婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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討伐の旅 34

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ここは……どこだ?……


色とりどりのバラが咲き誇る庭園……あぁ、母上のバラ園だ。


「今日は皆様良く来て下さいました。私のお気に入りのバラを眺めながらのお茶会、皆様も心行くまで楽しんで下さいませ。」

お茶会?……来ているのは高位貴族家の夫人と令嬢ばかり…………
あれは……母上が真っ直ぐ進む先に居るのはシュバルツバルト侯爵夫人?でも……そうだ、今よりも若いし傍らに居るのはエリーゼだ…………

「お母様、私バラを見てきてもよろしいですか?」

「俺が案内する!」

……これは、夢だ……エリーゼに声をかけたのは、俺だ。小さい頃の俺だ。

「ええ、行ってらっしゃい。」

「ジークフリート殿下、娘をよろしくお願いします。」

蕩けるような笑顔の母上、シュバルツバルト侯爵夫人も優しく微笑んでる。

「初めてお目にかかります。シュバルツバルト侯爵家令嬢エリーゼと申します。よろしくお願いします。」

「ジークフリートだ。俺のことはジークフリートと呼んで良い!」

キラキラと輝く青い銀髪、初めて見た夕暮れと同じキレイな青紫色の瞳。
母上自慢のバラみたいなピンクのくちびるに白い肌。
俺の好きなバラと同じ色の薄いピンクのドレス!ここに来ている令嬢の誰よりも可愛い!

「はい、ジークフリート様。」

声も鈴みたいにキレイだ!ずっと聞いていたい!

「あっちに母上自慢のバラがあるんだ!」

差し出した俺の手の上にちっちゃくてキレイな手が乗る。
握ったら、柔らかくってドキドキした。


……ああ、そうだ。思い出した。俺は初めてエリーゼを見て初恋を知ったんだ。嘘みたいにキレイで可愛くて……俺の初恋だったんだ。


「エリーゼは可愛いな!」

「ありがとうございます。ジークフリート様もカッコイイです。」

母上自慢のピンクのバラを見ながら褒めたんだっけ……
白い肌が少しピンク色になって……

「エリーゼ!将来俺と婚姻して、俺の正妃になって!」

「はい、ジークフリート様。」

はにかんだ笑顔、輝かしい春のバラ園……俺から言いだした事…………何で忘れてしまったんだろう。
すぐに母上とシュバルツバルト侯爵夫人に告げて、婚約したんだ……

冷たい……

冷たさに瞼を開け目をこらす。
ああ……夢だったな…………体を起こし、頬の冷たさを手の甲で拭う。
咲き誇るバラよりも美しかった。まるでおとぎ話に出て来るお姫様のような美しいエリーゼと婚約出来て誇らしかった。何故、その気持ちを無くしてしまったんだろう……そうだ……エリーゼが領地に帰って、俺は王子としての教育係が付いて……難しくって逃げた。逃げても逃げても、怒らなかった……『俺は王子なんだぞ!』たった一言、そう言うだけで誰も怒らなかった。
久しぶりに会ったエリーゼに俺は有頂天になった、だけどエリーゼが俺に分からない話を母上としだして嫌な気分になって……それからだった。母上は俺に相応しい正妃になるために努力していると言った。だから俺も努力為さいと。会う度に美しくなるエリーゼ、賢くなっていくエリーゼ……王子と言うだけで努力をしなかった。

夜に食べた干し肉も僅かな野菜の浮いたスープも腹を満たしてくれた。一人天幕に戻り寝た俺が見た夢は幼い頃……俺の初恋の夢だった。

俺は愚かだ……天幕をソッと出ていく。
麓を見れば、まだそれ程遅くない時間なのだろうか何人もの兵士が起きていた……ならば、シュタインと話が出来ないだろうか?
シュタインの天幕は知っているし、麓よりも少し上で俺の天幕からは近い。
ゆっくりシュタインの天幕へ近付く、もし寝ているのならば静かに戻る為に。

ーアッアッアッ!たいっ…ちょッソコォ!ー
ーハッハッ!ここか?ここだろ!ほらー
ーンヒィッ!ヒッ!もっ……もっぅ!ー
ーいいぞ!俺もそろそろ限界だ……ー
ーンヒィアッ!隊長!隊長!はやグゥッ!ー
ーいい子だ、そらァッ!ー
ーンヒィッハアッアーッアーッ隊長の来てルゥッ!アッアッ!アフゥッ……ー
ーふぅっ……良かったぞ。ー
ーんハァッ!俺もです……ふふっ……隊長、良かったんですか?ー
ー何がだ?ー
ー王子サマ。ー
ージークフリート殿下の事か。ー
ーそ。今回の討伐隊は全員こちら側です。ー
ーそうだな、だがおそらく殿下は何一つ知らされて無かっただろうな。ー
ーだとしてもー
ー殿下は幼い、驚く程に。普通ならば側妃様となられるお二人の事も考えれば、何かしら感じるものだが何一つ思いもしなかった。ー
ー側妃様?ー
ーああ、キンダー侯爵家とロズウェル伯爵家だ。どちらも塩街道を抱える高位貴族家だ。ー
ーそれが、何か?ー
ーある程度、領地間の事や他領の事を知り出すと分かる……あの側妃様の選出はエリーゼ様からの指名だそうだ。ー
ーは?ちょっと待って下さい!一体……ー
ー俺は兄上から聞いたが、兄上は側妃様のご実家から聞いたそうだ。エリーゼ様は何を思い考えていたのか……ー
ーなんか良く分からないけど、凄いって事は分かるな。ー
ー先々を考えておられたのだろう。もし逆であれば……と思ったよ。ー
ー逆?あぁ、エリーゼ様が男で王子サマが女だったらってこと?ー
ーそうだ。逆だったら、これ程の良縁は無かっただろう。ー
ー確かに!ー

聞こえた声に会話に俺はソロソロと後ずさり、一目散に自分の天幕に逃げ帰った。
頭の中がガンガンする。
俺は分厚い毛布を引っ被り目を閉じた。
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