現実(こっち)でユーチューバー、異世界(あっち)で冒険者やってます

三國氏

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異世界美女図鑑をつくろう 其の四

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 異世界美女図鑑を作ろう。
 それは気楽な調子で言い出した企画だった。

 しかし今現在大……変困った状況になっている。

「いやはやどうしてこうなった」

「ほんとそれ」

 俺の気も知らないオタは相変わらずの調子、なかつはカメラを持ったまま淡々と映像を撮っている。
 しかし実際のところはどうだ。
 完全に引き際を失って、|二進(にっち)も|三進(さっち)もいかない状態になっていた。

「まさか異世界の人にドッキリ企画通じないとは思わなかったよ。ユーモアか、ユーモアが足りないのか異世界人ってのは」

「ほら構えろよ兄ちゃん、野兎だってもうちょい抵抗する素振りを見せるぜ。無意味ではあるけどな」

 なんかいつの間にか知らない奴来てるし。
 誰だよこいつ、裸にジャケット?首には毛皮?なんか獣臭いんですけど。
 しかもなんか凄い強そう。

 それに金髪の子が言ってた昨日って何?
 昨日は魔法使って遊んでただけなんですけど、誤解で恨まれるとかほんと勘弁してもらえないかな。

 もうね、こうなったらアレしかないよね。
 しっかり謝って許してもらうしかないよね。

 ようやく知名度の上がってきたユーチューバーだから今まで炎上なんてしたことないけど、俺的に炎上商法ってのは全く好ましくない展開だ。
 おでんツンツンしたり、チェーンソー持って宅配業者乗り込んだり、そういうのは避けて通りたい。

 ヒール的なキャラではなく、子供から大人まで安心して観れる人気者。
 それこそ俺の望むユーチューバー像なのである。
 アンチが沢山湧くコメント欄とか正直見たくはないのだ。

 どうせこの辺は動画でカットするだろうし、最後の和解したところだけ何としても撮らねばなるまいと決意を固める。

「構えは必要ないってか?いいぜ、死んでから後悔しなよ」

「いやいやいやいや、ちょっと待って。ちょっと落ち着こうね、ね。十秒、いや五秒待って」

 困った時の神頼みならぬなかつ頼み。
 藁にでも縋る気持ちでなかつをもう一度見る。

 するとなかつは先程同様アテナを指差していた。
 ある種のデジャブだったが、鍵はアテナにあると理解した。

 オタのくすぐりは既に終了していたが、余韻が消えないためか路地に額を付けヒーヒー言いながら呼吸を整えている。

 数学の問題ならば答えだけ書いても丸はもらえないのと一緒、途中式がなければならない。
 しかしなかつが提示したのは答えのみ、これはつまり途中式は自分で考えろとのお達しだ。

「おい!五秒経ったぞ」

「じゃあもう五秒」

 アテナは何か知っている、何かを知っていて死んだフリを続けていた。
 異世界でドッキリが成功しないと知っていたから?
 可能性はある。しかもかなり高い。

 ならもう一度オタにくすぐらせて白状させるべきだろうか。
 いや、あれはもう見たくない。
 というかオタと友人として見れなくなる。

「おい五びょ───」

「もうちょっとだけ」

「いい加減に───」

「───ほんとにほんとの最後だから」

 律儀に待ってくれるなんて見た目とは反対にいい人だったようだ。
 この隙にもう一度俺は考える。

 ───そして閃いた。
 なんかこう、IQ100ほにゃららみたいなクイズ番組の問題が、視点を変えた瞬間解けた時のようなスッキリ具合だ。

「実はこの三人はアテナが仕組んだ仕掛け人。つまりこれはアテナが逆ドッキリを俺達に仕掛けたということ。目的は簡単、まぁ、これは考えるまでもないな。いい加減ダンジョンに行けと言うことだななかつ!」

 再びなかつを見ると左手をパーにしている。
 まぁ、五十点ということだろう。
 だが心配はいらない。
 残りの五十点は簡単だ、これはつまり単なる途中式だからだ。

「アテナ様!僕達今日から心を入れ替えます。明日からダンジョン行きます、アテナ様を敬います、ちゃんと宿題もやります、夜更かしもしません。今日はこの辺で勘弁してください」

 勿論嘘である。

 しかしそれまで伏せっていたアテナが凄まじい勢いで立ち上がった。
 額は赤い丸模様を作り砂利が付いていたが、その顔は太陽のように眩しかった。

「まっ、誠か!!!よーやっと理解してくれたか。苦心した甲斐があった、遂に我が真意が届いたか」

「はい、勿論でありますアテナ様。僕達が間違っていました。それに気付けたのも全部アテナ様のおかげであります。どうか今までの非礼お許しください」

 やっぱり嘘である。

「おい!いつまで待てばいいんだ」

 困惑顔の男と二人の少女に対し、アテナは小さな手のひらを名一杯に広げ男の言葉を制す。

「もういい、もういいんだ。君達の協力に感謝するとも。あとでポセイドンにも礼とお詫びを言いに行こう」

「なっ、ですがこのまま引き下がるわけには。せっかく手応えのありそうな奴と戦えると思ったのに」

「ディスロック、ですがアテナ様の依頼は達成したようですわ」

「あー!そうだったねヘレナ。そんなこと頼まれてたね。僕つい忘れてたよ」

 逆ドッキリ成功したというのに食い下がる男と、それを宥める金髪少女に企画自体忘れていたと言う褐色少女。

 この三人からも言質はとった。
 今回の仕掛け人は|こいつ(アテナ)で確定。
 許すまじこの詐欺師め。

 自分でもわかるくらいに醜悪に顔を歪め、アテナが再び振り向いたことで顔を元に戻す。
 あくまでここは改心したということで場を乗り切るために必要な演技をせねばならない。

 ユーチューバーとはプロデューサーでありディレクターであり、そして何より演者なのだから。
 逆ドッキリ程度で怒っていてはこの先やっていけない。
 それが例え私欲に満ちたがための逆ドッキリであろうともだ。

「何でしょうかアテナ様」

「うむ、ダンジョンに行くには色々と準備も必要になる。ファミリアとしても実力をつける必要があるしこれから忙しくなるぞ」

「はっ、お任せあれ!しかしその前に一つよろしいでしょうか」

「いいぞ、何なりと申してみよ」

「あちらの美少女を紹介していただきたく存じます」

 とりあえず今日は異世界美女図鑑を作ろうという企画であることは忘れてはならない。
 二人にインタビューとかして、後は家に帰って逆襲の逆ドッキリを掛け返す算段をつけるのだ。
 やられたらやり返す、倍返しとは言わず数倍にして。

「そうかそうか、先輩冒険者の言葉を聞くのも重要だな。この三人は一番街にホームを置くこの都市でも指折りのファミリア、ポセイドンファミリアのメンバーだ」

 チョロインとはこの神のことだろう。
 少し従順なフリをしただけでこの有様だ。
 笑顔を振りまき、鼻歌でも歌いそうな上機嫌。
 よほどダンジョンに行くと言ったのが嬉しかったとみえる。

 まぁ、それはどうでもいいとして。

 俺達はせっせと異世界美女図鑑の作成に励むことに決めた。

「とりあえずアレだな。場所変えよっか、この後時間ある?」

「俺はあるぜ」

「あー、男はいいんで。今日のところはお引き取り下さい。そっちの二人はどうかな?お詫びも兼ねてご飯奢らせてくれない」

 闘志を剥き出しに詰め寄ってくる狼みたいな男は軽くあしらい二人を誘う。

「遠慮しておきます」「ほんとに⁉︎行く行く」

 金髪の子は怪訝そうな顔を浮かべるも、もう片方は乗り気の返事を返していた。
 こうなると実に簡単である。
 ノリノリな褐色少女と一緒に金髪の子を無理に誘ってしまえばいいのだ。

「だよねぇ。冒険者同士交流深めようよ、ちょっとご飯行ってちょっと話聞かせてくれればいいからさ、ね」

「そうだよヘレナ、奢りだよ奢り。ちょうど昼どきだし行くしかないって」

「そうだぞヘレナちゃん。それにタダ飯ってのが一番美味いんだぜ」

 褐色の子がヘレナという少女の服の袖を引っ張り何度も説得したところで、ようやく大きなため息と共折れた。

「……わかりました行きます。でも気安く名前は呼ばないで頂けます。あと自分の分は払います、借りを作りたくはないので」



 こうして非常に潤滑に動画出演の依頼を取り付けた俺は、行きつけというほどではないが最近通っているカフェへと向かった。

 褐色の少女はラ・フィンネル16歳、アマゾネスで近接戦闘を得意としているそうだ。
 武器は拳と体に纏った羽衣のような布。
 本人曰く衣服ではなく武器、ダンジョンにいる蚕のような虫の出す糸から作った特別製
 触らせてもらったが凄い手触りが良かった。

 アマゾネスは魔法が不得手だが、身体能力は高く剣や弓が得意という俺達の世界でもよく聞く設定。

 ランクは4で冒険者の中でも上位に入る実力とのこと。
 ちなみにランク4以上の冒険者は200人程度で、七番街にいるのは大体ランク1で偶にランク2だそうだ。
 好きな食べ物は肉系全般、嫌いな食べ物は無し。
 強いてあげるならヘレナの手料理は流石に無理とのこと。

 もう一人は少女はヘレナ・ファンブルク。
 ツンツンしたした態度で質問には最低限の語句で答えてくれた。

 年齢はフィンネルと同じ16歳。
 ソーサラー、魔法が得意。
 服を装飾するのが趣味。
 ランクは4。

 俺みたいなチャラチャラした男は嫌い。
 なかつみたいに何を考えてるかわからないやつは嫌い。
 オタに関してはなんか嫌い、とのこと。
 補足だが俺はチャラくない、単に態度が軽いのであると付け足しておく。

 怒った時の態度がなんとなく俺の妹に似ていたので、特に不快感を感じることもなく無事に動画を撮り終えたのだった。

 お礼を述べ店から見送り、ようやく一段落ついたことに安堵し肩の荷が下りていくのがわかった。

 今回はすんごい疲れた。
 現場からは以上です、とぼやいてみせる。

「締めの言葉はまだか、部屋に戻ってからにするか。俺はもう手が疲れた」

 ずっとカメラを構えていたなかつに言われ、自分達が撮影していたことを思い出した。

「そうだな。じゃあ一言。異世界でドッキリする時は気を付けよう、ほんとマジで。ドッキリ通じないことあるからね、そんで死ねを連呼されるから。というわけで今回の動画はここまで、ご視聴ありがとうございました。チャンネル登録はここからよろしく~」



 ケン達がせっせと撮影をしていたカフェにアテナの姿はなかった。
 特に誰かが気にすることもなくその存在は忘却の彼方へ消え失せる。

 そしてそのアテナはというとカフェには行かず一人路地裏から去り、とある場所へと足を運んでいた。
 理由は一つ、金を借りる為だった。
 それも大金を、である。。。
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