料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

文字の大きさ
131 / 331

ステコ・ワンドリッター

しおりを挟む
 俺が迷っていると、市場の入口の方からやってくる黒騎士が見えた。

 市場の中を馬に乗って移動するなんて、余程濡れた地面が嫌なんだろう。

 俺の視線にが自分たちに向いていない事に気がついたチンピラがそちらを向く。

「あ、あれは!」

 チンピラ二人が驚いている理由は何となくわかる。黒騎士と言えば、樹族至上主義のソラス・ワンドリッター侯爵の騎士だからだ。

 黒騎士の馬は、俺の簡易出店の前で止まった。ちょっと嫌な予感がするなぁ。ワンドリッターは、奴隷商人と繋がりがあるし。

「何用でしょうか、黒騎士様」

 揉み手で魚屋の主人が、黒騎士の前に出た。フルヘルムを被っているので怒っているのか、喜んでいるのかは、近づいて、声を聞いて判断するしかない。

「バトルコック団のリーダーは、お前か」

 魚屋の店主を無視して、黒騎士は俺を見た。息がしづらいのか、コーホーコーホー言ってる。

「はい、俺ですが」

 貴様を拘束する、とか言われたらすぐにでも逃げる準備をしなければ。

「うな丼とやらを所望する」

 おぉ? お客さんだぁ! きっと噂を嗅ぎつけてやって来たんだな。

 俺が最後のうな丼を手に取ろうとすると、チンピラ二人がそれを遮った。

「悪いが、オーガ。このうな丼は、俺たちが買う予定だったんだ」

 おいおい、急にどうした? 場所代取りに来たんじゃなかったのか? それにワンドリッターの騎士相手に、喧嘩を売るつもりか?

「黒騎士の旦那ァ! あんたどの部隊に所属してんだい? 鎧に杖の紋章が入っているのは見て分かるが、部隊のマークまでは無ぇなぁ? えぇ?」

 なるほど、オークたちはこの黒騎士を偽者だと判断したんだ。

「貴様らオークに答える義理はない」

「それによぉ! 黒騎士が単騎でポルロンドにいるのもおかしいぜ」

「今一度言う。答える義理はない。バトルコック団リーダー、オビオ。うな丼の値段は幾らだ?」

「はい。銀貨二枚です」

 従者もいない黒騎士は、腰の革袋から銀貨を取り出そうとした。

「待てよ、偽者! その金をしまえ! 最後のうな丼! 俺らは銀貨四枚で買うぜ!」

 チンピラは調理台の上に、銀貨四枚をジャラリと置いた。

「調子に乗るなよ、オークどもが」

 黒騎士がワンドを取り出そうとしたが、オークは尻込みせず張り合った。

「ああ? ここは、樹族国じゃねぇんだぞ? 他国で諍い起こす気か? そんな事すりぁ、ソラス様の顔に泥を塗るんじゃねぇかなぁ?」

「ほう。お前らはソラスを知っているのか?」

「そらそうよ。偽者のお前と違って、俺達の顔は広い。直接、謁見した事もあらぁな」

 オークの言っていることは、あながち嘘ではない気がする。ポルロンドの用心棒ギルド――――、いわゆるヤクザが、奴隷商人と繋がりのあるワンドリッター侯爵の顔を知っていてもおかしくはないだろうから。

「兜を脱いで顔を見せてみろよ、偽モン」

 調子に乗り出したチンピラ二人は、自分の分厚いアゴ肉を持ち上げて、兜を脱ぐような仕草をして見せた。

「良いだろう。兜は脱ぐ。が、そこまでさせて、私がワンドリッターに縁のある者だった場合、貴様らはどう責任を取るのだ?」

「そん時ぁ、自分の首を持ってワンドリッター卿に土下座しにいくさ。ゲッハッハ!」

 うわ~。オークは土下座フラグ立てたな。下手すりゃ、この黒騎士、ソラスその人かもしれねぇぞ。

「しかと約束した」

 黒騎士はフルヘルムを脱いで、脇に抱え、じっとオークたちを見つめた。緑色のウェーブした髪と、緑色の目。端正な顔立ちは、如何にも樹族といった感じだ。髪はよく見ると金色の毛が混じっている。樹族は若い頃は金髪で、歳をとるごとに緑色になる者がいる。彼もそうなのかもしれない。

「脱いだぞ」

 そう言われてオークたちは、一生懸命何かを思い出そうとしている。

「あ~っと。その顔、ソラス様じゃねぇのは確かだ。跡継ぎでもねぇ。主要な騎士の中の一人でもねぇ」

「貴様らはワンドリッターの騎士の顔を、一々覚えているのか?」

「だからこそ、ポルロンドで広い顔してられんだよ。俺たちに益する相手の顔を覚えるのも、仕事みたいなもんだ」

 ん~。オークたちの様子からして、この黒騎士は偽者なのだろうか?

「知らねぇなぁ。あんたの顔」

 やっぱりそうか。

 オークがイキりながら、馬上の騎士のワンドを叩き落とした。

「やっちまったなぁ? 偽騎士様よぉ?」

 俺は騎士が落としたワンドを急いで拾って、持ち主に返そうとする。

 偽騎士がワンドの柄を掴んで、俺が末端を掴んでいる間に、指輪から情報が一瞬だけ流れてきた。

 驚いた事にその情報の中に、シルビィ隊長の顔や樹族の剣士、その他の仲間と旅をしてる情景が頭に浮かんできたのだ。

 うわ! この騎士、実力値三十一の英雄クラスだぞ! チンピラが敵う相手ではない。

「シルビィ隊長の知り合いですか?」

 俺がそう言いながら、革鎧の分厚い金属部分を外して、ウォール家の紋章を胸に光らせた。

 すると騎士とチンピラの動きが止まる。

「ほう、ウォール家の庇護下にあるとは聞いていたが、本当だったのだな。それから、気をつけ給えよ。オーガのオビオ。視るということは、視られるということでもあるのだ」

 やべ。この人、読心魔法が使える。俺の情報も幾らか知られただろうな。

「どういう事だ?」

 チンピラはシルビィの名前を聞いてから、動揺しっぱなしだ。

「俺は上位鑑定の指輪を身につけている。なので相手の情報を知る事ができるんだ」

「で、そいつは何者なんでぇ?」

「ワンドリッター家の三男(実際は腹違いの兄が一人いるので四男)、ステコ・ワンドリッターだ」

 俺が言う前に、ステコ・ワンドリッターは自ら名乗った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

処理中です...