流れ者のソウタ

緋野 真人

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果ての地に集う

奇襲

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(ん?、関所が――騒がしいな?)

関所の門よりも樹海の奥――獣道を歩む黒ずくめの人物が、急に開いた関所の門の様子を、訝しげに眺めている。


その人物の片手には――先程、ゴサクの部屋にあった空の酒瓶と、同じ陶器がぶら提げられている。

その様子から感じる重さから、この人物が持つ陶器には、満々と酒が入っている様だ。


(この、門より向こうの人の気配の数――大店の商団に匹敵するモノだな?)

黒ずくめの人物は歩みを止め、そんな詮索までもしながら、門を凝視する。

(!!!!!、あっ、あれはぁっ?!)

凝視していた門から、真っ先に現われたソウタの顔を見て――黒ずくめの人物は、ワナワナと全身を震わせ、微かな足音だけを残して、樹海の中に消えた。



「通行手形――確認させて頂きました。

どうぞ、お通りください」

シオリから渡された手形を、見確かめたゴサクは、深々と頭を下げて彼女に手形を返す。


「ありがとうございます。

お勤め――ご苦労様でした」

手形を受け取ったシオリは、嫋やかに微笑み、ゴサクに会釈をする。

「じゃあな、おっさん」

その先に控えるソウタは、ゴサクに向けて手を振り、そんな彼を先頭に査察団の面々は、続々と門を通って行った。



「ふぃ~っ!、緊張したわい……そろそろ査察団が来る事は、すっかり失念しておったわ」

ゴサクが、解かれた緊張を噛み締め、ふいと小屋の入り口へと振り返ると――

「――ん?、こいつは……」

――入り口の前に、見慣れた酒瓶が置かれていた。


「!?、中身が……入っておる!」

酒瓶を持ち上げたゴサクは、何者かの来訪があった事に気付く。

「――というコトは、査察団の対処の合間に、"アオイ"でもが持って来ておったのか?

まったく、無愛想な娘じゃてぇ……せっかく、幼馴染ソウタが帰って来たのだから、顔ぐらい見せてやれば良かったものを」

ゴサクは、来訪者の正体にそんな検討を着け、呆れた様な苦笑いを樹海の獣道に向けた。



「――ねぇ、ソウタ殿?」

樹海の中を進む中、ソウタとおもむろに馬首を並べて来たハルは――

「――樹海ココって、"ヤバい獣"とか、沢山居るんでしょ?、旅人を襲う的な……」

――と、ニヤニヤと楽しげに話し掛けて来た。

「――まあな。

"人の頭ぐらいなら、一噛み出来る虎"とか、"爪の一振りで、人の胴腹を裂いちまう熊"とか、極め付けにヤバいのは"八つ首の大蛇"――って、何でそんな物騒なハナシを、目を輝かせて、ワクワク感を出しながら尋ねてんだよ?」

ソウタの言うとおり、ハルは興奮気味に前へと身を乗り出し、興味深々でソウタの話しを聞いている。

「後ろに乗ってる大神官様なんて、ブルブル震えながら青ざめてるじゃねぇか……大神官様、大丈夫ですか?」

そう言うと、ソウタは手を伸ばし、シオリの頭に手を置いて慰めようとする。

「!、いっ、いえっ!、大丈夫ですから、お気になさらず……」

ソウタの気遣いに、シオリは頬を赤らめながら俯く。


――パキッ!

――と、その時……ほとんどの人が気付かない程度に、微かな枝を踏む様な音が響いた。


その『ほとんどの人』に入らない程度に、武人の性として敏感な感性を持つハルが――

「……いえね?、さっきから"殺気"――いや、決して洒落じゃあないよ?

それを、微かに感じるからさぁ……コレ、その手の獣かと思ってね」

――と、今の微かな音と共に表情を変え、険しい面持ちで辺りを警戒する。

「ああ、それは俺も解ってるけど……それが何で、楽しそうな顔に繋がるんだよ?」

ソウタは、アッサリと簡単にそう応えると、ハルの場違いな態度を正す体で尋ねた。

「そりゃあ護衛団あたしたちは、そーいう獣から使節団を護るために付いて来てるんだし、武人としては、そんな怪物だらけの獣を相手に、自分がどれだけ戦えるかのキョーミもあるんだよ」

ハルは、ソウタの尋ねにニコっと笑って、腰の刀を鳴らして勇ましい素振りを見せた。

「樹海の獣だって、やみくもに襲い掛かるような阿呆じゃあねぇ――この大人数を襲おうとするヤツなんてほとんど居ねぇよ、数を利した返り討ちを怖がってな。

この微かな気配は――多分、"俺に用があるヤツ"だよ」

――と、ソウタは不敵な笑みをして、先程の微かな音がした方を見る。

「そりゃあ、気になるよなぁ……解った。

先に行って、ちょいと"俺への用事を"済ませてくるかね――はっ!」

ソウタは、テンの横腹を蹴り、先駆けを命じた。


(!)

そのソウタの動きに応じる様に、"微かな気配の主"も、先駆けした彼を追い始める。


「あっ!、ちょっとぉっ!、それズルいっ!、シオリ姉様!、アタシたちも行くよっ!、はあっ!」

その両者の動きを察したハルも、一応、便乗者のシオリに断わってから、鞍下に命じて早駆けをさせる。

「たっ、隊長っ!?」

「あっ、皆は来なくて良いっ!、丁度良いから、この辺で休憩させといてぇ~っ!」

驚く使節団の面々に、ハルは遠ざかりながら休憩を告げ、愛馬の手綱をしごき始めた。




「――おいっ!、俺一人になったぞっ!、出て来りゃあ良いっ!」

先駆けし、比較的切り開かれている場所へと着いたソウタは、下馬をして辺りに響く声でそう呼ばわった。


「ソウタ殿ぉっ!、一体誰を、どんな了見で呼ばわっているのですっ?!」

――が、応じて声をかけて来たのは、追って来たハルと――

「ソッ、ソウタ様……突然、どうなされたのですか?」

――彼女の鞍の後ろに便乗しているシオリだった。


「ありゃ?、付いて来ちまったか……ちょいと危ないコトになるだろうから、一人で出たんだが」

二人の姿を視認したソウタは、顔をしかめ、苦虫を噛んだ様な顔をする


「それ以上は、俺に近付かない方が賢明だ――良いね?」


遠目に、そう告げたソウタの一言を聞いた瞬間、ハルの背筋にはザワッとした強烈な悪寒が奔った。

「――いえっ!、訳をお話しくださいっ!」

そんなハルの反応に気付かないシオリは、納得出来ずに食い下がるが――ハルが、手を拡げて彼女を制する。

「……ハルちゃん?」

「姉様――ここは控えてください。

刀聖様……ちょっと本気マジだわ」

こめかみに冷や汗を垂らし、引き攣った顔でそう言った、ハルの言葉が放つ緊張感を、シオリも流石に察して、そのまま押し黙った。


「よし、ふう――」

ソウタは黙った二人に笑顔を送ると、一息吐いて、ゆったりと抜刀した。


獣道を占める、鬱蒼とした雑草がざわめく音だけが響き――同時に、張り詰めた空気が辺りを支配する。


その刹那、一本の大木の太い枝から、何か――いや、"誰か"が飛び降りて来たっ!

その"誰か"は、ソウタと一合、刃を交えると――そのまま、押し込む体で地面へと降り立った。


ソウタに斬りかかって来たのは、黒ずくめの装束を纏った人物――持った武器えものは、小太刀である。


「へへっ♪、当ったりぃ!、だねっ!」

ソウタは、小太刀の刃を見ると、ニヤッと笑って黒装束の者の隠れた顔を覗き、対する黒装束は、それを許すまじと、競り合いを一旦打ち払い、下がって距離を取った。


「!、ソウタ殿ぉっ!」

「とっ!、刀聖様ぁっ!」

緊迫した斬り合いを目の当たりにした、ハルは思わず自分も抜刀して構えを取り、シオリは口を抑え、震えながらソウタの身を案じる


「へへ――お前も、三年ぐらいじゃ変わってねぇなぁ?、相変らずの"忍んで奇襲"かよ」

「……」

懐かしそうに語り掛けるソウタを無視する様に、黒装束は黙ったまま構えを継続し――続いて、まるで消える様な凄まじいスピードで駆け出し、再度ソウタに斬りかかるっ!

"速いだけ"ではないと感じ取れる、刃を交わす度の重い音が幾合も響き、そんな強烈な斬撃を受け流しながら、ソウタは臆する事無く、黒装束と相対した。


その激突が、更に数合続いた後、今度は黒装束が一歩退き――

「――抜け」

――と、その一言だけをソウタに告げた。


その"高めな声音"を聞いて、黒装束の正体が女である事を、戦いを見守る事しか許されていない、ハルとシオリ――二人の観戦者は気付いた。


「それとも――"今度は"、光刃を抜くに至る相手ではないと、"また私を辱める"か?」

黒装束の女は、続けてそう言い、微かに覗いた口から歯軋りを鳴らす。

「おいおい!、"辱める"とか、その言い方ぁ!

ヘンな誤解を招くだろうが――ちっ!、わーったよぉっ!」

ソウタは、苛立ち混じりに光の刀を抜き、軽く樹海の雑草を薙いだ。


「!?」

「!!!!」

二人の観戦者は、初めて目にした光刃の輝きに息を呑み――

「――ふんっ!、お前が光刃を継承し、この地を発ってから三年――ようやく見れたか、この眼で!」

――黒装束の女は、ゆっくりと頭巾を外し、その目鼻立ちがハッキリとした、美麗な部類の顔を晒して、不敵な笑みを浮べる。


黒装束の美女は、小太刀を低く構え、次の一撃へとジリジリ前へ出る。


(肉眼に写るほどの界気を、刃に込めてるっ!、それにあの目――っ!)

黒装束の女の動きを見やるハルは、彼女が放つ、ソウタへの強烈な殺気を感じて息を呑む。


黒装束の女は、ソウタの方へと一気に駆け出し、その道すがら、無数の手裏剣状の暗器を前方に放るっ!


「ちぃっ!」

ソウタは、飛んで来た暗器を光の刀の波動で払い除け、駆けて来る黒装束を迎え撃つ体勢に入るっ!


その時――打ち払われたはずの暗器が、ソウタを取り囲む様に宙に留まり出した!

その暗器の周りには、糸状の界気が薄っすらと見え――それは、放られた暗器をコントロールしているモノと思って間違いではない!


(とっ!、飛び道具の遠隔操作ぁっ?!、なんつー高難度な界気戦法っ!)

その様を見たハルは、驚愕の表情で目を見張り、嗚咽でも覚えた体で震えながら口を覆った。


「へへ♪、相変らず容赦ねぇな……帰って来た"幼馴染"を、早々に殺る気満々かよっ!」

四方八方から迫る暗器と、それに合わせる様に突っ込んで来る黒装束女に対し、ソウタは半笑いを覗かせながらそう言う。

「"常在戦場"こそが、我ら御傍衆おそばしゅうが心構えっ!

それに――殺す気でなければ、お前とは勝負にならんっ!」

黒装束女は、小太刀を逆手に持ち替え、下段へと低く構えると、大きく捻りを入れて小太刀を振り被るっ!


操作された暗器と女の斬撃が同時に、一斉に、ソウタへと迫るっ!


「!!!!」

その様を観たシオリは、声に鳴らない悲鳴と共に、思わず両手で目を覆い――

「――ぐっ!」

――ハルは、顔を引き攣らせ、拳を握って力んだ。


四方八方からの攻撃がソウタへ命中しようとしたその瞬間――ソウタの全身が、陽炎の様に鈍く揺らいだっ!


「――っ!?」

「?!」

その瞬間を、自らの眼に刻んでいた黒装束女とハルは……困惑と驚きに満ちた表情で息を呑む。

「!?」

「――っ?!」

そこに――聞き覚えたばかりの、光刃の閃きが震える音が空虚に響き、黒装束女は踵を返し、ハルは目線を彼女の後方へと移す。


「ふんっ――これで、また俺の一本かちだよな?、"アオイ"?」

"アオイ"と、名を呼ばれた黒装束女の咽元には――光刃の先端が突きつけられており、ソウタは既に、アオイとやらの背後に周っていたのだ。

「くっ!」

突きつけられた光刃の畏怖に気圧される体で、アオイは脱力し、小太刀も暗器も地面へと捨て落とした。
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