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刀聖離翼
刀聖離翼(後編)
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同じ頃――場所はテンラク、市街の奥にある、ひっそりとした雰囲気の居酒屋である。
「――準備の進み具合、どうなんだぁ?」
昼間っから、並々と中身が詰まったお銚子を片手に、猪口へ酒を注ぎながらそう尋ねたのは、天警五番隊長、イゾウで――
「ええ――各砦への連絡も済みましたし、"三日後の決行"には、間に合うでしょう」
――尋ねられ、質問に答えたのは、編み笠を被った天警二番隊長、ショウである。
「へへっ♪、ワクワクするねぇ♪
久方振りに、"命を削った斬り合い"が、出来そうだと思うとよ♪」
イゾウは、舌なめずりを見せ、嬉しそうに微笑み、猪口に注いだ酒を喉元へとあおる。
「私も……"積年の思い"を、いよいよ遂げられる日が来るかと思うと、血潮が沸騰しそうな心持ちですよ」
ショウは、腰に提げた刀の柄を撫で、本陣のある方向の天井を見上げる。
「――良いっスねぇ、お二人は。
俺は、もうちょっと、早くおっ始めてくれりゃあ……あんたらと一緒に、ワクワク出来たのにねぇ」
そう、不満気に口を挟んだのは――二人の間に座っている天警八番隊長、ヤヒコだ。
「あの刀聖が居る内に、"コト"に及ぼうものなら――少々どころか、かなり厄介な事となるのは目に見えていた。
実際に、竹刀を結んだキミならば、それは一番よく解っているでしょう?」
ヤヒコに、そう釘を刺したのは、彼の目の前に座る天警七番隊長、ルイである。
つまり――この居酒屋のテーブルには、参勤や使節団の護衛のため、テンラクを離れた3名――更に、一番隊長ジョウケイを除き、天警士団の隊長級が、4人揃っているのだ。
ちなみに――丁度、昼食時、いわゆるランチ営業の真っ只中のはずだが、暖簾は仕舞われたままで、入り口には『準備中』の札がぶら下がっている。
「わっ、解らないワケじゃねぇけどよぉ……ルイさん辺りと俺が組めば、少なくとも、刀聖の足止めぐらいなら、出来たんじゃねぇっスか?」
ヤヒコは、テーブルを叩き、ルイに反論する。
「――ざぁ~んねんっ!
僕は、"軍師役"として、全体の進み具合をも、注視していなきゃならない立場だからね。
キミを援護して、刀聖を相手に取る様な余裕は無いよ」
ヤヒコの反論を、ルイはあっさりと否定した。
「俺の他に……"計画"へ賛同してくれる他の隊長、居なかったんっスかぁ?」
あっさりと否定されても、諦めきれないヤヒコは、そう食い下がって見せた。
「"ジョウケイとヨシノブ"は、無二の親友同士――で、二人は"現在の士団"の象徴とも言える存在……」
ショウは、年長の彼らを呼び捨てにし、苦虫を噛んだ様に険しい表情を見せ、軽く歯軋りをする。
「ヒロシさんも――軽そうには見える風体と態度だが、士団とクリ社への忠義の厚さは……見てりゃ解んだろ?」
イゾウもそう言って、串に刺さったつまみを毟り取る様に食べ、串をヤヒコの鼻先に向ける。
「ミスズさんも――相当な堅物女性ですから、彼女に事を漏らそうモノなら、計画自体が危うくなるでしょうし、ハルちゃんだって、意外と潔癖なトコロを感じますからね。
――というか、キミを誘った事が、そもそもイレギュラーなんですよ?」
ルイは、腕組みをして、ショウとイゾウの言葉に、うんうんと頷きながら補足した。
「じゃあ――俺は、もし、この"謀反"に誘われなかったら、誰かに殺される役だった――てぇワケ?」
三人からの指摘に、自分の別の未来を考察して、ヤヒコは身震いをする。
そう――ここでようやく、彼らの思惑が明らかにされた。
ココで話されているのは、天警士団4隊に因る――聖地であるテンラクの占拠を目的とした、クーデター計画である!
「ふふ♪、そうなりますね。
キミの相手は、私の担当でした――でも、若輩とはいえ、キミも隊長級の一人。
易々とは行かないと思っていたトコロに、丁度、あの刀聖とキミの手合わせ――結果、団長に対して遺恨を抱える事となった今のキミなら、ココに至って反旗を掲げるという、僕たちの考えを理解出来ると思ったんですよ」
ルイは淡々と、計画に誘った経緯をヤヒコに明かす。
「けっ!、この若造が堕ちたのは、んな大層な理屈じゃなくて――謀反が上手く行きゃあ、あの大神官を"モノ"に出来るかもしれねぇっていう、助平な動機に決まってんじゃねぇか」
イゾウは、ガブガブと酒をあおり、ニヤっと笑ってヤヒコを見る。
「まぁ――自分の、"欲"のために戦うってのは、カミサマだって言ってるとおり、ヒトも獣の類なんだから、その方が真っ当なんだよ。
俺だって、この謀反に加わったのは、気兼ねなく斬り合いを楽しめそうだからだしな、おめぇだって――動機は金だろうよ?、ルイ」
イゾウは猪口を置いて、上目遣いにルイを見据えた。
「やれやれ――折角、格好を着けているというのに……キミの粗暴さには負けますよ、イゾウさん。
ええ、確かに私の目的は、この計画を私たちに持ちかけた……」
「――あいよっ!、お銚子、もう一本ね」
――と、ルイが何かを言い掛けたトコロに、店の大将が割って入った。
「――からの、莫大な成功報酬の分け前ですよ」
ルイは、イヤらしい笑みを見せ、無言のまま、この計画におけるリーダー格と思しき、ショウを見詰める。
「私は、あのヨシノブへの積年の怨みを晴らす事――そして、天警士団に改革の鐘を鳴らし、士団員たちを、自由と解放の春へと導く事が、私の望み……」
ショウは力強く拳を握り、ワナワナと震えながら、彼も酒を一口呑んだ。
「――確かに、シオリさんに惚れてる事が、俺の望みじゃねぇと言えば嘘になる――でも、それは、ショウさんが言う様な"新しい士団"になれば、シオリさんの事を、高嶺の花として諦めるだけじゃあなくなるかもしれねぇ。
そんな言葉に、共感したからで、シオリさんとヤッ!、ヤリたいとか、そういう助平な動機じゃあねぇ!」
ヤヒコは赤面しながら、自分の動機をそう表した。
「――では、互いの動機を明かしたトコロで、丁度、新しい酒が来た事ですし、決起前の景気付けとして、四人で乾杯と参りましょう。
では、音頭は、僭越ながら私が――」
ルイは、スッと猪口を掲げ、残りの三人の顔を見渡し――
「――己が、欲のために!」
――という、音頭を取った。
「――己が、欲のために!」
「――己がぁ、欲のためにぃ!」
「己が――欲のために!」
順に、ショウ、イゾウ、ヤヒコは、ルイに習ってそう叫び、互いに盃をぶつけ合った。
その声を背中で聞く、店の大将の側に置かれた酒樽には――北コクエの国守、ヒコザが以前まで頭領を務めていた、"ニシイ商会"の紋が刻まれていた。
場所は、更に変わって、オウクの市街。
街は、何やら賑やかで、多くの人がせっせと買い物に勤しんでいる様である。
「――ふぅ、着いたねぇ」
その喧騒の中に紛れ、旅装束の猫族の女――コケツ衆のスズは、不敵な笑みを浮かべ、街頭を見渡す。
(まずは――先に入ってるっていう、南コクエの暗衆ってのと合流して、ターゲットが、どんなヤツなのかを、確認しないとね)
スズは、羽織りに積もった砂埃を払いながら、そんな段取りを心中で確認し――
「――さぁ、ココで、一仕事だね」
――と、言葉にもして、とぼとぼと街中に消えて行った。
「――よぉ~っし!、みんなご飯、食べ終わったね?、では、出発!」
場所は戻って、翼域とハクキの境付近で休憩を取っていた使節団の一行は、護衛団長であるハルの号令で再び、ツツキへの歩を進めた…
この日――使節団、いや……それに同行した刀聖は、無事に翼域から、ツツキへの経由先であるハクキ連邦へと国境を越えた。
この事は、後に『刀聖離翼』――つまり、刀聖が、不穏な雰囲気が渦巻く、コウオウを含めた翼域内から離れた日という、ツクモの歴史の分岐点として語り継がれる事となる。
「――準備の進み具合、どうなんだぁ?」
昼間っから、並々と中身が詰まったお銚子を片手に、猪口へ酒を注ぎながらそう尋ねたのは、天警五番隊長、イゾウで――
「ええ――各砦への連絡も済みましたし、"三日後の決行"には、間に合うでしょう」
――尋ねられ、質問に答えたのは、編み笠を被った天警二番隊長、ショウである。
「へへっ♪、ワクワクするねぇ♪
久方振りに、"命を削った斬り合い"が、出来そうだと思うとよ♪」
イゾウは、舌なめずりを見せ、嬉しそうに微笑み、猪口に注いだ酒を喉元へとあおる。
「私も……"積年の思い"を、いよいよ遂げられる日が来るかと思うと、血潮が沸騰しそうな心持ちですよ」
ショウは、腰に提げた刀の柄を撫で、本陣のある方向の天井を見上げる。
「――良いっスねぇ、お二人は。
俺は、もうちょっと、早くおっ始めてくれりゃあ……あんたらと一緒に、ワクワク出来たのにねぇ」
そう、不満気に口を挟んだのは――二人の間に座っている天警八番隊長、ヤヒコだ。
「あの刀聖が居る内に、"コト"に及ぼうものなら――少々どころか、かなり厄介な事となるのは目に見えていた。
実際に、竹刀を結んだキミならば、それは一番よく解っているでしょう?」
ヤヒコに、そう釘を刺したのは、彼の目の前に座る天警七番隊長、ルイである。
つまり――この居酒屋のテーブルには、参勤や使節団の護衛のため、テンラクを離れた3名――更に、一番隊長ジョウケイを除き、天警士団の隊長級が、4人揃っているのだ。
ちなみに――丁度、昼食時、いわゆるランチ営業の真っ只中のはずだが、暖簾は仕舞われたままで、入り口には『準備中』の札がぶら下がっている。
「わっ、解らないワケじゃねぇけどよぉ……ルイさん辺りと俺が組めば、少なくとも、刀聖の足止めぐらいなら、出来たんじゃねぇっスか?」
ヤヒコは、テーブルを叩き、ルイに反論する。
「――ざぁ~んねんっ!
僕は、"軍師役"として、全体の進み具合をも、注視していなきゃならない立場だからね。
キミを援護して、刀聖を相手に取る様な余裕は無いよ」
ヤヒコの反論を、ルイはあっさりと否定した。
「俺の他に……"計画"へ賛同してくれる他の隊長、居なかったんっスかぁ?」
あっさりと否定されても、諦めきれないヤヒコは、そう食い下がって見せた。
「"ジョウケイとヨシノブ"は、無二の親友同士――で、二人は"現在の士団"の象徴とも言える存在……」
ショウは、年長の彼らを呼び捨てにし、苦虫を噛んだ様に険しい表情を見せ、軽く歯軋りをする。
「ヒロシさんも――軽そうには見える風体と態度だが、士団とクリ社への忠義の厚さは……見てりゃ解んだろ?」
イゾウもそう言って、串に刺さったつまみを毟り取る様に食べ、串をヤヒコの鼻先に向ける。
「ミスズさんも――相当な堅物女性ですから、彼女に事を漏らそうモノなら、計画自体が危うくなるでしょうし、ハルちゃんだって、意外と潔癖なトコロを感じますからね。
――というか、キミを誘った事が、そもそもイレギュラーなんですよ?」
ルイは、腕組みをして、ショウとイゾウの言葉に、うんうんと頷きながら補足した。
「じゃあ――俺は、もし、この"謀反"に誘われなかったら、誰かに殺される役だった――てぇワケ?」
三人からの指摘に、自分の別の未来を考察して、ヤヒコは身震いをする。
そう――ここでようやく、彼らの思惑が明らかにされた。
ココで話されているのは、天警士団4隊に因る――聖地であるテンラクの占拠を目的とした、クーデター計画である!
「ふふ♪、そうなりますね。
キミの相手は、私の担当でした――でも、若輩とはいえ、キミも隊長級の一人。
易々とは行かないと思っていたトコロに、丁度、あの刀聖とキミの手合わせ――結果、団長に対して遺恨を抱える事となった今のキミなら、ココに至って反旗を掲げるという、僕たちの考えを理解出来ると思ったんですよ」
ルイは淡々と、計画に誘った経緯をヤヒコに明かす。
「けっ!、この若造が堕ちたのは、んな大層な理屈じゃなくて――謀反が上手く行きゃあ、あの大神官を"モノ"に出来るかもしれねぇっていう、助平な動機に決まってんじゃねぇか」
イゾウは、ガブガブと酒をあおり、ニヤっと笑ってヤヒコを見る。
「まぁ――自分の、"欲"のために戦うってのは、カミサマだって言ってるとおり、ヒトも獣の類なんだから、その方が真っ当なんだよ。
俺だって、この謀反に加わったのは、気兼ねなく斬り合いを楽しめそうだからだしな、おめぇだって――動機は金だろうよ?、ルイ」
イゾウは猪口を置いて、上目遣いにルイを見据えた。
「やれやれ――折角、格好を着けているというのに……キミの粗暴さには負けますよ、イゾウさん。
ええ、確かに私の目的は、この計画を私たちに持ちかけた……」
「――あいよっ!、お銚子、もう一本ね」
――と、ルイが何かを言い掛けたトコロに、店の大将が割って入った。
「――からの、莫大な成功報酬の分け前ですよ」
ルイは、イヤらしい笑みを見せ、無言のまま、この計画におけるリーダー格と思しき、ショウを見詰める。
「私は、あのヨシノブへの積年の怨みを晴らす事――そして、天警士団に改革の鐘を鳴らし、士団員たちを、自由と解放の春へと導く事が、私の望み……」
ショウは力強く拳を握り、ワナワナと震えながら、彼も酒を一口呑んだ。
「――確かに、シオリさんに惚れてる事が、俺の望みじゃねぇと言えば嘘になる――でも、それは、ショウさんが言う様な"新しい士団"になれば、シオリさんの事を、高嶺の花として諦めるだけじゃあなくなるかもしれねぇ。
そんな言葉に、共感したからで、シオリさんとヤッ!、ヤリたいとか、そういう助平な動機じゃあねぇ!」
ヤヒコは赤面しながら、自分の動機をそう表した。
「――では、互いの動機を明かしたトコロで、丁度、新しい酒が来た事ですし、決起前の景気付けとして、四人で乾杯と参りましょう。
では、音頭は、僭越ながら私が――」
ルイは、スッと猪口を掲げ、残りの三人の顔を見渡し――
「――己が、欲のために!」
――という、音頭を取った。
「――己が、欲のために!」
「――己がぁ、欲のためにぃ!」
「己が――欲のために!」
順に、ショウ、イゾウ、ヤヒコは、ルイに習ってそう叫び、互いに盃をぶつけ合った。
その声を背中で聞く、店の大将の側に置かれた酒樽には――北コクエの国守、ヒコザが以前まで頭領を務めていた、"ニシイ商会"の紋が刻まれていた。
場所は、更に変わって、オウクの市街。
街は、何やら賑やかで、多くの人がせっせと買い物に勤しんでいる様である。
「――ふぅ、着いたねぇ」
その喧騒の中に紛れ、旅装束の猫族の女――コケツ衆のスズは、不敵な笑みを浮かべ、街頭を見渡す。
(まずは――先に入ってるっていう、南コクエの暗衆ってのと合流して、ターゲットが、どんなヤツなのかを、確認しないとね)
スズは、羽織りに積もった砂埃を払いながら、そんな段取りを心中で確認し――
「――さぁ、ココで、一仕事だね」
――と、言葉にもして、とぼとぼと街中に消えて行った。
「――よぉ~っし!、みんなご飯、食べ終わったね?、では、出発!」
場所は戻って、翼域とハクキの境付近で休憩を取っていた使節団の一行は、護衛団長であるハルの号令で再び、ツツキへの歩を進めた…
この日――使節団、いや……それに同行した刀聖は、無事に翼域から、ツツキへの経由先であるハクキ連邦へと国境を越えた。
この事は、後に『刀聖離翼』――つまり、刀聖が、不穏な雰囲気が渦巻く、コウオウを含めた翼域内から離れた日という、ツクモの歴史の分岐点として語り継がれる事となる。
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