殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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那由多来光

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 なんだか知らねぇが、我が愛しの子孫は泣きながら帰ってきた。別世界で尻でも狙われたか?

 何もない空間から、煌めく破片を撒き散らしながら現れたが、どこに行ってやがった?

「ヒヒャハ! やはりビャクヤは死んでなどいなかったぜ! 残念だったな、偽マサヨシィ! 俺の可愛い子孫は無事に戻ってきた!」

「チィー! Q様に一番近い場所に空間を作って閉じ込めたのに! 拙者の努力が水の泡! ビャクヤが絶望すれば辛うじてQ様の手が届く場所だったんご! あの道化師は余計なことをしてくれた!」

「何の話かは知らんが、ざまぁ! なにはともあれ、反撃の追い風が、俺様の背中を押しているぜぇ~!」

 言葉の勢いに乗ってアマリを抜くと同時に、神速居合斬りを偽マサヨシ(略してニセヨシ)に放つ。

 当たれば即死必至の俺の攻撃の殆どを――――ニセヨシの思い込みの力、マナ粒子によって防がれた。

 が、奴の色白の頬に赤い筋を残す。当たったが即死まで至らなかったようだ。即死命中の看板を下ろすか・・・。

「“マサヨシに攻撃は通じない”という念が中途半端過ぎたか・・・」

「あ、あれは!」

 ヤイバが帰ってきたビャクヤを見て驚いている。なんだ?

 俺には普段どおりのビャクヤに見えたが、仮面を涙で濡らす大魔法使いの体が徐々に灰色に輝き始めたので、声をかける。

「虚無の光か! 虚無魔法を身に着けたんだな? ビャクヤ!」

「ええ、お祖父様の死を思い出す事と引き換えにッ!」

 どういう事だ? 何があった?

 俺と同じ疑問を持つ者がもう一人。

「ナンベルさんが死んだ・・・? その虚無魔法は自力で習得したのかい?」

 自分にしか身に着けられないと思っていた虚無のオーラを習得したビャクヤを見たヤイバは、プライドが傷ついたのか動揺している。

 別に虚無魔法がお前だけのものってわけでもないだろうに。

「そうですが? ヤイバ様ッ!」

「自力? 馬鹿な! 僕ですらヴャーンズさんに読ませてもらった希少な魔法書がなければ習得は無理だったんだ! それに! 虚無に適応した“なのましん”という虫が体に住んでいないと、虚無魔法を纏えないと父さんから聞いたぞ」

 ヒジリの子であるヤイバは、ナノマシンも引き継いでいやがる。前にも思ったが、鬼に金棒じゃねぇか。

「ンンンッ! そんな事はッ! 吾輩の知る事ではありませんぬッ! 今はッ! すぐそこまで迫っている無に対応しなければッ!」

 覚醒ビャクヤとでも呼ぶべきか。我が子孫はは空中にふわふわと浮いてマントをはためかせている。

 マナ粒子とサカモト粒子を自力で共存させるビャクヤ・・・。

 どうやってそうなっているのかは知らねぇが、優秀になって戻ってきやがった! クハハ!

 もう一人の子孫であるダーク・マターは、いつの間にか次元断を繰り出すマナがなくなったのか、戸惑うヒーローのように、ポーズを取りながらマサヨシの周りをウロチョロしている。

「オフッ! これはピンチかもしれんち。これ以上虚無の渦が増えたら・・・」

 マサヨシの醤油顔から余裕の笑みが消えた。こめかみから流れる一筋の汗。

 随分と焦っているように見えるが、奴は中々賢い。これも演技かもしれねぇと警戒していた矢先――――。

「ンンン! 【虚無渦】!」

 ヤイバが出現させた虚無の渦の隣にもう一つの渦が現れた。

 当然、虚無の渦の吸引力は倍になり、ニセヨシのマナもどんどんと吸い込まれていく。

 間に合うか? ヤイバの渦は随分とマナ粒子を吸い込んだぞ。吸引のピークはとっくに過ぎている。

「オフフッ! よくよく考えればヤイバ氏の渦が、消えるのを待てばいいだけのこと。耐えるのはあと数秒程でいいンでつよ。そうすれば、拙者のマナ放出が再び上回る!」

 ニセヨシは前のめりになり踏ん張って、両腕で砂埃から顔を守っている。腕の隙間から見える細い目は、俺を見ていた。

 虚無の渦を出したビャクヤとヤイバは魔法維持に集中している為か、動けない。となるとこの中で一番強いだろう俺に注意を払うのは当然か。

 渦に近づく必要のない中距離物理攻撃が出来るのは、俺とダークとオビオぐらいだ。

 しかし、ダークはマナ切れ。次元断系は燃費が悪い。

 上位悪魔となった今の俺はほぼ無限にマナを使えるが、ダークのような、マナの尽きた人間が無理してでも必殺技を打つとスタミナ切れを起こして失神するだろうよ。

 ニセヨシもそれを知っているのか、ダークを然程警戒していねぇ。

 となると頼みの綱はオビオだが、虚無のブレスはリキャストタイムが長いようだ。次にブレスを吐けるのはヤイバの渦が消えた頃だろう。

 俺の時間差次元断もギリギリ間に合うかどうか。くそったれ、ジリ貧だ。

 ――――が、俺の焦りを察したのか、リンネが停滞する重い空気を壊した。

 ドシンドシンと大盾で地面を叩き始めたのだ。挑発スキルだ。

 リンネの挑発は正直言って効果が薄い。挑発はカルマを多く背負った者程効果を発揮するからだ。

 しかし、猿が自分の尻を叩く程度のその挑発は、ニセヨシに効果があった!

 奴は三白眼を一瞬リンネに向けたのだ。

 この一瞬が、勝負の分かれ目となった。

 リンネの近くにいたダークが叫ぶ。

「敵を穿ち消し去れ! 我が渾身の一撃! 即・次元断!」

「オフフッ! 想定範囲内!」

 チッ! やはり先を読む能力はニセヨシの方が高えぇ。

 しかし、ダークは次元断を発動させず、大鎌を空振りさせただけだった。

 ニセヨシが「えっ?」という顔をする。これは作戦でもなんでもなく、ダークは単純に無様に気絶したくなかっただけだと思うぜ。

「フハハッ! ウスノロの豚のようになれ! 【鈍重】!」

 ようやっとなんかしたな、サーカ・カズンは。魔法貫通力をスキルで上げているのはエライ。戦闘終了まで何もしなかったら、オビオの添え物って呼んでやるところだった。

 サーカの魔法に合わせて、リンネも魔法を唱えた。

「【鈍重】!」

 お? 同じ魔法を重ねがけするとどうなるんだ?

 その答えはすぐに出た。

「あ~れ~?」

 ニセヨシの動きが明らかに普通の【鈍重】よりも遅い。渦に吸い込まれるニセヨシの揺らめくマナの隙間を縫って魔法が当たった甲斐はあった。

 魔法効果二倍で、効果時間も二倍だ。

「クハハ! この時を待っていた! 忍法影分身の術!」

 俺もダークに影響されたか。中二病みたいなセリフを吐いて、分身を十二体出した。

「穿孔一突き!」

「白雨微塵切り!」

「神速居合抜き!」

 質量の有る分身が、それぞれ好き勝手に必殺技を叫ぶが、アマリを持っているのは俺様だけなので、有効的な技は一発だけ。

 フェイントにフェイントを重ねた俺の必殺の一撃は――――。

「那由多来光(なゆたらいこう)!」
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