流れ者のソウタ

緋野 真人

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樹海のヌシ

猫と狼と"少女"

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 その頃、チヨが言った、"猫と狼"は――

「ふわぁ……一体、いつになったら、ソウタと"凄い美人"が向かったっていう、ツツキってトコに着くんだよぉ~~~~っ!?」

「ふぅ――こうにも、日が見えない程の高い木々に覆われていては、方角が掴めんな……」

 ――"猫"こと、タマは大声で愚痴を喚き、"狼"こと、ギンは渋い表情で樹海の木々たちを見上げていた。


 テンラクから上手く脱出したタマとギンは、ツツキに向かったというソウタを追うため、そして――大神官シオリに紫珠輪を渡すという、ハヤトからの頼みを果たすため、翼域を北上した。

 二人はその後、翼域の北端である樹海との境――聖狭間を超え、今の苦境へと至っていた。


 ツツキへと至るには、大まかに2つのルートがある。


 一つは、使節団が通った、ハクキ連邦を経由する道程。

 これは、かなりの遠回りとはなるが、樹海内を進むのがせいぜい1日で済む事と、その分だけ、獰猛な獣たちと出くわす可能性が和らぎ、ソウタ曰くの獣の『ヤバさ』の面でも、対処に足りる獣が多い。

 言ってみれば『安全ルート』がコチラである。

 対して、翼域から直接、樹海に踏み入る形となる、タマたちが選んだ道程は――ツツキへの総距離こそは、四分の一程まで破格に短縮出来るが、樹海を突っ切って行くには、道程のほとんどを樹海内を進む事になる。

 その分だけ、獣に襲われるリスクは跳ね上がり、『ヤバさ』の面でも、オロチの様な凶悪な獣が多く生息する南部を通らなければならないため、フツ-なら通るべき道ではない。

 好んで、南部ルートへと踏み入るのは――自殺志願者ぐらいだというのが、もっぱらの定説なのである。


「う~っ!、早く着かなきゃダメだから、コッチを選んだのに、この森に入って、今日で『多分』三日目だよぉ~?

 距離的には、もう森を抜けてなきゃダメじゃんっ!、どぉ~なってるのよぉ~っ!」

 タマは地団駄を踏み、旅装束の袖を悔しげに噛む。

「完全に、迷ったな。

 場所や気候が違うとはいえ――同じく森に生きる狩人の一人として、森に惑わされるとは情けない……」

 いつもなら、冷静沈着なギンも、珍しく悔しげにうな垂れる。


 その猫と狼を、背後から見やる体で――

「――しょうがないでしょ?

 私たちでは、ハクキ連邦への通行手形は手に入れられないんですから、大変でもヤバくても、コッチを通るしかないって、話し合ったじゃないですかぁ~!?」

 ――と、そう二人に言う、幼さが混じる声がした。



「――あっ!」

「?、どうしました?、オオカミ様――じゃなくて、チヨ先生」

 クバシ城の一室で、アヤコと昼食を共にしていたチヨは、何かを思い出した様に、そう強めに呟いた。


 傀儡の類ではあっても、チヨも食事はする。

 その理由は、もちろん栄養の取得ではなく、なるべく人を模して行動する事で、周囲に溶け込むためのフェイクに過ぎないが。


「いえ、猫と狼の他に――"可愛い同行者"が居る事を、ソウタに伝え忘れた事を思い出したのですよ……うふ♪」

 チヨは、恥ずかしそうに鼻の頭を掻きながら――

「その、ソウタもよく知る娘が、貴女が言い当てた伝達者なので」

 ――と、彼女らしい妖艶で不敵な笑みを見せた。



「うう……ミユ~っ!

 愚痴ぐらいは、溢させてよぉ~!、それはアタシたちも解ってるんだからぁ~!」

「くぅ……旅慣れないミユに、それを言われては立つ瀬が無いな」

 猫と狼は悔しげに、うな垂れて溜め息を吐く。

「もう、落ち込むヒマがあるなら、歩いてください!

 早く――早く、大神官様に事変をお伝えしないと……」

 タマたちの同行者――旅装束を着たミユは、頬を膨らませながら、黙々と二人の前へと出る。


 そう――幼さが混じる声の主も、チヨが含みを覗かせた同行者も……正体は、このミユだ。

 タマたちは、テンラクから脱出する際、荷を預けていた御船下孤児院に立ち寄り、ユリの死とハヤトからの頼み事の仔細を伝え――

「――俺たちを匿っていた事が、謀反方に知れれば……孤児院ココに居るのは危ういだろう。

 子供たちを連れて、どこかに逃げるのが得策だ」

 ――と、ギンは孤児院の放棄を提案した。


「いえ――幼子が居るココに対して、いくらなんでも無下な仕打ちはしないでしょう。

 あなた達には失礼だけど、強要されていた事にでもしておくわ」

 フジは、ギンの提案を固辞し、子供たちと共に孤児院に残る旨を表した。


 しかし――

「――なら、私は、一緒にツツキへ連れて行ってもらえませんか?」

 ――と、ミユが二人の前に立ち塞がり、同行を懇願したっ!

「大巫女様が自害されたとなれば、昨日――大巫女様を訪ねた私が、経緯を知っているかと思って、孤児院への突き上げも厳しくなるだろうし、私は大神官付き見習い仕女として、私の目で見たこの事変の様子を、大神官様に包み隠さず、お伝えする義務があると思うんです」

 ミユは、そう旅立ちの決意と、同行を願う理由を語り、流石に同行には躊躇した二人を説得――こうして、ミユはタマたちに同行して、この世断ちの樹海へと踏み入っていた。


「とりあえず、ツツキに近付いているのは間違いないですよ。

 確かに『樹海見分録』では、三日掛かって一旦、ツツキの端の方に抜けたとありますけど――私たちは、獣に襲われるのもしばしばでしたから、その半分ぐらいしか進めていないはず。

 愚痴を溢すのは、まだ早いですよ」

 ミユは、分厚い書物を片手に持ち、その表紙を叩いて二人に見せた。


『樹海見分録』とは、過去に天警士団六番隊が、樹海を探査した際に記した冒険録である。

 使節団の旅程も、コレを参考に決められている。


「ふ~ん……"ソレ"を、ミユが言うんだ?、

 茂みに潜んでた、大きな虎の尻尾を踏んで怒らせたり、熊が集めてた木の実を知らずに食べて怒らせたりして、襲われる理由を作ってたのは……誰だったっけぇ~?」

 ミユの偉そうな指摘に、タマはこめかみを震わせながら頷くと、皮肉っぽくそう言ってミユを睨んだ。

「あっ、あれはぁ……急いで道を掻き分けたり、美味しそうに見えて、思わず手が伸びちゃったり……」

 ミユは、急にしどろもどろになり、バツ悪そうに冷や汗を掻く。

「その度に、アタシたちは戦うハメだったんだよぉ~?

 愚痴ぐらい、言っても良いんじゃないかなぁ?」

「はい、すいません……戦ってくれてる、お二人にはとっても感謝しています」

 ミユは、今後はシュンとなり、うな垂れて二人に頭を下げる。


「それにしても――ココの獣の強さには、骨が折れたな」

 ギンは辺りを見まわし、渋い表情を浮べた。

「あの虎などは、矢が数本刺さっても、お構いなしの俊敏さと体力だった」

「うん――あの熊も、凄い怪力で、投げ飛ばして、お腹に正拳を見舞っても、それだけじゃ倒せなかった。

 まあ、手に負えない程じゃなかったけど……っ!?」

 二人が、獣との戦闘を振り返っていた……その時、三人の周りの茂みが急にざわめき、その音とその場に漂いだした、強烈に不穏な気配に――タマとギンは顔色を一変させた。
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