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炎弧の思いと思い出
「長様、娘御はどうなさいました?」
我が娘を人の子に託して里に戻って暫くした時に我の配下の者に問われた。
「ここの領主の娘に託した。」
「なんと!人の子に託されたと!そのような事を何故なさった!」
全く煩い奴じゃ……
「若い内に然るべき人の子と共に過ごすのは良い事じゃ。我とて幼い頃は人の子……人の子じゃと思うが母上より託され、人と過ごしたものじゃ。」
一様に驚く者達の顔を見て、くつくつと笑う。
「うんと昔じゃが、母上も人と過ごしておった。」
ざわついていたが、この場に居る者達は我の母上を知る者はおらぬ。何故かは知らぬが我はうんと長生きなのじゃ。誰にも言うとらんが、母上も実は健在じゃしな。
「それでも……それでも次の長となる娘御を!」
「黙りや!我も母上も侮辱するのかや!」
我の叫びに皆、ひれ伏し怯えてしまった。いかんいかん、言いすぎたようじゃ。
「とにかくじゃ。託した以上、我等が余計な事をするのは憚られると心に刻むのじゃ。良いな!」
言いたいだけ言って、我の住処としている大木の洞にさっさと潜り込む。
小煩い事なぞ言われたくないわ!一番寂しいのは我なのじゃ!長いこと授からなんだ子を送り出す事の辛さに母上も苦しんだのかと思うと胸が締め付けられるようじゃ。
カサカサと洞に溜まった木の葉に残る娘の匂いに切なくなる。娘の匂いの残る木の葉の中に横たわりうんと匂いを嗅ぐ。何故託したのじゃろう?送り出したのじゃろう……我の可愛い娘……
カサリ……
「茶々。聞いたよ、娘御を人の子に託したと。」
「うむ……何故かは分からぬが、預けねば……託さねばならぬと感じたのじゃ……我にも分からぬ。今はこんなにも寂しく辛いのじゃ……」
「何か感じたんだね。私には分からない事なんだね。私に出来るのは茶々の側に居ることだけだよ。」
「もっと……もっと近う……」
そっと寄り添ってくれる今の夫にもたれる。どれ程の連れ合いと過ごしたじゃろう……どんどん老いては亡くなり、寂しさ故に我は新しい連れ合いを迎えて過ごして来た。長い間授からなんだ子……きっと我と同じように名を与えられ過ごしておるじゃろう。我の幼き頃のように、うんと愛情を注がれておるじゃろうか?……不思議とあの人の子は我に名を与えてくれた片に似ている気がする。
「茶々!離れていても、私達の絆は消えない!だから、寂しくなったら私の名を呼べ!」
会いたい……会って、あの優しい手で撫でてほしい……この里で別れた時の声は今まで何度もよみがえった。
あれから数日、我はこっそりとあの赤い小さな社と呼ばれる場所に行き小さな小さな声で呼んだ。
「マーユ様……」
誰にも聞こえない声で呟いた筈だった。
「茶々、うんと久しぶりだね。」
懐かしい声!我を撫でる優しい手!何一つ変わらぬ姿にポロポロと涙が溢れる。
「茶々は寂しがり屋なんだから、もっと呼びなよ。呼ばれないと、来れないんだからさ。ここはちゃんと印があるんだからね!」
良く分からない事を言われたが、呼べば来てくれると……もっと呼べと言われて嬉しくなった。沢山名を呼ばれ、傍らで撫でられ寂しさが少しだけ無くなった。
「いつかちゃんと帰ってくるよ。だから大丈夫。私も呼ばれれば来るんだから、いつでも呼んで!向こうでダッキちゃん待ってるから行くけど、茶々もお母さんに会いたくなったら一緒に呼んでね!じゃあ、またね!」
「またじゃ!ま……主様!」
「うん!」
社の前で忽然と姿を消してしまわれた。良く分からぬが、うんと遠い場所から一瞬で来れるらしい。
……そうか、母上も元気なんじゃな。
我は社の扉から潜り込んで里へと向かう。メソメソしていたら娘も心配するじゃろうからな!
我が娘を人の子に託して里に戻って暫くした時に我の配下の者に問われた。
「ここの領主の娘に託した。」
「なんと!人の子に託されたと!そのような事を何故なさった!」
全く煩い奴じゃ……
「若い内に然るべき人の子と共に過ごすのは良い事じゃ。我とて幼い頃は人の子……人の子じゃと思うが母上より託され、人と過ごしたものじゃ。」
一様に驚く者達の顔を見て、くつくつと笑う。
「うんと昔じゃが、母上も人と過ごしておった。」
ざわついていたが、この場に居る者達は我の母上を知る者はおらぬ。何故かは知らぬが我はうんと長生きなのじゃ。誰にも言うとらんが、母上も実は健在じゃしな。
「それでも……それでも次の長となる娘御を!」
「黙りや!我も母上も侮辱するのかや!」
我の叫びに皆、ひれ伏し怯えてしまった。いかんいかん、言いすぎたようじゃ。
「とにかくじゃ。託した以上、我等が余計な事をするのは憚られると心に刻むのじゃ。良いな!」
言いたいだけ言って、我の住処としている大木の洞にさっさと潜り込む。
小煩い事なぞ言われたくないわ!一番寂しいのは我なのじゃ!長いこと授からなんだ子を送り出す事の辛さに母上も苦しんだのかと思うと胸が締め付けられるようじゃ。
カサカサと洞に溜まった木の葉に残る娘の匂いに切なくなる。娘の匂いの残る木の葉の中に横たわりうんと匂いを嗅ぐ。何故託したのじゃろう?送り出したのじゃろう……我の可愛い娘……
カサリ……
「茶々。聞いたよ、娘御を人の子に託したと。」
「うむ……何故かは分からぬが、預けねば……託さねばならぬと感じたのじゃ……我にも分からぬ。今はこんなにも寂しく辛いのじゃ……」
「何か感じたんだね。私には分からない事なんだね。私に出来るのは茶々の側に居ることだけだよ。」
「もっと……もっと近う……」
そっと寄り添ってくれる今の夫にもたれる。どれ程の連れ合いと過ごしたじゃろう……どんどん老いては亡くなり、寂しさ故に我は新しい連れ合いを迎えて過ごして来た。長い間授からなんだ子……きっと我と同じように名を与えられ過ごしておるじゃろう。我の幼き頃のように、うんと愛情を注がれておるじゃろうか?……不思議とあの人の子は我に名を与えてくれた片に似ている気がする。
「茶々!離れていても、私達の絆は消えない!だから、寂しくなったら私の名を呼べ!」
会いたい……会って、あの優しい手で撫でてほしい……この里で別れた時の声は今まで何度もよみがえった。
あれから数日、我はこっそりとあの赤い小さな社と呼ばれる場所に行き小さな小さな声で呼んだ。
「マーユ様……」
誰にも聞こえない声で呟いた筈だった。
「茶々、うんと久しぶりだね。」
懐かしい声!我を撫でる優しい手!何一つ変わらぬ姿にポロポロと涙が溢れる。
「茶々は寂しがり屋なんだから、もっと呼びなよ。呼ばれないと、来れないんだからさ。ここはちゃんと印があるんだからね!」
良く分からない事を言われたが、呼べば来てくれると……もっと呼べと言われて嬉しくなった。沢山名を呼ばれ、傍らで撫でられ寂しさが少しだけ無くなった。
「いつかちゃんと帰ってくるよ。だから大丈夫。私も呼ばれれば来るんだから、いつでも呼んで!向こうでダッキちゃん待ってるから行くけど、茶々もお母さんに会いたくなったら一緒に呼んでね!じゃあ、またね!」
「またじゃ!ま……主様!」
「うん!」
社の前で忽然と姿を消してしまわれた。良く分からぬが、うんと遠い場所から一瞬で来れるらしい。
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