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魔法使いに弟子入りしようとしたら、魔法使いが弟子になった件 対決編二
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俺は今確かな手応えを感じている。
当初はカイナム老師に魔法を教えてもらい、自分のようなごく普通の日本人でも魔法が使えた。
という動画を撮るつもりが、カイナム老師がボケていたことやその孫の登場によりここまでの展開に発展したわけだ。
YouTubeの神が舞い降りた、そう言いたくなる心境なのだが、実際に神がいるこの世界で神とか言うのは躊躇われた。
まぁ、勝ち負けなんてものは些細なことだろう。
勝っても負けても動画の再生数が約束されたこの状況では、どちらに転んでも俺は勝利者なのである。
「オラーー!いっけーーー!ファイヤー!……あれ?おかしい、出ない。フォイヤ!ファイエルン!」
手のひらから放つイメージで右手を突き出し叫ぶが、何も起こらない。
いやいやいや、そんなわけがない。
きっと何か足りないだけだ、そう、例えば呪文とか。
俺は隣のカナリスに目を向けるた。
そして予想通り彼女は何やら言葉を唱えているのが聞こえた。
「火の神プロメテウスに仕えし眷属の精霊よ。人に火の加護を与うる汝らに乞う、我が祈りをもってその力の一端を分け与えられよ。ファイヤーボール!」
ポーズは俺とほとんど同じだった。
右手を突き出し手のひらを正面に向け、叫ぶ。
しかし結果は全くの別物だ。
炎が人の頭ほどの大きさで丸く形を形成していく。
炎が轟々と唸り球体を成す姿はまさに小さな太陽である。
そして小さな太陽は勢い良く放たれる。
スピードは多分115キロくらいだろう、中学の時野球部でピッチャーをやっていた俺の全力と同じ程度のスピードだからわかる。
避けたり弾いたりはできるけど、それなりの技量が必要になりそうな速度と言っていい。
まぁ、それは今はどうでもいい。
大事なのは今の詠唱を俺が完璧に記憶したと言う点のみ。
「悪いけど、完璧に覚えさせて貰った。カンニングとは言ってくれるなよ。さぁ、火の神プロメなんとかに従う眷属達よ!……火の加護をくれる君達に是非とも頼みたい。あの的を射抜きたいので力を貸してくれ。この通りだ、ファイヤァァァアア!!ボォォウゥゥルッ!!」
銃を撃ったりするとその反動が結構強く、狙っていたよりも少し上に弾丸が飛んでしまう。
それに近い現象が起こった。
いや、その数倍もの反動だった。
人が入れそうなほど大きな大砲を抱えて砲弾を打ったかのような反動である。
言うまでもなく俺は後方へと吹き飛んだ。
何度も転がり空がどの方向にあるのか一瞬わからなくなるほど転がった。
幸い上手く転がったおかげでどこかを強く打ったりはしていない。
しかし、立ち上がり目の前に広がる光景に思わず鳥肌がたっていた。
等間隔に置かれていた的は跡形もなく消し飛び。
それどころかその先の壁すら吹き飛ばしたせいで、外の光が差し込んでいる。
大口を開け少しマヌケな顔でこちらを見ているカナリスを見て、ようやく俺は彼女に申し訳ないことをしてしまったことに気付く。
「ごめんごめん。つい本気を出してしまったよ。この隠されし俺の力をね。まぁ、でも的は全部無くなっちゃったし、俺の勝ちでいいのかな?」
唖然として口を開けたまま呆けるカナリスが一瞬の間を開けて真顔に戻る。
「えっ、で、でも今のは的当てとは違うんじゃないかしら。一気に全部燃やすのはルール違反ではなくて?」
俺とカナリスの視線は自然になかつへと向いていた。
ちなみに言っておくと、なかつは審判ではない、カメラマンである。
だが、流れというかそんな感じでなかつに答えを求めた。
なかつなら名奉行ぶりを発揮してくれるだろうと願って。
「一つずつ狙えという指定もない、全て落とせがルール。というかケンがほとんどルールを決めていない、よって勝者はケン。異論は受け付けない」
身内びいきどころか俺に厳しいなかつがそう判断したのであれば間違いはないだろう。
何かあって言ったとしても、きっと論破されるので黙り込んだカナリスさんはある意味正しかったと言えよう。
「まぁ、的を全部落としたほうの勝ちっていうのが今のルールだったからさ。あと、カナリスさん動揺すると話し方普通に戻ってるから気を付けて。キャラ付けってのは崩さないのが大事だから、俺みたいなインテリキャラとかね」
「インテリ?ぷぷぷ、ケン氏はボケ担当の時に一番輝いてるのに」
「俺がボケ担当?はっはっはご冗談を」
インテリキャラは確かにちょっとしたジョーク。
でもボケ担当というのはいつの間に決まった担当なのかは甚だ疑問である。
「ま、まぁ、いいわぁ。負けを認めましょう。次はやっぱりチャーム対決がいいと思うのぉ。私が貴方をチャームしてぇ、耐えれるかぁ耐えれなくなっちゃうかぁ。さぁ、ヤりましょうか」
「え?何これもう始まってんの。魔法じゃないよね、物理だよね」
右腕をがっちりホールドし圧倒的質量の柔らかな双丘をぐいぐいと押し当てられている。
端的に言おう、おっぱいがすんごい。
「なかつ……すまん、どうやらチャームに掛かったみたいだ」
「……あぁ、そうか。それでどんな精霊が見える?」
「いや、精霊はいないな。とにかくおっぱいがすんごい」
心臓が激しく脈を打ち、全身に血が巡る。
自分でも顔が赤くなっているだろうとわかるくらいに顔が熱い。
「くっ、これがチャームかっ。なんて恐ろしい魔法だ」
これ以上はまずいので助けを求めようと2人を見ると、まさかまさかの無表情。
怒りどころか心配とかそういった感情がまるで無い。
もし逆の立場なら止めるように最善を尽くしたはずだろう。
2人が魔法の力によって精神を支配されるなんて、仲間として俺は決して見て見ぬ振りなどしない。
やめさせるために強く抗議したに違いない。
「ケン、他とは違う精霊が見えたりしないか?」
「別に見当たらないけど」
「ならそれは魔法じゃなくて、ただ脂肪の塊を押し付けられて興奮してるだけだ」
なかつの言葉を聞いて俺は叫ぶ。
「バルス!!!」
何を叫ぶかなんてどうでもいい、とにかく今咄嗟に頭に浮かんだ言葉を俺は叫んだのだ。
「今かしらぁ?」
俺が叫んだ直後、僅かに耳にカナリスさんの声が聞こえた。
そして不意に視界の端にピンク色の何かが映る。
室外に比べて何倍も多くいる精霊と同程度の大きさである。
それが小鳥のように肩に止まると、耳元で何やら囁く。
「ルールルラーラールンラッラッラールルー」
(あなたのよこにいるじょせいはとてもみりょくてき。ほれろ~ほれろ~)
日本語でも英語でも、そもそも言葉なのかすら疑問だったが、何故かその意味が理解できた。
どうやらこちらが本命だったらしい。
風邪をひいて熱を出して、頭がボーッとしている時の感覚に近いといえば分かりやすいだろうか。
ボヤける視界の中で何故かカナリスさんだけがはっきり視認できる。
しかも数段増しで色っぽい。
他の人ならいちころだったことだろう。
おそらくカナリスさんのとっておきがチャームの魔法だったに違いない。
冷静さを取り戻すべく体内に籠もった熱い息を全て吐き出す。
そして肩に止まっている精霊を、潰さぬよう優しく親指と人差し指で摘んで、顔の前まで運ぶ。
「この勝負。どうやら俺の勝ちみたいだな」
「嘘~ん!なんで効かないのよぉ」
すごい勢いで顔を上げたカナリスさんの表情は驚きに満ちていた。
しかし答えは簡単だ、視えるから。それだけである。
「まぁ、いい線いってたのは認めますけど。理性の塊である俺には効かないっすね」
三番勝負で二本先取し完全勝利が決定した。
動画としても完璧なはずだが、なかつとオタが何やら浮かない顔で相談している。
まぁ、なかつが難しい顔をしているのはいつものことではあるが。
「どうした2人とも。バッチリだったろ?まさかテープ切れてたとか?」
「いや、チャーム対決はナシだなと話してただけだ」
当然俺は食い下がろうとしたが、その前になかつがカメラを差し出してきた。
俺は近付きカメラを受け取ると再生ボタンを押す。
動画はちょうどカナリスさんが俺の腕にしがみ付き、チャームをかけようとしているところから始まった。
柔らかい胸が腕に押し付けられ形を変えて……まぁ、その話は一旦置いておこう。
問題はこの後のようだ。
テンパってあたふたした後、ボケーっとした顔になる。
そして何も乗っていない肩に手を動かし、何も持っていない手を掲げドヤ顔で勝利宣言。
「そうかそうか、なるほど。精霊が見えない人からすると、俺はこんな不審者に見えてたわけだな。カメラは精霊を映せないのかぁ。なんだかなぁ」
「とりあえず、三番勝負のくだりはカット。的の早撃ち対決に勝利だけのほうが、派手好きのケンには合ってるだろ」
「そうだな、そこだけ撮り直すか。にしても俺の能力凄いんだけど、ユーチューバーには過剰だな。もっと違うのが欲しかったぜ」
「現実世界の動画を使うと効果10倍と精霊が見えて魔法がやばいってだけで十分じゃね」
そうツッコミを返したのはオタである。
「でもさ、今後企業案件とかで自社製品紹介してくれー。とかなっても、10倍も商品の性能上げたら動画見て買った人からクレーム来るだろ?それに精霊見えてもカメラに映らないなら俺が変な人みたいな扱い受けるわけだし」
「いやいや、ユーチューバーって変な奴が多いってのが世間の認識なわけで。ケン氏も変わり者といえば変わり者じゃん?」
「変わり者ねぇ……。でも普通って言われたくなくて人と違うことやろうって無理することはあるな。ただユーチューバーってだけで変わり者って扱い受けるのは嫌だな。だから炎上商法はしたくないし、世間に少しは認めてもらえるようなユーチューバーに……。って何熱く語ってんだ俺、恥ずかしっ。と、とりあえず勝負内容のとこ撮り直すとしますか」
なかつにカメラを返し準備に入る。
しかしそこで待ったが掛かる。
「ルールの変更ぅ?じゃあさっきの勝負は無し、むしろ私の勝利ってことでいいかしらぁ」
自分でも無茶苦茶言ってるのは理解しているのだろう。
なんとなくだが顔にそう書いてあるような気がした。
「うん、いいよそれで」
「そうね、流石にダメよね。でもそこを曲げて欲しいの……えっ、いいの?」
「弟子になりたいってやつでしょ?別に断る理由もないからいいよ。あっ、またこんな風に動画撮る時あると思うから、協力よろしくね」
「どうが?まぁいいわぁ、弟子にしてくれるんならぁなんでも協力するわよぉ」
「うっ、今なんでもって」
その言葉を俺は聞き逃さなかった。
なんでもとはつまりなんでもということ。
大変素晴らしい言葉である。
「おいケン、早く撮り直しの部分喋ろ。なんか嫌な予感がするからさっさと帰るぞ」
今の声音はかなりなかつがイラっとしている時の声音だと、すぐにわかった。
「何それ、第六感でも目覚めた?まぁいいや、じゃあ喋るぞ」
先程と一部内容の変更をした対決のルールを喋り、今回の動画は無事撮り終わった。
後は家に帰り動画の編集(オタが)して、アップするのみ。
異世界の動画をアップする度、尋常ではない再生数を稼ぎつつある現状。
今回も間違いなくネットを賑わすことになるだろう。
それが嬉しくて誇らしくて、一種の快感となっている。
最初に上げた異世界の動画、飛竜を吹き飛ばすという衝撃映像だったため賛否はあるが、あれから全てが始まったと言っていい。
たった一本の動画が脚光を浴び、そこから知名度は右肩上がりどころか直角に上へと伸びた。
有名になりたいなぁ、という不安や期待を持って動画を上げていた頃とは違い。
今はどう評価されるだろうかという緊張感が勝っている。
それでも俺は今回も自信を持って動画をアップする。
一日一回の動画投稿を守りつつ、クオリティを犠牲にすることなく、動画を投稿していく。
いや、待っている全ての人達、これから俺達を知るであろう人達のため、全力で動画を撮っていく責務がある。
なんとなくだが、今この時になってようやくユーチューバーとは何か、という漠然としたその存在の真理へと近付いた気がした俺だった。
勝手に悟りを開いた気になっていたケンを待ち受けていたのは、世間の強い風当たりと異世界の住人達からの洗礼。
そしてまさか壁を突き破ったあのファイヤーボールが人生最大のピンチを引き起こすことになろうとは。
次回
異世界美女図鑑
当初はカイナム老師に魔法を教えてもらい、自分のようなごく普通の日本人でも魔法が使えた。
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まぁ、勝ち負けなんてものは些細なことだろう。
勝っても負けても動画の再生数が約束されたこの状況では、どちらに転んでも俺は勝利者なのである。
「オラーー!いっけーーー!ファイヤー!……あれ?おかしい、出ない。フォイヤ!ファイエルン!」
手のひらから放つイメージで右手を突き出し叫ぶが、何も起こらない。
いやいやいや、そんなわけがない。
きっと何か足りないだけだ、そう、例えば呪文とか。
俺は隣のカナリスに目を向けるた。
そして予想通り彼女は何やら言葉を唱えているのが聞こえた。
「火の神プロメテウスに仕えし眷属の精霊よ。人に火の加護を与うる汝らに乞う、我が祈りをもってその力の一端を分け与えられよ。ファイヤーボール!」
ポーズは俺とほとんど同じだった。
右手を突き出し手のひらを正面に向け、叫ぶ。
しかし結果は全くの別物だ。
炎が人の頭ほどの大きさで丸く形を形成していく。
炎が轟々と唸り球体を成す姿はまさに小さな太陽である。
そして小さな太陽は勢い良く放たれる。
スピードは多分115キロくらいだろう、中学の時野球部でピッチャーをやっていた俺の全力と同じ程度のスピードだからわかる。
避けたり弾いたりはできるけど、それなりの技量が必要になりそうな速度と言っていい。
まぁ、それは今はどうでもいい。
大事なのは今の詠唱を俺が完璧に記憶したと言う点のみ。
「悪いけど、完璧に覚えさせて貰った。カンニングとは言ってくれるなよ。さぁ、火の神プロメなんとかに従う眷属達よ!……火の加護をくれる君達に是非とも頼みたい。あの的を射抜きたいので力を貸してくれ。この通りだ、ファイヤァァァアア!!ボォォウゥゥルッ!!」
銃を撃ったりするとその反動が結構強く、狙っていたよりも少し上に弾丸が飛んでしまう。
それに近い現象が起こった。
いや、その数倍もの反動だった。
人が入れそうなほど大きな大砲を抱えて砲弾を打ったかのような反動である。
言うまでもなく俺は後方へと吹き飛んだ。
何度も転がり空がどの方向にあるのか一瞬わからなくなるほど転がった。
幸い上手く転がったおかげでどこかを強く打ったりはしていない。
しかし、立ち上がり目の前に広がる光景に思わず鳥肌がたっていた。
等間隔に置かれていた的は跡形もなく消し飛び。
それどころかその先の壁すら吹き飛ばしたせいで、外の光が差し込んでいる。
大口を開け少しマヌケな顔でこちらを見ているカナリスを見て、ようやく俺は彼女に申し訳ないことをしてしまったことに気付く。
「ごめんごめん。つい本気を出してしまったよ。この隠されし俺の力をね。まぁ、でも的は全部無くなっちゃったし、俺の勝ちでいいのかな?」
唖然として口を開けたまま呆けるカナリスが一瞬の間を開けて真顔に戻る。
「えっ、で、でも今のは的当てとは違うんじゃないかしら。一気に全部燃やすのはルール違反ではなくて?」
俺とカナリスの視線は自然になかつへと向いていた。
ちなみに言っておくと、なかつは審判ではない、カメラマンである。
だが、流れというかそんな感じでなかつに答えを求めた。
なかつなら名奉行ぶりを発揮してくれるだろうと願って。
「一つずつ狙えという指定もない、全て落とせがルール。というかケンがほとんどルールを決めていない、よって勝者はケン。異論は受け付けない」
身内びいきどころか俺に厳しいなかつがそう判断したのであれば間違いはないだろう。
何かあって言ったとしても、きっと論破されるので黙り込んだカナリスさんはある意味正しかったと言えよう。
「まぁ、的を全部落としたほうの勝ちっていうのが今のルールだったからさ。あと、カナリスさん動揺すると話し方普通に戻ってるから気を付けて。キャラ付けってのは崩さないのが大事だから、俺みたいなインテリキャラとかね」
「インテリ?ぷぷぷ、ケン氏はボケ担当の時に一番輝いてるのに」
「俺がボケ担当?はっはっはご冗談を」
インテリキャラは確かにちょっとしたジョーク。
でもボケ担当というのはいつの間に決まった担当なのかは甚だ疑問である。
「ま、まぁ、いいわぁ。負けを認めましょう。次はやっぱりチャーム対決がいいと思うのぉ。私が貴方をチャームしてぇ、耐えれるかぁ耐えれなくなっちゃうかぁ。さぁ、ヤりましょうか」
「え?何これもう始まってんの。魔法じゃないよね、物理だよね」
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端的に言おう、おっぱいがすんごい。
「なかつ……すまん、どうやらチャームに掛かったみたいだ」
「……あぁ、そうか。それでどんな精霊が見える?」
「いや、精霊はいないな。とにかくおっぱいがすんごい」
心臓が激しく脈を打ち、全身に血が巡る。
自分でも顔が赤くなっているだろうとわかるくらいに顔が熱い。
「くっ、これがチャームかっ。なんて恐ろしい魔法だ」
これ以上はまずいので助けを求めようと2人を見ると、まさかまさかの無表情。
怒りどころか心配とかそういった感情がまるで無い。
もし逆の立場なら止めるように最善を尽くしたはずだろう。
2人が魔法の力によって精神を支配されるなんて、仲間として俺は決して見て見ぬ振りなどしない。
やめさせるために強く抗議したに違いない。
「ケン、他とは違う精霊が見えたりしないか?」
「別に見当たらないけど」
「ならそれは魔法じゃなくて、ただ脂肪の塊を押し付けられて興奮してるだけだ」
なかつの言葉を聞いて俺は叫ぶ。
「バルス!!!」
何を叫ぶかなんてどうでもいい、とにかく今咄嗟に頭に浮かんだ言葉を俺は叫んだのだ。
「今かしらぁ?」
俺が叫んだ直後、僅かに耳にカナリスさんの声が聞こえた。
そして不意に視界の端にピンク色の何かが映る。
室外に比べて何倍も多くいる精霊と同程度の大きさである。
それが小鳥のように肩に止まると、耳元で何やら囁く。
「ルールルラーラールンラッラッラールルー」
(あなたのよこにいるじょせいはとてもみりょくてき。ほれろ~ほれろ~)
日本語でも英語でも、そもそも言葉なのかすら疑問だったが、何故かその意味が理解できた。
どうやらこちらが本命だったらしい。
風邪をひいて熱を出して、頭がボーッとしている時の感覚に近いといえば分かりやすいだろうか。
ボヤける視界の中で何故かカナリスさんだけがはっきり視認できる。
しかも数段増しで色っぽい。
他の人ならいちころだったことだろう。
おそらくカナリスさんのとっておきがチャームの魔法だったに違いない。
冷静さを取り戻すべく体内に籠もった熱い息を全て吐き出す。
そして肩に止まっている精霊を、潰さぬよう優しく親指と人差し指で摘んで、顔の前まで運ぶ。
「この勝負。どうやら俺の勝ちみたいだな」
「嘘~ん!なんで効かないのよぉ」
すごい勢いで顔を上げたカナリスさんの表情は驚きに満ちていた。
しかし答えは簡単だ、視えるから。それだけである。
「まぁ、いい線いってたのは認めますけど。理性の塊である俺には効かないっすね」
三番勝負で二本先取し完全勝利が決定した。
動画としても完璧なはずだが、なかつとオタが何やら浮かない顔で相談している。
まぁ、なかつが難しい顔をしているのはいつものことではあるが。
「どうした2人とも。バッチリだったろ?まさかテープ切れてたとか?」
「いや、チャーム対決はナシだなと話してただけだ」
当然俺は食い下がろうとしたが、その前になかつがカメラを差し出してきた。
俺は近付きカメラを受け取ると再生ボタンを押す。
動画はちょうどカナリスさんが俺の腕にしがみ付き、チャームをかけようとしているところから始まった。
柔らかい胸が腕に押し付けられ形を変えて……まぁ、その話は一旦置いておこう。
問題はこの後のようだ。
テンパってあたふたした後、ボケーっとした顔になる。
そして何も乗っていない肩に手を動かし、何も持っていない手を掲げドヤ顔で勝利宣言。
「そうかそうか、なるほど。精霊が見えない人からすると、俺はこんな不審者に見えてたわけだな。カメラは精霊を映せないのかぁ。なんだかなぁ」
「とりあえず、三番勝負のくだりはカット。的の早撃ち対決に勝利だけのほうが、派手好きのケンには合ってるだろ」
「そうだな、そこだけ撮り直すか。にしても俺の能力凄いんだけど、ユーチューバーには過剰だな。もっと違うのが欲しかったぜ」
「現実世界の動画を使うと効果10倍と精霊が見えて魔法がやばいってだけで十分じゃね」
そうツッコミを返したのはオタである。
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「いやいや、ユーチューバーって変な奴が多いってのが世間の認識なわけで。ケン氏も変わり者といえば変わり者じゃん?」
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なかつにカメラを返し準備に入る。
しかしそこで待ったが掛かる。
「ルールの変更ぅ?じゃあさっきの勝負は無し、むしろ私の勝利ってことでいいかしらぁ」
自分でも無茶苦茶言ってるのは理解しているのだろう。
なんとなくだが顔にそう書いてあるような気がした。
「うん、いいよそれで」
「そうね、流石にダメよね。でもそこを曲げて欲しいの……えっ、いいの?」
「弟子になりたいってやつでしょ?別に断る理由もないからいいよ。あっ、またこんな風に動画撮る時あると思うから、協力よろしくね」
「どうが?まぁいいわぁ、弟子にしてくれるんならぁなんでも協力するわよぉ」
「うっ、今なんでもって」
その言葉を俺は聞き逃さなかった。
なんでもとはつまりなんでもということ。
大変素晴らしい言葉である。
「おいケン、早く撮り直しの部分喋ろ。なんか嫌な予感がするからさっさと帰るぞ」
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「何それ、第六感でも目覚めた?まぁいいや、じゃあ喋るぞ」
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勝手に悟りを開いた気になっていたケンを待ち受けていたのは、世間の強い風当たりと異世界の住人達からの洗礼。
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ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
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