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5巻
5-3
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嬉しそうだな、チュウタローよ……まあ、チュウタローが良いなら私も良いよ。
ルークがしゃがんでルチルを抱き締めてます。チュウタローがそんなルチルを見て、しょぼくれてるように見えます。抱き締める事は出来ないけど、しゃがんで頭を撫でます。って、抱き付こうとバタバタし始めたのでヒナがチュウタローの尻尾を咥えて安全な距離にしてくれました。バタバタしてるけど、頑張ったから頭を撫で続けます。
「ギュッてされたいチュウ~!」
「チュウタロー、色々無理(笑)」
バタバタするのはやめて、涙目で私を見てるけど……そんな目で見てもダメ!
「ざんねんチュー!!」
ルチルを抱っこしながら膝を突いてチュウタローの頭を鷲掴みにするルークが真っ黒な笑顔で降臨しました。
「ん? 俺は許さないぞ」
「チュッ……チューッッ!! ……チッ!」
うん、チュウタローが苦しんでます。ルークったら容赦がないにも程がある(笑)。
「ルーク、チュウタローはエリックに預けるからその辺で」
「エリック……あぁ、そうか。だったら俺が連れて行こう」
頭を鷲掴みにしたままチラッとヒナを見て尻尾を離させ、プラプラさせつつ歩いて行きました。達者でな! チュウタロー!
それにしてもノエル……ノエルはルークの背中にへばり付いてましたネ! 子泣きジジイのように! さて、私も行こうかな!
立ち上がり、タマとトラジとヒナを見て話し掛けようとした時でした。
「エリーゼ、少し話をしようか」
アワワワワワ……キャスバルお兄様が来たーっ! どどど……どうしよう!
「タマ、トラジ、ヒナ。少しの間、君たちの主を借りるよ」
なんでそんな甘い声で言ってるの! 騙されないで! カワイコちゃん達!
「わかったにゃ!」
「主のおにいさんにゃ、しんらいしてるにゃ!」
ピュピュ~イ! (戻ろう!)
「「にゃっ!」」
ああ~! 行~か~な~い~で~っ! 無情にも後ろ姿が遠ざかる。
「さあ、行こうか」
おそるおそる見たキャスバルお兄様はほのかに黒い微笑みでレイを従えて立ってました。キュッと手を握られて、黒くて甘い微笑みで私を引き寄せガッチリ腰をホールドしました! 逃がさない気満々です! なんで手じゃなくて腰なのよ! って小さい頃手を何度も振りほどいたからです。
ゆったりと歩くキャスバルお兄様にエスコートされて、お兄様の馬車に拉致連行です。振り返ってレイを見たけれど、ニコニコしてるだけで助けてくれません。
「エリーゼ、逃がさないよ」
いやぁ! 逃がしてぇ! キャスバルお兄様の言い方エロい~! 何か孕みそうでコワイ~!
ドキドキしながら見たキャスバルお兄様のお顔は、令嬢達が夢見るイケメンオーラ全開です!
「お兄様……」
めっちゃ見られてます! 隊員達もホッコリ笑顔で見ないで! 私、今からキャスバルお兄様の馬車で尋問タイムなんですのよ!
「ただ話をするだけだよ、だからそんな泣きそうな顔をしないで」
いやぁ! 何よ! ただ話をするだけだよって! 絶対ウソじゃん! そんな事を思っていたら、キャスバルお兄様の黒い馬車まで来てしまいました。逃げたかった……マジで。
「レイ、悪いが見張っていてくれ」
「畏まりました。安心してお話しなさいますよう」
「勿論だ。さ、エリーゼ」
うわぁぁぁぁぁぁん! もう、無理ぃ! 馬車の扉を開け、先に入らされましたぁ! 密室にキャスバルお兄様と二人きりとか、何か嫌ぁ! キャスバルお兄様が入ってきて、カチン! え? 鍵を掛けた! なんで!? エリーゼ、絶体絶命のピンチ!
「そんなに怯えないで」
ぎゃー! 後ろから、ヤンワリハグ! なんで、私のお腹に手を回してるの! そして耳元で囁くとか、実の妹にする事じゃない! と思う! こんなの怯えるに決まってるじゃないの! 私、こう見えても恋愛指数ほぼゼロなのよ!
「俺の可愛いお姫様、座って話をしようか」
ななな……何、言っちゃってるの! 口説いてるみたいな台詞をサラッと言わないで!
グイッと腰とか肩とかお兄様の良いように掴まれ引き寄せられ、ストンと座った場所はキャスバルお兄様のお膝の上でした。恐怖! ガタガタ……
「おおお……お兄様……」
「ああ、こんなに大きくなって。ずっと小さくて可愛いお姫様だと思ってたけど、こんなに綺麗になって……俺の小さくて可愛くてお転婆なお姫様はあっという間に美しくて……お転婆は変わらないな。いや、むしろ酷くなった気がするね」
甘かったのに、最後お転婆の所で何か思い出しましたよ! グイッとまた、腰が引き寄せられたかと思ったら座面にお尻を落として私の膝がお兄様の太股の上という良くラブラブなカップルがやる座り方ぁ! 恥ずか死ねるやつぅ! どうしてぇ!
テンパってる私の頬に空いてる手を添えて、クイッと顔を上げそのままホールド!
これなんていう拷問なの! 私、妹よね!
「産まれた時からずっと見てきた。小さくて可愛い俺の妹。離れて暮らす内に、こんなに綺麗になって誰よりも美しくなって……」
近い! 近い近い! 顔が近いです! お兄様! このままチュウするのかなって位近いです!
「あのバカ王子が婚約破棄なんてふざけた事を言った時、殴り殺してやろうかと思ったよ。父上と母上が行かなかったから、我慢したけどね。今はこうなって良かったと思ってるが……今度は帝国の皇子だ。救いは向こうがこちらに来る事かな」
お兄様……私、このまま気絶しそうです。
「さて、エリーゼ。聞きたい事は沢山ある。エリーゼがルークを好きなのは分かった、時々おかしくなるからな。だが、時折何かの合図みたいなやり取りをしてる。あれはなんだ?」
キャスバルお兄様から甘さが消えました。冷気すら感じます。ヤバイです。答えるまで逃がさないようなニオイがプンプンします。
「私がこことは違う記憶を持っている事は以前お話ししましたよね?」
頷くお兄様。なんで、色気たっぷりに微笑んでいるのか聞きたいけど怖いから聞かない。
「ルークも同じ様にこことは違う記憶を持っているのです」
ちょっとお兄様のお顔が曇りました。あら?
「私の記憶とルークの記憶は同じ世界で同じ時代でした。共通する部分がかなりあります。なので、時折あの世界でのやり取りが出てしまうのです」
キャスバルお兄様は考え込みました。ずっと顔をホールドされたままでツラいです! 解放されたいです! なんで対面席じゃないの! そんなの分かってます。ウソつかせない為と逃がさない為ですよね! うわぁぁん! 小さかった私、どうしていつでも逃亡してたのぉ!
「そうか……良く分からないが、ルークには期待している。エリーゼとも仲が良いし、同じ様に魔物をテイムしてるしな。納得はできないが、目を瞑っておこう。でだ、あの大耳鳥への攻撃はなんだ? 魔法のようだったが」
へえ……あの恐鳥、そんな名前なのか、大耳鳥ね、覚えておこう。
「魔法です。あの魔物は鳥なので翼に大きな穴が空けば飛べなくなると思って」
本当です。飛ばれたらメンドウなので。
「そうか盲点だったな」
そういや、弓矢とかでしか遠距離攻撃してなかったものね。
それにしても! キャスバルお兄様のシスコンが怖い~! ずっと見てきたとか言われた~!
フ……とお兄様が滅茶苦茶蕩けそうな笑顔になった! ピンク! 空気がピンクな気がします! 助けて! 偉い人!
「やはり自慢の妹だよ、エリーゼは。本当にあのバカ王子が婚約破棄してくれて良かった」
本音漏らしすぎ! 私をどうしたいの! キャスバルお兄様は!
もう、無理! 限界です! 逃げたいです!
グイーッとお兄様の胸を押してみる。くっ! ビクともしない! 私の腕が伸びただけだった! こう見えて、私とっても強いのに!
……アレ? 何か、お兄様の目がチラチラッと……うん?
「エリーゼ、俺の前だから良いがルークの前でそんなことをしてはいけないよ。まるで誘ってる様に見えるからね」
は? ……イヤァ! めっちゃ胸アピールしてるみたいになってるぅ! 首振りたいけど、ホールドされてて無理! ジンワリ涙目になってきた……逃げられなくてツラい……なんか……何か、イヤァァァッッ!!
「エリーゼ、泣かないで。そんな風に泣かれたら、どうしたら良いか困ってしまうよ」
だったら解放してぇ! 逃げないから!
「逃がさないけどね」
鬼ぃ! お兄様じゃなくて、鬼ぃ様やん! バカァ!
「うん、その顔は失礼な事考えてるね。そんな所、小さい頃と変わらないねエリーゼは」
バレてるぅ! 鬼ぃ様、エスパーなの! なんで、悪い顔で笑ってるの!
「ずっと……ずっと小さなお姫様だと思ってたのに、あっという間に年頃になって好きな男が出来て頬なんか染めて……父上の事、大好きって言っていたね……」
怖い! 目がマジで! 何、言いだすつもり!!
「小さな頃俺の事、大好きって言ってた事忘れた? 父上だけじゃなくて、俺も言われたいんだよ。エリーゼ。俺の膝の上で、俺の事キラキラした目で見上げて、お兄様大好きって言って……そしたらなんでも許すよ。可愛いエリーゼ。俺達の可愛いお姫様」
ガーーーーーーン!! お父様もアレだったけど、お兄様もアレだった。
とんでもねぇシスコン兄だ! あ~でも幼少の頃の私も悪いのか? 待て! 最後、俺達って言ったな! じゃあキャスバルお兄様の次はトールお兄様が待ち構えているのか? くっ! とんでもねぇ色気を垂れ流して待ち構えている以上、私が言うまで離さないぞ! って事か、そうなのか! ……そうだろうな……逃がさないとか言いましたもんね。覚悟を……覚悟をキメろ! 私っ!
「……キャスアルお兄様らい好きっ」
噛んだ! ヘンな所でっ! しかも二箇所! 最悪だっ!
「くっ!」
ガバァ! ぎゅぅぅぅぅぅ! 死ぬ! 死ぬ死ぬぅ!! お兄様ぁ! 強い強い強い! 抱き締めるとかのレベルじゃない! 絞め殺すレベルゥ! 死んじゃう! 息が出来ない位絞まってる!
「かっ! はっ! キャ……にぃ……」
ガバッと離れたとき、今まで見た中で一番良い笑顔のキャスバルお兄様が見えました。私は酸素補給でいっぱいいっぱいです。
「すまなかった。あんまりエリーゼが可愛くてつい……苦しませてゴメンね。エリーゼの小さい時を思い出したよ。たまにで良いから、小さい時の様に俺の膝の上に座ってくれるかい?」
とんでもねぇ! とんでもねぇ事サラリと言って来たよ! なんで、ん? ってピンクオーラ全開で私を見て微笑んでるの! イエス! しか聞かないよって顔してるじゃん! でもでも、私……家族皆大好き! ホッペタホールド解除されて、楽になりました。
だからギュウとお兄様に抱き付いた。ああ……エリーゼは良くキャスバルお兄様に抱き付いてたものね……
「キャスバルお兄様、大好き……」
自然にそう言っていた。シスコンを加速させるかも知れないけど、仕方ないじゃない。格好良くて優しくて強い自慢のお兄様なんだもの。一人っ子だった前世の憧れなんだもん。ちょっといや大分重いけど。
「俺もだよ、可愛いエリーゼ。いつまでもエリーゼは俺のお姫様だよ」
キュッと優しく抱き締められてから、グイと腰を掴まれて立たされました。どうやら、尋問タイムは終了のようです。って! 違った! そのまま引き寄せられた! ちょっ! 座席に膝ついちゃう! あ~! 抱き締められてるぅ~! 解放されない~!
「どんな我が儘でも、俺が出来る事ならなんでも叶える……やっと帰ってきたんだ。もう少し兄でいさせてくれ……」
震える声。こんなお兄様の声、初めて聞く。キャスバルお兄様のフワフワの髪をソッと撫でる。
「嫌だわ。キャスバルお兄様はずっとずっと私の大好きなお兄様ですわ。婚姻してもキャスバルお兄様は私の素敵なお兄様。だから安心なさって。ずぅっとずぅっと、大好きな私のお兄様」
「そうか……もう少しこのままでいさせてくれ……」
「はい」
ピクリとも動かずにいるお兄様の頭を撫で続けた。
そんなに長くない時間だったと思う。ゆっくりと離れたお兄様はいつものお兄様でした。
「皆の所に行こうか」
「はい、キャスバルお兄様」
キャスバルお兄様は鍵を開けて先に降り、私のエスコートをして下さいました。レイの甘い笑顔が痛かったです。
なぜか片方の手をキャスバルお兄様が、もう片方の手をレイが繋いで歩いて行きました。
……小さい頃、こんな風に歩いた事あったなぁ……と思い出してなんだか心がポカポカしました。
中央広場に着いたので、早速のルーチンワークです! 広く! 大きく! 頑丈に!
……あれ? 何か違う物出来た……
「エリーゼ、なぜ神殿を造ったの?」
ルークがウワァって顔で話し掛けて来たよ……私も内心、ウワァですけど。
「ふふっ、なんだか頑丈な物が良いと思ったらあんな形になったのよ。あんな大きい恐鳥が出たから、ちょっと良い物にしなくちゃなって思って」
「なら、いっそ魔物除けの柱も神殿の柱っぽくしてみたらどうだ? 雰囲気出るだろう」
大理石風のシャレオツな柱でカバーしたら、格好いいかも……神殿風の四阿にコンロが四基。その四阿を囲むように打ち込まれてる魔物除けが神殿風とか……良い!
「ナイスアイディア! ちょっと、やってみる! ヒナ!」
ピュ~イ? (呼んだ~?)
走ってきたヒナに跳び乗る。鞍なんてつけてないけど、ヒナは慣れたもので羽で私の足を挟む。
「ヒナ、今打ち込んでる魔物除けに沿ってゆっくり歩いて頂戴」
ピュッ! (はいっ!)
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「分かった」
ヒナはトトトッと足取りも軽く歩いて行く。
一番近い場所に行き、打ち込み作業をしている隊員に退いて貰う。魔物除けを包むようにギリシャ神殿風の柱を魔法で造る。物の数秒で出来てしまうチートさ……でも、シャレオツでござる。調子に乗って内縁だけでなく、外縁の魔物除けも柱にして回った。
やり切った感いっぱいでコンロの所に戻って来た私が見たのは、笑顔で怒ってる家族の顔でした。
えー? オコじゃーん。良いと思ったのになぁ。
「エリーゼ。素晴らしく芸術的だが、なんでこうなった?」
「そうよ。ちょっとお母様びっくりしたわ」
お父様とお母様から注意されました。言い訳しておこう!
「先程出た魔物を見て、少しでも頑丈な物を作りたい! でも武骨な造りは嫌! と思って作ったらああなりました」
堂々と! いかにも正しい事を言ってる風に! 言ってみました!
……なんでキャスバルお兄様が苦笑いになってますの?
「エリーゼを叱るのはやめて昼食を作ってもらいましょう。エリーゼの手料理を食べたくて仕方ないです」
「そうだな。キャスバルの言う事を聞こう。エリーゼの手料理が恋しいのは俺もだ。な、フェリシア」
「そうですわね。エリーゼの作るご飯は本当に美味しいもの。もちろん甘味もね♡」
「そうですよ。父上や母上、兄貴の言う通りエリーゼの手料理が恋しい。きっと皆、そう思ってますよ」
お父様もお母様もキャスバルお兄様もトールお兄様も……
「俺も胃袋掴まれてるぞ~!」
ルーク! そのアピールは笑っちゃうから止めて(笑)。
家族から離れて、料理長のところに来ました。
なんとさっきの恐鳥の肉が運び込まれました! 美味しいらしいです。少し削いで手の上で魔法で蒸して味を見てみる。
「うん。美味しい」
上等な鴨の味に似てる。恐鳥の肉は料理長に任せよう! 私は食べたい物があるので、諦めます。料理長にご飯を炊くように言い、白菜を出して浅漬けをお願いする。デザート用の安納芋も出しておく。
「ねえ、料理長はお味噌汁の具には何がいい?」
決まってないから、料理長の好みで作ろう! 料理長はうーん? と考えた。
「キノコのお味噌汁が良いです」
あれ? 何かいつもとテンションが違う。そう言えばいつものヤンチャ系な言葉遣いじゃない。何かあった?
「じゃあ……エノキタケのお味噌汁にしましょう」
エノキタケをドサッと出して、ブシ花を出してお味噌汁を作って貰う。トラジとタマとノエルに。
尻尾をピンと立てて、待ってるのでお味噌汁係です。
「ブシ花は三匹で仲良く処理するのよ」
「もちろんにゃっ!」
「とうぜんにゃっ!」
「ブシバナひさしぶりにゃっ! うれしいにゃっ!」
ハッ! ノエルは島送りに出来なかったから、ひさしぶりのブシ花だわ! ってタマもトラジも素知らぬ顔でお味噌汁作りに向かった! どうする気かしら? ……時々見ておこう。
ニャンコ達が良く見える場所で、大鍋を出して水を入れていく。あ、これも出汁がいるやつだった。ブシ花を木綿袋に入れて出汁を取る準備をしておく。
丸鳥のもも肉を取り出し、料理人に一口大に切って貰う。大きなボウルを出し、丸鳥の卵を出す。卵はクリーン&キレイキレイで生で食べれる位キレイにする。
今日のお昼ご飯は親子丼です。滋味溢れる丸鳥で作る親子丼! 豪華です!
シイタケと玉ネギをスライスして鍋に入れる様にしておく。出汁が取れたら入れてもらうのだ! シイタケも玉ネギも出汁が出るから大事!
料理人達は出汁を取り、私の指示で砂糖に醤油を入れていきます。もちろんシイタケも玉ネギも投入ズミです。味付けは少し濃いめ。味見をしてちょっと濃いかな? と感じる程度にする。うん、この感じ。私のお母さんの味。私が小学生の時教えて貰った思い出の料理。大きめの鍋でいっぺんに作るやり方。丸鳥の肉を入れ、アク取りをお願いする。
肉に火が通った頃合に再度味見。うーん? ちょっとお砂糖を足すかな? 少しずつ調整して、料理人に味見して貰って鍋全ての味を整える。
卵をといて……投入~! パカッと蓋をしてちょっと待って、鍋を台に移動させる。
親子丼、喜んでもらえると良いな~。そうそう後のせの三つ葉も出して刻んでおかないとね!
お味噌汁の出汁と親子丼の出汁とブシ花大活躍で大量のブシ花(使用済み)が出ました。
お味噌汁に使ったブシ花は仲良く? いや、タマとトラジはノエルに多めに分けてあげてました。ノエルは「いいのかにゃ? いいのかにゃ?」と言いながら嬉しそうに食べてました。
そんなニャンコ達は私の手元にある大量の使用済みブシ花に釘付けです。
「主……たくさんあるにゃ……」
「もりもりあるにゃ……」
「イイニオイにゃ……たべたいにゃ……」
ブシ花でお腹いっぱいになっちゃう気かしら? でも、取って置いても仕方ないしね。台の上にコトコトと三匹の為のお皿を出す。同じ位の量にして盛って、三匹に渡すとタマとトラジは自分のお皿からチョコチョコとノエルのお皿へブシ花を移す。
「どうしてにゃ? タマにゃもトラにゃも、どうしてわけてくれるにゃ?」
ですよね! 私はなんとなく分かるけど、ちゃんと言うのかな? ……タマとトラジが顔を見合わせ、コクコクと頷き合いタマがノエルをピッと見つめた。
「ノエル、こころしてきくにゃ。ボクとトラジがとくべつなトコにいってたとき、ブシバナをつかうことがあったにゃ。ブシバナをつかったアト、いっしょにしょりしたにゃ。だから、そのときのぶんをノエルにわたしたにゃ」
正直! 正直に言ったぁ! タマが。一番上のお兄ちゃんだからかな? そうだよね。タマ、偉いな! 後でいっぱい撫でよう!
ノエルはハッ! とした顔になったり、キュと悲しそうな顔になったりと忙しかったけど最終的にはちょっと嬉しそうな顔になり……
「わかったにゃ。ありがとにゃ。ボクもとくべつなトコにいきたいにゃ……でも、たぶんいけないトコにゃ。タマにゃもトラにゃもやさしいにゃ。いわなかったらわからなかったにゃ。ボクもりっぱなにいにになるにゃ」
にいに! ノエル、ルチルからにいにって言われてるのか? 言われてるのね! 健気! 可愛い!
「ノエルにいにー! スゴいチューッ!」
え? と思う暇もなく、黄色い物体がドシーン! とノエルに激突しました。それをズシャア! と踏ん張って受け止めるノエルは成長したと思いました。
ルチル……どうした? 何がいったい……
「ノエルにいに! さっきのすごいおおきいの、すごかったチュ! ボクもがんばったから、おおきいおにくくれるっていってたチュ! ノエルにいにがおしえてくれたおかげチュ!」
どうやらお肉を食べられるのが嬉しくて興奮してるようです。姿が姿なので、木の実がメイン食料かと思ったらなんでも食べるんだよね。精霊だからかしら?
ヒナの食料は鳥っぽいのに対して、ニャンコ達とネズミ達はなんでも食べちゃう。
て、いうかノエルがブシ花食べれないから解放したらどうかな? ルチルさんよ。
「ルチル、まつにゃ。おにくがたべれてうれしいのはわかるにゃ。でも、ボクがブシバナをたべるまでまつにゃ」
「わかったチュッ! まってるチュ!」
ノエルのお皿はタマが確保していてくれたようです。山盛りのブシ花が載ったお皿をノエルに渡しました。
「まだ、いるかにゃ?」
「じゅうぶんにゃ」
タマとノエルのやり取りをほっこりした気持ちで見てると、ルークがやって来ました。
「ノエルが食事する姿はいつ見ても可愛い!」
力説ですか。ニャンコ好きあるあるですね、でもタマもトラジも可愛いですから!
ルークがしゃがんでルチルを抱き締めてます。チュウタローがそんなルチルを見て、しょぼくれてるように見えます。抱き締める事は出来ないけど、しゃがんで頭を撫でます。って、抱き付こうとバタバタし始めたのでヒナがチュウタローの尻尾を咥えて安全な距離にしてくれました。バタバタしてるけど、頑張ったから頭を撫で続けます。
「ギュッてされたいチュウ~!」
「チュウタロー、色々無理(笑)」
バタバタするのはやめて、涙目で私を見てるけど……そんな目で見てもダメ!
「ざんねんチュー!!」
ルチルを抱っこしながら膝を突いてチュウタローの頭を鷲掴みにするルークが真っ黒な笑顔で降臨しました。
「ん? 俺は許さないぞ」
「チュッ……チューッッ!! ……チッ!」
うん、チュウタローが苦しんでます。ルークったら容赦がないにも程がある(笑)。
「ルーク、チュウタローはエリックに預けるからその辺で」
「エリック……あぁ、そうか。だったら俺が連れて行こう」
頭を鷲掴みにしたままチラッとヒナを見て尻尾を離させ、プラプラさせつつ歩いて行きました。達者でな! チュウタロー!
それにしてもノエル……ノエルはルークの背中にへばり付いてましたネ! 子泣きジジイのように! さて、私も行こうかな!
立ち上がり、タマとトラジとヒナを見て話し掛けようとした時でした。
「エリーゼ、少し話をしようか」
アワワワワワ……キャスバルお兄様が来たーっ! どどど……どうしよう!
「タマ、トラジ、ヒナ。少しの間、君たちの主を借りるよ」
なんでそんな甘い声で言ってるの! 騙されないで! カワイコちゃん達!
「わかったにゃ!」
「主のおにいさんにゃ、しんらいしてるにゃ!」
ピュピュ~イ! (戻ろう!)
「「にゃっ!」」
ああ~! 行~か~な~い~で~っ! 無情にも後ろ姿が遠ざかる。
「さあ、行こうか」
おそるおそる見たキャスバルお兄様はほのかに黒い微笑みでレイを従えて立ってました。キュッと手を握られて、黒くて甘い微笑みで私を引き寄せガッチリ腰をホールドしました! 逃がさない気満々です! なんで手じゃなくて腰なのよ! って小さい頃手を何度も振りほどいたからです。
ゆったりと歩くキャスバルお兄様にエスコートされて、お兄様の馬車に拉致連行です。振り返ってレイを見たけれど、ニコニコしてるだけで助けてくれません。
「エリーゼ、逃がさないよ」
いやぁ! 逃がしてぇ! キャスバルお兄様の言い方エロい~! 何か孕みそうでコワイ~!
ドキドキしながら見たキャスバルお兄様のお顔は、令嬢達が夢見るイケメンオーラ全開です!
「お兄様……」
めっちゃ見られてます! 隊員達もホッコリ笑顔で見ないで! 私、今からキャスバルお兄様の馬車で尋問タイムなんですのよ!
「ただ話をするだけだよ、だからそんな泣きそうな顔をしないで」
いやぁ! 何よ! ただ話をするだけだよって! 絶対ウソじゃん! そんな事を思っていたら、キャスバルお兄様の黒い馬車まで来てしまいました。逃げたかった……マジで。
「レイ、悪いが見張っていてくれ」
「畏まりました。安心してお話しなさいますよう」
「勿論だ。さ、エリーゼ」
うわぁぁぁぁぁぁん! もう、無理ぃ! 馬車の扉を開け、先に入らされましたぁ! 密室にキャスバルお兄様と二人きりとか、何か嫌ぁ! キャスバルお兄様が入ってきて、カチン! え? 鍵を掛けた! なんで!? エリーゼ、絶体絶命のピンチ!
「そんなに怯えないで」
ぎゃー! 後ろから、ヤンワリハグ! なんで、私のお腹に手を回してるの! そして耳元で囁くとか、実の妹にする事じゃない! と思う! こんなの怯えるに決まってるじゃないの! 私、こう見えても恋愛指数ほぼゼロなのよ!
「俺の可愛いお姫様、座って話をしようか」
ななな……何、言っちゃってるの! 口説いてるみたいな台詞をサラッと言わないで!
グイッと腰とか肩とかお兄様の良いように掴まれ引き寄せられ、ストンと座った場所はキャスバルお兄様のお膝の上でした。恐怖! ガタガタ……
「おおお……お兄様……」
「ああ、こんなに大きくなって。ずっと小さくて可愛いお姫様だと思ってたけど、こんなに綺麗になって……俺の小さくて可愛くてお転婆なお姫様はあっという間に美しくて……お転婆は変わらないな。いや、むしろ酷くなった気がするね」
甘かったのに、最後お転婆の所で何か思い出しましたよ! グイッとまた、腰が引き寄せられたかと思ったら座面にお尻を落として私の膝がお兄様の太股の上という良くラブラブなカップルがやる座り方ぁ! 恥ずか死ねるやつぅ! どうしてぇ!
テンパってる私の頬に空いてる手を添えて、クイッと顔を上げそのままホールド!
これなんていう拷問なの! 私、妹よね!
「産まれた時からずっと見てきた。小さくて可愛い俺の妹。離れて暮らす内に、こんなに綺麗になって誰よりも美しくなって……」
近い! 近い近い! 顔が近いです! お兄様! このままチュウするのかなって位近いです!
「あのバカ王子が婚約破棄なんてふざけた事を言った時、殴り殺してやろうかと思ったよ。父上と母上が行かなかったから、我慢したけどね。今はこうなって良かったと思ってるが……今度は帝国の皇子だ。救いは向こうがこちらに来る事かな」
お兄様……私、このまま気絶しそうです。
「さて、エリーゼ。聞きたい事は沢山ある。エリーゼがルークを好きなのは分かった、時々おかしくなるからな。だが、時折何かの合図みたいなやり取りをしてる。あれはなんだ?」
キャスバルお兄様から甘さが消えました。冷気すら感じます。ヤバイです。答えるまで逃がさないようなニオイがプンプンします。
「私がこことは違う記憶を持っている事は以前お話ししましたよね?」
頷くお兄様。なんで、色気たっぷりに微笑んでいるのか聞きたいけど怖いから聞かない。
「ルークも同じ様にこことは違う記憶を持っているのです」
ちょっとお兄様のお顔が曇りました。あら?
「私の記憶とルークの記憶は同じ世界で同じ時代でした。共通する部分がかなりあります。なので、時折あの世界でのやり取りが出てしまうのです」
キャスバルお兄様は考え込みました。ずっと顔をホールドされたままでツラいです! 解放されたいです! なんで対面席じゃないの! そんなの分かってます。ウソつかせない為と逃がさない為ですよね! うわぁぁん! 小さかった私、どうしていつでも逃亡してたのぉ!
「そうか……良く分からないが、ルークには期待している。エリーゼとも仲が良いし、同じ様に魔物をテイムしてるしな。納得はできないが、目を瞑っておこう。でだ、あの大耳鳥への攻撃はなんだ? 魔法のようだったが」
へえ……あの恐鳥、そんな名前なのか、大耳鳥ね、覚えておこう。
「魔法です。あの魔物は鳥なので翼に大きな穴が空けば飛べなくなると思って」
本当です。飛ばれたらメンドウなので。
「そうか盲点だったな」
そういや、弓矢とかでしか遠距離攻撃してなかったものね。
それにしても! キャスバルお兄様のシスコンが怖い~! ずっと見てきたとか言われた~!
フ……とお兄様が滅茶苦茶蕩けそうな笑顔になった! ピンク! 空気がピンクな気がします! 助けて! 偉い人!
「やはり自慢の妹だよ、エリーゼは。本当にあのバカ王子が婚約破棄してくれて良かった」
本音漏らしすぎ! 私をどうしたいの! キャスバルお兄様は!
もう、無理! 限界です! 逃げたいです!
グイーッとお兄様の胸を押してみる。くっ! ビクともしない! 私の腕が伸びただけだった! こう見えて、私とっても強いのに!
……アレ? 何か、お兄様の目がチラチラッと……うん?
「エリーゼ、俺の前だから良いがルークの前でそんなことをしてはいけないよ。まるで誘ってる様に見えるからね」
は? ……イヤァ! めっちゃ胸アピールしてるみたいになってるぅ! 首振りたいけど、ホールドされてて無理! ジンワリ涙目になってきた……逃げられなくてツラい……なんか……何か、イヤァァァッッ!!
「エリーゼ、泣かないで。そんな風に泣かれたら、どうしたら良いか困ってしまうよ」
だったら解放してぇ! 逃げないから!
「逃がさないけどね」
鬼ぃ! お兄様じゃなくて、鬼ぃ様やん! バカァ!
「うん、その顔は失礼な事考えてるね。そんな所、小さい頃と変わらないねエリーゼは」
バレてるぅ! 鬼ぃ様、エスパーなの! なんで、悪い顔で笑ってるの!
「ずっと……ずっと小さなお姫様だと思ってたのに、あっという間に年頃になって好きな男が出来て頬なんか染めて……父上の事、大好きって言っていたね……」
怖い! 目がマジで! 何、言いだすつもり!!
「小さな頃俺の事、大好きって言ってた事忘れた? 父上だけじゃなくて、俺も言われたいんだよ。エリーゼ。俺の膝の上で、俺の事キラキラした目で見上げて、お兄様大好きって言って……そしたらなんでも許すよ。可愛いエリーゼ。俺達の可愛いお姫様」
ガーーーーーーン!! お父様もアレだったけど、お兄様もアレだった。
とんでもねぇシスコン兄だ! あ~でも幼少の頃の私も悪いのか? 待て! 最後、俺達って言ったな! じゃあキャスバルお兄様の次はトールお兄様が待ち構えているのか? くっ! とんでもねぇ色気を垂れ流して待ち構えている以上、私が言うまで離さないぞ! って事か、そうなのか! ……そうだろうな……逃がさないとか言いましたもんね。覚悟を……覚悟をキメろ! 私っ!
「……キャスアルお兄様らい好きっ」
噛んだ! ヘンな所でっ! しかも二箇所! 最悪だっ!
「くっ!」
ガバァ! ぎゅぅぅぅぅぅ! 死ぬ! 死ぬ死ぬぅ!! お兄様ぁ! 強い強い強い! 抱き締めるとかのレベルじゃない! 絞め殺すレベルゥ! 死んじゃう! 息が出来ない位絞まってる!
「かっ! はっ! キャ……にぃ……」
ガバッと離れたとき、今まで見た中で一番良い笑顔のキャスバルお兄様が見えました。私は酸素補給でいっぱいいっぱいです。
「すまなかった。あんまりエリーゼが可愛くてつい……苦しませてゴメンね。エリーゼの小さい時を思い出したよ。たまにで良いから、小さい時の様に俺の膝の上に座ってくれるかい?」
とんでもねぇ! とんでもねぇ事サラリと言って来たよ! なんで、ん? ってピンクオーラ全開で私を見て微笑んでるの! イエス! しか聞かないよって顔してるじゃん! でもでも、私……家族皆大好き! ホッペタホールド解除されて、楽になりました。
だからギュウとお兄様に抱き付いた。ああ……エリーゼは良くキャスバルお兄様に抱き付いてたものね……
「キャスバルお兄様、大好き……」
自然にそう言っていた。シスコンを加速させるかも知れないけど、仕方ないじゃない。格好良くて優しくて強い自慢のお兄様なんだもの。一人っ子だった前世の憧れなんだもん。ちょっといや大分重いけど。
「俺もだよ、可愛いエリーゼ。いつまでもエリーゼは俺のお姫様だよ」
キュッと優しく抱き締められてから、グイと腰を掴まれて立たされました。どうやら、尋問タイムは終了のようです。って! 違った! そのまま引き寄せられた! ちょっ! 座席に膝ついちゃう! あ~! 抱き締められてるぅ~! 解放されない~!
「どんな我が儘でも、俺が出来る事ならなんでも叶える……やっと帰ってきたんだ。もう少し兄でいさせてくれ……」
震える声。こんなお兄様の声、初めて聞く。キャスバルお兄様のフワフワの髪をソッと撫でる。
「嫌だわ。キャスバルお兄様はずっとずっと私の大好きなお兄様ですわ。婚姻してもキャスバルお兄様は私の素敵なお兄様。だから安心なさって。ずぅっとずぅっと、大好きな私のお兄様」
「そうか……もう少しこのままでいさせてくれ……」
「はい」
ピクリとも動かずにいるお兄様の頭を撫で続けた。
そんなに長くない時間だったと思う。ゆっくりと離れたお兄様はいつものお兄様でした。
「皆の所に行こうか」
「はい、キャスバルお兄様」
キャスバルお兄様は鍵を開けて先に降り、私のエスコートをして下さいました。レイの甘い笑顔が痛かったです。
なぜか片方の手をキャスバルお兄様が、もう片方の手をレイが繋いで歩いて行きました。
……小さい頃、こんな風に歩いた事あったなぁ……と思い出してなんだか心がポカポカしました。
中央広場に着いたので、早速のルーチンワークです! 広く! 大きく! 頑丈に!
……あれ? 何か違う物出来た……
「エリーゼ、なぜ神殿を造ったの?」
ルークがウワァって顔で話し掛けて来たよ……私も内心、ウワァですけど。
「ふふっ、なんだか頑丈な物が良いと思ったらあんな形になったのよ。あんな大きい恐鳥が出たから、ちょっと良い物にしなくちゃなって思って」
「なら、いっそ魔物除けの柱も神殿の柱っぽくしてみたらどうだ? 雰囲気出るだろう」
大理石風のシャレオツな柱でカバーしたら、格好いいかも……神殿風の四阿にコンロが四基。その四阿を囲むように打ち込まれてる魔物除けが神殿風とか……良い!
「ナイスアイディア! ちょっと、やってみる! ヒナ!」
ピュ~イ? (呼んだ~?)
走ってきたヒナに跳び乗る。鞍なんてつけてないけど、ヒナは慣れたもので羽で私の足を挟む。
「ヒナ、今打ち込んでる魔物除けに沿ってゆっくり歩いて頂戴」
ピュッ! (はいっ!)
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「分かった」
ヒナはトトトッと足取りも軽く歩いて行く。
一番近い場所に行き、打ち込み作業をしている隊員に退いて貰う。魔物除けを包むようにギリシャ神殿風の柱を魔法で造る。物の数秒で出来てしまうチートさ……でも、シャレオツでござる。調子に乗って内縁だけでなく、外縁の魔物除けも柱にして回った。
やり切った感いっぱいでコンロの所に戻って来た私が見たのは、笑顔で怒ってる家族の顔でした。
えー? オコじゃーん。良いと思ったのになぁ。
「エリーゼ。素晴らしく芸術的だが、なんでこうなった?」
「そうよ。ちょっとお母様びっくりしたわ」
お父様とお母様から注意されました。言い訳しておこう!
「先程出た魔物を見て、少しでも頑丈な物を作りたい! でも武骨な造りは嫌! と思って作ったらああなりました」
堂々と! いかにも正しい事を言ってる風に! 言ってみました!
……なんでキャスバルお兄様が苦笑いになってますの?
「エリーゼを叱るのはやめて昼食を作ってもらいましょう。エリーゼの手料理を食べたくて仕方ないです」
「そうだな。キャスバルの言う事を聞こう。エリーゼの手料理が恋しいのは俺もだ。な、フェリシア」
「そうですわね。エリーゼの作るご飯は本当に美味しいもの。もちろん甘味もね♡」
「そうですよ。父上や母上、兄貴の言う通りエリーゼの手料理が恋しい。きっと皆、そう思ってますよ」
お父様もお母様もキャスバルお兄様もトールお兄様も……
「俺も胃袋掴まれてるぞ~!」
ルーク! そのアピールは笑っちゃうから止めて(笑)。
家族から離れて、料理長のところに来ました。
なんとさっきの恐鳥の肉が運び込まれました! 美味しいらしいです。少し削いで手の上で魔法で蒸して味を見てみる。
「うん。美味しい」
上等な鴨の味に似てる。恐鳥の肉は料理長に任せよう! 私は食べたい物があるので、諦めます。料理長にご飯を炊くように言い、白菜を出して浅漬けをお願いする。デザート用の安納芋も出しておく。
「ねえ、料理長はお味噌汁の具には何がいい?」
決まってないから、料理長の好みで作ろう! 料理長はうーん? と考えた。
「キノコのお味噌汁が良いです」
あれ? 何かいつもとテンションが違う。そう言えばいつものヤンチャ系な言葉遣いじゃない。何かあった?
「じゃあ……エノキタケのお味噌汁にしましょう」
エノキタケをドサッと出して、ブシ花を出してお味噌汁を作って貰う。トラジとタマとノエルに。
尻尾をピンと立てて、待ってるのでお味噌汁係です。
「ブシ花は三匹で仲良く処理するのよ」
「もちろんにゃっ!」
「とうぜんにゃっ!」
「ブシバナひさしぶりにゃっ! うれしいにゃっ!」
ハッ! ノエルは島送りに出来なかったから、ひさしぶりのブシ花だわ! ってタマもトラジも素知らぬ顔でお味噌汁作りに向かった! どうする気かしら? ……時々見ておこう。
ニャンコ達が良く見える場所で、大鍋を出して水を入れていく。あ、これも出汁がいるやつだった。ブシ花を木綿袋に入れて出汁を取る準備をしておく。
丸鳥のもも肉を取り出し、料理人に一口大に切って貰う。大きなボウルを出し、丸鳥の卵を出す。卵はクリーン&キレイキレイで生で食べれる位キレイにする。
今日のお昼ご飯は親子丼です。滋味溢れる丸鳥で作る親子丼! 豪華です!
シイタケと玉ネギをスライスして鍋に入れる様にしておく。出汁が取れたら入れてもらうのだ! シイタケも玉ネギも出汁が出るから大事!
料理人達は出汁を取り、私の指示で砂糖に醤油を入れていきます。もちろんシイタケも玉ネギも投入ズミです。味付けは少し濃いめ。味見をしてちょっと濃いかな? と感じる程度にする。うん、この感じ。私のお母さんの味。私が小学生の時教えて貰った思い出の料理。大きめの鍋でいっぺんに作るやり方。丸鳥の肉を入れ、アク取りをお願いする。
肉に火が通った頃合に再度味見。うーん? ちょっとお砂糖を足すかな? 少しずつ調整して、料理人に味見して貰って鍋全ての味を整える。
卵をといて……投入~! パカッと蓋をしてちょっと待って、鍋を台に移動させる。
親子丼、喜んでもらえると良いな~。そうそう後のせの三つ葉も出して刻んでおかないとね!
お味噌汁の出汁と親子丼の出汁とブシ花大活躍で大量のブシ花(使用済み)が出ました。
お味噌汁に使ったブシ花は仲良く? いや、タマとトラジはノエルに多めに分けてあげてました。ノエルは「いいのかにゃ? いいのかにゃ?」と言いながら嬉しそうに食べてました。
そんなニャンコ達は私の手元にある大量の使用済みブシ花に釘付けです。
「主……たくさんあるにゃ……」
「もりもりあるにゃ……」
「イイニオイにゃ……たべたいにゃ……」
ブシ花でお腹いっぱいになっちゃう気かしら? でも、取って置いても仕方ないしね。台の上にコトコトと三匹の為のお皿を出す。同じ位の量にして盛って、三匹に渡すとタマとトラジは自分のお皿からチョコチョコとノエルのお皿へブシ花を移す。
「どうしてにゃ? タマにゃもトラにゃも、どうしてわけてくれるにゃ?」
ですよね! 私はなんとなく分かるけど、ちゃんと言うのかな? ……タマとトラジが顔を見合わせ、コクコクと頷き合いタマがノエルをピッと見つめた。
「ノエル、こころしてきくにゃ。ボクとトラジがとくべつなトコにいってたとき、ブシバナをつかうことがあったにゃ。ブシバナをつかったアト、いっしょにしょりしたにゃ。だから、そのときのぶんをノエルにわたしたにゃ」
正直! 正直に言ったぁ! タマが。一番上のお兄ちゃんだからかな? そうだよね。タマ、偉いな! 後でいっぱい撫でよう!
ノエルはハッ! とした顔になったり、キュと悲しそうな顔になったりと忙しかったけど最終的にはちょっと嬉しそうな顔になり……
「わかったにゃ。ありがとにゃ。ボクもとくべつなトコにいきたいにゃ……でも、たぶんいけないトコにゃ。タマにゃもトラにゃもやさしいにゃ。いわなかったらわからなかったにゃ。ボクもりっぱなにいにになるにゃ」
にいに! ノエル、ルチルからにいにって言われてるのか? 言われてるのね! 健気! 可愛い!
「ノエルにいにー! スゴいチューッ!」
え? と思う暇もなく、黄色い物体がドシーン! とノエルに激突しました。それをズシャア! と踏ん張って受け止めるノエルは成長したと思いました。
ルチル……どうした? 何がいったい……
「ノエルにいに! さっきのすごいおおきいの、すごかったチュ! ボクもがんばったから、おおきいおにくくれるっていってたチュ! ノエルにいにがおしえてくれたおかげチュ!」
どうやらお肉を食べられるのが嬉しくて興奮してるようです。姿が姿なので、木の実がメイン食料かと思ったらなんでも食べるんだよね。精霊だからかしら?
ヒナの食料は鳥っぽいのに対して、ニャンコ達とネズミ達はなんでも食べちゃう。
て、いうかノエルがブシ花食べれないから解放したらどうかな? ルチルさんよ。
「ルチル、まつにゃ。おにくがたべれてうれしいのはわかるにゃ。でも、ボクがブシバナをたべるまでまつにゃ」
「わかったチュッ! まってるチュ!」
ノエルのお皿はタマが確保していてくれたようです。山盛りのブシ花が載ったお皿をノエルに渡しました。
「まだ、いるかにゃ?」
「じゅうぶんにゃ」
タマとノエルのやり取りをほっこりした気持ちで見てると、ルークがやって来ました。
「ノエルが食事する姿はいつ見ても可愛い!」
力説ですか。ニャンコ好きあるあるですね、でもタマもトラジも可愛いですから!
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