婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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蜜水⑮ BL風味注意

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どれだけそうして居ただろう、何も考えられずに撫でられ続けていた。

ーダンダンダンー
「とーさまー!あーけーてー!とーさまー!」
ーダンダンバンッー

キャスバルにとって、この静かで満たされた時間はエリーゼのけたたましい叫び声で終わりを告げた。

父の手が離れ、僅かに寂しさを感じるが多分それどころではないのだろう。

ーバンッバンッバンッー
「あけてー!あーけーてー!とーさまー!あけてー!」
ーバンッバンッバンッー

「アレク、早く開けてくれ!」

恐らく平手で思いっきり叩いているのだろう、手を傷めているかも知れない。
こんなに慌てて叫んでいるのだ、何かあったのかも知れない。
父の慌てているように、キャスバルも慌てた。
アレクが慌てて扉を開けると、転がるようにエリーゼが入ってきた。

「とーさまー!キャス兄さまとケンカしないでー!」

エリーゼは、そう叫ぶとわぁわぁと泣き出した。
ハインリッヒが抱き上げ、落ち着かせようとしてもエリーゼは父の胸をバシバシと叩いていた。
エリーゼの小さな手の平は真っ赤になって、見るからに痛そうなのにそれでも止まらなかった。
父もキャスバルもアレクも、この賢いエリーゼが心配して転がり込んできたのは蜜水の事だと予想した。
なぜ父と兄が争うと思ったのか?疑問に思うより、エリーゼの抗議が必死過ぎて3人は困っていた。

ーコンコンー
「失礼致します。」
軽いノックの後、フェリシアの侍女エミリが扉を開け入ってきた。
当然フェリシアが後に続いている。

「あぁ、ここにいたのね。エリーゼ、お父様を困らせてはダメよ。」

フェリシアはソッと近付くと、いまだ泣きながら暴れるエリーゼの頭を撫でた。

「いらっしゃい。」

母フェリシアの一言でエリーゼは暴れるのを止め、母に手を伸ばした。
父はゆっくりとエリーゼを母に渡すと、あからさまにホッとした。

「エリーゼ、どうしたの?さっきまで、あんなにご機嫌だったのに。」

小さな妹はエグエグと泣きべそをかき、むくれた顔で父を見ていた。

「みつ…ヒッ……すいは……フッ……キャス兄さま……ッ……と……ヒッ……レイッ……に……ちゅくッ……た………ふ……うーぅ…ぅあーッ」

エリーゼはキャスバルとレイの為に作ったのだと訴えて泣いている、と大人達は理解した。
自分達は有用性の高さ故に、エリーゼの気持ちを置いてきぼりにしてしまった。

「ぅあーッ!キャス兄さまとレイのためにッちゅくッたのにーぃ!とーさまーがとりあげたー!」

噛んでるし、勘違いしていた。
恐らく、自室に戻って暫くしてから気がついたのだろう。
気がついて直ぐにキャスバルの部屋に向かったのだろう。
キャスバルが部屋に居ないと知って父の部屋にやって来たのだ。
蜜水を取り返そうとしているかも知れない兄を心配し、父がキャスバルに渡さないかも知れないと。
そんな不安がエリーゼの中で父とキャスバルが争っているかもと、駆り立て父の執務室に乱入してきたのだろう。
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