未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(99)

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 手振り身振りで必死に説明をしてくるマサヨシに、扉から吸魔鬼の触手が伸びてきた。

 触手の先には皿の上には熱々の紅茶のカップが乗っている。タスネが気を利かせて紅茶を出してくれたのだ。

「(さっき水飲んだから喉は乾いてねぇよ!タイミングの悪い女だな、タスネは!)で、俺はヤイバの母親や関係者がいるこのピンクの城に駆け込んだわけよ!ズズズ!あちぃ!」

 話し終えると、折角出してくれたのだからと熱々の紅茶を啜ったマサヨシだったが、舌を火傷してしまい、いつの間にか部屋に来ていたタスネを見て内心で「糞が」と罵る。

 女体化してからのマサヨシは幼い顔をしているので地走り族にも見えなくないが、地走り族は若干耳が尖っておりマサヨシよりも更に背が低いので直ぐに違いが解る。

 そのロリオーガが舌を手で仰いで冷やしているとリツが青い顔をして階段をゆっくり降りてきた。

「その話は本当ですか?マサヨシ様・・・」

「マサヨです。リツさん、俺の名前はマサヨですヨ☆」

 冷や汗を垂らしながらマサヨシはリツにマサヨだと言い張り、チラリとタスネを見ると彼女はフガフガとイビキを立ててソファーで眠っていた。

「ビビらせやがって・・・。皆・・・俺の名はマサヨだからな?そういう事にしといてくれよ?(自分がタスネの憎むマサヨシだとバレればどんな目に遭わされるか・・・)」

 リツと一緒の部屋に入って来て向かいに座ったコロネはキシシシと意地悪に笑って(タスネお姉ちゃんにマサヨシの正体がバレるのも時間の問題だなぁ)と心の中で思う。

「それでヤイバが異世界に行ってしまったというのは本当ですか?マサヨ・・・様」

 リツがヨロヨロとよろめき、マサヨシの横に座ったので衝撃で小さなオーガの少女は少し浮く。

「ああ、ヤイバ達を異世界送りにした能力持ちは元の世界に帰すって言っていた。だからあのタカヒロとか言う地球人・・・星のオーガに巻き込まれて連れて行かれたんだと思う」

 リツはハァーとため息をついて肘をつき両手で顔を覆う。

「私は愛する夫も息子も失った・・・。何を心の拠り所にして生きていけばいいのでしょうか・・・」

 そんなリツを見てイグナがポツリと呟いた。

「まだ絶望するには早い、リツ」

 リツは顔から手を離し、イグナを見つめる。

 エリートオーガの目は何かヤイバを帰還させる手立てが有るのかと訴えているのだ。

 イグナは何も打つ手がない時は出しゃばったりはしない。彼女が口を開いたという事はヤイバが帰ってくる可能性があるのだとリツは信じた。

「ツィガル城の玉座の間に置いてある三面鏡は異世界を映す・・・。こちらから異世界に行ける鏡ならもしかしたら向こうからも通ってこれるかもしれない。でも情報が足りない。あの鏡に関する文献はある?」

「私は知らないけど、あの鏡ならヴャーンズ様が詳しいと思いますわ」

「そう。じゃあ明日早速会いに行く」

 コロネが珍しく真面目な顔をして口を開いた。

「イグナお姉ちゃん、無理しちゃ駄目だぞ。ヒジリの時だって、いつも助けようとしてボロボロになってたじゃん。今度はヤイバの為にボロボロになるのか?」

「今度は身を削る要素はないと思う」

「そうだといいけど」

 ぼんやりとするリツの青黒い瞳は闇魔女の姿を写しつつも過去を見ていた。

「どうして貴方はイグナばかり優しくするのかしら?」

 リツは過去にそう言ってヒジリを困らせた事がある。

 その時に彼が話してくれた話は壮絶なものであった。

 チャビンという樹族国最強のメイジの策略によってヒジリは倒れ、暫く身を隠していた間にイグナと樹族国の騎士シルビィはヒジリが死んだと思い込んで、チャビンに弔い合戦を仕掛けた。

 死闘の末、なんとかチャビンを倒したがその際イグナは精神を蝕まれ、後にヒジリの目の前で黒竜に食い殺されてしまったという。

 その後彼女の復活に成功したものの、本当の彼女はもうこの世にいないとヒジリはそう言って項垂れていた。

 リツにはその意味が理解出来なかったが、ヒジリは困惑するリツを気にせず話を続けた。イグナのオリジナルを助ける事が出来ず見殺しにしてしまったのだから、せめてもの償いに今のイグナを甘やかしているのだと。

「私も一緒に行きたいのですが団長という立場上、公務が忙しくて・・・貴方にお願いしても良いかしら?」

「別に構わない」

「自分の息子のことなのに・・・私ったら駄目な母親ですわね」

「ううん、リツは本当は心の底でヤイバが帰ってくると信じている。私のことも信じてくれている。それはこの世界では大事なこと。信じる気持ちをマナや神となったヒジリが汲み取って実現してくれるから。大丈夫、ヤイバは帰ってくる。きっと」

「ありがとう。・・・でも【読心】は遠慮願いますわ。それでは私は先に寝ますね。おやすみなさい、皆さん」

「おやすみ」

 リツはイグナに微笑むと二階に上がってった。

「リツに信頼されているんだな、イグナお姉ちゃんは」

「付き合いが長いから」

 会話するイグナとコロネの向いでマサヨシが欠伸をする。

「ふぁぁぁ眠い。コロネちゃん、女同士一緒に寝ようぜ」

「は?キメェ事言うな?ぶっ殺すぞ」

「あ?召喚師マサヨ様を舐めてる?まだ何も召喚出来ないけど将来大物になる予感だぞ?砦の戦士なら呼べば飛んで来そうだな」

「それは召喚じゃないじゃん。いいからさっさと宿屋に帰りなよ」

 コロネは退屈そうに鼻くそを穿り、それをマサヨシの前髪に向かって弾き飛ばした。

「うわっ!汚なぁ!」

 前髪から鼻くそをはたき落とすと、マサヨシはぶつくさ文句を言って城から出て、自分の部屋があるオーガの酒場へと向かった。





 牙を剥いて向かって来るツキノワグマの頭にヤイバは拳を叩き下ろす。

 熊は地面に叩きつけられてブォと一声鳴いて動かなくなった。

「これは熊なのか?犬かと思うほど小さいな」

 絶命した熊を見て、自分の世界の熊と比較する。自分の世界の熊は徘徊する危険なモンスターと対等に戦えるほど大きく、怒ると凶暴だ。

「熊って割りと争いを避けるのに珍しいね。きっとお兄ちゃんを見て、殺らなきゃ殺られる!って思っちゃったのかも」

「人を魔物みたいに言うんじゃない。熊、猪、鹿。これだけいれば二日は持つかな?」

「あ・・・忘れてた。肉って熟成させないと美味しくないんだった」

 確かに殺して直ぐの肉は固くて不味い。

 ヤイバは猪、熊、鹿の解体を想像して身震いする。服に血が付いたり脂が手にこびりつくのが嫌なのだ。

「血抜きやら何やらで食べるまで時間が掛かるな。そうだ!魚でも取ってくるよ。池に鯉らしき大きな魚がいたから。後は頼んだ、ワロ」

「あー!またそうやって面倒な解体を私に任せる気なんでしょ!オティムポを解体する時も血で汚れるのが嫌だからってゴネてたよね?お兄ちゃん!」

「【高速移動】!」

 ヤイバは魔法を唱えると落ち葉を舞い散らせながら凄い速さで池まで走っていった。

「逃げた・・・。池まで直ぐそこなのに魔法を使って逃げた。もうー!」

 ワロティニスは兄の潔癖症を恨み、ロープに括り付けた獲物をズリズリと引っ張って倉庫まで向かった。

 ヤイバが大きな鯉を十匹ほど捕まえて帰ってきた頃、倉庫から離れた舗装道路でワロティニスとタカヒロが獲物の解体をしていた。

「見てくれ!ワロ!鯉に【捕縛】の魔法が効いたんだ!この世界の動物はあるがままを受け入れるので魔法をレジストしないんじゃないかなと思うのだが、どうだろうか?」

 ワロティニスの冷たい視線が兄を射す。

「私は魔法に疎いから判らないよ。そんな事よりタカヒロさんって凄いんだよ!解体スピードが凄く早いし、私達が食べずに捨てていた内蔵を美味しく食べる方法とか知ってるの!」

 タカヒロは若干照れて話題を鯉に移す。

「鯉か・・・。そう言えば倉庫に調味料があったな。まだ使えそうだったら鯉こくでも作ってみるか」

「鯉こく?」

「ああ、まぁ鯉の煮込みスープみたいなものかな」

 タカヒロは小屋に向かって母親にお湯を持ってきてくれ頼むと小屋からは「はーい」と返事が聞こえてきた。

 タカヒロは一旦倉庫に行き、幾つかの調味料を持って現れた。

「本当は泥吐きとかさせた方が良いんだけど、池は湧き水で綺麗だったしまぁいいか」

 ヤイバから鯉を受け取るとタカヒロは包丁で素早く内蔵を取り出し、身をぶつ切りにしだした。

 そのタイミングでフランがヤカンに入ったお湯を持ってくる。

「ありがとう、フランさん。ほら、こうやってお湯をかけて臭みを消すんだ」

 そう言ってザルに入れた鯉の切り身にお湯をかけている。

 村人が使っていたであろう野外に有る屋根付きの調理場のかまどに火を入れ、鍋にお湯を沸かした。

「味噌と日本酒と砂糖を入れて、煮立ったら鯉を入れる。あとは夜までグツグツと弱火で煮込むだけ」

「わぁ~!もう既に美味しそうな香りがする!凄いねタカヒロさん!」

 タカヒロに懐くワロティニスを見てヤイバは嫉妬してウググと呻く。それから隣りにいたフランの手を取りワロティニスに聞こえるように言う。

「フランさん、まだ日が沈むまで時間がありますし山菜でも取りに行きましょうよ!さっき何気なく村の図書館に入ったら、これを見つけたんです。」

 そう言ってヤイバはキノコ・山菜図鑑をフランに見せた。文字は読めないが、写真が載っている。更に丁寧な事に毒があるかどうかを、ドクロマークで表示してくれていた。

「あら、良いわね。美味しいキノコが有るといいけど。私キノコが大好き!」

 今度はワロティニスの顔が曇る。フランの言った「私キノコが大好き!」が徐々に脳内変換されていき、最終的に「私ヤイバの立派なキノコが大好き!」になった。

「だめぇ!お兄ちゃんとは私が行く!」

 やきもちを焼く妹は手についた血と脂を急いでお湯で洗い、兄の手を取った。

「そう?じゃあ私は鯉のスープ見てるわねぇ?」

 フランは普段、何事も楽な方に傾く傾向があるのであっさりと鍋の見張り番に変更した。

「行ってきます!」

「キノコよろしくね!」

「はい!」

 二人は山道に入ると山菜やキノコを探すべくよく辺りを調べ始めた。暫く進むと松林でキノコの生える場所に出た。

「キノコ発見!どれどれ?図鑑によると食用だな。収穫しよう」

 二人は夢中になってキノコを摘み、持ってきた平たい大きなザルをそのキノコでいっぱいにした。

「何かこのキノコ臭いね・・・。松脂と唾液を混ぜたような匂い」

 ふたりともしゃがんでザルの中のキノコを見ていると、茂みがガサガサと動いた。

「あれま?随分と大きいなー。外人さんかな?」

 ヤイバはあれほどタカヒロに人に見つかるなと言われたのに、山菜摘みに来た老人に見つかってしまった事を悔やんだ。その白髪の白ひげの老人の後ろから温和な顔をした犬も出てくる。

(しまった!どうする?ここをどう切り抜ける?)

「何か良いもの取れましたかな・・・?ちょっと拝見・・・おや?!こ、これは!春松茸!あんたら・・・それ食うのか?だったら食わずワシに売ってくれ!十万でどうだ?」

 ヤイバは老人が何を言っているのか判らないのでクビを横に振る。

「流石に外人さんでもこれの価値は知っているか・・・。よし!思いっきり奮発して五十万!」

 ヤイバは五本指を広がる老人を見てキノコを五本くれといっているのかと思い、首を縦に振った。

「よし、売買成立じゃ!ワシは道楽でレストランを経営しててな。決まった業者から仕入れておらんのじゃ。いつもフラッと立ち寄った先で仕入れておる。だから車に現金があるんじゃ!直ぐに取ってくるからここで待っててくれ!おい!ゴン太!彼らが立ち去らんように見張っておるんじゃぞ!」

 老人は犬にそう言いつけると、年に似合わぬ健脚で素早く山道を下っていった。そして道路に着くと車のトランクを開けて袋の中をガサゴソと探っている。

 あまり高い山ではないので、山の上からその様子がヤイバには見えた。何故老人が慌てて山を降り、馬のいない鉄の荷馬車に向かったのかは判らないが、犬が人懐こっく纏わり付くのでその場を動くことが出来なかった。

「お兄ちゃん、この犬可愛い!凄く友好的だよ!優しい顔してるし。少し撫でてから帰ろうよ。ね?」

「仕方ないなぁ。あの老人が戻ってくるまで待つか。キノコをあげるって約束したし」

 山の下の方からウオォォォ!と興奮する老人の雄叫びが聞こえてくる。

「ああ!良かった!帰っていなかった!でかしたぞゴン太!ほらこれが約束の金じゃ!ハァハァ」

 老人は50万円の札束をヤイバに渡すと、地面に置いていたキノコの入ったザルごと引ったくるようにして去っていった。犬も嬉しそうに後を追いかけていく。

 山の下から「二人共ぉぉ春松茸をありがとぉぉ!」と叫ぶ老人の声が聞こえたが、二人には言葉が理解出来ないし、突然老人がキノコを持ち去ったので混乱して何が何だか判らないといった顔をしていた。

 二人共、手渡された紙切れを見て頭にハテナマークを浮かべるのみである。

「お兄ちゃん・・・キノコをザルごと全部持ってかれたよ・・・?」

「きっと僕らは取引の仕方を間違えたんだ。だからあの老人は勘違いして全部持っていったのかもしれない。」

「この紙切れ、何だろう?凄く細かい絵が描いてあるし虹色に光ってるから大事な物なんじゃないかな?タカヒロさんに見せに行こうよ!」

「そうだな・・・」

 二人は時々、夕闇の中で野草を採りながら山を降りて小屋まで戻ってきた。

 小屋の外には誰もおらず、ヤイバ達は小屋を開けて中に入る。

「いやー、参りましたよ。タカヒロさん」

 テーブルには食事の用意がされており、皆二人の帰りを椅子に座って待っていた。

 空いた場所に野草と五十万円をポンと置いてヤイバは席につくと、さっきあった出来事を喋ろうとしたが、タカヒロとエミの顔が驚いている事に気づく。

 タカヒロはヤイバが無造作に札束をテーブルに置いた事に驚き、クールなキャラを崩壊させながら椅子から立ち上がった。

「その札束、どうしたァーーー?」
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