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明けない夜に向かって 2 注意!このお話は少し未来のお話です!
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もはや行商人が行き交う事がなくなったドゥルテ領の街道を、荷馬車が進んでいく。
冬故の乾燥と雪でどこもかしこも閑散としていた。
だが通り過ぎる集落のあばら屋やや、みすぼらしく痩せ細った男達の姿が余計に侘しさを漂わせていた。
荷馬車はやがて領都へと辿り着いた。
荷台に積まれた荷物の中で最も目立つ棺桶は大きいが、特に飾りも無くいかにも平民の棺桶といった風情だった。
「おとっつぁんの様子はどうだい?」
「ピクリともしないよ。後は弟のグスタフを攫ってヒュージ領に入って姐さんに渡せば終わりだよ。ああ……いや、別の仕事もあるかも知れないけど、安心おし。」
「分かったよ。」
「さあ、あれがグスタフの屋敷だよ。」
夕暮れの中、荷馬車はドゥルテ男爵の庶出の弟グスタフの屋敷へと入って行く。
屋敷にはいかにもな風体の男達がうろついて、警護しているようだった。
「おい!お前達、ここがどこだか分かってて来たのか!」
男達の中から、一人厳つい男が出て来て声を掛けてきた。
「へえ、おらのおとっつぁんが生前ここの男爵様にお世話になってて田舎に帰りたいっておとっつぁんの希望で店を畳みまして……男爵様の屋敷にも、ご挨拶に伺って生業だったワインをお納めてきたんです。田舎に帰る途中でドゥルテ領を通るって言ったら、弟様にも持って行って欲しいと仰られて……お邪魔だったでしょうか?」
「ワインか、ちょっと待ってろ。ところで、どんなワインなんだ?」
「おい、お前後ろから一本持たせてやってくれ。安いヤツだぞ。」
「あいよ。うちの店で安かったヤツなんで、ちょいと他所では高くてねぇ……待ってておくれ。」
女はイソイソと荷台に潜り込んで行くと、一本のワインを持って御者台に出て来た。その手に握られたワインはちょっとしたお貴族様が飲む高級ワインだった。
「おいおい、こいつが安いヤツなのかよ。じゃあ待ってろ。」
グスタフの屋敷の外をうろついていた男はワインを持って、グスタフの屋敷へと入って行く。
荷台の棺桶には大きな毛織物がかけられ、まるで寝台のように何枚もの毛布が畳んで乗せられていた。
ワインを入れた木箱が幾つも乗せられていた。
屋敷に入った男と一緒にいた男達は、ワインと聞いて気もそぞろだった。何せ、最近はうんと安いワインですら高騰して平民が口にする事は難しくなってしまったからだ。
「あの、よろしければこちらのワインを飲みますか?」
そう女が言うと男達は少々迷ったが、女がポンとワインの栓を開けて木のコップにトクトクと紫色の液体を注いで差し出してしまえば近くにいた男はあっさり受け取りゴクゴクと気前良く飲み干しコップを女に返した。
「こいつは、美味い!悪いなぁ、ご馳走になっちまって。」
「良いんですよぅ。もう、店は畳んじまって売れなくなったワインを買ってくれる客も居なくなっちまって……飲んで貰えればありがたいってもんですよ。」
そう言いながらトクトクとコップに注いでは、違う男に差し出す。こうなると、男達は我も我もと並び次々とワインを飲み干していった。
「おお!待たせたな!グスタフ様が是非ともって仰ったぞ、久しぶりの上物のワインだと大喜びだ。早速持って行ってくれ。」
「良かったよぅ!あんた、早速持って行っておくれよ。」
女はいかにも上等そうなワインを立派な手提げの籠に三本入れると男に渡した。
「ああ、行ってくるよ。お前は馬を見ていてくれ。」
「はいよ。そっちの旦那も飲むかい?アタシは飲めないから飲んでくれると嬉しいんだよ。」
女はポンポンと安いと言ったワインを次から次へと開け、コップにドンドン注いで渡す。
屋敷に入った男もワインの香りに誘われ、渡されたワインを一気に飲み干すと気分が良くなったのかもっともっとと女にせがんだ。
女は嫌な顔一つせず、請われるまま飲ませた。
…………男達全員がたらふく飲んで、その場でトロトロと寝入るまで長い時間は掛からなかった。
「そっちも良いあんばいだな。こっちも皆寝入ったぞ。」
「じゃあ、運んじまうか。悪いねぇ、あんた達はこのままたんと寝ていておくれ。」
女は男達に声を掛けると、毛布を一枚手に取ると足音も立てずに屋敷に駆け込んだ。
男は御者台の乗り込み、荷馬車を玄関に横付けにした。
やがて女は丸々とした毛布を、何か軽い物でも入っているかのように引き摺ってくると男と一緒に荷台に乗せた。
そして夜の帳が降りた中、荷馬車は街道を走って行く。
誰の目にも止まる事無く…………
冬故の乾燥と雪でどこもかしこも閑散としていた。
だが通り過ぎる集落のあばら屋やや、みすぼらしく痩せ細った男達の姿が余計に侘しさを漂わせていた。
荷馬車はやがて領都へと辿り着いた。
荷台に積まれた荷物の中で最も目立つ棺桶は大きいが、特に飾りも無くいかにも平民の棺桶といった風情だった。
「おとっつぁんの様子はどうだい?」
「ピクリともしないよ。後は弟のグスタフを攫ってヒュージ領に入って姐さんに渡せば終わりだよ。ああ……いや、別の仕事もあるかも知れないけど、安心おし。」
「分かったよ。」
「さあ、あれがグスタフの屋敷だよ。」
夕暮れの中、荷馬車はドゥルテ男爵の庶出の弟グスタフの屋敷へと入って行く。
屋敷にはいかにもな風体の男達がうろついて、警護しているようだった。
「おい!お前達、ここがどこだか分かってて来たのか!」
男達の中から、一人厳つい男が出て来て声を掛けてきた。
「へえ、おらのおとっつぁんが生前ここの男爵様にお世話になってて田舎に帰りたいっておとっつぁんの希望で店を畳みまして……男爵様の屋敷にも、ご挨拶に伺って生業だったワインをお納めてきたんです。田舎に帰る途中でドゥルテ領を通るって言ったら、弟様にも持って行って欲しいと仰られて……お邪魔だったでしょうか?」
「ワインか、ちょっと待ってろ。ところで、どんなワインなんだ?」
「おい、お前後ろから一本持たせてやってくれ。安いヤツだぞ。」
「あいよ。うちの店で安かったヤツなんで、ちょいと他所では高くてねぇ……待ってておくれ。」
女はイソイソと荷台に潜り込んで行くと、一本のワインを持って御者台に出て来た。その手に握られたワインはちょっとしたお貴族様が飲む高級ワインだった。
「おいおい、こいつが安いヤツなのかよ。じゃあ待ってろ。」
グスタフの屋敷の外をうろついていた男はワインを持って、グスタフの屋敷へと入って行く。
荷台の棺桶には大きな毛織物がかけられ、まるで寝台のように何枚もの毛布が畳んで乗せられていた。
ワインを入れた木箱が幾つも乗せられていた。
屋敷に入った男と一緒にいた男達は、ワインと聞いて気もそぞろだった。何せ、最近はうんと安いワインですら高騰して平民が口にする事は難しくなってしまったからだ。
「あの、よろしければこちらのワインを飲みますか?」
そう女が言うと男達は少々迷ったが、女がポンとワインの栓を開けて木のコップにトクトクと紫色の液体を注いで差し出してしまえば近くにいた男はあっさり受け取りゴクゴクと気前良く飲み干しコップを女に返した。
「こいつは、美味い!悪いなぁ、ご馳走になっちまって。」
「良いんですよぅ。もう、店は畳んじまって売れなくなったワインを買ってくれる客も居なくなっちまって……飲んで貰えればありがたいってもんですよ。」
そう言いながらトクトクとコップに注いでは、違う男に差し出す。こうなると、男達は我も我もと並び次々とワインを飲み干していった。
「おお!待たせたな!グスタフ様が是非ともって仰ったぞ、久しぶりの上物のワインだと大喜びだ。早速持って行ってくれ。」
「良かったよぅ!あんた、早速持って行っておくれよ。」
女はいかにも上等そうなワインを立派な手提げの籠に三本入れると男に渡した。
「ああ、行ってくるよ。お前は馬を見ていてくれ。」
「はいよ。そっちの旦那も飲むかい?アタシは飲めないから飲んでくれると嬉しいんだよ。」
女はポンポンと安いと言ったワインを次から次へと開け、コップにドンドン注いで渡す。
屋敷に入った男もワインの香りに誘われ、渡されたワインを一気に飲み干すと気分が良くなったのかもっともっとと女にせがんだ。
女は嫌な顔一つせず、請われるまま飲ませた。
…………男達全員がたらふく飲んで、その場でトロトロと寝入るまで長い時間は掛からなかった。
「そっちも良いあんばいだな。こっちも皆寝入ったぞ。」
「じゃあ、運んじまうか。悪いねぇ、あんた達はこのままたんと寝ていておくれ。」
女は男達に声を掛けると、毛布を一枚手に取ると足音も立てずに屋敷に駆け込んだ。
男は御者台の乗り込み、荷馬車を玄関に横付けにした。
やがて女は丸々とした毛布を、何か軽い物でも入っているかのように引き摺ってくると男と一緒に荷台に乗せた。
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誰の目にも止まる事無く…………
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