料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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コイケーズ・ヘッド

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 いつでも逃げ出せる。

 心の隅で自分が囁いた。ここで話を少しでもして情報を得るのも悪くない。

「やぁ! 怪しい者じゃないよ!」

 ピーターは陰から現れると、地走り族特有の挨拶(人差し指と薬指を折り曲げて他の指は立てる)を見せて、敵意が無いことを示す。

「それは無理があるぞ、小僧。今から戦争を始めようかという野営地に、樹族国の地走り族がいてはな」

 トウバは腰に浮く魔法の曲刀の切っ先をピーターの眼前に向ける。

「待ってよ、俺の顔を見て? 俺だよ、俺、俺!」

「知らん!」

 ピーターの頭にある、角のようなとんがりヘアーが萎える。

「そうだよなぁ。俺は日陰者だからなぁ」

「それが最期の言葉でいいか?」

「いやいや、俺はまだ死なないよ! トウバ・イブン・フンバさん! そっちはトウスの奥さんだろ?」

「ほう、俺のフルネームを知っているのか。樹族国において、そこまで有名人だとは思わなかったが」

 脅すように曲刀を揺らすトウバの横で、フレアは何かを思い出そうとしていた。

「待ってください、義父上。その地走り族はもしや、邪悪なるピーターでは?」

「何? 邪悪なる、だと? なら猶更生かしておく理由はないな」

「二つ名が邪悪なだけで、実際はどうかわかりませんよ。それに夫の知人を殺してしまっては、後々面倒な事になります」

「こいつがバトルコック団のピーターだという証拠もないだろう」

「でも吟遊詩人の歌に出てくるピーターと特徴が同じですよ。頭の尖がりとか」

「ねぇねぇ。こっちの話を聞いてよ。そもそも武将二人の前に現れるというリスクを負う暗殺者がどこにいる?」

 ピーターは額の汗を手の甲で拭って、テーブルの椅子に座った。

「いいだろう」

 トウバは曲刀を腰に戻したが、それでも険しい顔でピーターを睨みつける。

「私が彼の背後に立ちましょう。義父上はテーブルについてください。怪しい動きをすれば、取り押さえますから」

「うむ」

「喉がカラカラだ。何か飲み物はない?」

 この状況に置いて、厚かましさを発揮するピーターに、フレアは内心でクスリと笑って、ワインの瓶を手渡した。

「直に飲めって? 豪快だなぁ。流石は獅子人。いただきます」

 喉を湿らす程度にとどめて、ピーターはワイン瓶を下ろす。

「で、なんの話だっけ? そうそうトウスさんと奥さんの子供の話だね。トウバさんにとっては孫にあたるよね」

 トウバがテーブルを叩いた。話をさっさと進めろという事だ。

「えーっと、そうそう。子供たちなら安全だよ。樹族国のアルケディアの孤児院にいるから。トウスさんが面倒を見るように、シスター・マンドルに頼んだから。あ、シスター・マンドルは元傭兵で、いつも俺に拳骨を食らわせる厳しい人でね。おっと、それはどうでもいいか。俺の得た情報では、孤児院は死の騎士が守っているんだ。あぁ、死の騎士なら問題ないよ。元同僚だからね。死の騎士のお姉ちゃんが修道女でね、シスター・マンドルの孤児院を手伝いに来てるんだ。だから、死の騎士は姉を守るついでに孤児院を守ってるって事さ」

 一気に喋るとピーターは、グビッとワインを飲んだ。

「目糞、鼻糞、大便は、ちゃんと食事を食べさせてもらっているんだろうな?」

「目糞? 鼻糞? 大便? トウバさん、何言ってるの? 糞たちは何も食べないよ」

 いきなりわけの分からない事を言われて、ピーターは戸惑う。

「トウスの子供たちの名前だ」

「えーっ! 酷い名前だなぁ。俺なら、そんな名前は付けないよ」

「アハハハ!」

 背後でフレアが笑って、ピーターは肩を震わせる。

「なに?」

「これは獣人国の風習でね。一人前になるまで悪い名前を付けておくのさ。良い名前を付けると悪魔に魅入られて、連れていかれるからね」

「そ、そうなんだ。迷信深いんだね。(でも良い名前だったとしても、キリマルが、あの子供たちを連れて行くとは思わないなぁ)」

「で、他に情報は?」

「んー。スルターンの背後にドラコニアンがいるよ。その事でヒジリ聖下が激怒して、ビャッコさんの所に居座ってるんだ」

「なに? ドラコニアン? あぁ、竜人の事か。それにグランデモニウム・・・、いやヒジランドの現人神が、ビャッコのところにいるだと?!」

「あ、これは言っちゃダメなやつだったかな? ま、いいか」

「スルターンが竜人と手を組むと、なぜ現人神は嫌がるのだ?」

「ごめん、これ以上は何も言えないよ」

 何も言えないといったピーターの言葉を無視して、質問は続く。

「現人神がいて、どうしてトウスは冒険者なぞに連れ去られたんだ?」

「それは、ヒジリ聖下が来る前の出来事だったからさ。いやー、中々の手練れの冒険者でね、気が付いたらトウスさんがいなくなってたんだ。きっと念入りに下準備をしたに違いないよ」

 咄嗟の嘘にしては上出来だと、ピーターは気分良くワインを煽ると、間もなく空になった。

「じゃあワインも空いたし、俺は帰るね」

「馬鹿か! 帰すわけなかろう。フレア! ピーターを捕まえておけ!」

「はい!」

「それは無理な話だなぁ」

 奈落の底に落ちるが如く、ピーターはテーブルの陰に沈んで消えた。

「えぇい! 陰を刺せ! フレア!」

 フレアは腰に浮くレディーソードを掴むと、目に留まらない速さでテーブルの陰を突いた。

 しかし、手応えはなく、あるのは床から返ってくる、硬い木の感触だけだった。

「【眠れ】!」

 突如、天幕の際の陰から、小さな手だけが現れて、呪文を唱えると、トウバとフレアは眠気に襲われた。

「くそ、小僧。舐めた真似を」

 獣人は身体能力が高い反面、魔法に弱い。ゆえに、抵抗値を高める装備を付ける事が多いのだが、今回は野営地内で油断していた事もあり、それらの装備を二人は付けていなかった。

 眠気に耐えられず、トウバとフレアは床に倒れて、眠ってしまった。

「ワイン、美味しかったよ。ありがとう、トウバさんに、フレアさん。そしてさようなら。クキキッ!」

 ピーターはそう言うと、陰から出て隠遁術を使い、天幕から出る。

 うろつく見張りの兵士の間を堂々と歩いて、野営地を去っていった。




「魚にしては、歯ごたえがあり過ぎんだよなぁ」

 パーティメンバーに、デュプリケーターから出るピラニアのムニエルを配ってもらっている間に、大ピラニアの美味しい食べ方を試行錯誤してんだけど、中々良い物が思い浮かばなかった。

「悩んでいるようだな」

 食事を配り終えたサーカが、俺の様子を見に来た。

「うん、ムニエルにしたピラニアと種類が違うのか、肉質が硬いんだよね」

「オビオはこれをどう料理しようと思ってたんだ?」

「刺身かな。フグみたいにスライスして食べたんだけど、なんか食感に違和感があるというか・・・」

「ふむ。これは見た目が鶏肉に似ているな」

「鶏肉?! そういえばそうだな! 何でこんな簡単な事に気が付かなかったんだろう。ありがとう、サーカ。鶏肉といえば、あれを作るしかない」

 俺は急いで、一口大に肉を切って、ボウルに入れ、醤油を・・・。おっと醤油は無かったんだった。

 じゃあ塩で揉んで、しょうがとニンニク、みりん、乾燥させて粉状にしておいたチキンブイヨンを加えてまた揉む。

 それをギルドの地下下水道に行くまでの階段脇に置いて、二時間ほど寝かす事にした。

「さてさて、この間にもう一品作りますか。そういやアスパラガス、欲しかったなぁ。なんか代用品無いかな?」

 俺は辺りを見回す。草の一本すらない。野草のスープを作りたかったんだけども。

「パンと魚だけじゃ、栄養バランスが悪い」

 ギルドから出て、外のテラスでサーカが、魔法用触媒の確認をしていた。

「おっ?」

 その中に小さなカリフラワーのような物を見つける。

「それはなに?」

「魔法の触媒だけど?」

「その白いモジャモジャしたやつ、ちょっと見せて」

「それは食材じゃないぞ。水魔法の補助的な役割をするコイケーズ・ヘッドと呼ばれるものだ」

「いいから、いいから」

 俺はコイケーズ・ヘッドを手に取り、鑑定する。

「わ! カリフラワーと成分が同じじゃん。しかも、水分をずっと保持してるなんて不思議な触媒だな」

「だから水魔法に使われるのだ」

「あれ? でもサーカは水魔法得意だよね? 水属性だし。何で触媒が必要なの?」

「風と水の複合魔法でもある氷魔法で必要とするのだ。どうも私は氷魔法を使う時に、風魔法ばかりに意識がいき過ぎる帰来があるからな。なので、触媒で水魔法のイメージを保っている」

「なるほど。一個貰っていい?」

「あぁ、一個くらいなら」

 五センチ×五センチ程の一つじゃ、スープに入れるには寂しい。俺は直ぐにデュプリケーターで数を増やして片手一杯分にした。

「それにしても、魔法の触媒で料理を作ろうとするなんて・・・。触媒は食料と違って値段が高いんだぞ」

「まぁまぁ。良いから見ていなさいって、サーカ」

 怪訝そうな顔をするサーカの横で、俺は調理器具をギルドのテラスにあるテーブルに置いた。まな板と包丁、それから自分で熱を発するフライパンと普通のミキサー。

「まずは玉ねぎとジャガイモを薄く切ります」

「それから全裸になりまぁす」

「ならねぇよ! 誰だ!」

「俺だ! 俺、俺、俺!」

「なんだ、邪悪君か。全く、どこ行ってたんだか」

「どこでもいいだろ」

 妙にニヤニヤしてやがるな、ピーターの野郎。なんか良い事でもあったか。

「で、何を作ってんだ?」

 ピーターみたいなもんには、教えてあ・げ・な・い。

「美味しい物だ」

「オビオが作るものは、材料が魔法の触媒だとしても美味いに決まっている! な? な?」

 サーカが俺の尻を摩りながら言った。急なセクハラァ! 料理が楽しみなんですね? わかります。

「魔法の触媒?! うぇぇ。食べたら体が光ったりしないだろうな」

「水魔法の触媒だから、光る事はないな」

 律儀に答えるサーカに、ピーターがツッコんだ。

「真面目か!」

「アハハ」

 おっと、笑ってる場合じゃない。手を動かさねば。

「熱したフライパンにバターを入れて溶かす。そこにスライスした玉ねぎを入れ、透明になるまで炒める。そうしましたら、鬼イノシシのベーコン、ジャガイモ、コイケーズ・ヘッドを入れて一分ほど炒めます。で、コンソメを入れてと。ここで水を入れるんだけど、コイケーズ・ヘッドに水分があるので入れません。蓋をして十分間待ちます」

 その間、ピーターはウェイターにアイスコーヒーを頼み、サーカはまた触媒の数を数えだした。

 俺はというと、サーカの胸元をチラチラと盗み見ている。今日のサーカは鎧を着ていない。私服だ。胸元の開いた水色のチュニックを着ている。服の隙間から、大きくも小さくもない胸が、見えそうだ。

「ゴホン。はたから見れば、バレバレだよ、我が愛しきオビオ。胸が見たいなら、いつでも僕が女の子になって見せてあげるのに」

 ぐぉ! よりによってウィングに気づかれた! でも、小声で忠告サンキュー。

「サーカには黙っててくれよ。バレたら【雷の手】が待っているから」

「了解した。スケベさん」

「ふぅ、暑い暑い。この常夏の国において、分厚いローブは地獄ですねぇ」

 パンさんがやって来た。胸元をパタパタしているから、たるんだ胸が見える。それはまるで、おっぱいのようだ・・・。

「さ、さて。十分経ったし、良い頃合いだろ」

 俺はフライパンの蓋を開けて、中を確認する。

「予想通り、無水でも充分な水分が出たな」

「これで完成ですかな?」

 パンさんは、頭の汗をハンカチで拭きながら、フライパンを覗き込む。

「まぁ、これで出しても、そこそこ美味しいけど、まだだよ」

「ほう」

 粗熱をとったら、ミキサーに入れて攪拌する。どろどろになった食材をフライパンに戻し、牛乳を入れて少しに立たせ、塩コショウで味を整える。

「よし! 完成! コイケーズ・ヘッドのポタージュだ!」

 仕上げに乾燥パセリをぱらり。

「なにこれ、うまそう!」

 ピーターがスープに指を突っ込もうとしたので、ぴしゃりと手を叩く。

「なんか魔法効果あるかな?」

 俺は鑑定の指輪でポタージュを視てみる。

「へぇ~。体内の水分を適度に確保する効果があるんだ。暑い日にぴったりだな」

「オビオお兄ちゃん~!」

 ムクが真剣な顔をして走ってくる。

「どうしたの?」

「皆、喉が渇いたって言ってるよ!」

 しまった、水を配るのを忘れていた!
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