婚約破棄されまして(笑)

竹本 芳生

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3巻

3-2

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 コンロに近付き薪をぶっ込んでいく。無詠唱でサクサク進める。
 大鍋を出して小豆あずきをぶっ込み、たっぷりと水を張る……コンロの薪に火を点けて炊いていく。
 脇に小鍋よりちょっとだけ大きい鍋を置いて水を半分だけ張る。アク取り用の鍋だ。お玉も入れておく。
 タイミングよく料理長たちが帰ってきたから、米を炊くための中くらいの鍋を出して移し替えてもらう。水を張った鍋を、小豆あずきを炊いているコンロの横に置いてもらい、火力のことも説明しコンロに付いてもらった。小豆あずきも炊き上がりそうなのでついでに頼んでおく。

「待たせた! いろいろ手間取った、悪い!」

 ルークが来た!

「いいから、肉出して! 料理長、薄切りよろしく!」

 パパっと説明すると、料理長はニヤッと笑って指示を出しながら切り刻んでいく。
 私はちょっと離れてタマネギと卵を出した。
 調理法を料理長に説明すると「おうっ!」と返事をしてくれた。後は全部任せておこう……

「エリーゼ様、お疲れ様です。どうします? 馬車で少し休みますか?」

 私の様子を見てアニスが声をかけてきた。
 馬車でか……それは、後でいいや……ご飯が気になるし。

「んー……ここらで見ながら休むわ。気になるし、お腹空いてるしね……」
「本当にお疲れなんですね……そんなに魔法をお使いになられたのですか?」

 アニスの気遣いが嬉しい。

「違うのよ、何て言うのかしら……町の言いように、怒ってしまって……そのことで、気の向くままに振る舞ったことを恥じているの。何か、そんな自分に疲れてしまったのよ」

 言葉にすると、よくわかる……でも、街道を通しているなら融通をきかせてくれてもいいのでは? 町民の暮らしもあるだろうけど、あんな風に止められるのは理不尽だわ……そんなふうに思っていると、プゥンと肉が炒められる匂いがしてきた。ほどなく味噌ダレの焼けるいい匂いが広がる。

「ホイコーローだぁ!」

 うん、ルークが叫びましたね。
 でもね、ルーク……そろそろ気がつこうか、ご飯が炊けてくる匂いに。
 私はコンロに近寄り、鑑定しながら米を炊いている鍋を見つめる。
 視界にチラチラ入るお父様とお兄様たち……待ち構えていますね! わかりますよ!
 料理長の作るホイコーローもジャンジャンできあがっています! 料理人の作ったスープもできてきました! じりじりと焦る気持ちを抑えて待ちます。
 少し焦げた匂い! よしっ! できたぁっ!

「米が炊けたわ! テーブルに持っていって。器に盛って上に味噌ダレで味付けしたホイコーローを載せてちょうだい‼」

 私の指示を聞いて料理人が動き出します。そして慌ただしく動くお父様! ……とお兄様たち……
 一番最初に受け取ったお父様は、それはそれは、とても嬉しそうでした。

「うーまーいーぞー‼」

 お父様の雄叫びが聞こえました。わかりやすくていいですね!
 料理人に小豆あずきの具合を聞くと、そろそろ砂糖が欲しいと言うので鍋にぶっ込んでおきました。
 チリッと感じた視線を辿ると、お母様でした。ぶれないお母様、大好きです。
 さて、私もホイコーロー丼貰いに行こうかな……

「エリーゼッ! これっ、これはエリーゼの分っ‼」

 ルークが私の分を持ってきてくれました……米のご飯にマジ泣きしながら……イケメン台なし。

「食べたら⁉」
「ん……んまっ…………米っ…………美味うまいなぁ……エリーゼ、ありがとう…………ずっと食べたかったんだ…………ありがとう…………美味うまい…………うっ……こんなに美味しかったんだ…………!」

 私も一口、ご飯を口に運ぶ……ほんのり甘いお米の味……そこに絡んでくる味噌ダレと肉の脂とキャベツの甘さ……ガッツリ食べたい!
 私もルークも無言で食べた……それはもう、かき込むがごとく食べた。それは、もうガッツリ食べましたとも。少しだけ余裕を残して……隣で今もがっつくルークは幸せそうです。

「スゴくおいしいにゃ!」
「いっぱいたべちゃうにゃ!」
「おいしくてしあわせにゃ!」

 うん、三匹とも美味しそうに食べてる。だが私には、もうひとつ偉大なる使命がある!
 クツクツと煮える小豆あずきの香りがお母様と侍女トリオを誘っている!
 そろそろ五十歳になるはずのお母様は、少し小柄ですがボンキュッボンのナイスバディ。でも見た目を裏切る迫力も持っていますの! そしてアンコ星の女王様です。侍女トリオはお母様の専属侍女三人。お母様と同い年で同郷でアニスの母であるエミリ(お父様の側近のアレクと婚姻してるのよ!)。そのエミリより若いシンシアとさらに若いソニア。このふたりもお兄様たちの側近と婚姻してるんです。三人とも、お母様至上主義です。
 すでにホイコーロー丼を平らげたらしく、小豆あずきの鍋の近くに陣取って凝視しているっ! おかげで料理人の顔が必死だよ! やめてあげてよ、お母様!
 ……今、何かが降りてきました。小豆あずきだけの汁粉とかちょっと寂しいと思うんですよ。
 コンロとまな板は空いている……うん、これはやれってことですね!
 私はテーブルに行き、サツマイモをコロコロッと出して輪切りをお願いする。料理人は快く輪切りにすると、ボウルに入れて持ってきてくれた。察したようです。そのまま、コンロに行き、パパパパッと並べて焼きの作業に入ってくれました……お母様の瞳がキラキラしてる……好物が二種類目の前にありますもんね。わかりますよ……お母様はスイーツ女子ですからね。
 小豆あずきのトロッとした感じ……大分、いい感じになってきてるなぁ……スチャッと小さじを取り出し、料理人に近寄ります。

「一度味見をします、お玉でかき混ぜた後、少しすくってください」

 クルクルッとかき混ぜた後、少しすくってもらったお玉に小さじを突っ込み、ほんのちょっとだけすくって冷ましてから味見をする。
 ……ズルイ~! とか聞こえましたが無視です。うーん……甘さは足りてるけど……塩を少し入れるか……手のひらに塩を出しパラパラと少量入れる。
 ……やめて~! とか聞こえましたが、無視です。このわずかな塩味が大事です。ぷぅん……とサツマイモの焼け出した匂いがしてきました、料理人がサツマイモを次々とひっくり返してます。
 パッと顔を上げると、お母様の視線が小豆あずきの鍋と焼けてきたサツマイモを交互に行ったり来たりしてます。迷ってる! お母様が迷ってます!

「どっちかなんて選べないわ!」

 とうとう言っちゃいました。いえ、選ばなくていいんですけどね!
 サツマイモの焼けるいい匂いに、料理長がすっ飛んできました。ホイコーローはどうした?(笑)

「お嬢! これはどっちか選んでもらうんですかい⁉」

 思わず笑みが溢れます。だってお母様が真剣なお顔で私たちを見てるんですもの!

「違います。この焼けたサツマイモを先に器に入れた後、小豆あずき……お汁粉をかけていただきます。きっと美味しいですわよ」

 お母様が滅茶苦茶嬉しそうです! 侍女トリオもキャアキャア言って喜んでます。
 サツマイモも焼けてきたかな? でも、足りないね!

「サツマイモが足りないだろうから、また切ってきてくれる?」

 そう言って空になったボウルにサツマイモをコロコロと出すと、料理人はボウルを抱えて走っていきました。
 料理長が火の番を替わり、サツマイモをひっくり返して見てウンウンと頷いてます。

「お嬢、そろそろよさそうですぜ」

 向こうから空のカップが山盛りに入ったザルを抱えた料理人がやってきました。さすがです! 料理長は近寄りひとつ手にして戻ってきました。
 焼けてホクホクしたサツマイモをヒョイとひとつカップに入れ、お汁粉をかけます……ヤバイ! 視界の暴力! 口の中に唾が溜まっちゃう!

「お嬢! どうぞ!」

 そう言って、差し出されたカップを受け取ると甘い湯気がっ……たまりませんっ!
 フゥフゥと息を吹きかけ冷ます……突き刺さる視線! 見なくてもわかります! お母様ですね! ……ん? 別方向からも……? 特に強く感じる視線を辿ると……ニャンコたちでしたぁ! 横目で確認すると、開いたお口からポタポタとヨダレを垂らしながら私を見てます!
 食べづらい! でも、食べる!

「ハムッ! ……ん~~~! 甘ーーいっ! 美味しーーいっ‼」

 ホクホクのサツマイモに掛かるトロッとしたお汁粉の甘さ! ほんのりと感じる塩味! いい! パーフェクトです!

「ズルイわよっ! お母様も食べたいわっ!」

 お母様が吠えました(笑)

「料理長、お母様からあげてちょうだい!」
「はいっ‼」

 お母様用にサツマイモ(大きめ)とお汁粉(なみなみ)のカップが手渡され、お母様はホクホク顔で離れていきました。さじもさしてあるので大丈夫でしょう。

「ごめん! 料理長、ニャンコたちにもちょうだい!」

 忘れたりしたら、三匹揃って大泣きしちゃうかも!
 料理長はニコニコ顔で芋汁粉をよそって、三匹に順々に手渡してくれました。

「ありがとにゃ!」
「ありがとにゃ!」
「ありがとにゃ! いいひとにゃ!」

 三匹は尻尾をピーンとさせ、嬉しそうに、大事そうに、カップを両前足で持ってルークのところに行きます……タマとトラジが振り返って私を見てます。一緒に食べようってことですね。
 ルークの分を貰っていきますか!

「ごめん! 料理長、ルークの分もよろしく!」
「ハハッ! 若の分ですね!」

 そう笑いながらすぐに手渡してくれる。カップにさじも入ってました。
 私は両手に芋汁粉を持ってルークの元に行く。
 ニャンコたちが近くに来るのを見て、慌ててホイコーロー丼をかき込み、私を見たルークの姿に笑いが込み上げる。
 そんなに慌てなくってもいいのに。まだ残っていたのか、再度かき込んで……走っていきました……食べ終えたから器を返しに行ったようです。

「おいしいにゃ!」
「あまくてアツアツにゃ!」
「……主とたべるにゃ……たべたいにゃ……」

 タマとトラジは私がいるから食べ出したけど、ノエルはルークが来てから食べ出すようです。可愛いですね! 走って戻ってきたルークに芋汁粉を手渡します。

「ノエルが待ってたのよ」
「悪かったな、ノエル。さ、食べよう!」

 私は芋汁粉をまた食べ始める。続いてルークもノエルも芋汁粉を食べ始めた。

「エリーゼ、美味しいよ」
「おいしいにゃ! みんなとたべるとしあわせにゃ!」

 ノエルはいいこと言うわ……

「本当ね。皆で食べると美味しくって幸せね!」

 ルークも私も笑顔、ニャンコたちも嬉しそう。
 つまらないこともあったけど、終わりがよければいいのよ。
 甘くてあったかい……ポカポカする体に、心もじんわり温まってくる。
 体と心は繋がっている、片方が痛めば片方も痛んでくる。
 この甘さで癒されるなら、安いもの。
 芋汁粉を貰った人たちが幸せそうに笑ってる。甘い物を広めたい……甘い物を食べて幸せそうに笑う人たちを見ていきたい……
 きっと私は、幸せそうに笑ってる人たちを見たいんだ……そう頭の片隅で思った。


 なんだか早朝? 早々朝? にニャンコたちが馬車から出たみたいだけど、トイレだろうし放っておいて寝直しました。明け方、ガタガタ音がしたから戻ってきたようで安心です。いえ、マップでチラッと確認して、広場の辺りにいたので安心してましたけどね。
 特に代わり映えしない朝。クリーン&ドライの魔法でスッキリサッパリしたら、馬車から出てコンロ側のテーブルに行きます。行けば料理長がいると思うので、朝食用の食材をガンガン出して作ってもらうつもり。
 今日は普通にパンとスープと後はベーコンとか言いたい。けれど、ベーコンを作っていないので無理です。思い出したらベーコンを食べたくなりました。
 燻製器くんせいきとか、領地に帰ったら作ろう。
 ……やりたいこと、たくさんあるな! サテュロス(雌)のテイムにニャンコたちの武器・防具・武装の発注。新しいスイーツや料理の普及に、野菜や果物の生産? それよりも魚介類が食べたい。お米がゲットできたし、肉ばっかりだし! お寿司もいいけど、酢とまだ出会えていない……いや、作ればいいんだけど……別にお酢じゃなくても、柑橘類かんきつるいあるしね……あー! 悩むぅ‼ 食べたい物だらけ!
 それに起き抜けはコーヒー飲みたい! でもコーヒーないし! 紅茶が関の山だわよ! しかもミルクティーもないし! レモンティーはそのうち飲めるようになるけど!
 お腹空くと、イライラしちゃう……イライラは美容の大敵だわ。
 そんなことを考えながら歩いていく。

「料理長、おはよう。朝食はお任せするわ、何か必要な物はあるかしら?」

 テーブルに向かう途中で、出会った料理長に話し掛けると、「パンと野菜を適当に、鶏ガラスープの素(私が素と言ったら、料理長はじめ料理人まで素と言いだしました)と肉も……後は卵も欲しい」と言われたので、テーブルに着いたらすぐさま出そう。
 いつも通りの平和な朝ご飯タイムを堪能しました!
 え? 今、何してるか? ですって……ご不浄タイムだよ! 野営地の端っこにテントみたいなのが張られて、そこで用が足せるようになってるの! 野営地から離れるときは埋めてくの! 細かい説明はしたくない! 以上!
 ……馬車に戻って中で現在まったりしてます。いえ、まったりと言うよりボンヤリです。馬車の中って暇です。ガタゴトする馬車の中で、何もやることがありません。

「あ~あ、私も馬に乗っていきたいですわ」

 暇過ぎて愚痴ってしまいました。もはや対面席に座ることなく、私の隣が定位置になったアニスがキュッと腕にしがみついてます。ニャンコたちは私たちの背もたれの向こうでゴソゴソしてます。

「エリーゼ様、我慢してください。それに私がひとりでエリーゼ様の馬車でお留守番とか、寂しすぎます……やめてください」

 うん、もっともなこと言われました。
 ため息をひとつついてクッションに体を預け、スルリと離れたアニスの腕に一抹の寂しさを覚える。

「そうね……ひとりぼっちは寂しいわね」

 アニスにそう答えて、目を伏せる。
 眠い……なんでかしら…………あぁ……笛の音が聞こえる…………


「エリーゼ様、大丈夫ですか?」

 ゆるゆるとまぶたを上げて、ゆっくりと視線を彷徨さまよわせる。

「あぁ、寝てたのね……」

 寝落ち? でも何か……変な感じ……

「はい。少しお辛そうでしたが、タマちゃんが笛を吹いてから楽になったみたいで……やはり野営で、お疲れになったのでは……」

 疲れ……か、何か違う気がする。体が休みを欲するのはおかしなことだわ。特に動かしていないし、座りっぱなしもよくないけど、体に負担がかからないよう配慮された進行ペースな気がする。
 うーん……気のせいかもしれないけど、結界を張るか……聖魔法に何かあった気がする! よし、やってみよう!
 清らかな光で馬車内を満たして、けがれをはらう! そういうイメージで!

「結界!」

 ポワァァァン! おっ! 優しい光が目の前に現れ、どんどん大きくなって馬車内を満たしたと思ったら消えました。でも、空気が綺麗になった気がします!

「あれ? エリーゼ様……何か、馬車の中が清々すがすがしくなりました?」

 アニスの発言がちょっぴり変です。いや、変じゃないのかしら?

「さっきまでは違ったのかしら?」
「さっきまでは、淀んでましたよね?」

 淀んでいた? いったいいつから、そんなことになってたんだろう?

「そうだったかしら?」
「はい……気のせいかな? って思ってましたけど、今ならわかります。少し空気というか、よくない何かがあったと……」

 うーん……なんだろう? イヤァね。

「いつからかしら?」
「昨日から? ですかね?」

 昨日からねぇ……思い当たる節もないし、とにかく余り考えないようにしよう。考えるべきは、お昼ご飯のメニューでしょう!
 どうしようか……まだ、牙猪の肉が残ってるし…………肉じゃが? 肉じゃがにするか! ジャガイモもたくさんあるし、ニンジンもタマネギもある! 糸蒟蒻こんにゃくはないけど、なくてもいいじゃん! 砂糖と醤油だけでもいいじゃん! シイタケもあるし、どうにかなるでしょ! 米もたくさんあるし! 俵であるから問題なし! うん! お昼はご飯と肉じゃが!
 甘い物も欲しいけど……リンゴを切ってもらおうかな? 塩水に浸けたやつ……ちょっとだけ、かじりたい。リンゴは時期的にたくさんあるのよね……使っても使っても減っていない感じあるもの……リンゴジャムとか作っておけば、朝ご飯に使えるかなー? 砂糖……足りるかな?
 開拓したマイ・アイランド『八丈島』の確認をしてみよう。私はナビゲーションのナビさんを呼び出した。

(ナビさーん! 畑って今どうなってますかー?)
〈後少しで十面空きます。テンサイを植えますか?〉
(よろしく! で、そこで砂糖って作れないわよね?)
〈一度ロッジに送れば、砂糖にできます〉

 マジか! そういや、お米も脱穀から精米までやってたな……

(じゃあ、テンサイを作って砂糖にしてから無限収納に入れてくれる?)
〈畏まりました〉
(よろしくー!)

 うん、ナビさん便利! 気にするのは、ご飯とニャンコたちだけでいい! 細かいことは気にしない!
 それにしても結界、いいじゃん! 結界……防音とかにすれば……いい! 馬車内、防音できるかな? やってみよう、何事もトライよ!

「ん~ムムム…………(こう、壁を作る感じで)……ん~……せいっ!」

 ポワァン! 変な効果音来ました~(笑)

「えっ? なんですか、今の?」
「ん~? よくわからないけど、防音にしてみた……でも中にいたままだとわからないわね!」

 アニスが不思議そうに私を見る。
 馬車が止まって確認するまでは、わからないってことでいいや! 防音ができたのなら、遮音もできるだろうし……使えるものはなんでも使え、ですわ!


 さて、元気いっぱいにお昼は肉じゃがを作り、白米を炊きました。食後のデザートはリンゴ(生)! ……一部食いしん坊な人たちは足りなかったらしく牙猪を焼いて食べていました。
 もはやルーチンワークのごとく、バーベキューコンロの製作は『四阿あずまやとセットで作ってくれ!』とリクエストがあります……今後、街道利用者に使い勝手がいいだろうからとのことです。
 もちろん、簡易型の魔物除けも囲むように地面に打たれています(どうやら領主隊隊員に、簡易型魔物除けを製作できる人員がいて、ガンガン作ってるようです)。
 外に出て確かめてみたところ、馬車の防音もできていました。遮音もトライしたら、可能でした。
 我ながらひどいチートぶりですが、使えるものは親でも使え! の精神なので使います!
 そして案の定、お母様にバレて家族全員の馬車に遮音魔法を掛けさせられました。
 家族全員だけでなく、側近やら侍女トリオにも喜ばれました。
 その後、お父様の馬車で家族会議が開かれ、家族全員とルークで今後のことが決められました。夜に再度、家族会議だそうです。
 私は野営地に着き次第、四阿あずまや付きバーベキューコンロを製作。
 料理長とメニューの相談、材料の提供のほかに料理の作り方や手伝いなど(これはトラジも含む)。
 私が旅の最中にできることがはっきりしました! できることをしっかりやります。


 そして夜、再びお父様の馬車の中で、家族会議です。
 後続の討伐隊のことやジークフリート殿下のこと、私のスキルと魔法のこと、それからテイムされたニャンコたちのこと……情報の公開と提供とそれにまつわる注意事項や懸念事項を話し合いました。
 その結果、私の武器が弱いので、お父様の予備武器から細い両手剣をいただきました……雷属性の白く輝く美しい剣です。
 お母様からは、ペンダントを貰いましたが、なぜか十字架の形でした……聞けば、シルヴァニアにはお守りは何種類もあって、ペンダントだと十字架の形がシンプルでお洒落なので一番多いのだそうです……
 そんなこんなで、特に変わったこともなく数日が過ぎていきました。


 ただいま、朝(そろそろお昼ですけど)でございます。ダラけきってお昼寝しまくってます。
 馬車の旅も慣れてきて、今は窓から見える景色を楽しんでます(一応)!
 もう少しすると街に到着しますが、今回も通り抜けします。
 この辺りは塩街道で、もっとも海側に近寄る場所。寒くなると海から吹く潮風が届くため、土の塩っ気が強くなって農作物を作るのに適さない地域となっています。学園で地理を学んで大変だと思いました。
 街の手前までは多肉植物のようなものがポツポツと生えているだけで、後は西部劇のような丸っこい枯れ枝みたいな球状の植物が、風に乗ってコロコロとあちらこちらに転がっている。
 ……塩を含んだ土地だけど、分離させて塩だけ土から取り出せば植物が育つようになるんじゃないかな? もしくは沿岸部に防風林を造ったりすれば……
 まぁ、こんなことを年端としはもいかぬ小娘が物申せば、面白くないことこの上ないだろうから言わないけど……
 そろそろ街か……マップ機能様様だわ……この街は街道利用者頼みの街だから、いろいろあるだろうけど、揉めたりはしない……よね?
 さすがに迂回路を作るには距離があるし、面倒事の種にしかならないものね。

「大きな街ですね、以前こちらで泊まったことは覚えておりますか?」

 そう言えば泊まったことがあるんだっけ? ……着いて、夕食を取って湯浴みして寝ただけのアレかな? 最初のときは幼かったし、お母様の馬車に同乗していたし……その後は急ぎの旅で、外を見る余裕もあまりなかったような気がするからよく覚えていないわ。

「あまり覚えてないわ。特に何かあったようには思わないのだけど」

 アニスはコロコロと笑い、街を護る石壁を見つめていた。

「そうですね。あぁ……でも、この街を通り抜けた先は一面ブシ花の草原ですよ! 楽しみですね!」
「ブシ花……って、どんな花なのかしら?」

 なんだ、その猛々たけだけしい名前の花……花よね? 武士花? じゃないわよね。

「茶色の丸い花ですよ! 匂いはよくないので、見るだけですけど……一面丸いブシ花がサワサワしながら咲いてるのはなかなかですよ!」

 丸い……か、花が終わったタンポポみたいな球状の花? 匂いがよくないから取って飾るとかもないってことかしら? 謎すぎる~! でも、まぁ一面草原てのはいいわね!

「それは楽しみね! あら、街に入ったわ」

 今まで通り抜けてきた村や町と違って、大きな街となると規模が違う。行き交う人々や店、住まいも高さや広さがあるのが一目瞭然だ。こちらを見る住人たちの視線は複雑そのもの。私たちがこの街で一泊すれば後続の討伐隊は泊まれない。
 後続の討伐隊には第三王子がいることを伝えたのだろう。入街するときに伝えれば、渋々でも私たちの通り抜けを黙るしかない。せめて討伐隊がそれなりにお金を落としてくれることを願うだけだけど……残念なのは殿下だけだから、大丈夫か!

「街といっても、この辺りで一番大きいってだけなんでしょうね」

 アニスが少し残念そうに言う。

「そうね……確か、この辺りは特産品も少なくてね……潮風がこの辺りまで届かなければ、もう少し農作物も作れただろうけど……石壁の内側で細々と作ってるのが現状だとか」

 この辺りは不毛な地域なため、領地は広いけど人の住める集落が少なくて経営が大変なのよね……何かひとつでも特産品があればいいのにね。


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