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第十三章 黒髪少女の軌跡編
1017話 絶望
しおりを挟むあいつ……鳥さんを、殺した。いや、殺したというよりも……食べた?
どういう理屈かはわからないけど、干からびて捨てられた鳥さんを見るに、なにか栄養のようなものを吸われた……ってところか。
あんな状態……普通に怪我するよりも危険だ。あんなんじゃ、回復魔術が通用するかもわからない。
そもそも、私には回復魔術なんて使えないんだけど。
「ぅうふふふ……ふはははは!」
「!」
笑いながら、男は私を標的に定めて……向かってくる。
しかも、ただ走って向かってくるわけじゃない。蜘蛛の足を使って身体を浮かせ、歩いているのだ。
普通に走るよりもリーチが長いし、すぐに私のところに来てしまう。
「っ……え、えい!」
迫ってくる男に、私は火の玉を放つ。二発三発と、イメージした攻撃をぶつけていく。
直撃し、身体は燃えていく……はずだけど、構わずに男は私に向かって突っ込んでくる。
「ひっ……」
私は、飛ぶように右方向に移動する。どすどすと迫ってきていた男は、私のいた場所に鋭い足を突き刺していた。
地面には穴が空き、周辺は溶けている。毒……それに、あのトゲの勢いは……
し、死んじゃう……!
「ひぃ……!」
魔法も効かない、一撃が死に直結する攻撃。胸の奥に広がる、冷たい気持ち……これが、死を感じるってことなんだろうか?
こんなやつを、私がなんとかしなきゃって思ってたけど……そ、そんなの……無理……
男は私を見て、にやりと笑った。
「し、ししょ……」
いや、ししょーは森の中の異変で手一杯のはずだ。助けは来ない。
私は震える足を何度か叩いて、身体強化の魔力を込める。足だけ、強化して……
こ、これなら逃げ切れるはず……
「はぁ、はぁ……」
いつの間にか男の身体を燃やしていた火は消えて、男は私を見ていた。そして、笑い続けていた。
あ、あいつ……完全に、私を馬鹿にしてる……!
「う、うぁあああ!」
私は氷の槍をイメージし、それを魔力のある限り具現化させる。そして、一斉に射出。
鋭い氷の槍は、蜘蛛の足や男の身体本体へと突き刺さる。
つ、通じた!? これなら……
「っば……はははは……」
「!」
だけど……男は笑いながら、突き刺さったはずの氷の槍を引き抜いていく。
身体から血も流れている。効いていないはずがないのに。
ひ、火も氷も、だめ……あ、あとは、なにかイメージして……い、イメージ……? なにを、イメージすれば……?
「ぁ……」
だめだ……イメージが、湧かない。頭の中が、ぐちゃぐちゃになっていく。
魔法はイメージの力。だから、イメージができなければ、魔法は……
……な、名前を決めてるものなら……
「あ、アイスロック! アイスロック!」
氷の塊を飛ばす。けれど、それは男に届く前に、巨大な蜘蛛の足に砕かれてしまう。
砕けた氷が、無情にも散らばっていく。
つ、通用しない魔法を続けていても、いずれ魔力切れになる。でも、新しいものをイメージすることができない……
「……っ」
魔法が通用しないとなれば……あとは、魔術しかない。
あれからも、魔術の訓練はしてきた。以前より、スムーズに詠唱を言うことはできるようになったと思う。
……師匠が見ている前で。
「ひとりで……成功したこと、ない……」
魔術を使ったときは、いつも師匠が側にいた。それは、詠唱中は私の気が散らないように見張ってくれていたところもある……でも、一番は違う。
師匠が側にいることに、安心感があった。
でも、今はそれがない。こんな状態で、集中なんてできない。
「怯える子を追い回すのも悪くないが……そろそろ、しょ、食事の時間だ……」
舌なめずりをして、男は一歩一歩近づいてくる。なんとか足元を凍らせても、それはすぐに砕かれてしまう。
相手の足を止めることはできない。なのに、私の足は動かない。
どす黒い、魔力の塊……絶望が、目の前に立っていた。
「そんな顔をすることはない。一突きだ……死の痛みも感じはしない」
「!」
鋭い足が、振り上げられる。それが私の身体を突き刺せば、確実に命はない。
痛みによる絶命か、溶かされることによる絶命か……いずれにしろ、結果は変わらない。
な、なにもしなければ、私……
「い、いや……」
死にたくない。死にたくない、死にたくない……! 頭の中を、それだけの気持ちが埋め尽くしていく。
目の前の絶望感と同じ……いや、それ以上の『生きたい』という気持ち!
そのせいだろうか。身体の中の魔力が、熱く高ぶっていく感じがする。
「死ね、ひゃはははは!」
鋭く尖る足が、私に向かって放たれる。私はとっさのことに、ぎゅっと目をつぶってしまう。
それは胸を貫く一撃……すさまじい痛みが全身に走るはずだ。身体が強張ってしまう。
……だけど、来るはずの痛みが来ることはなくて。
「ぐぁっ、あぁあああ!?」
代わりに聞こえたのは……男の、絶叫の声だった。
「え?」
なにが起こったのか。目を開ける……そこにあったのは。
私の胸を貫くために迫っていた足。それが、なぜか胸の少し前で止まっている。魔力防壁を使って防いでいる、わけでもない。
それに……不思議なのは、止まっている足がじゅわっ……と溶けているのだ。
まるで、自分の毒で溶けてしまったのではないかと思うほどに。それに……
「なんだか……身体、熱い、かも……」
気のせいだろうか。身体が、熱い……
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