婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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蜜水⑯ BL風味注意

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父がソッとエリーゼの頭を撫で、いつもより優しい声で名前を呼ぶ。

「エリーゼ、父様はエリーゼがキャスバルにと作った蜜水を取り上げた訳じゃないよ。」

むくれた顔で父を見る目には、涙が溢れてきてなかった。
母の腕の中で大分落ち着いてきたのだろう。
母の腕の中、胸にびったりとしがみつき離すまいと小さな両手は母のドレスを握りしめていた。

「エリーゼが作った蜜水が、あまりにも良い物だから皆にも使って貰いたいと思ってしまったんだよ。だからエリーゼが心配するような争いはしてない。」

ハインリッヒは丁寧に説明をしてみた。

「母さまがいくつかもっていきました。でも父さまはもっていかなかった。キャス兄さまも、もっていかなかった。みつすいは父さまのおへやにおいてある。なんで?」

難しい事でも何でも無い。
蜜水の箱から数本抜いたフェリシア、そこからは数は変わってない。
本当なら、持ち主になるはずの人物が只の1つも持たずに自室に戻った事を責めているのだ。
それでは、娘が泣くのも仕方ないか?と諦めるハインリッヒだった。

「エリーゼ、済まない。父様が気が付かなくて心配させたな。キャスバルは父様とお話した後、蜜水を持っていく筈だったんだよ。」

ハインリッヒはキャスバルに目配せすると、キャスバルは小さく頷いた。

「あぁ、父上と話が済んだら持っていこうと思ってたんだ。だからエリーゼ、そんなに泣いたら私の方が心配してしまう。」

真っ赤になってしまった目がキャスバルを見つめた。

「ほんとう?よかった。キャス兄さまとレイにちゃんとしたのつかってほしかったの。でも、おはなしってなぁに?」

泣き止んで、父と話をしたことで心配事が無くなったのか、いつもの調子になってきた。

「あぁ、この蜜水を民に広めるための話し合いだよ。父上だけじゃなくて、私も一緒に行いたいと申し出たとこなんだが……」

エリーゼの顔が花が咲くように綻び、お日様のように輝いた。

「すてきです!父さまとキャス兄さまがてとてをとりあってひろめるとか、すてきです!」

エリーゼの夢見るような発言に、どう返せば良いのか困ってしまうキャスバル。

「だが、どうするとか決まってないんだよな……」

小さく呟いたつもりだが、エリーゼは聞き取っていた。

「ん?ん~?………母さまはていこくに、父さまはきぞくに……キャス兄さまは……それいがい?」

エリーゼ、何を言ってる?
キャスバルは妹の発言に、さらに困惑した。
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