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4巻
4-3
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〈マスター、お餅ができあがりました〉
おお! ナビさん! できましたか! 形って、四角と丸のどっちかしら?
〈角餅です。丸餅が良かったですか?〉
角餅で良いわよ~! 丸餅って焼かないイメージ強くてね……
じゃあ、料理人に小豆を託して煮てもらおう。
今晩のスイーツは餅入り善哉とみたらし団子(もち米粉バージョン)だ。
……お団子は料理人たちに任せよう、餡も。あたり一面に良い匂いが漂う。
ルーク、早く帰っておいで。
待ってるから、晩ご飯作って待ってるから。
少し大きめの鍋にお出汁を移す。焼けたトウモロコシの皮を剥いで鍋の上で粒と芯をパパッと分離させる。バチャバチャと黄色い粒が鍋に入るのは結構壮観(笑)
醤油を少し垂らして味見……うん! 少~し濃いけど美味しい♪
溶き卵を作って、プクプクしてきたらかき玉を作り、トロミをつけたら出っ来上がり♪ っと。
……うん、夕日が眩しいです。そして冷たい風がじんわり渓谷から流れてきます。
「お嬢、そろそろ振る舞っても?」
料理長が聞いてきた。聞くのは私じゃなくてお父様だと思うのだけど。
「そうね、私とルークはコレを食べるから先に食べ出してて良いわよ」
「ん? こいつは……いや、スープが違う。お嬢、味見をさせてください」
「どうぞ」
器にもろこし玉子うどんのスープを少し入れて、手渡せば料理長は息を吹きかけコクリと飲む。
「ほぅ……出汁を変えるだけで、こんなにも味わいが変わるんすね」
「そうね、きっとルークは喜ぶと思うの」
「若が喜ぶんなら良いじゃないですか。じゃあ、お先にやってますぜ」
「ええ」
……なぜかしら、料理長がドカ○ンに見えたわ。発言は荒いのにね。
「まだかにゃ?」
「おそいにゃ……!」
ピュ~? ピュイ~?(見てこようか?)
「うん、大丈夫だから」
ぼんやりと料理長たちを見る。
あれ? 子供たちと女性たちが何か……小奇麗になってる? 着るものも増えてる? 寒そうだったし良いんだけど……とても嬉しそう。何世帯かはわからないけど、家族みんな仲良く過ごせてるって素敵。
「ただいま」
フイに後ろから声をかけられてビックリした。
「おかえり……」
振り返って見るルークは、何だか格好良く見えて気恥ずかしくなってしまう。
「増えたな。追ってきたのか?」
お湯の鍋にうどん麺を入れて茹でる。鍋の中で踊る麺を見ながら頷く。
「かなり頑張ったみたい」
「見ればわかる」
器に茹でたうどんを入れ、軽く水気を切り、おつゆを掬ってうどんにかけて渡す。
器の中を見て、嬉しそうに笑う。箸を持って器を受け取り、一口スープを啜る。
「懐かしいな。いただきます」
収納から使用済みの節花を取り出す。
「仲良く分けて食べるのよ」
ヒナはすでにあっちに行って、野菜クズをガツガツ食べてました。私が出した野菜クズも持っていかれて、何だか美味しそうに食べてて食費のかからない子だと思いました。ハイ。
自分の分のうどんを茹でて、もろこし玉子うどんを食べて……
「うん、懐かしいかも」
チラッと見たルークの目が潤んでて、作って良かったな……そう思う。
「冬のうどんと言えば……」
「味噌煮込みうどん!」
「だよな。鍋がないのがツライな!」
「土鍋は作ればあるけど、一人一個だからちょっと……」
「火傷するからやめとけ」
笑いながら食べるうどんは美味しくて、心からホコホコと温まる気がする。
「ボクもソレたべたいにゃ!」
「ボクもにゃ!」
「おいしそうにゃ! ボクも主とおなじのたべたいにゃ!」
三匹がピョンピョン跳ねながら訴えてきました。
「エリーゼ、おかわりを頼む」
「たくさん茹でなきゃ。ルークも手伝ってちょうだい」
「もちろんだ」
隣に立って手伝ってくれる優しい男性。嫌な顔一つしない。それどころか楽しそうに器を受け取って、ツユを掛けてニャンコたちに渡す。きっと子供ができても、こんな風に接してくれる……
「どうした?」
「あっ! うううん、何でもないの」
「何でもないような顔じゃなかった。どうした?」
ヒョイと覗き込まれて、その顔の近さにドキドキする。
「そんな顔するな、キス……したくなる」
何言ってるのよ! イケメンは。視線をずらして、スルースキルを全開にする。
「うどん茹ですぎちゃうぞ」
慌てて鍋に視線を落として、うどんを取り出す。いつの間にか、離れたルークの顔……全くもって恥ずかしくて見れないじゃない。
子供とかとか想像して、意識する。
でも何でもない振りで笑って、いつものように振る舞った。
「お嬢! こっちはほぼ全員食べ終わりましたぜ!」
料理長が声を掛けてきた理由はわかってる。目をキラキラと言うかギラギラさせているお母様だ。お母様がまだお餅の入ってない善哉の大鍋の前で待機している。
「こっちも終わった所よ、新しい食材。お餅を焼きましょう」
台に角餅をバラバラっと出し、軽く説明。
次々とコンロで焼かれる角餅から香ばしい香りがほんのり漂う。
「餅……餅まで食べれるのか……」
ルークの目も釘付け! パタパタとひっくり返され、プクッと膨らんだお餅! 美味しそう!
器に善哉を注ぎ、焼き餅を一つ載せる。
「はい、お母様。この上に載っているお餅は良く伸びるので、少量ずつお召し上がりください」
「少しずつなのね」
「はい。喉に詰まると大変なので」
「おい! 聞いたか! ちょっとずつ食べないと、喉に詰まるから気を付けろ! いいか! ちょっとずつだ!」
ありがとう料理長、大声で言ってくれて。
お母様が嬉しそうに善哉を口に運ぶ。その仕草も上品だ。……お餅をちょっと囓って……あ、今……目がカッ! て見開いたわ。あれは止まらないかも。少しずつしか口にしてないのに、減るスピードが速い。何杯食べる気かしら? お餅、足りるか不安になってくる。
私も餅入り善哉を受け取り、少し人気のない所へと移動する。
タマとトラジも貰って来て、一緒に座る。
「すごいな、めちゃくちゃ美味しそうだ」
ルークが嬉しそうに笑うから、私も嬉しくなってちょっとだけ笑う。
「熱いからふーふーしてから食べるんだぞ」
「わかったにゃ! ふーふーにゃ!」
「ふーふーするにゃ?」
「ふーふーにゃ?」
ルークの言葉でノエルが返事をすると、タマとトラジが私に聞いて来る。
「そうね、ふーふーした方が良いわね」
「わかったにゃ! ふーふーにゃ!」
「ふーふーにゃ!」
「エリーゼ」
耳元の声に思わずビクンと体が跳ねる。
「驚かせたか?」
慌てて首を振って、否定する。
「違うわ。ちょっと……ちょっとボーッとしてて」
「そうか、なら良いんだ。餅なんて久し振りで、舞い上がってる。ありがとう」
優しく見つめられて、ドキドキしっぱなしよ……
恋……してるんだな、私。マリアンヌ様もこんな気持ちで殿下と会っていたの?
知らなかったわ。身分も違って、苦労してるだろうな……王宮は厳しいことがたくさんあるもの。
「何……考えてる?」
ハッとした瞬間、目に入ったのは私を覗き込むルークの顔で……近いんですけど……
「今、すごい遠い目だった。ダメだな……俺は。俺のこと見ていてほしくて、嫉妬した。ごめん」
「大丈夫。ちょっとだけ独占欲……すごいって思った」
どうしよう……抱き締めてほしいって思う。胸が苦しい。
好きってドキドキするだけじゃない……
嫉妬したりされたり……
「主……どうしたにゃ?」
「そうにゃ? おいしいにゃ!」
「主……なんでたべにゃいにゃ? いっしょにたべるにゃ!」
「あっ! うん……そうよね、もうふーふーしなくても良くなった?」
ニャンコたちが心配してる、ダメね。気を付けないと。
「よくなったにゃ!」
「あったかくてあまいにゃ!」
「そうにゃ! あまくておいしいにゃ!」
「そうか、甘くて温かいか。それは美味しそうだよな、早速食べないとな!」
「そうよ、温かい内に食べないとね」
そう言って食べた餅入り善哉は甘くて、ほんのり温かくて。
お餅も伸びの良い、きめ細やかなお餅で……ってお餅、めっちゃ美味しい!
少しずつかじってはグイーッと伸ばして食べる……うま……この餅うま……お餅、美味しーい! ナビさんありがとう!
〈褒めていただき、ありがとうございます〉
こんなに美味しいお餅、本当に嬉しい。また、よろしくね!
〈はい、かしこまりました〉
「良い餅だった。きな粉や磯辺でも食べたいって思った。あと、みぞれ」
「みぞれ! みぞれ餅、私も好きだわ。シンプルで」
「……やっと笑ったな。何か、おかしかったから不安だったんだ」
困った顔で笑わないで、そんな顔でもドキドキして困るから。
もっとずっとそばにいたくなるから、ずっと一緒にいたくなるから。
好きって、こんなに自分を変えるの? こんなに苦しいなんて、知らなかった……
結局私もルークもニャンコたちも餅入り善哉をお代わりして……お母様は私たちが二杯目の時には三杯目を完食するところだった。
どれだけお食べになるのでしょう?
……お父様はどうして、お母様の後ろで辛そうな顔で私を見るのかしら? 何かあるの?
「侯爵は何か辛そうだな、何かあったのか?」
「特に思い当たる節はないけど……どうしたのかしら?」
本当……ヘンなお父様。
「ルーク、こちらは賑やかだし向こうでいただきましょう。さっきの所なら温かいし明るいもの、しばらく温まりながら食べていられるわ」
「そう……だな」
お父様……ひょっとして、私がほったらかしていたから拗ねてらっしゃるの? まさか! それだったらお母様から何かあると思うのだけど、何もなかったし……じゃあ、お母様にオマカセして良いのよね! うん、ルークと善哉食べてよう!
「ふふっ……」
「ご機嫌だな」
「だって、何だか幸せで」
「確かにな、幸せだな」
さっきの場所に戻って二人と三匹で二杯目の餅入り善哉を食べる。
ヒナはすでにお腹いっぱいらしく、コンロの側で丸くなっている。耐火レンガ状態でジンワリ温かくなってて気持ち良いのよね。
「エリーゼ……」
ルーク……イケメンってズルいなぁ……顔を見上げながら、ゆっくり近付いてく。
コツ……と器が当たって、そんなに近付いたのかしら? と目を落として器を見る。
大きな手……一緒にクワイに乗って背中に感じた胸板……体温。何もかもが違う……男の人だった。
「エリーゼ?」
「えっ? あっあぁ……何かしら?」
私……ボンヤリしてたの……
「ボンヤリして、どうした? 本当にヘンだぞ」
「ルーク……あの……あのね、ちょっと私、おかしいの。ごめんなさい」
心配させちゃってる……本当にどうしたんだろう……
「食べ終わったら馬車に戻った方が良い。獲ってきた丸鳥と卵は無限収納に入れてあるから、都合の良い時に移そうな。熱はなさそうだけど、顔がずっと赤い。微熱かもしれないけど無茶は禁物だ」
「無茶なんて……」
「心配なんだよ。俺は……俺はエリーゼにいつでも笑っていてほしいし、元気でいてほしい。婚姻してたら馬車に閉じこめて外に出さないけどな、ずっと腕の中に閉じ込めて出さないようにする」
カラーンッカランッカランッカランッ……思わず匙を取り落としてしまう。
婚姻してたら? 馬車に閉じ込められて? 腕の中に閉じ込めて出さないとか……
二人っきりで密室の馬車の中で? 抱き締めて?
あまりの告白に顔が赤くなってしまう。
「大丈夫かっ! どうしたっ!」
「エリーゼ!」
キャスバルお兄様……やだ……私、今どんな顔してる?
「悪いがエリーゼは連れて行く。特に何かしたようには見えなかったが、様子がおかしい」
「はい、お願いします。タマ、トラジ。一緒に付いて行ってくれ。器は俺が返しておくから」
「はいにゃ!」
「おねがいにゃ!」
キャスバルお兄様にお姫様抱っこされて、顔を覗き込まれる。
「キャスバルお兄様……見ないで……」
思わず小さく呟く。コクリと頷いてくださったキャスバルお兄様の顔は、何だかいつもと違っていた。
ルークの顔もキャスバルお兄様のお顔も見られなくてお兄様の胸に埋めるように顔を押し付けた。
揺れる体、キャスバルお兄様の体温と鼓動……まるで小さな子供の頃に戻ったみたい。
「エリーゼ、今日はゆっくり休みなさい。いいね」
ソッと顔を上げてお兄様の顔を見る。
チラリと私を見るお兄様は困ったようなお顔で薄く笑っていた。
「少しは落ち着いたか?」
「はい」
「そうか、馬車に着くまでこのままでいさせてくれるかい? 私の可愛い妹姫」
キャスバルお兄様の甘い笑顔と色気タップリの声……罪作りよねぇ。
「フフッ……キャスバルお兄様ったら……」
「本当だよ。エリーゼには、いつまでも私のお姫様でいてほしい。無理だとわかってるけどね」
あっという間に馬車に着く。優しく降ろされて、立たされた私の額に優しくお休みのキスをしてくれた。
「お休み、エリーゼ」
「はい、お休みなさいキャスバルお兄様」
私が馬車に入るまで、いてくれた。
馬車に入って窓の目隠し布を掛け、しばらくして去って行った。
なぜかしら? 脳裏に浮かぶのはルークのことばかり。好きって気持ちと愛されたい気持ち。自分の気持ちが不安定で心が揺れる。
ガチャッ! バタン! カチン!
「エリーゼ様!」
アニスが勢い良く馬車に戻って来た。でも、最後カチンって内鍵を閉めた? まだタマとトラジとヒナが戻って来るのに?
「アニス、慌てて……どうしたの?」
アニスは目隠し布の確認をすると隣に座り、私の手を握り真剣な顔で見つめてくる。
「遮音! エリーゼ様、大切なお話があります!」
「遮音魔法を掛けるなんて、どうしたの?」
いつになく緊張してる? どうしたの?
「お顔が赤くなってます。ルーク様のこと、本当にお好きなんですね」
顔……まだ赤いのね。ルークが本当に好きって何でわかるのかしら?
「不思議そうですね。シルヴァニアの女の特徴です。本当に好きな男ができると、その男のことしか考えられなくなります。そしてどこまでもどこまでも追いかけ、その人の子を孕むまで追い続けます。付いたあだ名が『男を食い殺す雌豹』です。思うままに求めるんです。シルヴァニアの力が強ければ強いほど、追うのだと母様が言ってました。奥様の時は大変だったと。エリーゼ様はシルヴァニアの力が強いと思います。母様だけでなく、奥様にも言われました……きちんと説明するように……」
「説明……」
専属侍女の役目は多い。説明を聞く限りかなり大変なんだと思う。詳しいことはおいおい聞けば良いと思うけど。そうかお母様の時は大変だったのね。
「何だか疲れたわ、先に休むわ」
「はい、お休みなさいませ。あ! タマちゃんたち来ましたよ! ヒナちゃん小さくしないと!」
「そうね、小さくしないとね。タマとトラジが怒るわね」
カギを開けて扉を開けば、頭だけヒョイと覗いたヒナに向かって魔法を掛けて小さくする。チビヒナはピョンと飛び乗るとタマとトラジが乗り込んで来る。
パタンと扉が閉められ、カチンと内鍵が掛けられる。
「お休みなさいませ、エリーゼ様」
「うん……」
瞼を閉じるとぬるま湯に漂うような不思議な感覚に囚われる。本当に好きになった男性がルークで良かった……
目が覚めて、ボンヤリして……何だっけ何か……
「あー見逃したぁ……ニャンコ集会‼」
すでに馬車の床でお団子状態で固まってる二匹と一羽。
て、ゆーか……タマとトラジと眠りたいのにぃ! チビヒナぁ! 羨ましいんだから!
「おはようございます、エリーゼ様。お体はどうです?」
「ん……? アニス、ありがと全然元気!」
それにしても、あれはヤバいなぁ……頭がふわふわしちゃって良くない。恋心って大変!
〈マスター、昨日の状態異常ですが〉
状態異常! あれ状態異常なの! 恋した気持ちが?
〈はい、状態異常です。種族保存のために各種ステータスが跳ね上がり、捕捉対象を捕捉するために必要な能力が解放されます〉
待って! 何かいろいろ待って! 各種ステータスが跳ね上がるって……捕捉対象とか普通じゃないよ! 怖いよ!
私の場合、捕捉対象ってルークよね……じゃあ、状態異常の時ってルークを追いかけ回すってことよね?
〈そうです、マスター〉
捕捉対象を捕捉するためってどんな能力が解放されるの?
〈……検索や麻痺では、ないのでしょうか?〉
検索……麻痺って……追いかけて動けなくするってこと?
〈そうです〉
なんで! 荒っぽいにも程があるでしょう!
〈動けなくなれば、行為に及べますので〉
行為……行為って! うそ! ソコまでなの! さすがにそれはどうなの!
〈はい、おそらくですが〉
おそらくってヒドくない?
〈マスターのステータスそのほかを見る限り、能力を落とさないために最適任者に好意を抱き、子をなすために全力で捕獲し行為をもって種族保存につとめるのでは? と推測します〉
嬉しくない推測! 能力……能力って……それに最適任者って……いや、何となくわかるけど生々しい! そしてストレートすぎる!
〈主にシルヴァニア家からの遺伝的能力です。ありとあらゆる方面からのアプローチで選ばれていると推測します〉
最適任者のことは良い! 聞きたくない。難しい話はなしだ! 遺伝的能力か。私の能力って何かわかるかしら?
〈申しわけありません。私にはどれが遺伝的能力なのか判別がつきません〉
そう……残念だわ。アレコレ混ざりすぎてわからないのね。
〈はい。ですが、マスターのお相手は良い方だと思います〉
ありがとう、ナビさん。じゃあ、起きて朝ご飯食べて出発だ!
「さ! 起きて朝ご飯の支度しよう! アニス、今日は寝椅子状態で過ごしたいからゆったりめにね」
「はい、かしこまりました。では、そのようにしておきますね」
席から立ち上がり伸びをする。うん、頭はスッキリしてるし体もちゃんと思い通りに動く。
「タマ、トラジ朝ご飯作りに行くよ! ヒナも起きて! 一緒に行こう!」
ピョンッとヒナの体から飛び出してクシクシと目を擦るタマとトラジ。ヒナは羽根をパタパタさせて体を起こした。
馬車の内鍵を外して扉を開ける、外はもう明るい! 嘘みたいに体が軽い! 飛び降りてステップを踏むように歩き出す。お供を連れて!
おっと、いけない! ヒナのサイズを戻してっと……
コンロの側には、すでに料理長をはじめ、料理人たちが揃っていた。
「お嬢、大丈夫ですかい?」
「大丈夫よ。朝ご飯なんだけど、丸鳥の卵料理が良いと思ってるの」
「どんな料理にするんですかい?」
「野菜を細かく刻んで卵でとじた物が良いかと思ってる。もちろん隊員の方たちのために肉か魚を焼いてパンに挟んで食べてもらったらどうかしら」
「なるほど、それなら食べやすいですし不平も出ないでしょう。ついでにちょっとしたスープも作っておきましょうか」
「材料を出すわね。お手伝いは必要かしら?」
「ははは! 大丈夫ですよ。お嬢はちょっと頑張りすぎです、休んでください。それか少し散歩か何かしてたら良いんじゃないんですかい」
「そうね、そうするわ」
料理長と話して、台に丸鳥の卵、ジャガイモやニンジンなどさまざまな野菜を出す。
肉よりも魚が食べたくて串と一緒に魚を山盛りに出しておく。小麦粉や米粉、塩やガラの実、砂糖や醤油も出しておく。
散歩か……散歩ねぇ…………それよりもヒナに乗ってみたい。
おお! ナビさん! できましたか! 形って、四角と丸のどっちかしら?
〈角餅です。丸餅が良かったですか?〉
角餅で良いわよ~! 丸餅って焼かないイメージ強くてね……
じゃあ、料理人に小豆を託して煮てもらおう。
今晩のスイーツは餅入り善哉とみたらし団子(もち米粉バージョン)だ。
……お団子は料理人たちに任せよう、餡も。あたり一面に良い匂いが漂う。
ルーク、早く帰っておいで。
待ってるから、晩ご飯作って待ってるから。
少し大きめの鍋にお出汁を移す。焼けたトウモロコシの皮を剥いで鍋の上で粒と芯をパパッと分離させる。バチャバチャと黄色い粒が鍋に入るのは結構壮観(笑)
醤油を少し垂らして味見……うん! 少~し濃いけど美味しい♪
溶き卵を作って、プクプクしてきたらかき玉を作り、トロミをつけたら出っ来上がり♪ っと。
……うん、夕日が眩しいです。そして冷たい風がじんわり渓谷から流れてきます。
「お嬢、そろそろ振る舞っても?」
料理長が聞いてきた。聞くのは私じゃなくてお父様だと思うのだけど。
「そうね、私とルークはコレを食べるから先に食べ出してて良いわよ」
「ん? こいつは……いや、スープが違う。お嬢、味見をさせてください」
「どうぞ」
器にもろこし玉子うどんのスープを少し入れて、手渡せば料理長は息を吹きかけコクリと飲む。
「ほぅ……出汁を変えるだけで、こんなにも味わいが変わるんすね」
「そうね、きっとルークは喜ぶと思うの」
「若が喜ぶんなら良いじゃないですか。じゃあ、お先にやってますぜ」
「ええ」
……なぜかしら、料理長がドカ○ンに見えたわ。発言は荒いのにね。
「まだかにゃ?」
「おそいにゃ……!」
ピュ~? ピュイ~?(見てこようか?)
「うん、大丈夫だから」
ぼんやりと料理長たちを見る。
あれ? 子供たちと女性たちが何か……小奇麗になってる? 着るものも増えてる? 寒そうだったし良いんだけど……とても嬉しそう。何世帯かはわからないけど、家族みんな仲良く過ごせてるって素敵。
「ただいま」
フイに後ろから声をかけられてビックリした。
「おかえり……」
振り返って見るルークは、何だか格好良く見えて気恥ずかしくなってしまう。
「増えたな。追ってきたのか?」
お湯の鍋にうどん麺を入れて茹でる。鍋の中で踊る麺を見ながら頷く。
「かなり頑張ったみたい」
「見ればわかる」
器に茹でたうどんを入れ、軽く水気を切り、おつゆを掬ってうどんにかけて渡す。
器の中を見て、嬉しそうに笑う。箸を持って器を受け取り、一口スープを啜る。
「懐かしいな。いただきます」
収納から使用済みの節花を取り出す。
「仲良く分けて食べるのよ」
ヒナはすでにあっちに行って、野菜クズをガツガツ食べてました。私が出した野菜クズも持っていかれて、何だか美味しそうに食べてて食費のかからない子だと思いました。ハイ。
自分の分のうどんを茹でて、もろこし玉子うどんを食べて……
「うん、懐かしいかも」
チラッと見たルークの目が潤んでて、作って良かったな……そう思う。
「冬のうどんと言えば……」
「味噌煮込みうどん!」
「だよな。鍋がないのがツライな!」
「土鍋は作ればあるけど、一人一個だからちょっと……」
「火傷するからやめとけ」
笑いながら食べるうどんは美味しくて、心からホコホコと温まる気がする。
「ボクもソレたべたいにゃ!」
「ボクもにゃ!」
「おいしそうにゃ! ボクも主とおなじのたべたいにゃ!」
三匹がピョンピョン跳ねながら訴えてきました。
「エリーゼ、おかわりを頼む」
「たくさん茹でなきゃ。ルークも手伝ってちょうだい」
「もちろんだ」
隣に立って手伝ってくれる優しい男性。嫌な顔一つしない。それどころか楽しそうに器を受け取って、ツユを掛けてニャンコたちに渡す。きっと子供ができても、こんな風に接してくれる……
「どうした?」
「あっ! うううん、何でもないの」
「何でもないような顔じゃなかった。どうした?」
ヒョイと覗き込まれて、その顔の近さにドキドキする。
「そんな顔するな、キス……したくなる」
何言ってるのよ! イケメンは。視線をずらして、スルースキルを全開にする。
「うどん茹ですぎちゃうぞ」
慌てて鍋に視線を落として、うどんを取り出す。いつの間にか、離れたルークの顔……全くもって恥ずかしくて見れないじゃない。
子供とかとか想像して、意識する。
でも何でもない振りで笑って、いつものように振る舞った。
「お嬢! こっちはほぼ全員食べ終わりましたぜ!」
料理長が声を掛けてきた理由はわかってる。目をキラキラと言うかギラギラさせているお母様だ。お母様がまだお餅の入ってない善哉の大鍋の前で待機している。
「こっちも終わった所よ、新しい食材。お餅を焼きましょう」
台に角餅をバラバラっと出し、軽く説明。
次々とコンロで焼かれる角餅から香ばしい香りがほんのり漂う。
「餅……餅まで食べれるのか……」
ルークの目も釘付け! パタパタとひっくり返され、プクッと膨らんだお餅! 美味しそう!
器に善哉を注ぎ、焼き餅を一つ載せる。
「はい、お母様。この上に載っているお餅は良く伸びるので、少量ずつお召し上がりください」
「少しずつなのね」
「はい。喉に詰まると大変なので」
「おい! 聞いたか! ちょっとずつ食べないと、喉に詰まるから気を付けろ! いいか! ちょっとずつだ!」
ありがとう料理長、大声で言ってくれて。
お母様が嬉しそうに善哉を口に運ぶ。その仕草も上品だ。……お餅をちょっと囓って……あ、今……目がカッ! て見開いたわ。あれは止まらないかも。少しずつしか口にしてないのに、減るスピードが速い。何杯食べる気かしら? お餅、足りるか不安になってくる。
私も餅入り善哉を受け取り、少し人気のない所へと移動する。
タマとトラジも貰って来て、一緒に座る。
「すごいな、めちゃくちゃ美味しそうだ」
ルークが嬉しそうに笑うから、私も嬉しくなってちょっとだけ笑う。
「熱いからふーふーしてから食べるんだぞ」
「わかったにゃ! ふーふーにゃ!」
「ふーふーするにゃ?」
「ふーふーにゃ?」
ルークの言葉でノエルが返事をすると、タマとトラジが私に聞いて来る。
「そうね、ふーふーした方が良いわね」
「わかったにゃ! ふーふーにゃ!」
「ふーふーにゃ!」
「エリーゼ」
耳元の声に思わずビクンと体が跳ねる。
「驚かせたか?」
慌てて首を振って、否定する。
「違うわ。ちょっと……ちょっとボーッとしてて」
「そうか、なら良いんだ。餅なんて久し振りで、舞い上がってる。ありがとう」
優しく見つめられて、ドキドキしっぱなしよ……
恋……してるんだな、私。マリアンヌ様もこんな気持ちで殿下と会っていたの?
知らなかったわ。身分も違って、苦労してるだろうな……王宮は厳しいことがたくさんあるもの。
「何……考えてる?」
ハッとした瞬間、目に入ったのは私を覗き込むルークの顔で……近いんですけど……
「今、すごい遠い目だった。ダメだな……俺は。俺のこと見ていてほしくて、嫉妬した。ごめん」
「大丈夫。ちょっとだけ独占欲……すごいって思った」
どうしよう……抱き締めてほしいって思う。胸が苦しい。
好きってドキドキするだけじゃない……
嫉妬したりされたり……
「主……どうしたにゃ?」
「そうにゃ? おいしいにゃ!」
「主……なんでたべにゃいにゃ? いっしょにたべるにゃ!」
「あっ! うん……そうよね、もうふーふーしなくても良くなった?」
ニャンコたちが心配してる、ダメね。気を付けないと。
「よくなったにゃ!」
「あったかくてあまいにゃ!」
「そうにゃ! あまくておいしいにゃ!」
「そうか、甘くて温かいか。それは美味しそうだよな、早速食べないとな!」
「そうよ、温かい内に食べないとね」
そう言って食べた餅入り善哉は甘くて、ほんのり温かくて。
お餅も伸びの良い、きめ細やかなお餅で……ってお餅、めっちゃ美味しい!
少しずつかじってはグイーッと伸ばして食べる……うま……この餅うま……お餅、美味しーい! ナビさんありがとう!
〈褒めていただき、ありがとうございます〉
こんなに美味しいお餅、本当に嬉しい。また、よろしくね!
〈はい、かしこまりました〉
「良い餅だった。きな粉や磯辺でも食べたいって思った。あと、みぞれ」
「みぞれ! みぞれ餅、私も好きだわ。シンプルで」
「……やっと笑ったな。何か、おかしかったから不安だったんだ」
困った顔で笑わないで、そんな顔でもドキドキして困るから。
もっとずっとそばにいたくなるから、ずっと一緒にいたくなるから。
好きって、こんなに自分を変えるの? こんなに苦しいなんて、知らなかった……
結局私もルークもニャンコたちも餅入り善哉をお代わりして……お母様は私たちが二杯目の時には三杯目を完食するところだった。
どれだけお食べになるのでしょう?
……お父様はどうして、お母様の後ろで辛そうな顔で私を見るのかしら? 何かあるの?
「侯爵は何か辛そうだな、何かあったのか?」
「特に思い当たる節はないけど……どうしたのかしら?」
本当……ヘンなお父様。
「ルーク、こちらは賑やかだし向こうでいただきましょう。さっきの所なら温かいし明るいもの、しばらく温まりながら食べていられるわ」
「そう……だな」
お父様……ひょっとして、私がほったらかしていたから拗ねてらっしゃるの? まさか! それだったらお母様から何かあると思うのだけど、何もなかったし……じゃあ、お母様にオマカセして良いのよね! うん、ルークと善哉食べてよう!
「ふふっ……」
「ご機嫌だな」
「だって、何だか幸せで」
「確かにな、幸せだな」
さっきの場所に戻って二人と三匹で二杯目の餅入り善哉を食べる。
ヒナはすでにお腹いっぱいらしく、コンロの側で丸くなっている。耐火レンガ状態でジンワリ温かくなってて気持ち良いのよね。
「エリーゼ……」
ルーク……イケメンってズルいなぁ……顔を見上げながら、ゆっくり近付いてく。
コツ……と器が当たって、そんなに近付いたのかしら? と目を落として器を見る。
大きな手……一緒にクワイに乗って背中に感じた胸板……体温。何もかもが違う……男の人だった。
「エリーゼ?」
「えっ? あっあぁ……何かしら?」
私……ボンヤリしてたの……
「ボンヤリして、どうした? 本当にヘンだぞ」
「ルーク……あの……あのね、ちょっと私、おかしいの。ごめんなさい」
心配させちゃってる……本当にどうしたんだろう……
「食べ終わったら馬車に戻った方が良い。獲ってきた丸鳥と卵は無限収納に入れてあるから、都合の良い時に移そうな。熱はなさそうだけど、顔がずっと赤い。微熱かもしれないけど無茶は禁物だ」
「無茶なんて……」
「心配なんだよ。俺は……俺はエリーゼにいつでも笑っていてほしいし、元気でいてほしい。婚姻してたら馬車に閉じこめて外に出さないけどな、ずっと腕の中に閉じ込めて出さないようにする」
カラーンッカランッカランッカランッ……思わず匙を取り落としてしまう。
婚姻してたら? 馬車に閉じ込められて? 腕の中に閉じ込めて出さないとか……
二人っきりで密室の馬車の中で? 抱き締めて?
あまりの告白に顔が赤くなってしまう。
「大丈夫かっ! どうしたっ!」
「エリーゼ!」
キャスバルお兄様……やだ……私、今どんな顔してる?
「悪いがエリーゼは連れて行く。特に何かしたようには見えなかったが、様子がおかしい」
「はい、お願いします。タマ、トラジ。一緒に付いて行ってくれ。器は俺が返しておくから」
「はいにゃ!」
「おねがいにゃ!」
キャスバルお兄様にお姫様抱っこされて、顔を覗き込まれる。
「キャスバルお兄様……見ないで……」
思わず小さく呟く。コクリと頷いてくださったキャスバルお兄様の顔は、何だかいつもと違っていた。
ルークの顔もキャスバルお兄様のお顔も見られなくてお兄様の胸に埋めるように顔を押し付けた。
揺れる体、キャスバルお兄様の体温と鼓動……まるで小さな子供の頃に戻ったみたい。
「エリーゼ、今日はゆっくり休みなさい。いいね」
ソッと顔を上げてお兄様の顔を見る。
チラリと私を見るお兄様は困ったようなお顔で薄く笑っていた。
「少しは落ち着いたか?」
「はい」
「そうか、馬車に着くまでこのままでいさせてくれるかい? 私の可愛い妹姫」
キャスバルお兄様の甘い笑顔と色気タップリの声……罪作りよねぇ。
「フフッ……キャスバルお兄様ったら……」
「本当だよ。エリーゼには、いつまでも私のお姫様でいてほしい。無理だとわかってるけどね」
あっという間に馬車に着く。優しく降ろされて、立たされた私の額に優しくお休みのキスをしてくれた。
「お休み、エリーゼ」
「はい、お休みなさいキャスバルお兄様」
私が馬車に入るまで、いてくれた。
馬車に入って窓の目隠し布を掛け、しばらくして去って行った。
なぜかしら? 脳裏に浮かぶのはルークのことばかり。好きって気持ちと愛されたい気持ち。自分の気持ちが不安定で心が揺れる。
ガチャッ! バタン! カチン!
「エリーゼ様!」
アニスが勢い良く馬車に戻って来た。でも、最後カチンって内鍵を閉めた? まだタマとトラジとヒナが戻って来るのに?
「アニス、慌てて……どうしたの?」
アニスは目隠し布の確認をすると隣に座り、私の手を握り真剣な顔で見つめてくる。
「遮音! エリーゼ様、大切なお話があります!」
「遮音魔法を掛けるなんて、どうしたの?」
いつになく緊張してる? どうしたの?
「お顔が赤くなってます。ルーク様のこと、本当にお好きなんですね」
顔……まだ赤いのね。ルークが本当に好きって何でわかるのかしら?
「不思議そうですね。シルヴァニアの女の特徴です。本当に好きな男ができると、その男のことしか考えられなくなります。そしてどこまでもどこまでも追いかけ、その人の子を孕むまで追い続けます。付いたあだ名が『男を食い殺す雌豹』です。思うままに求めるんです。シルヴァニアの力が強ければ強いほど、追うのだと母様が言ってました。奥様の時は大変だったと。エリーゼ様はシルヴァニアの力が強いと思います。母様だけでなく、奥様にも言われました……きちんと説明するように……」
「説明……」
専属侍女の役目は多い。説明を聞く限りかなり大変なんだと思う。詳しいことはおいおい聞けば良いと思うけど。そうかお母様の時は大変だったのね。
「何だか疲れたわ、先に休むわ」
「はい、お休みなさいませ。あ! タマちゃんたち来ましたよ! ヒナちゃん小さくしないと!」
「そうね、小さくしないとね。タマとトラジが怒るわね」
カギを開けて扉を開けば、頭だけヒョイと覗いたヒナに向かって魔法を掛けて小さくする。チビヒナはピョンと飛び乗るとタマとトラジが乗り込んで来る。
パタンと扉が閉められ、カチンと内鍵が掛けられる。
「お休みなさいませ、エリーゼ様」
「うん……」
瞼を閉じるとぬるま湯に漂うような不思議な感覚に囚われる。本当に好きになった男性がルークで良かった……
目が覚めて、ボンヤリして……何だっけ何か……
「あー見逃したぁ……ニャンコ集会‼」
すでに馬車の床でお団子状態で固まってる二匹と一羽。
て、ゆーか……タマとトラジと眠りたいのにぃ! チビヒナぁ! 羨ましいんだから!
「おはようございます、エリーゼ様。お体はどうです?」
「ん……? アニス、ありがと全然元気!」
それにしても、あれはヤバいなぁ……頭がふわふわしちゃって良くない。恋心って大変!
〈マスター、昨日の状態異常ですが〉
状態異常! あれ状態異常なの! 恋した気持ちが?
〈はい、状態異常です。種族保存のために各種ステータスが跳ね上がり、捕捉対象を捕捉するために必要な能力が解放されます〉
待って! 何かいろいろ待って! 各種ステータスが跳ね上がるって……捕捉対象とか普通じゃないよ! 怖いよ!
私の場合、捕捉対象ってルークよね……じゃあ、状態異常の時ってルークを追いかけ回すってことよね?
〈そうです、マスター〉
捕捉対象を捕捉するためってどんな能力が解放されるの?
〈……検索や麻痺では、ないのでしょうか?〉
検索……麻痺って……追いかけて動けなくするってこと?
〈そうです〉
なんで! 荒っぽいにも程があるでしょう!
〈動けなくなれば、行為に及べますので〉
行為……行為って! うそ! ソコまでなの! さすがにそれはどうなの!
〈はい、おそらくですが〉
おそらくってヒドくない?
〈マスターのステータスそのほかを見る限り、能力を落とさないために最適任者に好意を抱き、子をなすために全力で捕獲し行為をもって種族保存につとめるのでは? と推測します〉
嬉しくない推測! 能力……能力って……それに最適任者って……いや、何となくわかるけど生々しい! そしてストレートすぎる!
〈主にシルヴァニア家からの遺伝的能力です。ありとあらゆる方面からのアプローチで選ばれていると推測します〉
最適任者のことは良い! 聞きたくない。難しい話はなしだ! 遺伝的能力か。私の能力って何かわかるかしら?
〈申しわけありません。私にはどれが遺伝的能力なのか判別がつきません〉
そう……残念だわ。アレコレ混ざりすぎてわからないのね。
〈はい。ですが、マスターのお相手は良い方だと思います〉
ありがとう、ナビさん。じゃあ、起きて朝ご飯食べて出発だ!
「さ! 起きて朝ご飯の支度しよう! アニス、今日は寝椅子状態で過ごしたいからゆったりめにね」
「はい、かしこまりました。では、そのようにしておきますね」
席から立ち上がり伸びをする。うん、頭はスッキリしてるし体もちゃんと思い通りに動く。
「タマ、トラジ朝ご飯作りに行くよ! ヒナも起きて! 一緒に行こう!」
ピョンッとヒナの体から飛び出してクシクシと目を擦るタマとトラジ。ヒナは羽根をパタパタさせて体を起こした。
馬車の内鍵を外して扉を開ける、外はもう明るい! 嘘みたいに体が軽い! 飛び降りてステップを踏むように歩き出す。お供を連れて!
おっと、いけない! ヒナのサイズを戻してっと……
コンロの側には、すでに料理長をはじめ、料理人たちが揃っていた。
「お嬢、大丈夫ですかい?」
「大丈夫よ。朝ご飯なんだけど、丸鳥の卵料理が良いと思ってるの」
「どんな料理にするんですかい?」
「野菜を細かく刻んで卵でとじた物が良いかと思ってる。もちろん隊員の方たちのために肉か魚を焼いてパンに挟んで食べてもらったらどうかしら」
「なるほど、それなら食べやすいですし不平も出ないでしょう。ついでにちょっとしたスープも作っておきましょうか」
「材料を出すわね。お手伝いは必要かしら?」
「ははは! 大丈夫ですよ。お嬢はちょっと頑張りすぎです、休んでください。それか少し散歩か何かしてたら良いんじゃないんですかい」
「そうね、そうするわ」
料理長と話して、台に丸鳥の卵、ジャガイモやニンジンなどさまざまな野菜を出す。
肉よりも魚が食べたくて串と一緒に魚を山盛りに出しておく。小麦粉や米粉、塩やガラの実、砂糖や醤油も出しておく。
散歩か……散歩ねぇ…………それよりもヒナに乗ってみたい。
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