流れ者のソウタ

緋野 真人

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仁義

集結

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「う~……気持ち、悪ぅい……」

 抜ける様な青空の下、タマは天気とは裏腹な蒼い顔をして、口を抑えながら俯いた。

「もう、ツツキを発って五日だぞ?、ほとんどの者が、この独特な揺れにも慣れたというのに――お前だけは、相変らずだな」

 苦しむタマの背中を擦るギンは、呆れた物越しその姿を見やり、小さな溜め息を吐いた。


 ここは、風聖丸の甲板の上――だが、辺りには港の風景は見えず、代わりに拡がっているのは、遠くに水平線を称えた大海原の波打つ海面である。

 そう、ギンの言葉にあった様に、ツツキからは既に発ち、海へと出た航行中の風聖丸の上だ。


「ううっ……アタシ、決めたよ。

 もう、この『船』って、乗り物にはぁ……ぜったぁい乗らないって」

 その風聖丸に便乗した挙句、船酔いに悩まされているタマは、弱々しく拳を握って、そんな決意を表明する。

「今日中には、目的地であるオウビに着くという話だ、もう少し我慢しろ」

 ギンは、また小さく溜め息を吐き、背中を擦る間隔を早めてやった。

「ホントに着くのかなぁ?

 ツツキで乗り込んでから、ずぅ~っと海の上を、ユラユラ、ユラユラ気持ち悪く揺れてるだけだよ?

 何だか、ソウタに騙された気が――おぇ~~っ!」

 タマはついに、我慢の緒が切れ、海面へと――いや、この先を語るのは止めておこう。


「ははは、武勇で鳴らすコケツ衆の若人にも、意外な弱点があったモノだな」

 そう、苦しむタマに向けて軽口を叩いたのは、側で見ていたらしいヨシゾウである。

「ううっ、朝ごはんが出ちゃったよぉ……って、おじさんっ!、苦しんでるアタシを、ネタにして笑ってぇっ!、ホント、ムカツ――あっ、ヤバ……」

 興奮気味にヨシゾウへ抗議をするタマだったが、更なる嘔吐感に襲われ、また……

「ははは、すまない――そんなつもりで観ていたワケではなかったのだがな」

 ヨシゾウはそう言うと、タマの背中を擦る役を買って出て、替わったギンは、船外に身を寄り出している、彼女の小柄な体躯を支える。

 ここまで語っておいて愚問ではあるが、ヨシゾウもタマたちと同じく、ツツキの港から乗り込み、彼にとっては取って返す形で、オウビへと再度向かっていた。


 ではそろそろ、愚問ついでに何故、この三人――いや、タツゴロウとの乗船交渉の際、"諸々、ざっと十人ぐらいのメンツ"と、ソウタが言った様に、甲板上をよく見ると姿がチラホラと見える――ソウタやシオリ以外に、この航海へと連れ立って乗り込んだ、知った顔の者たちが乗船に至った経緯を語っておこう。


 まず――今、タツゴロウと話し込んでいる、シオリの側に立っている女性、これはハルだ。


「――護衛団長であるアタシが、姉様に付いて行くのはトーゼンでしょ!?」

 ――と、今回のオウビ行きを、査察団の皆に知らせた際、同行者の選抜へ真っ先に手を挙げたのは、彼女であった。


 続いて――舳先側の一角に座り、鼻歌を鳴らしながら、何やら帳面に日記の類を記している女性、これは全報記者のハナである。


「御神具継承の占報をするのなら、報道に携わる全報記者のアタシがいた方が、良くありません?」

 彼女も、ハルと同様に拙速手を挙げ、意味深に写る笑みを称えながら同行を申し出た。


 次に、帆の下で、潜む様に甲板上を注視している男女――これは、アオイとショウゾウ、御傍衆の二人である。


「!?、御傍衆われらからも、ソウタたちと同行させる者を出せと?」

 アヤコの私室に呼ばれ、その指示を聞いたアオイは驚きを隠せず、鸚鵡返しにアヤコの命を反復した。

「ええ、ツツキわれわれからも、助力を出す旨を大神官様へ願い出た際――ソウタから、ならば小回りが効く、御傍衆の力を借りられれば、ありがたいのではと言われたのです」

 アヤコが、驚くアオイの姿を見やりながら、彼女の返答を待っていると――

「――では、頭領の私が、自ら赴きます。

 お許しを……頂けますでしょうか?」

 ――と、彼女は嬉しそうな笑みを微か覗かせ、アヤコの命を受諾した。


(あのソウタスケコマシを、不埒な遊郭が軒を連ねているという、オウビの様なトコロにっ!、一人で戻させてはならんっ!

 そっ、それにぃ……ソウタと旅が出来る機会など、なかなか無い事ゆえな……)

 潜んでいる様な面持ちで、船上に居るアオイだが――内心の士気(※別の意味での)は、かなり高い様だ。

 ちなみに――残るショウゾウの参加は、暗衆としての腕を買った、ソウタの指名の結果である。


 そのアオイの熱っぽい視線の先に居るソウタに、あれやこれやと世話を焼こうとしている女――これはヒカリだ。


「えっ!?、私も……ですか?」

「そうよ、貴女はソウタを除けば、このツツキにおける"最強戦力"と言っても良い程の界気使い。

 この世界規模の一大事に、翼域の一領主として関わる以上、戦力の出し惜しみをした助力をしては、次世大巫女様に非礼でしょう?

 それに――あなたにとっては、せっかく"イロイロな事情を持つ”、ソウタと再会出来たというのに、これで再度の別れでは……可哀想かと思いますしね♪」

 ――と、からかう様な尾ひれも付いたが、ヒカリも"ツツキ代表"として、オウビへと赴く事となった。


「ほら、ソウちゃんっ!、港に着いたら直ぐ、街の偉い人と会うんでしょ?、

 着物を替えないと、失礼になっちゃうっ!」

 ラフな恰好をしているソウタに、船室へと促して着替えを迫る様などは、以前アオイが"もはや、夫婦めおとと同様"と言っていたが、そんな言葉どおりな風景が展開されていた。


 さて、いよいよ先に登場していた三人――まずは、ヨシゾウの経緯を語ろう。


「私を――で、ございますか?」

「ええ、取って返させる様で、申し訳ないのだけれど――助力を願いたいのです」

 急なオウビへの送還を、アヤコに願われたヨシゾウは、困惑気味に怪訝とした表情を浮べた。

「御傍のショウゾウから聞きました――貴方はかつて、コクエに潜んでいたスヨウの暗衆であったと。

 しかも、若くして一線を退いたのが惜しい程、達者と評判な腕の持ち主――"袖下のヨシゾウ"という異名で知られていたとも」

 アヤコは、含み笑いを覗かせながら、彼が常に暗器を隠しているという、着物の袖の下を見やる。

「響きの悪い、通り名ではありましたが――『ハクキの隠牙いんが』殿に、知られていたのは光栄ですな」

 ヨシゾウは、バツが悪そうにアヤコから目を逸らし、渋い表情を浮べた。


 彼が言う『ハクキの隠牙』とは――暗衆界隈でのショウゾウの通り名である。

 ショウゾウは、そんな異名が界隈に轟いている程、旧ハクキが秘める凄腕の暗衆として、各国暗衆を震え上がらせていた、傑出した実力者なのである。


「――ソウタからの要請を請けて、そのショウゾウも同行する事が決まったのですが……そのショウゾウが是非、貴方もと申しますので、承知いただけませんか?」

 嫋やかな笑みを見せ、同意の証として握手を求めるアヤコに、ヨシゾウは――

「あのショウゾウ殿からの指名と成れば、それもまた、刀聖様の意を察しての事なのでしょう。

 解かりました――"昔取った何とやら"でもよろしければ、同行をお引き受け致しましょう」

 ――と、そんな意味深な言葉も沿えながら、平伏して依頼を受諾した。


 最後に、タマとギンの亜人種コンビの経緯――これは、有志隊に参加した時と同じく、ソウタの勧誘染みた要請だったのだが――

「――きぃ~~~~っ!、ソウタがグズグズしてるからっ!、サトコたちが負けちゃったじゃないっ!!!!!!」

 ――と、それはタツゴロウとの交渉の帰路、ソウタの姿を視認したタマが、午前に観たコウオウの敗戦を告げるサトコの占報を観て、怒り狂っている彼女が食って掛かって来た時だった。

「――早くっ!、オウクに帰って、サトコたちを助けに行かないとっ!

 ……えっ?、オウビまで、早く着ける『船』っていう乗り物がある?、よしっ!、アタシとギンも乗るよっ!」

 ――と、ギンにもソウタにも、タマが相談ナシに、問答無用で乗船を決め、無理矢理付いて来たのである。


「――では、船頭殿、よしなにお願い致します」

 タツゴロウと話し込んでいたシオリが話を終え、踵を返してみると――後ろに控えていたハルが、何やら甲板上の面々を見渡していた。

「?、ハルちゃん?、どうかしました?」

 黙ったまま、何とも言い難い表情で居るハルに、シオリは不思議そうに尋ねた。

「いえ……こうして、ざっと見てると、凄いメンツだなって、思いましてね……」

 ハルは、苦笑いを見せながらそう言うと、指折り数える体で――

「――アタシが見た、遠隔飛び道具使いの御傍頭領、氷結界気を使える侍女……それに加えて、コウオウ戦役勲金等二人に、"ハクキの隠牙"や元スヨウの凄腕暗衆も居て……トドメとばかり、それらを選り集めたのは、武の象徴たる刀聖様……」

 ――と、指を折りながら、言葉と相応する顔を順に見渡し、先程までの解説染みた語りを知ってか知らずか、端的に顔触れを並べる。

「あっ――ある意味、この人数でも既に"士団一隊分を悠に凌ぐ戦力"と言える……ソウタさんは、翼域にこんな"とんでもない"戦力を連れて戻って、一体、ナニをする気なのよぉ……」

 ハルは、こめかみに冷や汗を垂らし、蒼ざめた表情をして、眼前に揃った面々を見やった。
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