現実(こっち)でユーチューバー、異世界(あっち)で冒険者やってます

三國氏

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フィンネルとヘレナ 其の一

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「人類が火を得て道具を作り文明を築くよりも遥か遠い|過去(むかし)。
 天界では神々による強大な派閥争いがあった。
 神の王を名乗る各派閥の長達に従う者、裏で暗躍する者。
 悠久の時を生きる彼らの戦いは長きに渡り続くかと思われた。
 それによって人類が滅ぼうとも。

 天から降り注ぐ無数の雷は嵐のように降り注ぎ、人類に文明をもたらした火はその文明を幾多も滅ぼし、荒れ狂った海は大陸すら呑み込んだ。

 人々の祈る心は届かず、数え切れないほどの人柱が無駄な犠牲と成り果て。
 祈ることすら忘れた人間は終わるとも知れない天災をただ座して待つことしかできなかった。

 そんな神々の戦に終止符を打った者がいた。
 それはどこぞの神の長でも超越した軍神の誰かでもなく、とある神殿に仕えていた一人の少女だった。

 神託を聞けるという類稀なる力を持った少女には、もう一つの力があったのである。
 聞くだけではなく、自身の言葉を神に届ける力。

 そして少女の声は人類が滅ぶよりもほんの僅かに早く届いた。

 幸い神は人間のことをとっても愛している。
 我が子を想う母のような無償の愛と言っても差し支えないほどに。

 神々は白熱した戦いにより人間への被害が見えていなかったという。
 だから滅亡の直前とも言える弱り切った人類を見て、天災により人の住めなくなった地上の様を見て、神々はすぐに争いを止めた。

 こうして一時の平和が地上に訪れたのである。


 しかし、話はここで終わらない。
 神々の王は別の形で決めると、話し合いで決まったからだ。

 それは天災によりいつの間にか地上に現れたダンジョンを攻略するというものだった。
 しかもダンジョンを攻略するのは神ではなく愛すべき人間達。

 神はファミリアを作り人間の子を育て、ダンジョンを攻略させる。
 そしてそのファミリアの神が所属する派閥の長こそが、神々の唯一の王になる。

 という新たなルールを作り、別の形で神々の王を決める戦いは再び始まりましたとさ、めでたしめでたし」

「あー、そうですね。子供が物心着いたらすぐ親が何度も聞かせる話ですもの。誰だって知ってるわよね。わざわざそれを話して、どこか間違ってないか聞きたいんなんてことありえないわよね、フィンネル?」

「違うし、超違うし!城まで行くのに暇だったから昔話をしてやってたんだし」

「あら、そうだったの。確かに城は壁の外だから歩いて行くのは時間が掛かるものね。それにこれから女王陛下に謁見、間違ってないか聞きたくなる気持ちは分からなくもないわよ」

「だーかーらー。違うって言ってるし。ヘレナが暇そうだったから話してやってたんだし」

「わかりましたわかりましたとも、そういうことにしておいてあげますわ。話し相手が拗ねて口を閉ざしてしまうよりはマシですもの」

 荷馬車の後ろに座っていたヘレナはそう言うとクスクス笑い、フィンネルは口を尖らせそっぽを向き、足を強めにばたつかせるのだった。



 ダンジョンの存在するこの都市には、その周囲を取り囲むようにして聳え立つ巨大な壁に囲まれている。
 ダンジョンから出てきたモンスターを外に出さぬよう、残った人類が力を合わせて造ったとされる最初の巨大建造物である。

 ダンジョンの最も近い場所に造られた壁の内側を0番街、ただしここに人は住んでいない。
 そしてその外側に造られた壁の内側が一番街となり、全部で八つの壁。
 つまり七番街まで存在し冒険者やその関係者が住んでいる。
 そして内側に行くほどファミリアの規模や力が大きい。

 先程長々と説明を口にしていた少女の名はラ・フィンネル。
 彼女は一番街にホームを置くポセイドンファミリアの主要メンバーの一人。
 そして今、戦を止めた巫女の末裔で、この国の最高権力者である女王の元へと向かっている最中である。

 髪は全体的に短い黒髪だが、襟足だけ伸ばし三つ編みでで結んでいる。
 モンクという性質上、動きやすさを重視した軽装で鎧などは纏わず、肌に密着した黒い光沢のある乳バンドとスパッツ。
 その上におまけのように薄手の白い衣服、というか白い布を羽衣でも纏うように羽織っている。

 動き易いから変える気はないと本人は意地を張っているが。
 布地の少ない服に褐色の肌や引き締まった腹筋や太腿、彼女の持つ天性の体のしなやかさ。
 それらはポセイドンファミリアに所属しているからという理由以外でも、街を歩く多くの男の視線を釘付けにしていた。

「ちっ、チラチラ見られんのは好きじゃないんだよね」

 フィンネルクラスの冒険者の視線に力を込めるという行為は、弱者からすれば物理的な圧力すら感じてしまうほどである。
 殺意までなくとも己より遥かに強いモンスターの咆哮を間近で聞いたような焦りすら感じて、下心のあった男達もそうでないものも慌てて目を逸らす。

「あー、もう。八つ当たりはやめてくださる。私まで団長に怒られてしまいますわ」

「ったく、誰のせいだよ」

「さぁーてねぇ。誰かさんが下着同然の格好で外にいるからかしらねぇ」

「年中そんな暑苦しそうな格好のお前にだけは言われたくねぇ」

 フィンネルとは対照的に、ヘレナの格好は肌をほとんど露出していない。
 ブロンドの美しい髪は長く座ると馬車の荷台に付くほどで、茶色いブーツに黒のズボン、上からはえんじ色のローブという格好である。
 一級の魔法武具店で買ったローブは、ヘレナの趣味により刺繍やらフリルが増し増しで繕われている。

 ダンジョンに行くには必要ないと言われれば、本人すらもそうねと頷くが、フィンネル同様変える気は全くない。

 アマゾネスといわれる種族のフィンネルとは違い、肌は透き通るように白く、フィンネルとは別種の女性らしさがあった。
 ただし胸は無い。
 胸が強調されにくい格好だからという意味でなく、脱いでも凹凸は大変控えめなのである。

「暑くはないわよ、色んな耐性の込められた魔法武具だから、炎で焼かれても身を包めば守りきれほどなの。それに私は心に決めた殿方以外に肌を見せる趣味はないの」

「趣味……だって?僕だって別に見せる気なんて無いし、肌を露出してる僕が悪いんじゃなくて、下心を持って見る奴が悪いんだし」

「ふんっ、無駄な脂肪の塊をそうまで強調してるのは、てっきりファンサービスかと思っておりましたけど」

「うっさい貧乳」

「今なんて?」

「別に。僕なーんも言ってませんけど」

 勝ち誇った顔で、あまつさえわざとらしく胸を張っているフィンネルを見て、ヘレナは尻の辺りにあった杖に手を掛けた。
 その時である。
 建物の吹き飛ぶような轟音が響いた。

「おいっヘレナやり過ぎ!」

「違っ、まだ私は何も」

 轟音の正体をヘレナの魔法と考え睨んだフィンネルに、ヘレナは慌てて首を振る。
 それと同時に、城へと向かうポセイドンファミリアの一行の最前列から悲鳴が響いた。

「前かっ、行くよ!」

「えぇ」

 荷台から飛び降り前方に飛び去るフィンネルに続き、ヘレナもその後を追う。
 レベルアップの恩恵により身体能力の高さは常人の比ではないが、モンクであるフィネルの方が魔法職のヘレナより速い。

 それに最前列のすぐ近くだったこともあり、数秒で先頭の馬車の前に踊り出た。

 そして二人がそこで見た光景は、子供の頃聞かされた天災を彷彿とさせた。
 天から降り注ぐ巨大な火の雨、まさにそれが目の前から迫っていたのである。

「ヘレナ!得意の水魔法で弾け、水なら火を消せる」

「そう単純なものじゃないわよ。でもこの威力に対抗するならそれしかないわね。ウォーターカノン!」

 上位の魔法職ともなれば詠唱を破棄することは難しくない。
 ただその威力が下がり、消費MPも多くなるため緊急時以外では使わない。

 ヘレナの両手から高圧放水車のように勢い良く水が放出される。

「くっ、ありえない。この私が押されてるなんて」

 放水の威力に耐え踏ん張るヘレナだが、勢いの弱まらない火の玉に焦りを覚えていた。
 しかも隣にいるフィンネルはモンク、しかも自身強化以外の魔法を苦手とするアマゾネス。
 しかし、この後すぐヘレナの不安は消し飛ぶこととなる。

「よく耐えたヘレナ!団長として礼を言う。ドロイ盾で食い止めろ、ガンダルは土魔法、ウィーニアは水魔法でヘレナの援護」

 異変に気付いた団長のルブルム達が列の中心から駆け付けたのである。
 瞬時に的確な指示を飛ばし、一斉に目の前の火の鎮火が始まった。

 直径二メートルを超える人を飲み込むような化け物ファイヤーボールだが、これだけのメンバーが揃ってしまえば呆気ないもの。
 と、この時全員が気持ちを同じにしていた。

 しかしこれが案外手こずることとなった。

「くそっまだ消えないか団長」

 巨大な盾を持ったドワーフのドロイと、急遽盾を借りてきたフィンネルがファイヤーボールを抑え。
 後ろからはヘレナとウィーニアが水魔法で消火。
 そこに詠唱を終えたドロイの魔法で、左右の地面の土が盛り上がりファイヤーボールを覆うように動く。

「火山の噴火じゃあるまい、何故こうも次から次へと火が湧いてくる。仕方ない、各員ちょっとだけ本気を出してやれ」

 いくら巨大とはいえ、ファイヤーボール一つに本気になるべきではないと考えていた全員が団長の方針に従う。
 水は一気に威力を増し、水と混ざった土が泥となりファイヤーボールを一瞬で呑み込む。

「やっと消えたし!なんだよ今のは」

 不満げに土を蹴ったフィンネルの言葉に全員が顔を顰めた。
 この七番街にあれほどの魔法を打てるものがいるはずかない、つまりどこかの上位のファミリアによる嫌がらせ。
 もしくは宣戦布告だということ。

 被害がなかったとはいえ、これだけ舐めた真似をされたのだ。
 それをこの都市有数のポセイドンファミリア団長のルブルムが、何もせずただ指を加えるなど天地がひっくり返ろうともあり得ない。

「フィンネル、ヘレナ、ウィーニア。第三班、第六班を連れて魔法の出所を探れ。あとここに来なかった|馬鹿(ディスロック)も連れてな」

「えー、団長。あいつも連れてくんですか?」

「戦闘になるかもしれないからな、万が一のために連れて行ってくれ。悪いが俺まで城に行かないわけにはいかないから頼んだぞ」

「万が一?そんなことあり得ないし。万回喧嘩を売られたなら僕が万回買ってやるし」

 そう答えたフィンネルの瞳には、先ほどのファイヤーボールよりも滾った炎が燃え盛っていた。


 こうして、ポセイドンファミリアに宣戦布告をした愚かなファミリアに対し。
 全力の反撃が始まろうとしていた。
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