料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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珍妙なる死に様

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 この作戦、暗殺者が囮役とバレてしまっては意味がない。

 ゆえに、不自然な動きをするのは得策ではないと判断し、ラットンはいつもやるように陰に潜んでは、ニャットとニャンゾウの影から現れ、バックスタッブを試みた。

 勿論、そんな安易な攻撃が通じるわけもなく、逆に影を刺されて反撃を受けそうになるも、その度にチューニーが大声を張り上げて攻撃を仕掛けていく。

「オラァ! どこ見てんだ」

 逆手に持ったダガーの刃をなるべく見せないようにして、チューニーはニャットに殴り掛かる。

 当然、単純な攻撃はディスプレッサーショートマントの効果で妨害されてしまう。

「【雷の手】!」

 空を切ったその腕に、ニャットの魔法の手が触れた途端、チューニーの体に電撃が走った。

「ギャァァァ!」

 痺れてろくに動かなくなった体だったが、それでも激しく転がってニャットの近くから離れる。

「おい! 受付嬢! こここ、こいつ、魔法なんか使いやがったぞ! いいのか?」

「別に問題はありませんよ。サブがメイジなんでしょう」

 そう、別に問題はない。しかし、戦士の国において、魔法はタブー視されているので、卑怯な手と捉えられてしまうものなのだ。

「くっそ~。サブがメイジの盗賊なんて、樹族国出身みたいな組み合わせしやがって! この売国奴!」

「その程度で売国奴とは、酷い言い草だニャ~」

 穏やかではない言葉を使って罵るチューニーに、受付嬢が遠くから話しかける。

「サブを敢えて公開しなかったのには意味があるのですよ、チューニーさん。この依頼は不確定要素が多いのです。どんな敵が待ち構えているかわからないのは当然、場合によっては交渉も必要になってきます。そうなると、慎重さと観察眼がとても重要になってくるのです」

「俺もそのつもりでいたけどよぉ」

 相手を観察して、弱点を見抜くのを得意とするチューニーにとって、受付嬢の言葉は自尊心を傷つけた。

「えぇい、くそっ!」

 ゆっくりと近づいてくるニャットの足を見ながら、チューニーは観念したように大の字になる。

「降参するニャ?」

 顔を覗き込む虎柄の猫人の顔には余裕すら見えるのが悔しい。

「いや、しねぇ。体が痺れて、ろくに動けねぇんだ。殺すならさっさとしろ。どうせ生き返るんだ。一回死んでみるのも乙だろうよ」

「えらく潔いニャ。それにしても、お仲間は助けてくれないのかニャ?」

「お前の相棒が陰を見張っている以上、無駄な足掻きだろうさ!」

「じゃあ、覚悟するニャ」

「こいやーっ!」

 ニャットのダガーがチューニーの心臓を一突きしようとしたその瞬間―――。

「な~んてなッ! チュヒヒヒ!」

 口の上下にある四本の長い前歯を見せて、チューニーは唾を飛ばして笑うと、ゴロリと転がってニャットの攻撃を回避し、すぐに反撃に出た。

 チューニーのダガーが、肌の露出が多い顔面を狙うも、ニャットは頭を反らして避ける。

「そんな三文芝居に付き合う気はないニャ。お前は演技が下手ニャ」

「そりゃすまなかったな。俺は役者じゃねぇからよ。それよりお前、顔になんかかったろ? 大丈夫か? そりゃあ俺の唾なんかじゃねぇぞ」

 しまった、という顔でニャットは後ずさるも、毒は毛穴を通って体内に侵入する。

「チュヒヒヒ!! もう遅いぜ~。そいつは傷口に入れば、即死。肌に当たれば猛毒。もってあと五分だな」

「クッ!」

 ニャットは片膝をついて、猛毒がもたらす吐き気と戦う。

「ニャット!」

 影に気配を感じたニャンゾウは、ニャットのもとへ駆け出す前に、クナイを地面に突き刺した。

 陰空間の深い場所にいた暗殺者ラットンに、クナイの尖端が当たる事はなかったが―――。

「ん?! こ、これは影縫いか! う、動けねぇ! おい! 聞け、忍者! それ以上動くと、お前の愛しい人が死ぬぜ?」

「なに?!」

「そいつは生き返っても毒が継続する。つまり蘇生の祈りを受けても、また死ぬ羽目になるんだわ。蘇生を受けた者は生命力が一つ減る。それがゼロになるまで続くんだぜぇ? いいのかい? 愛しい人を永遠に失ってしまっても」
 
「卑怯な!」

「おいおい、お前も冒険者だろ。冒険者が卑怯なのは、魚が水の中にいるくらい当たり前の事だ。あれあれ? それともお前さん、冒険者じゃないのかなぁ?」

 黒の中に白いスポットがある、ぶち猫ニャンゾウの額に汗が滲む。

「そんな事より、解毒薬はあるでござるか?」

「あるには、ある。渡してもいいが、条件次第だな」

 おれを聞いて、青ざめた顔をするニャットが、恋人に向かって叫んだ。

「聞いちゃダメだニャ、ダーリン! こんな奴ら、ダーリン一人で倒してしまうニャ!」

「馬鹿! ニャットを失うなんて、拙者に耐えられるわけなかろう! 早く条件を言うでござるよ、ラットン殿!」

「いいだろう。まぁ、取り敢えずお前は死ねや。どうせ生き返るからいいだろう? で、生き返ったならば、ニャットと二人で、この国を去るんだ。ライバルは少ない方が良いからな」

「あい分かった。その条件飲もう。そこの侍殿! そなたを男と見込んで頼みがある! 拙者が死んだ後に、約束が果たされるかどうかを見届けてくれ」

「うむ」

 柴犬人の侍は、静かに片膝を立てると居合斬りの構えを取り、頷いた。

「これで安心して死ねる」

 そういうと、ニャンゾウはラットンを影に縛り付けるクナイを地面から抜いた。

 当然、ラットンが影からぬるりと現れる。

「ダーリン、駄目! 今すぐ戦うニャ!」

「大丈夫、すぐに会えるでござるよ」

「死ねや、忍者!」

 暗殺者の上位互換である忍者に、コンプレックスがあるラットンは、嬉々としてニャンゾウの忍び装束の胸にダガーを突き立てた。

「グハッ!」

 暗殺者が人を殺すときは、実に滑らかで無駄な動きがなく速い。

 ニャンゾウは血を吐いて地面に倒れ、ぴくりとも動かなくなった。

「ヨッシャー!」

 ラットンがそう叫んで、チューニーを見てニンマリとする。

 その彼の笑いに剣呑な空気を感じ取った侍は、刀をチャキっと鳴らして警告した。

「おっと、待ってくれ。侍のあんちゃん。解毒薬は渡すって言ったろ。俺は約束は守る男だぜ? そう焦りなさんな。次の試合まで待ちな。チューニー! そこの嬢ちゃんに解毒薬を」

「あいよ」

 チューニーは、意識が混濁しているニャットを抱きかかえ、口に解毒薬を流し込んだ。

「よーし、約束は守った。解毒薬は即効性があるから、明日には元気になるだろうよさ。ただ、意識はすぐに回復する。で、こいつが負けを認めるかどうかわかんねぇからよぉ、一回殺しとくな?」

 侍の規範に触れたのか、一瞬だけ牙を見せた犬人侍だが、その殺しがルールの範囲内であること、ニャンゾウが生き返る事が出来る事を考慮し、刀を静かに置いた。

「俺はよぉ、女を殺すときに快感を感じるタイプでさぁ。ハァハァ。この二つの乳房の間にダガーを突き立てる時が最高にッ! 気持ち良いんだわ! いくぜぇ、ヒャッハー!」

 そう言って、チューニーは恍惚の表情を浮かべ、自分の手に持つダガーの刃を舐めた。

「あ!」

 それを見たラットンが黒目しかない目を大きくして驚く。

「あッ!」

 そして、自分が何をしたのか気づいたチューニーは、白目をむいて即死し、その場に崩れ落ちた。

「あぁぁぁーーーーーー!!! あほか、あいつぅぅぅ!! なにやってんだよぉぉ!! なんでダガーを持ち替えずに、即死ダガー舐めてんだよぉぉぉ!!」

「ぬははは!!」

 野太い笑い声と共に、忍者の死体が煙に巻かれて消え、丸太が現れる。

 そしてその陰から、ニャンゾウが現れて、油断するラットンの首筋に手刀を当てて気絶させた。

「ニャハハ! こいつ馬鹿ニャ!」

 ニャットも元気よく立ち上がると、チューニーを指さして笑った。

「まさか自滅してくれるとは思わなかったでござるな」

「お腹痛いニャ!」

「ところで毒は大丈夫なんですか? ニャットさん。解毒剤に即効性があるといっても、そんなすぐに元気になるとは思いませんが」

 受付嬢が少し離れた場所から、同じ種族、同じ女性として心配そうに声を掛ける。

「そもそも、毒なんて効いてなかったニャ。毒無効の指輪を付けてるからニャ」

 立てた中指に光る金の指輪を見せて、ニャットは自慢げな顔をする。

「じゃあ、今までの事は全て演技ということですか?」

「そうだニャ。しょーもない三文芝居を見せられたから、私たちも愛の寸劇で仕返ししようとしたら・・・。プスーーッ! クスクスクス!」

「あ、でもチューニーさん、生き返らせたら猛毒で即死するんじゃ・・・」

 地面に横たわり、変色した長い舌をだらりと出しているチューニーを、受付嬢は哀れな顔で見ている。

「ふむ。チューニー殿の舌の色からして即死の天使(キノコ)の毒とみた。ならば死体の口に解毒剤を流し込んでから、蘇生させればOKでござる」

 忍者は薬学にも精通している。チューニーが使った毒の種類もすぐに見抜いてしまった。

「そうですか。なら心配ないですね。それにしても、チューニーさんったら、ウフフフ。ゴホン、失礼。では、侍のシバヤマさんに、奇術師のアキタさん、準備を・・・」

 振り返った受付嬢が、侍と奇術師を見て驚く。

 普段は冷静沈着で感情を表に出さない侍のシバヤマは、後ろを向いて笑いを堪え、アキタは声出さずに笑っていたからだ。

「し、仕方ないですよね。こんな珍妙な試合って滅多にないですからグポォ!」

 受付嬢も喋っている途中で笑ってしまい、喉の奥から奇妙な音を鳴らしてしまった。
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