婚約破棄されまして(笑)

竹本 芳生

文字の大きさ
44 / 1,517
3巻

3-1

しおりを挟む



   旅路は続く


 馬車は王都から領地へ向けてゴトゴト進んでいます。
 第三王子ジークフリート殿下の婚約者だった私、エリーゼ・フォン・シュバルツバルト……その期間としては十三年間。五歳で婚約者となり、領地でお母様に様々なことを教えてもらった。十歳で領地を出て王都にあるやしきに住みつつ、八年間王子妃教育を王宮で受けた。
 ムダな時間だったとは思っていない。知識教養も宮廷マナーもすべて身になったし、多くの貴族と会い、人脈を広げたのも結局は私の得になった。
 頼りない、子供みたいな第三王子。嫌なことはすべて逃げてきた、どうしようもない王子。
 それでも婚約者であれば逃げるわけにもいかない……彼を一生支えようと十歳のとき誓った。
 王子にはたった一度会っただけで告白され、婚約者となった。その後も数回会った王子様に恋をしたわけではなかった。それでも王子妃として、王国民のためにできるだけのことをしようと思った。
 でも王宮での王子に軽い失望感を覚え、自分ひとりではできることに限りがあることに気づいた。そこで領地も近く、友人であった貴族令嬢ふたり、アンネローゼとミネルバに助けを求めた。
 数回の手紙のやり取りで友人たちは第三王子の婚約者となった。
 多くの王族男子は正妃ひとりと側妃ふたりをめとる。何かあったときのため、そして複数いれば誰かが必ず子供を生むからだと、今ならわかる。
 妊娠出産は現代日本と母親の死亡率がほぼ変わらない。この世界に魔法があっても、ポーションなる万能薬があっても、亡くなる母親はそれなりにいる。
 正妃の私と側妃の友人ふたり。いずれ臣籍降下したとしても三人ならば王子を支えていける。
 そう思っていた……学園を卒業し、それを祝うパーティーで王子が私に婚約破棄を言い出すまでは。
 最悪だと頭の片隅で思う間もなく、ショックのあまり私は前世を思い出した。
 前世の気楽なおひとり様生活はあっけなく終わった。
 三十八歳で私は日本での人生を終え、この世界へと転生していたのだ。
 私と王子の婚姻は学園卒業の一ヶ月後に決まっていた。けれど卒業直後に婚約破棄され、乙女ゲームのように、実際にはよく知らない男爵令嬢(ヒロイン)が王子の隣にいた。
 王子とデキていた男爵令嬢はわけのわからないことをほざいていたけど、もうそんなことはどうでもよいと、私はさっさと退場した。ただ現場にいたお父様は激オコで、その場で領地に帰る宣言をした。
 あれよあれよという間にいろんなことが決まって、家族全員領地に戻ることになった。ただし王子の婚姻祝いのパーティーに出席してからになったけど。
 それでも一ヶ月間、王都で多くのことができたし、いろいろあった。一番大きな出来事は食に関すること。いわゆる飯テロだ。これまで塩味と素材の味だけだった食事が、一気に豊かになった!
 蜂蜜だけだった甘味はテンサイから作った砂糖で食後のデザートが進化……このデザートというか甘味がお母様を変えてしまった……お母様がものすごいスイーツ女子へと進化(笑)してしまったのだ。それもアンコ星人になった。
 婚姻祝いの場に来ていた帝国皇子のルーク殿下もまた転生者であることがわかり、意気投合。お祝いから帰ったら食べる予定の食事に惹かれ、我が家に来てよく知らないうちに私の次の婚約者になり、私たち家族と一緒に領地に来ることになった。
 第三王子と違って賢いし、軍馬より大きいシルヴァニア産の馬を乗り回すイケメン。しかも頭もよくって体も鍛えてて、どこをどう見てもモテてそう。リア充感バリバリな皇子様で文句のつけようがない!
 そんなイケメン皇子のルークは実は乙女ゲームの隠しキャラで攻略対象。本来なら、ヒロインに攻略されちゃう存在だけど、この世界はあくまで酷似した世界だ。
 監禁生活のヒロインが出会えるわけもなく、皇子様は私のところに来た。
 もっとも、緑の目を涙ではらし、鼻水で顔をグシャグシャにした皇子様はイケメンのイメージを吹っ飛ばしたけどね。
 婚約祝いの翌日、私たちは王都から旅立った。
 出発したのは、私たち一家に王都のやしきに勤めていた使用人たち。総数は、王都のやしきを無人にするわけにもいかないこともあって使用人の三分の二くらい、私たちのことを聞いた、やしきと取引きをしていた商人の家族や友人知人とその家族、婚姻のために来ていた寄子貴族(貴族家、使用人に護衛の人たち)に近隣の親しい貴族家(やっぱり使用人と護衛の人たち)。もう、この時点でかなりの人数なのだけど、領地からお兄様たちと一緒に私兵、大型と呼ばれる強く大きな魔物を討伐するエリート私兵『領主隊』が三部隊来ていた。
 彼らは一部隊百人以上の人数で構成され、その中に一番隊、二番隊……と、十の小隊がある。一番隊から三番隊までは精鋭中の精鋭で、隊長は一番隊がお父様、二番隊がキャスバルお兄様、三番隊がトールお兄様。今回はお父様と二番隊から四番隊まで来ている。
 この旅路は多くの貴族や一般人がいるため、無理はできない。安全に旅を進めるために、かなりゆっくり進んでいる。
 時間がかかるのはいい。
 それよりも王都の討伐隊が、私たちの真後ろについてきていることがなんとも引っかかる。
 普段は考えないようにしているけどね……はぁ……ツラツラ考えていたら疲れてきちゃった……眠……い……


 はっ⁉ メッチャ寝てた!
 ……あれ? 馬車は進んだかと思えば、すぐに止まってしまう……うーん? なんだろう?
 窓の外を見ると、騎乗しているルークがいた! ……けど、何かおかしい……

「アニス……起きて……」

 アニスは私のささやきでパチッと目を開け、パチパチと瞬きをする。
 アニスは私の幼い頃からついている専属侍女でスッゴイ可愛いんですよ!

「エリーゼ様……どうかなさいましたか?」

 いまだもたれたままアニスが聞いてくる。

「外の様子がおかしいの、ルークの表情が硬い。何かあったのかも」
「……ルーク殿下に聞いてみますか?」

 アニスも緊張した面持ちで確認をしてくる。

「呼んでちょうだい」

 アニスはコクリと頷くと、馬車の窓に近寄った。鍵を解錠し、窓を開ける。その音に気がついたのか、ルークが馬を回して近付いてきた。

「エリーゼ……済まない。すぐそこに小さな町があるんだが、町の者たちが通り抜けは困る、泊まってくれとうるさい。後続に王家派遣の討伐隊がいるから、彼らを泊めてくれと言っても納得しない。あぁ……ちょっと待ってくれ、伝令が来た。聞いてくる」

 そう言ってルークは伝令の近くへと馬を回してしまった。何人もの騎士や隊員が伝令に近寄り、細々とした話を聞いているようだ。
 ……何か、怒ってる?
 話を聞いたルークがこちらに近寄ってくるんだけど、顔がちょっとだけ怖くなっている。

「エリーゼ、シュバルツバルト侯は町を大きく迂回して野営すると決めた。すでに先頭は街道を外れ、動いている」
「えっ! ちょっと待って。大きく迂回するって、街道は町を通ってるのに? それじゃあ先頭は道を作って進んでるってこと?」

 疑問をそのままルークにぶつける。

「あぁ、侯が『らちがあかない!』とキレたらしい……そろそろ動くはずだ」

 お父様ったら! ヤンチャなんだから! でも、道を作ってって…………
 荒れ地を進むとなれば、馬の負担が大きくなる……迂回路作るくらい、私ならどぉってことない。

「ルーク、私を先頭に連れていって。草刈りは隊員に任せるけど、道っぽくするのは私がやりたい。無理はしないわ、お願い」

 ルークはチラと前方を見ると、ひとつ頷き「クワイを、扉の方にまわす」と言って黒くて大きい馬、クワイを回してくれる。
 私はアニスに「道作ってくる」と小さく呟くと、アニスも小声で「行ってらっしゃいませ」と言って窓を閉め、馬車の扉の鍵を開ける。
 立ち上がり窓の外を見ると、扉の近くまでクワイが来ていた。
 扉を開けると、目の前にクワイがつけられ、ルークが手を差し伸べてくる。
 待て待て! ルークの従魔のノエルがおるやないか!

「ルーク! ノエルを馬車に移すわ。こちらにちょうだい」

 私がそう叫ぶとルークがかけていたスリングの中からノエルはピョコッと頭を出す。

「いやにゃ! 主に、ついてくにゃ!」

 ノエルがルークにギュッとしがみついて、叫ぶ。

「そうにゃ! ボクもついてくにゃ!」
「主についてくにゃ!」

 タマとトラジも叫びました……そういや、立ち歩きネコって土属性の精霊だった……なら、力になるかも……
 ちょっと前にテイムした、魔物だと思っていた立ち歩きネコ。ただの二足歩行のネコだと思ったら違ったのよね。ちなみに私がタマ(白)とトラジ(トラ縞柄)、ハチワレで長毛のノエルをルークがテイムしたのよ!

「付いてくるなら、走ってくるかどうにかして。ノエル、聞こえたなら今決めてちょうだい」
「はしるにゃ!」

 ノエルはそう言うと、シュタッと華麗に地面に飛び降り、ルークを見上げている。
 私はルークの手を掴み、クワイの背に飛び乗る。
 鞍はどう見てもふたり乗り用に付け変えられていた。
 馬車を見ると、タマとトラジが馬車から飛び降りて、私たちを見ている。

「アニス! 留守番を頼んだわよ!」

 そしてルークは隊列の先頭へとクワイに蹴りを入れて走り出した。
 振り返って見れば三匹は四本足で駆け出したが、途中で土の中に消えた……潜行だっけ? あんな感じなのかな?
 シルヴァニア産の馬は巨体だが、駿馬しゅんめでスタミナもあるため、軍馬より長く走れる。クワイの力強い走りでグングン進み、動き出しているお父様の乗っている馬車まで来た。
 お父様は、青銀色の髪に青い瞳の美丈夫びじょうふ、というかイケオジで声も渋カッコイイ男性です! お母様とはラブラブですよ!
 そんなお父様の馬車の窓を覗いてみると中は空っぽで、馬車に繋いでいた馬が一頭減って七頭になっていた。

「ルーク、多分お父様は先頭にいる。中は空だったわ」
「わかった、行こう」

 再度クワイが走り出した後、ピョンッと三匹が土の中から出てきた。私たちの姿を見ると四本足で駆けてくる。
 やがて領主隊二番隊の前に飛び出る。目の前には数名の隊員たちとお父様が騎馬していた。


「お父様! 私にも手伝わせてください!」

 騎乗したまま、お父様は振り返ってニヤッと笑った。お父様、笑顔が黒いですわ!

「エリーゼ、いいところに来た。道を作れるか?」
「もちろんですわ。そのために来ました」

 ルークはクワイをお父様の隣に付けてくれました。
 前方で草やらやぶを魔法でガンガン切ったりなんだりしている隊員たちを見て、指先に魔力を集め、道を作る……と言ってもただ土をギュッと固めるだけですけどね! 重い馬車が沈まないようにするだけだし! ……でも……

「地上に残った草の根っことか邪魔だなぁ……」

 つい、ポロリと出てしまった……

「主! キレイにするにゃ!」
「なんにもはえてないようにするにゃ!」
「まかせるにゃ!」

 三匹が草の根をシュパシュパ取っていく……どうやら、地面の浅いところで根切りしてキレイにしているようです。私は土くれだけになった部分を固めていきます。


 ……ザッザッと進んでいたクワイの足音がカッカッになりました。なかなかのハイペースです。
 でもなんでこんなことになったのかしら?

「お父様、どうして迂回することになったのですか?」

 お父様の厳しい表情をチラチラ見ながら聞いてみた。

「町の連中は泊まって金を落としてもらいたかったんだろう。とにかく泊まれ泊まれとうるさくてな。宿屋の数や収容人数を聞いたら全然足りない。寄子貴族の者たちまでは泊まれる……が、使用人や領主隊、元王都民などは無理だ。ならば、野宿させればいいと言い出す始末でな。つい頭に来て、迂回して野営してやれと思ってな」

 それはちょっと頭に来るかも。ようは金払いのいい貴族だけ泊まれなんて……
 自分たちの都合だけで、通す通さないって言われるのは腹立たしい。
 迂回した場所は幸い平野で見通しもいい。荒れ地っぽい草原で、ところどころに小木がぽつぽつ生えてるだけだ。
 新たな道さえ作っておけば、街道利用者は使うんじゃなかろうか? ……てか、夕方に差し掛かってきたな……そうだ!

「お父様、この辺りで野営したらどうです? 道を作りながら進むより、野営の準備をする者と道を作る者とに分けて……」
「それはいい! 暗くなってからだと、野営の準備は負担が掛かるからな!」
「……ですね」

 あっさり乗ってきましたね。さすがお父様です。
 いくら町にお金を落としてもらいたくても、強要するのはどうかと思います! 腹立たしいのでよさげな休憩所を造ったらどうだろう?
 ちょっとくらい、魔力を使っても気にしない! 町が大事なのはわかるけど、融通するとかいろいろあるでしょ! 他に選択肢なしだと困る人、絶対いるでしょ! 冗談じゃない! 誰も彼もがお金を持ってるわけじゃないんだから!

「私、道を作っていきますから、野営の準備はお父様にお任せいたします」

 私たちはこのまま迂回路作りです。
 だって腹立たしいんですもの! お金にならなそうな者たちは町の外で一晩過ごせって何なのよ! そんなことして魔物に襲われたら、死んじゃうじゃないの! 大切なうちの領民を減らすとか、できるわけないじゃない! うちは他所よその領と違って、いつでも人手不足なのよっ!
 怒りに任せて日が暮れるまで、隊員とニャンコたちで街道に繋がるところまで道を作ってやりましたわ! まさかこんなに短時間でできると思いませんでした。魔法って便利!

「できちゃったわね。道を照らすので、野営地に戻りましょう。……ライト」

 バレーボールくらいの大きさの球体がフヨフヨと私の頭の上に現れ、優しい黄色の光を出す。

「ステータス!」

 そりゃ小っさい声で言いましたよ、あら? やだわ……結構頑張ってたけど、魔力は大して減ってないわ。

「エリーゼ、お疲れさま。魔力どう?」

 背中越しにルークが心配そうに聞いてきました。優しい!

「全然、大丈夫。ってか、思ったより魔力が減っていなくて驚いて……あっ!」

 キュッと抱きしめられ、心配そうな顔が私の顔を覗き込んでくる。

「どうした? 何かあったのか?」

 ちょっとドキドキしてしまう。

「……レベル上げたじゃない。減った魔力が戻るのが早くなって、ビックリしたのよ」

 一とか二ずつ戻るんじゃなくて、十ずつ戻るとか早くない? 早いよね! レベルが上がると元に戻る数値も変わるとか、レベル上げしちゃうよね! 便利過ぎる! 機会があればレベル上げに励もうっと!

「なるほど……ま、これからレベルを上げられるだろうから、楽しみだな」

 ルークが今度は少し浮かれた笑顔で言ってくる。

「そうね、そのときはよろしくね」

 ポクポクとクワイをゆっくり歩かせて戻る。
 野営地の灯りが見えてきました。昨日寄った村よりちょっと大きいだけの町のようです……石を使った防護壁があるだけ立派ですけどね!

「もう少しで野営地よ、気を抜かずに行きましょう!」

 おぉー! って声と一緒ににゃあー! って鳴き声も聞こえました。

「フフッ。なんだか、仲良しになったみたい」
「俺たちが?」

 ルークのボケた答えを聞いて、内心ガッカリする。何言ってるのよ……

「違うわよ。ニャンコたちと隊員よ」
「あぁ……さっき、声が揃っていたな。ん……風が冷たくなってきてる、大丈夫か?」

 そう言われてみると頬に当たる風は冷たいかも? でも首から下はポッカポカなのよね。

「大丈夫よ。この武装ね、氷の上を滑る大きな兎の魔物の皮からできてるから、寒さをあんまり感じないのよ」

 へぇ……と感嘆する声が聞こえたと思ったら、後ろから再びギュッとされました!

「確かにあったかい」

 ウエストに巻きつくルークの腕に手を添えてみる……

「エリーゼ、そんな可愛いことするなよ」

 耳元でささやかれました。イケメンめっ! ドキドキするわ!
 リアル乙女ゲーとか、トキメキすぎて困るわ! ちっくしょー!

「ボクもギュッてしてほしいにゃ……!」

 んっ? 今、ニャンコたちの誰かが抱っこ要求した!
 んー? わかんないな! こういうときはだね……

「いいよー、おいでー!」

 と言ってルークの腕に添えてた手を離して大きく広げる。さぁ! 誰が来る?
 ピョンッと飛び乗ってきたのはノエルでした。

「うれしいにゃ!」

 ルークのお供だけど、抱き締めてもいいよね? 軽くキュッと抱き締める。

「いいニオイがするにゃ! やさしいにゃ!」

 フフッ、可愛い~。ノエルは何かあどけないのよね。
 三角耳の後ろをコリコリと掻くと、気持ちよさそうに目を細め、クルクルと喉を鳴らす。

「ズルイにゃ!」
「そうにゃ!」

 タマとトラジが抗議してきました。二匹とも不機嫌そうに尻尾をブンブン振ってます。

「そうね、抱っこは無理だけど、ルークの背中にくっつくのはいいと思うわよ」
「やったにゃ!」
「のるにゃ!」

 そう言うとピョンッと二匹同時に飛び上がりました。

「おっ……と、ハハッ……二匹とも軽いな、しっかり掴まっとけよ」

 クワイも嫌がることなく進んでます。
 あれ? 昨日の野営地より広く場所を取ったのかな? なかなか到着しないわ……

「かなり広げて野営地をつくったな……」

 どうやらルークも同じ意見のようです。
 じゃあ、私は晩ご飯の準備に行こう! 魔力はほとんど元に戻ったけど、お腹は空くのよ!

「ルーク、私も中央広場に行って晩ご飯の準備に入りたいの。だからクワイから降りて行くわ。ありがとうね、クワイ」
「わかった、俺もクワイを繋げに行かなきゃならないしな。晩ご飯、期待している」

 私はノエルを抱っこしたままクワイから降り、ノエルをルークに手渡す。タマとトラジもピョンと飛び降りて私の足元に来る。

「じゃあ、また後で……って言いたいけど、晩ご飯に昨日狩った牙猪きばいのししの肉を使うから、なるべく早く来てね」
「了解、クワイを繋いだらすぐ行くよ」

 タマとトラジの軽い足音を聞きながら、私は大急ぎで中央の広場を目指して早歩きした。
 …………うん、広くとったなー…………

「おぉ! エリーゼ、来たか。道はできたか?」

 うん、お父様、ウキウキで聞いてきましたね。

「もちろん、できましたわ。コンロを作る前に、試したいことがありますの。よろしいかしら⁉」

 よろしいわよね、お父様……?

「おっ……おぉ……任せる」

 あら嫌ですわ、お父様ったらなんでそんな怯えた顔で頷かれるのかしら?
 まぁ、いいわ……調理場を屋根付きにしたいのよね。幸い簡易の魔物除けエリア内には人がいないから、やりやすいわ。
 お昼の時のことで皆、魔物除けの外側で待っていればいいと学習したようね……
 サクッと四阿あずまや風に造ったるわぁ!

「セイッ! …………セイッセイ! …………クックックッ…………ヨォシ…………これで四阿あずまや風にできたぞーい、後はコンロを二台…………セェイッ‼ 完成じゃあぁぁい!」

 はい、立派な四阿あずまや&コンロができましたぁ! 我ながらいい出来!
 コンロが二台あれば、片方で汁物とか作れるしね! 屋根付きだから雨が降っても大丈夫!
 おぉ~とかすごい! とか聞こえる……もっと言って! もっと褒めて!

「すごいにゃ!」
「さすがにゃ!」

 うん、タマとトラジがキラキラした目で私を見上げながら褒めてくれました。
 私の完成という言葉を聞いた料理長&料理人&使用人が中央広場にテーブルを組み立ててます。それも大きいのを三台……大鍋もゴンゴン置かれ、食器類もジャンジャン置かれています。料理長も料理人も王都のやしきから一緒に来た心強い私の仲間です。
 特に料理長にはいろいろとお世話になってます。大きな体にハスッぱな言葉使いですが、気にしません。
 ……もう、何かいろいろ面倒くさい……見られたって構うものか、『無限収納』からジャンジャン出そう。文句ある奴は、ぶん殴ってでも黙らす。私もテーブルの近くに行き、ワインをジャンジャン出す。

「料理長、米を出すので料理人にぎ方を教えてあげてちょうだい」

 返事も待たずに米を十キロ、大鍋に出す。それも都合三回、計三十キロ分。

「洗うのだけは、この大鍋でやってくれる? 誰か水魔法を使える人と一緒に行ってもらって」
「はいっ!」

 料理長は返事とともに、米の入った大鍋と料理人を引き連れて消えました。何か叫んでいたので、隊員たちに募集をかけていったのでしょう。
 気持ち大きい鍋をコトンと出して、赤味噌と砂糖と少しの椿油を出します。

「トラジ、ちょっとおいで」

 お玉を鍋の中に出してから、近寄ってきたトラジを抱き上げる。

「はい、トラジ。掻き回して」
「わかったにゃ! まかせるにゃ!」

 ニャオーンと歌いながら、掻き回しています……抱き上げてるので下半身がブリンブリン揺れています。目の前を尻尾があっちにフリフリ、こっちにフリフリ。
 そろそろかな? と思った瞬間、尻尾がピーンと真っ直ぐになりました!

「できたにゃ!」

 タイミングはバッチリ、以心伝心、甘い味噌ダレ完成です!
 トラジをヒョイと降ろして、テーブルにキャベツを出します……山盛りに出します……これでルークに牙猪の肉を出してもらって、薄切りにして炒めればホイコーロー的なやつができるはず!
 スープも鶏ガラにタマネギと溶き卵で中華風なら違和感ないでしょう!
 デザートは何か疲れたし甘い物にしよう……今からなら、小豆あずきを炊いてもいいかな? いいよね……


しおりを挟む
感想 5,674

あなたにおすすめの小説

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

治癒魔法で恋人の傷を治したら、「化け物」と呼ばれ故郷から追放されてしまいました

山科ひさき
恋愛
ある日治癒魔法が使えるようになったジョアンは、化け物呼ばわりされて石を投げられ、町から追い出されてしまう。彼女はただ、いまにも息絶えそうな恋人を助けたかっただけなのに。 生きる希望を失った彼女は、恋人との思い出の場所で人生の終わりを迎えようと決める。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

勝手にしろと言ったのに、流刑地で愛人と子供たちと幸せスローライフを送ることに、なにか問題が?

赤羽夕夜
恋愛
アエノール・リンダークネッシュは新婚一日目にして、夫のエリオット・リンダークネッシュにより、リンダークネッシュ家の領地であり、滞在人の流刑地である孤島に送られることになる。 その理由が、平民の愛人であるエディットと真実の愛に満ちた生活を送る為。アエノールは二人の体裁を守る為に嫁に迎えられた駒に過ぎなかった。 ――それから10年後。アエノールのことも忘れ、愛人との幸せな日々を過ごしていたエリオットの元に、アエノールによる離婚状と慰謝料の請求の紙が送られてくる。 王室と裁判所が正式に受理したことを示す紋章。事態を把握するために、アエノールが暮らしている流刑地に向かうと。 絶海孤島だった流刑地は、ひとつの島として栄えていた。10年以上前は、たしかになにもない島だったはずなのに、いつの間にか一つの町を形成していて領主屋敷と呼ばれる建物も建てられていた。 エリオットが尋ねると、その庭園部分では、十年前、追い出したはずのアエノールと、愛する人と一緒になる為に婚約者を晒し者にして国王の怒りを買って流刑地に送られた悪役王子――エドが幼い子を抱いて幸せに笑い合う姿が――。 ※気が向いたら物語の補填となるような短めなお話を追加していこうかなと思うので、気長にお待ちいただければ幸いです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。