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新しい料理!?だと…… 注意!ちょっと過去の話です!
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「おい!奥様の侍女殿の鳥は来たか?」
シュバルツバルト領・領都にある領主館の料理長は領主館を取り仕切る執事であるハインツに向かって慣れ親しんだ口調で聞いた。
「ああ、来た。これが手紙になるが、報告だけじゃなくてな……」
些か微妙な顔で料理長に手紙が差し出される。そこには僅か数行の報告と残り半分以上が自慢話だった……主に初めて食べる料理の数々と新しい食材等の事だった。
この自慢話を読み出した料理長の顔が赤くなって行くのをハインツは少しだけ青い顔で見ていた。
「む……むむぅ……あのエリーゼ様が……」
全てを読み終えた料理長の顔はどこか懐かしむような憧れを宿した瞳で遠くを見ていた。
「まだまだ若い者に負けており訳にはいかんな。新しい料理を覚えて、旦那様方を満足させんとな!」
普段は飄々とした男だが、こと料理になれば熱く滾る男だ。こんな僅かばかりの情報では何一つ想像出来ず内心ではエリーゼ様の元に行きたくて堪らないだろう……とハインツは思った。ハインツの思いは間違ってなかった。料理長はこの領主館から飛び出し、エリーゼに纏わり付いて新しい料理や食材等を教えて貰いたかった。
思いも寄らない事を思い付き、とりあえずやってみると言う常に新しい物を求めているかのようなエリーゼの貪欲とも見られる探究心を料理長は大変好ましく又見習うべき事と思っていた。
「料理長のお気持ちは分かりますが、間違っても馬をかっぱっらって街道をひた走る様な真似はしないでいただきたい。」
バッ!とハインツを見た料理長は目を見開き、口は僅かに開いていた。自分の間抜け面を自覚した料理長は直ぐさま顰めっ面になりコホンと一つ咳払いをした。
「若くないんだ。そんな真似はせん。」
「どうだか。若かったらやったと白状したようなものじゃないですか。」
ハインツの突っ込みにハハハ……と笑った料理長だが、若かったら本当にやったな……と真顔になった。
「ジムのヤツめ……だが、料理長の座は明け渡せんな!」
「そのいきですよ。きっとエリーゼ様の事です、お帰りになった際はお料理を振る舞うでしょう。その時に色々教えて下さいますよ。きっとね!」
ハインツはバチリと料理長にウインクすると、料理長の手にある手紙を優しくもぎ取りクルクルと巻いて細い青いリボンで縛る。
「じゃあ、厨房に戻る。」
「私も仕事がありますからね、又後ほど。」
二人は軽く拳を付き合わせると各々の仕事場へと踵を返した。
シュバルツバルト領・領都にある領主館の料理長は領主館を取り仕切る執事であるハインツに向かって慣れ親しんだ口調で聞いた。
「ああ、来た。これが手紙になるが、報告だけじゃなくてな……」
些か微妙な顔で料理長に手紙が差し出される。そこには僅か数行の報告と残り半分以上が自慢話だった……主に初めて食べる料理の数々と新しい食材等の事だった。
この自慢話を読み出した料理長の顔が赤くなって行くのをハインツは少しだけ青い顔で見ていた。
「む……むむぅ……あのエリーゼ様が……」
全てを読み終えた料理長の顔はどこか懐かしむような憧れを宿した瞳で遠くを見ていた。
「まだまだ若い者に負けており訳にはいかんな。新しい料理を覚えて、旦那様方を満足させんとな!」
普段は飄々とした男だが、こと料理になれば熱く滾る男だ。こんな僅かばかりの情報では何一つ想像出来ず内心ではエリーゼ様の元に行きたくて堪らないだろう……とハインツは思った。ハインツの思いは間違ってなかった。料理長はこの領主館から飛び出し、エリーゼに纏わり付いて新しい料理や食材等を教えて貰いたかった。
思いも寄らない事を思い付き、とりあえずやってみると言う常に新しい物を求めているかのようなエリーゼの貪欲とも見られる探究心を料理長は大変好ましく又見習うべき事と思っていた。
「料理長のお気持ちは分かりますが、間違っても馬をかっぱっらって街道をひた走る様な真似はしないでいただきたい。」
バッ!とハインツを見た料理長は目を見開き、口は僅かに開いていた。自分の間抜け面を自覚した料理長は直ぐさま顰めっ面になりコホンと一つ咳払いをした。
「若くないんだ。そんな真似はせん。」
「どうだか。若かったらやったと白状したようなものじゃないですか。」
ハインツの突っ込みにハハハ……と笑った料理長だが、若かったら本当にやったな……と真顔になった。
「ジムのヤツめ……だが、料理長の座は明け渡せんな!」
「そのいきですよ。きっとエリーゼ様の事です、お帰りになった際はお料理を振る舞うでしょう。その時に色々教えて下さいますよ。きっとね!」
ハインツはバチリと料理長にウインクすると、料理長の手にある手紙を優しくもぎ取りクルクルと巻いて細い青いリボンで縛る。
「じゃあ、厨房に戻る。」
「私も仕事がありますからね、又後ほど。」
二人は軽く拳を付き合わせると各々の仕事場へと踵を返した。
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