流れ者のソウタ

緋野 真人

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答え

捻じれ

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 更に続いて、ここはハクキ連邦の都――コウラン。

 そこにある、立派で豪奢な趣きの議事場の上座で、苦々しい顔を見せているのは――連邦統領、ノブユキである。


「――因って、南コクエへの此度の行動への批難声明の発布、及びコウオウ国奪還の派兵、並びに翼域への出兵案は――"否決"と致します」


 その表情の原因は――コレ。

 ノブユキが肝煎りとして州長議会へと提案した、一連の参戦案は……先の義兵再派遣の件に続いて、東部、南部――更に、今回は北部の州長たちまでもが反対へと回り、大敗と言える否決と相成っていたからだ。


(くっ!、解らぬのかっ!?

 刀聖様が立たれた、この時こそがっ!、先の大戦で被った汚名を濯ぐ機であるとっ!)

 ノブユキは、拍手をして否決を喜ぶ、反対派の州長たちを思わず睨み付ける。


 ノブユキは――早々に此度の出兵案をまとめると、予定通りに議会工作にも着手したが……その反応は実に鈍く、各州の州長たちの説得は難航。

 ノブユキの出身地であり、シンパとも言える西部の州たちこそは懐柔には成功したが――此度は、前回は取り込めた北部の州長たちの懐柔には、失敗したワケである。


(ふん――当然よ。

 もはや、この世界は君主や三者という"枷"から、解き放たれたのだよ。

 貴様の様な古き考えでは、今の世の民は付いて行かぬ)


 そんなノブユキの顔を、拍手に加わりながらほくそ笑んでいるのは、東部勢を主導しているトシミチ――タップリとした量の、白髭を顎に蓄えた初老の男だ。


 トシミチは若い頃、オウレン大で学組の主格を務めた経験を持つ公者――年齢的には、ヒコザの後輩、ユキオの先輩に当たる人物である。

 大戦終結後には、丁度赴任していた東部の都市――ランホウの領主だった経緯で、戦後はその周辺の州長の地位に就いたのだった。

 彼は、持ち前の政治的センスを強く発揮し、ランホウを連邦内でも有数の大都市へと変貌させ、それで得た経済力を糧に、連邦東部に強い影響力を効かせている。

 その急成長のカラクリというのが――オウレン大で縁を得たヒコザとの強い繋がり。

 その流れで、彼も何れはノブユキを統領宰相の座から引きずり降ろし、連邦を自由資本主義国家へと誘おうと画策していた。


(刀聖が齎した惨劇で、理想社会建立の夢は大きく遠退いたが――まだっ!、民が求める革命の奔流は緩んでいないっ!)

 ――と、同じく否決を拍手して喜んでいる、年の頃はもうすぐ四十と行った体の婦人……その名はカリン。

 彼女は連邦南部――ヒガ州の州長で、南コクエのシンパが多い南部勢の若き主格として幅を効かせている。

 先のコクエ内戦後に起こった、ユキオが提言した共生主義に共鳴した、カリンを始めとした南部の州長たちは――堂々と『ハクキ共佑党』を名乗り、未だ保守的な立場を取る、ノブユキに対しての"真正野党"という立場を貫いている。

 彼女の腹の内も、何れはノブユキの政権を転覆させ、南コクエとの同盟――いや、願わくば、南コクエと連邦の併合を目論んでいた。


(――厳しい冬を前にしている所に、やっと派兵を終えて帰って来た州軍の皆を、またも国外に送って居られるかっ!)

 口元をへの字に結び、否決を祝う拍手に呼応している、屈強に移る体躯が印象的な、背には翼が生え、鳥の顔をした亜人種は――北部、ルハ州の州長……カゲツネである。

 彼は元々、モトハルと同様に決起した抵抗勢力の一員で、後にルハ州となる、その北部地域の同胞を指揮した鳥族ちょうぞくの武人だ。


 鳥族は――鳳族と同様に、単独での飛行が可能な亜人種。

 翼が背に生えたヒトという体の鳳族と違い、鳥そのものという顔で、ヒトと同様の肢体を持った体躯が特徴である。

 男女比には偏りが無く、特に顔の造りは、元になったというか、遺伝子の妙とでも言うのか、発露した鳥種に因って実に様々であり、このカゲツネの顔は"フクロウ"である。

 北部には、彼と同じ鳥族を主に、亜人種の住人や公者が多い事もあり、そのフクロウの顔が醸す威厳も相成って、北部勢の長という立場に居る。


 ノブユキのシンパである西部――言わば"与党"に対し、東部、南部の"野党"が反目している状況の州長議会で、一種の是々非々、キャスティングボードを握る立場なのが、このカゲツネと北部州勢なのだ。


(一連の刀聖絡みの動き――単純に考えて、樹海の奥に封じた、あの"宗家の娘"が仕組んだモノであろう)

 カゲツネと、それに連なる北部の州長は――野党両派の様な近代思想の影響こそは薄いが、それを補って余りある程に、ハクキ宗家へ強い怨恨を抱いている者が多い。

 各言う件のミスズも、そのハクキ北部の出身なのだ。


 故に、北部が反対にまわった根幹には――

(――統領宰相が挙げたこの案は、きっとアヤコの復権を目論んだモノ……その様な事、させてなるものかよっ!)

 ――という、ノブユキの思惑を見通した末のモノだったワケだ。

(悔しいが……あの女には、政治の才がある。

 彼奴はあの、自給にも困る僻地であったツツキを、ある程度の実りを得る事が出来る地へと変貌させた――樹海を隔てた、隣地を治める我らが……戦後二五年を経ても、未だに気候の影響で物産の振興にこまねいているというのにぃ!)

 への字に結んだ嘴の下にある、口元を引き攣らせて、カゲツネは不満気にノブユキの顔を睨み――

「――後の事を思えば、東部や南部にも、恩を売っておかんとな……」

 ――と、小声で独り言の様な事を呟いた。
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