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第二章 青春謳歌編
49話 注目される弟子
しおりを挟む「はぁー、なんか疲れちゃった」
「ものすごい見られてたものね」
お昼ご飯を食べ終えた私たちは、早々に食堂を後にした。
食事の間は誰も話しかけてこなかったが、食後あそこにあのまま座っていたら、あっという間に囲まれてしまうかもしれなかったからだ。
特にガン見されていたわけではないけど、それでも複数からチラチラ見られるのはなぁ。
「でも、エランちゃん言ってたわよね。
いつか師匠を超えたいって」
「うん」
「だったら、今からでも視線に慣れておかなきゃ。
グレイシア様の弟子で、グレイシア様を超えるってなったら今以上に注目されるわよ」
「うぅ、そっかあ」
これまでは、師匠と二人暮らしだったから、人の目にさらされる経験はあまりなかった。
外出したときだって、隣には師匠がいたから、髪の色珍しいとジロジロ見られても、平気だった。
今も、クレアちゃんがいるから、わりと平気ではあるけど……
人に酔うって、こういうことを言うのかな。
「はぁ、私の理想とはかけ離れちゃったかな」
「理想?」
「うん。入学当初は、無名の謎の美少女魔導士。
それが、学園生活の中で徐々に頭角を現していき、誰も無視できなくなるような存在として羽ばたいていく!
……っての」
「……それは、壮大な理想ね」
徐々に有名になるはずが、まさか入学早々とは。
これは予想外だった。
……まあ、結果としては同じこと、なのかな。
早いか遅いかの違いなだけで。
そんなことを考えながら、教室に戻り、扉を開けると……
「おい、田舎者」
「げ」
目に入ってきたのは、私と決闘したダルマ男。
私の姿を見つけるや、私をにらみつけるようにして、近づいてくる。
なんだこの、やんのかこらぁ。
「なにさ」
「いや…………今回は、俺の負けだ。それは認める。
だが、次はこうはいかない。せいぜい覚悟しておけよ。
……エラン・フィールド」
ビシッ、と私に指さして、言うだけ言って行ってしまった。
なんだあいつ。
次は負けないとか、新手の宣戦布告かな。
「ねぇ、今のなんだと思うクレ……」
「キャー!」
振り向くと、なにかに感動したかのように黄色い声を上げたクレアちゃんが、私の肩を掴んでくる。
あ、あんまり揺らさないでほしいなっ。
「仲の悪かった男女が、決闘を機にその距離を縮めていく……
いい! こういう展開私大好き!」
「なに言ってんのクレアちゃんんんんん!?」
が、ガクガク揺らさないで……
さっき食べたもの、出ちゃう……
「しかも、最後聞いた!? 名前、エランちゃんの名前呼んでたわよ!
小さくてもしっかり聞こえたわ……認めなかった相手を認めた、その瞬間!
あぁ、まるでおとぎ話の一節のようだわ」
「っ!
はぁ、はぁ……」
や、やっと解放された……
あやうく、教室で大惨事を引き起こすところだった。
ガクガク揺らされたせいで、あんまりクレアちゃんがなに言ってるのか聞こえなかったんだけど……
なんで、恍惚とした顔で、祈るように手を組んでいるのだろう。
「ねえねえ、エランちゃんは、ダルマス家の長男のこと、どう思ってるの?」
「え、な、なに急に。
どうって……いけ好かない奴、かな。
でも、魔導の腕はそれなりだったし、ちょっとは見直したかも?」
「きゃー!」
さっきから、この子はなにを興奮しているのだろう。
私からあの男の評価は、確かに上がった。少しだけ。
でも、ルリーちゃんをいじめていた件がある以上、少し以上は上がりようがない。
「ま、いいや。
そろそろ休憩時間も終わるし、席に戻ろうよ」
「そうね、ふふ」
その後、休憩時間が終わり、午後の授業が始まった。
入学したばかりなので、ほとんど座学ばかり……先ほどの決闘は、まあ例外だ。
でも、みんな真剣に聞いていた。
やっぱり、さっきの決闘は意味があったのだろう。
……まあ、あれがあっても、変わらない人もいるけど。
今も手鏡で、自分の顔を見ている筋肉男とか。
あいつ、決闘見に来たのかな。
「では……サラメ。
魔法と魔術の違いについて、述べよ」
「はい」
一度は、入学試験でやった問題……
だけど、先ほども言っていたように、基礎は大切だ。
それを振り返ることも。
先生は、一人の女子を指名して、魔法と魔術の違いを説明するように促す。
あ。あの子、筋肉男に席を取られた子だ。
「魔法とは、自分の体内の魔力を昇華し、魔導へと変換したもの。
魔術とは、大気中の魔力を用いて、魔導へと変換したものです」
「ん、その通りだ。
本来、魔法は自分の、魔術は大気の魔力を、それぞれ活用するものだ。
自分の魔力量の限界しか使えない魔法と違って、魔術は自分が本来持つ力以上のものを使えるというメリットがあるが……
あまりに大きな力は、コントロールできないというデメリットもある」
ここも、師匠から口を酸っぱくするくらいに教えてもらったところだ。
魔法と魔術、その違いについて。
「なにより、魔術を使うためには"精霊"を介し、魔力に干渉しなければならない。
口で言うのは簡単だが、精霊の力を借りるのは難しい……精霊と契約する、精霊に好かれる、いずれも簡単にできることではない。
そもそも、精霊を認識することすら、なかなかままならないことだ」
「……そうなの?」
先生の話を聞きながら、私はキョトンとしていた。
だって、私は小さい頃から、精霊とお話をしていた。
師匠は確かに、精霊と仲良くなるのは難しいと言っていたけど……
「実際、魔導学園の教師といえど、精霊と接することができ、魔術を使える者は多くない。
精霊は、目には見えないがそこかしこに存在している……火の精霊、水の精霊、風の精霊、土の精霊。
彼らと契約し、その力を使いこなせるようになれば、魔導を極める道は大きく前進する」
「先生は、精霊と契約はしていないんですか?」
「私は、一体火の精霊と契約している。
それぞれの属性を持つ精霊は、その属性の魔導を使うことができる。
大きく分けて、先ほど挙げた四種類の精霊がいるが、癒やしの精霊といった、無属性の精霊も存在する」
魔法、魔術、そして精霊……
これらは、魔導を極めるにあたって、決して切っては離せないものだ。
精霊と、それも複数の精霊と仲良くなれば、やれる幅はぐんと広がるのだ。
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