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第一章 魔導学園入学編

25話 異世界人を名乗る変な男

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「……はい?」

 唐突な言葉に、私は間抜けな声を漏らしていた。
 でも、それも仕方のないことだと思う。
 だって、いきなり……


『あんたも……転生者か?』


 なんて、訳のわからないことを、言われたのだから。

「えっと……テン、セイ?」

 私は、意味の分からない単語に首を傾げる。
 なんだろうその、テンセイシャというのは。

 けど、どこか聞き覚えのあるような……
 師匠に教わった言葉かな。

「あ、それとももしかして、転移者の方か?
 転生じゃなく」

「はぁ……?」

 なんだなんだ、テンセイだのテンイだの……
 なんで距離を詰めてくるんだよぅ、怖い怖い怖い!

 距離を詰められる度、私は一歩一歩と後ずさる。
 だけど、そう広くもない廊下で下がれる距離なんて、限られているわけで……

「ぁ……」

 とん、と、背中に固い感触。
 壁際に、追い詰められてしまった。

 しかも、ドン、と顔の横へと手をつかれ、逃げ道を塞がれてしまう。

「なあ、転生者か転移者か、どっちか知らないけど……そうなんだろ?
 その髪の色、瞳の色、間違いない!」

「ぁぁぁぁぁ……」

「なああんた……」

「ひぃぃあぁぁぁぁ!」

 さっきまで無口無表情を貫いていた男が、口早に私に迫ってくる……
 逃げ場のない私の取った、行動は。

 ……眼前の男に、思い切り頭突きを食らわせることだった。

「ってぇ……!」

「つぅ……!」

 ゴンッ、と鈍い音が響き、相応の痛みが走る……が、おかげで男の手が離れ、後ずさりしていく。
 その隙を見逃さず私は抜け出し、距離を取る。

 ていうか、さっきとキャラが違う!

「な、なんなの!?
 人を呼ぶよ!?」

 息が荒くなる、なんとか呼吸を整える。
 額がジンジンと痛むけど、それどころじゃあない。

 男は額を押さえ、うずくまっている。
 今のうちに、人を呼ぶか、逃げてしまうか……

「くっ……ま、待って、くれ」

 声を絞り出すように、男は立ち上がる。
 その一挙手一投足に、私は注意を払う。

 今度は、壁を背にしていない。
 危ないと感じたら、振り向いて、急いで逃げる。
 いざとなったら、魔法を使うことだって……

「……ほ、本当に、俺の言ってることがわからないのか?」

「だから、なんのことを……」

「異世界、転生、転移、女神、この言葉に心当たりは?」

「……?
 聞いたことない言葉だけど、それがなに」 

 さっきから、訳の分からない単語をベラベラと。
 警戒した私を、男はじっと見ていたけど……

 やがて、自分の望んだ答えではないことがわかったのか、深いため息を漏らした。

「そうか……いや、悪い。俺勘違いして……」

「勘違いで、壁際に押し付けられたらたまんないんだけど」

「……悪い」

 今私は、わりと本気で怒っている。
 同い年の男の子に迫られる……言葉にするとドキドキするシチュエーションなのかもしれないけど、実際に体験するとわりと恐怖だ。

 そんな私の怒りが伝わったのか、男は落ち着いた様子を見せる。

「……なんであんなことをしたのかわからないけど、初対面の女の子に、あんなことはしないほうがいいよ」

「いや、別に誰にでもはしないって。
 あんただから……」

 うわぁ……

「ち、ちがっ……そんな顔するなっての!
 そういう意味じゃなくて!」

「……さっき言ってた、テンセイがどうとかって?」

「あぁ。俺はこの世界に異世界転生してきたんだが、その時に女神とか名乗る女から、黒髪黒目の人間は同類だみたいな話を聞いてたから……
 ったく、あの女デマ吐きやがったな」

「……?」

 この男は、さっきとなにを言っているのだろう。
 よくわからない単語を並べて、ぶつぶつと……危ない人なのか?

「俺は女神から、この世界の魔力諸々について聞いたことをそのまま筆記試験で答えただけで……まさか、それがこの時代にとって高レベルの知識だったとは。
 けど、俺と同じく呼ばれたあんたも同じような知識を持ってたってことは、俺と同じ境遇だと思ったんだが。
 ……悪い、こっちの話だ」

 よくわからないけど、私とこの男が理事長に呼ばれた理由が同じだって言うのなら……
 私とこの男が同じような試験の解答してたってことだよね。

 ……え、やだ。

 これ以上この男に関わらないほうがいいのかもしれない。
 突拍子もなく訳のわからないことを言う人だし。

 ……でも、エルフの師匠から教えてもらった知識と同程度の知識を持っていて。
 実技試験でもトップクラスの成績を収めている、かなりできる人……なんだよね。

 そんな人とは、できるだけ仲良くしておいたほうがいい。
 ライバルがいれば己を高めることができる、と師匠も言ってたけど……
 でもな……

「なぁ、謝るから、とりあえずその犯罪者を見るような目はやめてくれないか?」

 そうは言われてもな……

「私、友達を待たせてるので、これで……」

「ちょ……」

「大丈夫です、このことは誰にも言いませんから。だからもう関わらないでください」

「俺完全にヤバい奴だと思われてる!」

 とりあえず、今の出来事は忘れることにしよう。うん、そうしよう。
 イセカイだとかメガミだとか、あいつ完全にヤバイよ。

 背を向け、歩き出す。
 校内はお静かに、と言われていなければ、走って逃げていたところだ。

 ……だけど、私も男も、出口に向かう道は一緒なわけで。
 私の隣にこそ並ばなかったけど、男は私の後ろを着いてくる形になる。話しかけられは、しなかったけど。
 結果的に、校外へ出るまで後ろを尾けられている感じになって……ちょっと怖かった。
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