流れ者のソウタ

緋野 真人

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動き出す世界

動き出す世界

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 ココで一旦――ソウタたちがこの北の果てへと篭った後、その三ヶ月の間における世界情勢を振り返っておくべきであろう。


 まずは、各々の現状勢力図を想起して貰うために、軍事面の動向から紐解いて行く。


『皇、退きしコウオウが地、もはや聖域に非ず――侵攻きりとり次第に候』


 ――という一節のとおり、最もこの期間に動きがあったのは、事実上政体亡き空白地と化した翼域中央部、旧コウオウ国に当たる地域だ。

 件の地は、ツツキよりはずっと温暖な気候なゆえ、軍事作戦を阻害する程の降雪や寒さとは言えない分、この冬の間でも戦火は消えていなかったのである。


 件の公開裁判への乱入事件の後――かの占報にあった皇、サトコの呼びかけに呼応する形で、コウオウが地から離れる住民が激増……コレに因り、正確な数字や割合ではないが、実に数万人規模の難民が発生する事態に至った。

 その大半は、ソウタたちの根回しの甲斐もあり、オウビ周辺の流領へと逃れ、殆どがそのまま流者と化し、既に一定の生計を立てるまでに至っている者も少なくはない。


 南コクエにとって、せっかく得た労働力という点からも、この住人の流出は懸念事項と言えたが――更に呼応する形で始まった、スヨウからの再侵攻もあって身動きは取れず、それを易々と許す態で終わってしまっていた。


 スヨウはその後も、電撃的に戦線を押し上げ……因縁のホウリ平原は言うに及ばず、南コクエが制したオウクの都の眼前へ切っ先を突き付ける態にまで侵攻を遂げ、コウオウ領南側を完全に勢力下に置いた。

 対して南コクエは、駐留戦力を全てオウク~ヨクネ峠間へと集結させ、本国との補給線を死守する体勢を見せた。

 コレに因り――今の両者間のミリタリーバランスは、膠着状態の最中にあると言える。


 南コクエが守勢に周った事に因り、手薄となったコウオウの北部は――事実上放棄された態となり、かの地は主に自警を目的とした民兵組織が起ち上り、それが一定の自治も担う形となっていった。

 メンバーの殆どは、更に北――ハクキ合衆連邦から流れて来た者が首魁を務めており、彼らは総じて、先日まで連邦軍で一定の地位に収まっていた、退役軍人たちであった。


 件のコウオウへの派兵案が、議会で廃された結果――敬虔な萬神道信者の多いハクキ国民にとって、その始祖神の子孫とされるサトコを、聖地から退けさせた南コクエへの怒りが冷めやらぬ中、この決議が下った事は大いに反発を呼び、連邦軍内の一派もコレに公然と同調。

 一時は、すわクーデターかという機運まで拡がったが……それは流石に自重され、替わりに起きてしまったのが、決意への抗議の意味合いを纏った大量の退役申請。

 その数、悠に五千――それは、公称総兵力が二万半ばの連邦軍にとって、大規模な戦で敗れたに等しい大打撃と言え、退役を遂げた彼らは流者として、一種の義兵としてコウオウ北部へ流入。

 この動きもまた、南コクエが件の"選択と集中戦略"を選ぶ事を余儀なくされた起因の一つと言え、彼らもまた、現状の膠着状態を産んだ立役者であった。

 彼らはサトコ、及び例の"鬼面の刀聖"の号令があれば、何時でもオウク奪還、コウオウ解放のために動くと息巻いており、"刀聖軍"にとっては、実質"信教的同盟関係"にあると捉えて良いだろう。

 結果としては、議会を通った正式な動きこそは阻害されたが、替わりに志ある者たちの内心が、ノブユキの思惑を叶えたのだった。


 こうして半ば、孤立化の様相を呈し始めた南コクエにも、救いの手が差し出される――その手とは、形骸的には長期の休戦が続く、お互いに怨敵とも呼べる存在――北コクエからの支援である。


 北コクエは、一連の刀聖軍の動き、それに呼応した形のスヨウやハクキ由来の民兵組織らの事を、"改革解放、民主化への潮流を拒む公共敵"と位置付け、要は件のコクエ内戦時が如く、各々の主義主張は一旦棚上げし、対封建主義、対国守独裁を第一に掲げた互恵関係を標榜。

 正式な再びの同盟締結こそはなっていないが、既に北から南への物資、軍資金の提供は始まっており、コウオウにおける戦線の維持にも、この影響は実に大きいモノである言える。


 ――とはいえ、ソコは商魂逞しい民守を頭に置いた、経済重視である現在の北コクエである……その意図の内実は、全て商売、経済的な国益を求めての動きだ。

 提供された物資は全て、ニシイ商会の取り扱い――投入された軍資金とて、高利の借款に因るモノ……要は、北の経済をより潤すために、南コクエは馬車馬が如く戦争をさせられる図式へと組み込まれ様としているのだ。


 それは――似た様な形で、北コクエの掌で踊った士団、謀反一派も同様。

 対立する二隊がツツキへと退いた事で、クリ社直轄領内の平定こそは成ったが――八番隊が聖狭間で壊滅した事もあり、同時に慢性的な兵力不足に陥る事に。

 元来からある山賊、盗賊への治安的な備えを始め、ハクキ由来の民兵組織に因る抵抗は、直轄領内にも及んでおり……これらへの対応のためにも、これまた北コクエからの傭兵めいた援軍を頼らざるを得なくなった。

 それらへの費用は、勿論士団やクリ社が負担……即ち、翼域内の騒乱は、北コクエにとっては"濡れ手で粟"の一大ビジネスと化しているだった。


 さりとて――北コクエの前にも、痛い誤算が横たわった……それこそが、主にヨクセ商会を介したオウビの衆、流者たちからの、"実質的な経済制裁"である。

 大国一つと同等な経済力を有するヨクセ商会が、翼域でぶつかっている如何な勢力とも関与しないという意味で、流領内とツツキのみに、モノもカネも留めた事に因り――各国、各勢力は物資調達に苦労する憂き目にあった挙げ句、戦時下でもある事から、ツクモの"俗世"は強烈な物価高に突入。

 オマケに、件の謀反に介入した意図であり、ある意味悲願とも言えるクリ社の戒律に因る経済活動への規制緩和にも着手した事で、俗世経済は混乱への敷居を跨いだ恰好――この事に因る不満が、ヒシヒシと北コクエ国内でも拡大傾向である。


 対して、表現的には"浮世"と呼んでも良い、そもそも特異な環境にあるオウビやツツキは、その真逆を行く恰好となって、儲けこそは乏しくとも、とりあえずは戦時の影響を受けずに、安定的な運営が成る状態を築いていた。

 つまり――その"浮世"の一つであるツツキの動向、そして、ソコに冬の間篭っていた"刀聖軍"こそが、今後の戦局、政局の両軸共に、重要な意味合いを握っていると言えた。


 そこに送られて来た、ハクキ連邦からの接触……果たして、再び動き出そうとしている世界情勢に対し、刀聖ソウタは、如何な動きを以て応えるのだろうか?
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