流れ者のソウタ

緋野 真人

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仁義

帰港

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「――やったぁぁぁっ~!、久し振りの陸地だよぉぉぉぉぉ~っ!」

 風聖丸が、オウビの港へと接岸し、桟橋へと梯子を垂らした否や、タマは飛び降りる体で桟橋へと渡り――

「床が揺れていないのって、凄く良い事だよぉぉぉ~っ!」

 ――そう叫び、終いには地面に頬ずりまでして、タマは到着を喜んでいた。


「――さぁて、着きましたぜ」

「ええ、船長殿、お世話になりました」

 相変らず賑わっている、オウビの港を眼下に捉え、接岸した旨を告げるタツゴロウに、シオリは深々と礼をして、彼に感謝の意を表する。


「おぉ~いっ!、タツさぁ~んっ!」

 ――そう聞こえる、タツゴロウを呼んでいるらしい声の主は、ヨクセ商会の法被を着た馬上のトウベイだった。

「――どうしたぁ~っ?!、まだ、帰って来る時期じゃ……んんっ?!」

 予定どおりならば、まだハクキの各港を巡っているはずである、風聖丸の突然の帰港に、トウベイは顔をしかめて馬を駆っていたが、地面に寝そべっている、猫族らしい亜人種の少女の姿を見やり――

「――おっ!、おタマちゃん?!」

「あっ!、おじさんだぁっ!、おぉ~いっ!」

 意外な場所に居る知った顔に、トウベイは心底驚き、タマは恩人との再会にはしゃいで跳び回る。

「お~いっ!、トウベイさぁ~んっ!、帰って来たぜぇ~っ!」

「!?、船の上にソウタぁ?!、一体、何だぁこりゃあ?」

 甲板上のソウタの姿も視認したトウベイは、口をあんぐりと開けて乗っている馬に脚を止めさせる。

「――おう、トウベイっ!、ちょいと"ワケあり"となって、早く帰って来たぜ!

 その事情ってヤツを伝えてぇから、お嬢へ急ぎ、繋ぎを着けてくれるかぁ?」

 話が出来る距離まで差し掛かったトウベイに、タツゴロウはオリエへの伝達を呼ばわる。

「ちょっと待ってくれよ、タツさんっ!

 まず、俺に事情を聞かせてくれっ!、お嬢は今、街の寄り合いで忙しいんだ」

 トウベイは、困惑した表情で、小さく頭を下げて応じた。

「――解かったぁっ!、今、船から降りるぜぇっ!」

 ――

 ――――

「――なるほど、ソウタと大神官様に頼まれてか……」

 桟橋に降りた、タツゴロウたちを出迎えたトウベイは、腕組みをしながら頷き、タツゴロウの隣に控えている、ソウタとシオリの顔を見渡してみせる。

「おう、ハクキの支店には、荷を捌かずに来る事になったから……早く、お嬢とその手筈を着けたいのと……」

「――重ねてのご迷惑とはなってしまいますが、占報の送信のために、頭領様の御助力をお願いしたいのです」

 状況を咀嚼しているトウベイに向け、タツゴロウとシオリは、それぞれの補足も挙げて、トウベイの返答を待つ。


「――事情は解かった。

 だけど言ったとおり、お嬢は今朝から、街の寄り合いに出ててよ……かなり、"大事な話し合い"だって言ってたから、お嬢が戻るのは……」

「――好都合じゃねぇっスか。

 占報の送信となりゃあ、商工組合の話し合いに掛ける必要がありそうだし、その"大事な話し合い"――きっと、南コクがコウオウとなりを牛耳りそうな情勢に関してのコトでしょ?

 俺も、それについての"企み"があるから、ココに帰って来たんだしね」

 ソウタは、鋭い眼光で自分の鞘に目を落とし、ニヤっと不敵な笑みを浮べた。


(!、やっぱり――占報の件を片付けたら、そのままオウクへってコト?

 だから、タマちゃんとギンも加えて、小回りが利く暗衆絡みの顔触れとしたワケか!)

 シオリの後ろに立つハルは、ソウタの言葉と笑みの意図を感じ取り、次々と下船しているアオイたちの後ろ姿を眺めた。


「刀聖様だと知れたら、もう――"駆け出しの若造"を気取ってなくても良いってワケかぁ?、ソウタ?」

 ソウタの厳しい表情を覗いたトウベイも、不敵な笑みを浮べて彼にそう尋ねた。

「何言ってんスか、俺はまだまだ、"駆け出しの若造"でしょうよ?」

「それは、コッチのセリフだぜ。

 あの、おめぇが填めてた指環――皇様に求婚されてた証だって事を思い出した時も驚いたが、その驚きが抜けねぇ内に、お嬢から、実はおめぇが今の刀聖様だと聞かされた時は、天地が引っ繰り返った思いだったぜ」

 謙遜するソウタの姿勢に、トウベイは注文を付ける恰好で、オウクの支店で別れた後の経緯を語った。


 そのトウベイのセリフに、ビクッと鋭敏な反応を見せたのは――距離的には些か遠く、聞き及んだ程度のはずのアオイとヒカリだった。

(すっ、皇――サトコからの求婚だとぉ~~~~っ!、あっ!、あのスケコマシぃぃ~っ!)

(……そっかぁ、サトコ様がくれたっていうあの指環、そーいう意味だったんだ……)

 アオイはフルフルと拳を震わせて怒り、ヒカリは憑き物が落ちた様な表情で、嬉しそうに微笑んだ。


「とにかく――オリエさんも、街のお偉方も、寄り合いに揃ってるってコトっスね?

 シオリさん――俺が案内します、一緒に行きましょう」

 ――と、ソウタは手を差し出して頷き、シオリに行動を促した。




「――で?、何で……お前たちまで付いて来るんだよ?」

 馬上の人となり、編み笠を深く被ったソウタが、細かい花柄の頭巾姿のシオリを自分の前に座らせ、オウビの賑やかな喧騒の中を進む道すがら――ソウタがしかめた顔をして後ろを振り返ると、大名行列さながらに、後ろを追随している、同じく二人乗りの二騎、ハルが駆る馬に便乗したタマと、アオイが駆る馬に乗ったヒカリの計四人の女性に、今の状況の意図を尋ねた。

「『何で』だってぇ~~~っ?、当たり前でしょうよっ?!

 シオリと一緒に!、馬に乗って――そんな"イチャイチャした様子"を見せられたら、そのまま二人だけで行かせるワケには!、行かないでしょうがぁっ!?」

「タマの言うとおりだぁっ!、そんなそのままっ!、どこぞの宿屋にでもシケ込む様に観える、破廉恥な便乗のさせ方が悪いだろうっ?!」

 タマとアオイは、ソウタの両サイドからビシッと彼の姿を指差しし、憤怒の形相で激昂する。


「……このごちゃごちゃしたオウビじゃ、土地勘がねぇモンが固まってたら、迷子になるのが必至オチなんだよ!

 だから、シオリさんを連れて行くのは、俺一人の方が無難だって、言っただろうがよ……」

 その二人の激怒っぷりに、ソウタは呆れ気味に頭を掻き、相変らずのしかめっ面で両サイドを見渡す。

「そりゃあ――まあ、ソウタ殿が"そーいう人"じゃあないのは解かってるし、言いたいコトも解かるんですけどぉ……一応、アタシは姉様の護衛役だし♪」

 タマを乗せて追って来たハルは、言い訳地味た理由を述べてはいるが――その顔面に滲む、ニヤけて緩んだ表情を思う限り、今のソウタとシオリの様子を楽しんでいる。


 その、タマが言うところの『イチャイチャした様子』の最中に居る、シオリは――

(ソッ、ソウタ殿の吐息が、みっ、耳にぃ……それに、この背中の密着感――)

 ――などと、こーいう異性とのスキンシップに免疫が無い彼女は、その整い過ぎている顔を真っ赤に染め、目を回した様で困惑している。


「――もうっ!、ソウちゃんには、ソウちゃんの考えがあってのコトなんだよ?

 アオイちゃんもタマちゃんも、怒っちゃダメだよぉ~!」

 ――と、ただ一人、ソウタの弁護に着いたのは、アオイの背に抱き着いているヒカリだ。

「ほら!、ヒカリはよく解かって――」

「ヒカリっ!、お前は、ソウタの不埒な行動に寛容過ぎるっ!」

「そうだよぉっ!、ヒカリも一緒に怒ってよぉ~!、あの二人のヤラしい抱き合い方ぁっ!」

 ヒカリの弁護を糧に、反論に回ろうとするソウタを遮り――アオイとタマは、抗議の烈度を上げる。


 その、タマが言うトコロの『ヤラしい抱き合い方』とは、先に言った様に、シオリを鞍上の前方に跨らせ、自分ソウタがシオリの身体ごと鞍に跨り(※=シオリを股の間に挟めている形)、彼女の腰に手を回して、抱き寄せる恰好で手綱を握っている様子の事だ。


「――ったく、この体勢にしてんのには、ちゃんと意味があんだよ……ちょっと止まれ、説明してやっから」

 ――と、ソウタは手綱を引いてテンに脚を止めさせ、後ろの二騎にも手を差し出して歩みを遮る。


(あ――っ?!)

 その際――手綱を引いたソウタの手が下腹部に当たり、シオリが赤面して恥かしそうに震えていた事は、あえてスルーしておく。


「前――ちょっと見てみろ」

 ソウタが、そう言って手を差し出した方向には、退廃的な建物が列挙していて――その軒下には、露出の多いキワどい恰好の若い女が、何かをしているワケも無く幾人も立っていたり、中には男女が組ず解れず絡み合い、ちょっと言葉にするのも憚られる様子が繰り広げられていた。

「?」

「わっ!、えぇぇっ~?、マジぃ~?」

「――そうか、ココがっ!」


 順に――そんな様子を、タマはワケも解からず不思議そうに眺め、ハルは興味津々に嬉しそうに微笑み、アオイは嫌悪の眼差しで見据える。

「――こっからが、ツクモ随一の歓楽街――オウビ娼街の縄張りだ。

 ココを通った先に、商工組合の会議場よりあいばがある」

 ソウタは、そう説明を始めると、おもむろに編み笠を深く被り直して――

「ココは昔、用心棒をしてた成行きで、知り合いも多いんでな。

 変に出くわして、説明をする必要が出ちまったら面倒だから、連れ込み宿を探してる逢引客に扮して、知り合いに見つからねぇ様にやり過ごそうと思ったんだよ」

 ――と、顔を隠してキョロキョロと前方を見やる。


(あっ、逢引客ぅ~~っ?!、私がソッ、ソウタ様と……)

 シオリはソウタの説明を聞くと、更に顔を赤らめてカタカタと震える。


「……ほぉ~?、やはり『知り合い』が多いのかぁ~っ!、この悪名高き場所にぃ……」

 アオイはピクピクとこめかみに大きなシワを寄せ、着物の下に忍ばせている暗器を抜き、その切っ先を鈍く光らせる

「――ちっ、そう来ると思ったよぉ。

 だがなぁ?、俺だって恥かしいし、シオリさんにも軽蔑されるのも覚悟の上で、この体勢やってんだ。

 とにかく、観て解かる様に、女だけでこっから先に進むのは芳しくねぇから、とりあえず黙って退いてくれ」

 ソウタは、堂々と二騎の四人に向けて頭を下げ、この場から退く事を乞う。


「――解かってるよ?、ソウちゃんの行動には……いっつも、ちゃんと意味があるって。

 さっ!、みんな行こっ!、私は街の別なトコロを見てみたいし♪」

「そうだね――この先の光景は、タマちゃんに見せるのは良くないだろうし。

 ソウタ殿、姉様の事……よろしくお願いします」

 ソウタの意思を悟ったヒカリとハルは、怒っている二人(※タマは目の前の様子を観て混乱中)に退く事を促す。

「――解かった、だがなぁソウタっ!、"変に"、帰りが遅い様なら、その時は……」

「何だか……前の様子を見てると、疲れちゃったよ。

 早く帰って来てね、ソウタ」

 ヒカリたちの機転で、残った強硬派2名の懐柔も成功し、追って来た二騎は踵を返してゆっくりと退いて行く。

「――あっ!、ソウちゃん、でもね……」

 去り際に、半身で振り返ったヒカリは、顔を紅潮させて固まっているシオリを見やりながら――

「――軽蔑される覚悟は、要らないと思うけどなぁ♪」

 ――と、見やる彼女に向けてウインクをし、意味深な笑みを称えて喧騒へと消えた。

「?」

 ソウタは、その言葉の意味を図れず、ただ首を傾げるだけだった。
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