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旅立ちの日 そして残された者達
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私の名前はゼノス・フォン・グレゴリー、シュバルツバルト侯爵王都邸の執事だ。
昼食が済んで、旦那様をはじめご家族の皆様がこの邸から旅立たれた。
一緒に上級使用人の皆様とシュバルツバルト領出身の者達の殆どと、護衛騎士達など多くの者が旅立った。
残された使用人の殆どは王都民だ、彼等彼女等はこれを機に解雇されるのでは?と不安がっていたが邸の維持には解雇なぞ出来なかった。
私は旦那様方のお部屋の指示を出し、今まで使っていたお部屋の数々を見て回る。
書庫やサロン、客室に食堂……賑やかだった……この一月は本当に賑やかだった。
毎日毎日エリーゼ様があっちに行ったりこっちに行ったりなさって、本当なら不名誉極まりない婚約破棄を気になさる事無く笑顔でお過ごしになられた。
訪れる部屋での楽しい日々を思い出して切なくなるが、主無き日々は使う事は許されない。
私は次々とお部屋の鍵を掛けていく、時折メイドとすれ違うが皆泣きそうな顔で後始末に奔走する。
皆、楽しかったのだ。
私だけでは無く、皆……料理人も庭師もメイド達も厩番も洗濯女も誰も彼も楽しかったのだ。
私達は片付け、鍵を掛けた。
そして粗方の始末が済む頃には、外は夕日に染まっていた。
私達、使用人は別棟の館で生活しており通いの者達はこちらでお仕着せに着替えたり休憩したり食事をとったりしていた。
いつも夕刻には使用人棟で連絡事項のやり取りの為に集まっていた、きっと今日も集まるだろう皆が集まったらこれからの事を話さなければいけない事がある。
私は皆が集まる食堂で待っていた。
次々と姿を現す使用人達は、私の姿を見て驚き仲の良い者同士が固まってヒソヒソと小声で話している。
それ程待つ事無く、邸に残った者達全員が姿を現した。
「今日は皆、ご苦労だった。今日から旦那様をはじめご家族の方々も居ない事になるが、邸の維持管理には皆の協力が無くてはならない。旦那様から本日からの給金等のご指示があった事を伝える。………まず、旦那様からは仕事の変更を余儀なくされる者達がいる事でこれまでの給金から変わる事。特に洗濯の仕事が激減する為、他の仕事も覚えて欲しいとの事。メイドの仕事は人員が減ったので、そこに入って貰えると助かる。無論仕事の変更で給金が変わるが、そこは我慢してほしい。」
ざわついているが、それは織り込み済みだ。
「あのぅ……給金が減っちまうと、暮らすのもままならないんです…………どうにか………」
洗濯女の一人が、おずおずとだがこの先の事を不安がって聞いてきた。
「基本的には給金は余り減らないが、旦那様からかなり空いた使用人棟の部屋を任されました。王都で部屋を借りてる者等に移り住んで良いと、仰られた……家族で移り住んでも良いとも仰ったが家族もと言う者は新たに雇用される事も視野に入れて入居してほしい。それから料理人達に言わねばならないのだが、材料の仕入れ先は新たに見つけて欲しい。これは今までの仕入れ先は全て旦那様達について領地に同道していったからだ、ただ領地から今まで送られて来た魚介類は同量来る事と更に肉類も送られて来る事が約束されている。………旦那様からの提案だが、裏庭の一部を開墾して野菜を育てても良いと仰られた……おそらく、この先更に食材は値が上がるだろうとの事だ……食料倉庫の鍵は私が管理しているので、料理人の皆さんで新たな料理長を選んで下さい。料理長と共に食料倉庫に一緒に行き、食材を一緒に出して来ます。今日は本邸の厨房に残っている食材をこちらに移動して頂いたと思いますが、明日はあちらの厨房の掃除をお願いします。食材は使用人で消費するよう、言いつかってます。……こちらで食事をとれない者は材料に限り持って帰る事を考慮している。」
使用人の顔を見回す……家族のいる者いない者……不安はあるが比較的落ち着いているのは領地から来ているが残った者達だ。
「女房と子供達を連れて来て良いんですかい?その……借家が家賃を上げるって話で困ってたんだ……その、女房にも出来る仕事とかあるんですか……?」
聞いてきたのは厩番の男だった、真面目な働き振りで馬達も懐いている好人物だ。
「勿論来て構わない、奥方にはメイドの手伝いでも雑用でも出来る事をやって貰う。給金は僅かだが出るし、食事も出るから少しは楽だろう。」
そう、食事だ………今、王都の物価は上がり続けていて平民は食料を手にするのも大変な状況になりつつある。
彼の言葉、私の返答で使用人達で通いの者達は次々と私にこの邸の使用人棟に引っ越して来る事を申し出てきた。
そして僅かだが、邸の為にと残ってくれた騎士や衛士達が使用人棟からエリーゼ様の専用護衛騎士団の宿舎兼訓練施設の別棟に引っ越す事を言い出してくれた。
厩が近い事、訓練施設があることが彼等には羨ましかったらしい。
使用人達とこれからの事を話し合い、粗方決まれば皆の顔は明るくなっていた。
「さぁ、ある程度決まったなら後は明日にしよう。新しい料理長は決まったかな?今夜から使用人達に腕前を奮って貰うが、期待している。」
動き出す料理人達、明日からの生活……私達はこれから、ここで新しい暮らしをしていく。
旦那様からは、何とか乗り切って欲しいと言われた。
旦那様………ハインリッヒ様、私は側近になれませんでした。
でもハインリッヒ様のお力になりたくて、頑張ってきました……アレクが妬ましいかと聞かれた時、私は妬ましいと答えました。
私はアレクの代わりにならない、だが王都邸の執事は私でなければならないと仰ってくれた。
「済まない」そう耳元で言われ、抱きしめられ心が震えた……その一言で……一言だけで私はここで生きていけれる。
昼食が済んで、旦那様をはじめご家族の皆様がこの邸から旅立たれた。
一緒に上級使用人の皆様とシュバルツバルト領出身の者達の殆どと、護衛騎士達など多くの者が旅立った。
残された使用人の殆どは王都民だ、彼等彼女等はこれを機に解雇されるのでは?と不安がっていたが邸の維持には解雇なぞ出来なかった。
私は旦那様方のお部屋の指示を出し、今まで使っていたお部屋の数々を見て回る。
書庫やサロン、客室に食堂……賑やかだった……この一月は本当に賑やかだった。
毎日毎日エリーゼ様があっちに行ったりこっちに行ったりなさって、本当なら不名誉極まりない婚約破棄を気になさる事無く笑顔でお過ごしになられた。
訪れる部屋での楽しい日々を思い出して切なくなるが、主無き日々は使う事は許されない。
私は次々とお部屋の鍵を掛けていく、時折メイドとすれ違うが皆泣きそうな顔で後始末に奔走する。
皆、楽しかったのだ。
私だけでは無く、皆……料理人も庭師もメイド達も厩番も洗濯女も誰も彼も楽しかったのだ。
私達は片付け、鍵を掛けた。
そして粗方の始末が済む頃には、外は夕日に染まっていた。
私達、使用人は別棟の館で生活しており通いの者達はこちらでお仕着せに着替えたり休憩したり食事をとったりしていた。
いつも夕刻には使用人棟で連絡事項のやり取りの為に集まっていた、きっと今日も集まるだろう皆が集まったらこれからの事を話さなければいけない事がある。
私は皆が集まる食堂で待っていた。
次々と姿を現す使用人達は、私の姿を見て驚き仲の良い者同士が固まってヒソヒソと小声で話している。
それ程待つ事無く、邸に残った者達全員が姿を現した。
「今日は皆、ご苦労だった。今日から旦那様をはじめご家族の方々も居ない事になるが、邸の維持管理には皆の協力が無くてはならない。旦那様から本日からの給金等のご指示があった事を伝える。………まず、旦那様からは仕事の変更を余儀なくされる者達がいる事でこれまでの給金から変わる事。特に洗濯の仕事が激減する為、他の仕事も覚えて欲しいとの事。メイドの仕事は人員が減ったので、そこに入って貰えると助かる。無論仕事の変更で給金が変わるが、そこは我慢してほしい。」
ざわついているが、それは織り込み済みだ。
「あのぅ……給金が減っちまうと、暮らすのもままならないんです…………どうにか………」
洗濯女の一人が、おずおずとだがこの先の事を不安がって聞いてきた。
「基本的には給金は余り減らないが、旦那様からかなり空いた使用人棟の部屋を任されました。王都で部屋を借りてる者等に移り住んで良いと、仰られた……家族で移り住んでも良いとも仰ったが家族もと言う者は新たに雇用される事も視野に入れて入居してほしい。それから料理人達に言わねばならないのだが、材料の仕入れ先は新たに見つけて欲しい。これは今までの仕入れ先は全て旦那様達について領地に同道していったからだ、ただ領地から今まで送られて来た魚介類は同量来る事と更に肉類も送られて来る事が約束されている。………旦那様からの提案だが、裏庭の一部を開墾して野菜を育てても良いと仰られた……おそらく、この先更に食材は値が上がるだろうとの事だ……食料倉庫の鍵は私が管理しているので、料理人の皆さんで新たな料理長を選んで下さい。料理長と共に食料倉庫に一緒に行き、食材を一緒に出して来ます。今日は本邸の厨房に残っている食材をこちらに移動して頂いたと思いますが、明日はあちらの厨房の掃除をお願いします。食材は使用人で消費するよう、言いつかってます。……こちらで食事をとれない者は材料に限り持って帰る事を考慮している。」
使用人の顔を見回す……家族のいる者いない者……不安はあるが比較的落ち着いているのは領地から来ているが残った者達だ。
「女房と子供達を連れて来て良いんですかい?その……借家が家賃を上げるって話で困ってたんだ……その、女房にも出来る仕事とかあるんですか……?」
聞いてきたのは厩番の男だった、真面目な働き振りで馬達も懐いている好人物だ。
「勿論来て構わない、奥方にはメイドの手伝いでも雑用でも出来る事をやって貰う。給金は僅かだが出るし、食事も出るから少しは楽だろう。」
そう、食事だ………今、王都の物価は上がり続けていて平民は食料を手にするのも大変な状況になりつつある。
彼の言葉、私の返答で使用人達で通いの者達は次々と私にこの邸の使用人棟に引っ越して来る事を申し出てきた。
そして僅かだが、邸の為にと残ってくれた騎士や衛士達が使用人棟からエリーゼ様の専用護衛騎士団の宿舎兼訓練施設の別棟に引っ越す事を言い出してくれた。
厩が近い事、訓練施設があることが彼等には羨ましかったらしい。
使用人達とこれからの事を話し合い、粗方決まれば皆の顔は明るくなっていた。
「さぁ、ある程度決まったなら後は明日にしよう。新しい料理長は決まったかな?今夜から使用人達に腕前を奮って貰うが、期待している。」
動き出す料理人達、明日からの生活……私達はこれから、ここで新しい暮らしをしていく。
旦那様からは、何とか乗り切って欲しいと言われた。
旦那様………ハインリッヒ様、私は側近になれませんでした。
でもハインリッヒ様のお力になりたくて、頑張ってきました……アレクが妬ましいかと聞かれた時、私は妬ましいと答えました。
私はアレクの代わりにならない、だが王都邸の執事は私でなければならないと仰ってくれた。
「済まない」そう耳元で言われ、抱きしめられ心が震えた……その一言で……一言だけで私はここで生きていけれる。
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