソウタを厩へと促す。
ソウタは、苦笑いをしながら厩へと向かうと、小柄な丁稚は、テンが繋がれた馬房へと素早く先行して、低頭しながら長手綱を差し出していた。
今朝、馬で発つのは、ソウタだけらしく――馬房に居るのは、ソウタと丁稚だけである。
「――お客様ぁっ!、それではお気を付けてぇ!」
「あっ、ありがとう――」
ソウタは、長手綱を受け取り、馬用の出入り口に掛かっている、暖簾を手にして――
「――で、幾ら、欲しいの?」
――と、丁稚へピンと来ない、問い掛けを投げて来た。
「――へ?」
何の事なのか解らない丁稚は、生返事を返し、不思議そうにキョトンと立ち竦む。
「ふう――コレ、獲ったっしょ?」
――と、ソウタは、自分の財布を掲げ、ヒラヒラと振るう。
それにハッとなった丁稚は、慌てて懐を探る。
「!、たっ!、確かに、上手く行ったはず――あっ!、手綱を渡す時……!?」
――と、思わず自白してしまった小柄な丁稚は、ニヤッと笑っているソウタと目が合う。
「鼠族の兄さん――客の懐に、悪さをしちゃあダメでしょ?
態度に出してくれたら、少ないかもしれねぇが、多少の"袖の下"ぐらいは、ちゃんと揚げたのにさ」
ソウタは、顎に手をやり、残念そうに口を尖らせる。
ちなみに――"鼠族"とは、亜人種の一種で、外見の特徴は上顎の出歯と小柄な体型、特有の能力は、素早さと手先の器用さである。
素早さを用いて、飛脚の類に就いたり、手先の器用さを活かして、職工を生業とする者が多いが――その特有能力を、盗みなどの犯罪に使う例も少なくはない。
「おっ!、お見それしやしたぁっ!」
鼠族の丁稚は、慌てて土下座をし、またも深々と平伏する。
ソウタは、小柄な丁稚の渾身の謝罪を見やり――
「もう、んなコト、するんじゃねぇよ?」
――と、反省を促し、平伏する彼の目の前に、中銀貨一枚(※五千円相当)を置き、長手綱を引いて厩出口の暖簾を潜った。
「……俺、掏りの才能、有るのかな?」
――と、ソウタは丁稚の懐から取り返した、財布を握る自分の左手を、訝しげに見ながら街道を進んで行った。
ソウタが去った、厩の土間で、先程の鼠族の丁稚は、震えながら平伏し続けている。
「――どうであった?」
――と、そんな丁稚に声を掛けたのは、これも先程の編み笠男だ。
その声に、丁稚は震えるのを止め、ギョロっとした目を見開き――
「――へぇ、子供の頃から、掏りを始めてウン十年になりますが……あんな直ぐに見抜かれて、あんな素っ頓狂な取り返し方をされたのは、初めてでござんす……」
――と、こめかみに冷や汗をかき、ゴクリと唾も呑んで答える。
「ふん……我も、お前の手練手管には、舌を巻いたのだったな。
忍んで繰り出した、オウザンの歓楽街で」
編み笠男は、ニヤッとそう呟きながら笑って、ソウタの後ろ姿を見送る。
「――"御家方様"、あっしに財布を掏らせて、あの刀聖らしい野郎のナニを測ろうって、意図なんです?」
鼠族の丁稚は、思わず、編み笠男の素性を、匂わせてしまう敬称を口走りながら、請けた仕事への疑問を吐露する。
「これだけではもちろん、真に刀聖なのかの判断は着かぬよ。
今回はただ、果たして如何な者かと、胆力と注意深さを試しただけだ」
編み笠男は、そう言って、またも不敵な笑みを浮べる。
「――さて、我もそろそろ発とうか。
予定では、帰りの道中であったが……当世の刀聖らしき者に、挨拶もせずにスヨウに帰っては、些か不敬であろうて」
そう――呟いた編み笠男は暖簾を潜り、旅籠の外に出て、ソウタの後を追い始めた。
「ふぅ、もう少しだぞぉ……テン」
荷を背負い、坂道を力強く登坂する愛馬に、ソウタは労いの言葉を送った。
ソウタが向かう、テンラクの街とは、この坂――いや、正確に表せば、この台地の上にあるのだ。
翼域北部にあるこのカスミ坂と呼ばれる台地の頂上には、広めの高原が広がっていて――それが、天船がツクモに着陸した場所とされているクリン高原である。
唯一の宗教である萬神道を取り仕切る組織であり、統一通貨の発行権を唯一保持する、絶大な影響力を持つ国際機関――クリ社の名は、本部のあるその地名に由来している。
ソウタが今、向かっている街とは、言わば宗教上の『聖地』であり、世界の政治の基幹都市である、ツクモ世界の『首都』でもあるのだ。
そんな『聖都』たるテンラクへと至る上で、一番の難所となっているのが――巡礼者泣かせとさえ呼ばれてるこの急坂で、そんな巡礼者たちのために、坂の途中に宿場が設けられている程である。
まあ、翼域自体がココを除いて、平原続きなのも――旅する者に、そう思わせる理由かもしれないが。
「――おい、そこな流者よ」
――と、ソウタとテンが坂道を進むトコロに、背後から呼び止める声がした。
「はい?」
ソウタが、その声に応じて振り向くと――そこには、編み笠を深く被った、武官風の旅人が居た。
「すまぬが――飲み水を分けては貰えぬか?
この日差しの強さで、中腹の宿場に着く前に、すっかり飲み干してしまってな」
編み笠男は、片手を額に寄せて日差しを遮り、もう片方では竹筒を翳してそれを振るう。
確かに――今日の天候は快晴で、気温も高めな、水分が欲しい気候だ。
「――良いっスよ」
ソウタは快諾し、テンの腹帯から水筒を取り出し、後方へと足を向けたが――
「いやいや――分けて貰う方が、くれる方に足を使わせては無礼であろうて。
我が、そちらに向かう故……どうじゃ?、そこなる木立で、共に足を安めぬか?」
――と、編み笠男はソウタの側に見える街道沿いの群生林を指差し、ソウタに休憩を提案した。
どうにも――物言いが偉そうな編み笠男だが、提案の中身は実に低姿勢である。
「――じゃ、そうしますか……行きましょう」
ソウタも、テンの腹から汗が流れて来ているのを感じていて、そろそろ休憩を考えていたトコロなので、彼はすんなりと、編み笠男の提案を受け入れた。
「ありがたい――話の解る流者殿で、助かるわい」
編み笠男は、破顔した口元を覗かせ、群生林へと足を向けた。
「ふぅ、テン~!、ゆっくり休めよぉ~!」
群生林の中に生えた太めの樹に、ソウタは彼を引く長手綱を括り付け、自分も日陰になっている枝の下に腰を下ろす。
そこに、木立の周辺の砂地から、足音が徐々に近付く――編み笠男のモノだろう。
「はい、どうそ、お侍さん――」」
ソウタは、足音の方は見ず、半身で振り向き――水の入った竹筒、ではなく、居合い気味に、腰の鞘から抜刀した!
ソウタが振り向き終えると、編み笠男も抜刀していて――あっさりと、ソウタの斬撃を受け止めていた!
「――ホントの所望は、水なんかじゃなく、刀の方でしょ?」
ソウタは、不敵な笑みを覗かせ、編み笠男を睨み付けた。
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
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