婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

文字の大きさ
707 / 756

婚約者 (キャスバル)

しおりを挟む
母上からの言伝で国境まで婚約者のご令嬢を迎えに行く事になった。
母上の持つ情報源の凄さは知っているが、まさかまさかである。
いつでも不測の事態に備えてはいたが、今日の明日で出発するとは思わなかった。
サッサと愛馬に跨がり、早朝自分の部隊を引き連れての出発。いつもと違うのは空の馬車を連れての旅と言う事と討伐した魔物用の荷馬車が一台のみということ。
帝国の普通の馬車では魔物に襲われ、食い散らかされるのがオチだからこそ我等シュバルツバルトの魔物に襲われない様に魔物除けを強化した馬車を用意した。
自分の婚約者になるご令嬢を無事領都の我が家に連れて来なければ、厳格な父上はもとより母上の氷の様な冷え切った刃を突きつける様な眼差しで見られる事になったら目も当てられない。
父上の次に母上の怖さを身に染みて分かってるのは自分だと思っている。
自分の婚約を決めた母上の思惑に長いこと気が付かなかったが、ここに来て母上が独立を望んでいるとは夢にも思わなかった。
だが考えてみれば、独立と言っても元々別々の国が合わさって成り立った王国が元に戻るだけだと思えば別段気にする事でも無いかと思った。
広大な領地の半分以上は人が住むには不適合な大型の魔物の餌場(大草原)だ。
普通の人間ならば大草原に立ち入るのは死を意味するだろうが、薬草や草食性の魔物を狩り生活する冒険者だっている。
何も大型目当てで立ち入る訳じゃない。草食性の魔物の肉は柔らかく、クセが無くて食べやすい。
皮や骨も素材となるから人気と言えば人気だ。何せそれなりに大きいからだ。
集団で行動してるから狩るのも楽だ。ただ、大草原の内側にかなり入り込まなければいけないのが難点なだけで。
討伐目的では無い故に隊列の進みは早い。無論、道中目の前に出て来たり襲ってこようモノならば即座に斬り伏せてしまえば良い。
旅程は通常の討伐の時と比べると早い。天幕は仕方ないが食糧と討伐した魔物用の荷馬車の少なさがかなり大きい。
やはり山篭もりとは違う。それは隊員達の気分や態度にも出ていた。

「隊長!もう少し行けば村ですね、いやぁこんなに早いと目的の谷までそんなに日数がかからないんじゃないんですかね?」

副隊長の明るい声が隣から聞こえる。
隊列の先頭を四頭の騎馬で進んでいるのだが、左から副隊長・俺・レイ・副隊長補佐と並んでいる。
普段の討伐ならば明るい内に野営地で早々に野営準備に入るが、今回は迎えの旅故に野営をしない方向で旅程を組んでいる。
婚約者の令嬢を連れて領都を目指す以上、使う街や村に先触れを出しておかなければならないからだ。

「かからない方が良いに決まってる。向こうがどれ位の日数で来るのか分からない以上早めに到着して準備出来てる方が良い」

「そりゃそうだ!」

そう言って笑った声に話しが聞こえた隊員達からも笑い声が上がり、話しが聞こえない隊員達にも笑い声は伝播した。

「大分日が沈んで来ましたね……」

「ああ、だが村も見えて来たし日が沈みきる前には到着するだろう」

たとえ日が沈みきったとしても、村の灯りがあるし大丈夫だろう。

「でも村だと全員は寝れんですな……」

「広場で天幕を張れば良いだろう。どこの村でも中央に大きい広場があるように作られてるのだからな」

「そうですね」

そんな話しをしてる間に先頭である俺達は村の入り口に到着した。
即座に副隊長が入り口の番をしている男に説明を始めると、破顔しペコリと頭を下げた。
騎乗したまま村に真っ直ぐ入って行けば中央広場へと進む。
遠くから初老の人物が走って来るのが見える。副隊長が馬から降りて村長らしき人物はと近付き、何か話しながらこちらに向かって来る。

「どうも!村長のレグザです。今日はこちらで一夜を過ごされると聞きました。馬達は外壁近くに馬場があるので、そちらに連れて行って貰えるでしょうか?」

「馬場があるのか。それは助かる、苦労をかけるが宜しく頼む」

「はいっ!小さいながらも宿もあります、どうか使ってやって下さい」

村長の言葉に頷いて馬から降りる。

「案内を」

「はっ!こちらでございます!」

走り寄って来た隊員に愛馬の手綱を預け、俺は村長の方へと歩く。
無論、レイを始め副隊長や副隊長補佐も着いてくる。
まずは宿の確認をしてから、泊まれるだけ泊まって……お金を使ってやらないとな……
そうして案内された宿は十名泊まれる宿で、行商人もいない事から全室泊まる事にした。
人選は副隊長に任せ、俺とレイはそのまま宿の一室に案内して貰った。
食事に呼ばれるまで、部屋の中で地図を広げ確認作業をする。

コンコンコン

軽やかなノックはおそらく副隊長だろう。

「失礼します」

「ああ」

入って来たのは副隊長で、副隊長補佐も後ろを着いてきている。
そのまま歩いて地図の前まで来ると、ピタリと止まって地図を覗き込む。

「かなり進みましたね」

「ああ、予定通りだ。少し早めに着いて、馬達を休ませる。勿論、俺達にも休息は必要だろう?」

「そうですな」

副隊長も副隊長補佐も頷いて笑う。
隣にいるレイもクスクスと笑っている。
規定通りに宿の部屋を埋め、宿で食事を取り眠る。
宿に泊まれなかった残りの隊員達は広場に天幕を張り、村の店から買えるだけ食事(食料)を買って食べる。
こうして村で一夜を過ごし、翌朝朝食を済ませてから出立する。
皆、きちんと休まったのか朝から元気だった。
俺達は隊列を組みながら村を出て、一路国境へと向かった。
しおりを挟む
感想 3,411

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...