49 / 1,142
第二章 青春謳歌編
49話 注目される弟子
しおりを挟む「はぁー、なんか疲れちゃった」
「ものすごい見られてたものね」
お昼ご飯を食べ終えた私たちは、早々に食堂を後にした。
食事の間は誰も話しかけてこなかったが、食後あそこにあのまま座っていたら、あっという間に囲まれてしまうかもしれなかったからだ。
特にガン見されていたわけではないけど、それでも複数からチラチラ見られるのはなぁ。
「でも、エランちゃん言ってたわよね。
いつか師匠を超えたいって」
「うん」
「だったら、今からでも視線に慣れておかなきゃ。
グレイシア様の弟子で、グレイシア様を超えるってなったら今以上に注目されるわよ」
「うぅ、そっかあ」
これまでは、師匠と二人暮らしだったから、人の目にさらされる経験はあまりなかった。
外出したときだって、隣には師匠がいたから、髪の色珍しいとジロジロ見られても、平気だった。
今も、クレアちゃんがいるから、わりと平気ではあるけど……
人に酔うって、こういうことを言うのかな。
「はぁ、私の理想とはかけ離れちゃったかな」
「理想?」
「うん。入学当初は、無名の謎の美少女魔導士。
それが、学園生活の中で徐々に頭角を現していき、誰も無視できなくなるような存在として羽ばたいていく!
……っての」
「……それは、壮大な理想ね」
徐々に有名になるはずが、まさか入学早々とは。
これは予想外だった。
……まあ、結果としては同じこと、なのかな。
早いか遅いかの違いなだけで。
そんなことを考えながら、教室に戻り、扉を開けると……
「おい、田舎者」
「げ」
目に入ってきたのは、私と決闘したダルマ男。
私の姿を見つけるや、私をにらみつけるようにして、近づいてくる。
なんだこの、やんのかこらぁ。
「なにさ」
「いや…………今回は、俺の負けだ。それは認める。
だが、次はこうはいかない。せいぜい覚悟しておけよ。
……エラン・フィールド」
ビシッ、と私に指さして、言うだけ言って行ってしまった。
なんだあいつ。
次は負けないとか、新手の宣戦布告かな。
「ねぇ、今のなんだと思うクレ……」
「キャー!」
振り向くと、なにかに感動したかのように黄色い声を上げたクレアちゃんが、私の肩を掴んでくる。
あ、あんまり揺らさないでほしいなっ。
「仲の悪かった男女が、決闘を機にその距離を縮めていく……
いい! こういう展開私大好き!」
「なに言ってんのクレアちゃんんんんん!?」
が、ガクガク揺らさないで……
さっき食べたもの、出ちゃう……
「しかも、最後聞いた!? 名前、エランちゃんの名前呼んでたわよ!
小さくてもしっかり聞こえたわ……認めなかった相手を認めた、その瞬間!
あぁ、まるでおとぎ話の一節のようだわ」
「っ!
はぁ、はぁ……」
や、やっと解放された……
あやうく、教室で大惨事を引き起こすところだった。
ガクガク揺らされたせいで、あんまりクレアちゃんがなに言ってるのか聞こえなかったんだけど……
なんで、恍惚とした顔で、祈るように手を組んでいるのだろう。
「ねえねえ、エランちゃんは、ダルマス家の長男のこと、どう思ってるの?」
「え、な、なに急に。
どうって……いけ好かない奴、かな。
でも、魔導の腕はそれなりだったし、ちょっとは見直したかも?」
「きゃー!」
さっきから、この子はなにを興奮しているのだろう。
私からあの男の評価は、確かに上がった。少しだけ。
でも、ルリーちゃんをいじめていた件がある以上、少し以上は上がりようがない。
「ま、いいや。
そろそろ休憩時間も終わるし、席に戻ろうよ」
「そうね、ふふ」
その後、休憩時間が終わり、午後の授業が始まった。
入学したばかりなので、ほとんど座学ばかり……先ほどの決闘は、まあ例外だ。
でも、みんな真剣に聞いていた。
やっぱり、さっきの決闘は意味があったのだろう。
……まあ、あれがあっても、変わらない人もいるけど。
今も手鏡で、自分の顔を見ている筋肉男とか。
あいつ、決闘見に来たのかな。
「では……サラメ。
魔法と魔術の違いについて、述べよ」
「はい」
一度は、入学試験でやった問題……
だけど、先ほども言っていたように、基礎は大切だ。
それを振り返ることも。
先生は、一人の女子を指名して、魔法と魔術の違いを説明するように促す。
あ。あの子、筋肉男に席を取られた子だ。
「魔法とは、自分の体内の魔力を昇華し、魔導へと変換したもの。
魔術とは、大気中の魔力を用いて、魔導へと変換したものです」
「ん、その通りだ。
本来、魔法は自分の、魔術は大気の魔力を、それぞれ活用するものだ。
自分の魔力量の限界しか使えない魔法と違って、魔術は自分が本来持つ力以上のものを使えるというメリットがあるが……
あまりに大きな力は、コントロールできないというデメリットもある」
ここも、師匠から口を酸っぱくするくらいに教えてもらったところだ。
魔法と魔術、その違いについて。
「なにより、魔術を使うためには"精霊"を介し、魔力に干渉しなければならない。
口で言うのは簡単だが、精霊の力を借りるのは難しい……精霊と契約する、精霊に好かれる、いずれも簡単にできることではない。
そもそも、精霊を認識することすら、なかなかままならないことだ」
「……そうなの?」
先生の話を聞きながら、私はキョトンとしていた。
だって、私は小さい頃から、精霊とお話をしていた。
師匠は確かに、精霊と仲良くなるのは難しいと言っていたけど……
「実際、魔導学園の教師といえど、精霊と接することができ、魔術を使える者は多くない。
精霊は、目には見えないがそこかしこに存在している……火の精霊、水の精霊、風の精霊、土の精霊。
彼らと契約し、その力を使いこなせるようになれば、魔導を極める道は大きく前進する」
「先生は、精霊と契約はしていないんですか?」
「私は、一体火の精霊と契約している。
それぞれの属性を持つ精霊は、その属性の魔導を使うことができる。
大きく分けて、先ほど挙げた四種類の精霊がいるが、癒やしの精霊といった、無属性の精霊も存在する」
魔法、魔術、そして精霊……
これらは、魔導を極めるにあたって、決して切っては離せないものだ。
精霊と、それも複数の精霊と仲良くなれば、やれる幅はぐんと広がるのだ。
40
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる