史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

文字の大きさ
48 / 1,141
第二章 青春謳歌編

48話 私の師匠

しおりを挟む

 ……グレイシア・フィールド。
 それが私、エラン・フィールドの師匠の名前だ。

 彼は、行き倒れていた私を拾ってくれた。そして、『エラン』という名をくれた。
 その後、十年もの間面倒を見てくれた。
 彼は私の、恩人だ。

 それだけではなく、彼は私に魔導について、深く教えてくれた。知識も、技術も。
 彼は私の、師匠でもある。

 師匠は、エルフ族の青年だ。
 まあ青年といっても、エルフ族は長寿……見た目が若くても、その中身は人間の何倍も生きているのだろうけど。
 師匠はあんまり、自分の歳について話したがらなかった……というより、あんまり興味がなかったみたい。

 私を拾う前は、いろんな所を旅して、周っていたらしい。
 けれど、私を拾ったことで拠点を構え、一つの場所に留まり続けた。

 その師匠は、私が魔導学園に入学するにあたって、再び旅に出た。
 その際、私は師匠から『フィールド』の家名を与えられた。
 まあ与えたっていっても、家名がないと不便だと思った師匠が、名乗っていいよと計らってくれただけだろうけど。

 ……今では、どこでなにをしているのか、わからない。
 そんな師匠が……

「この魔導学園の、卒業生だったなんて……」

 それも、首席で。

 現在、お昼休憩中の私たちは、食堂でご飯を食べている。
 先ほどのやり取りを、思い出していたのだ。

 ここ、魔導学園で学ぶことにした私は、先ほど衝撃の事実を知った。
 師匠が、魔導学園を首席で卒業した、というのだ。
 全然知らなかった。

 そもそも魔導学園は師匠に教えられたのだ。
 自分が首席で卒業など自慢話に聞こえるから言わなかったのかもしれないが……やっぱり、教えてほしかったな。

「私も驚いたわ、エランちゃんの師匠がグレイシア様だったなんて。
 エランちゃんがグレイシア様が首席だって知らないことも」

「あはは……」

 どうやら師匠は、グレイシア・フィールド様として敬われているらしい。
 学園を首席で卒業し、各地でいろんな問題を解決したりして伝説を残している……

 ……美しき、エルフ。

「……ぱくり」

 師匠がよく言われているのは、私としても嬉しい。
 ただ、それはそれとして疑問も残るのだ。

 師匠、グレイシア・フィールドは、凄腕の魔導士。最強と言って差し支えないほどに、世間では周知されているらしい。
 そして、彼がエルフ族であることも。

 だけど、師匠がエルフで、それでもすごいと思われているなら……
 世間の、エルフに対する評価はなんなのだろうか?

 ルリーちゃんは、ダークエルフであることを理由にいじめられていた。
 クレアちゃんは、エルフと関わっちゃだめだ、と言っていた。

 ……エルフとダークエルフの種族の違い?
 いや、でもなぁ。

「うーん……」

「どうかしたの、エランちゃん」

「うん、ちょっとね」

 嫌われているエルフ族、でもエルフである師匠は敬われている。
 師匠が自分の正体を隠していたならともかく、そうではないみたいだし。

 うむむ、師匠め……
 この世界の一般常識教えてくれるなら、エルフ族がどう思われているのか、なにがあったのかも教えといてよ。

「ねぇ、クレアちゃ……」

「でも、あのグレイシア様の……最強の魔導士の弟子だったなんて!
 エランちゃんのあの、とんでもない魔力も納得だわ!」

 師匠がすごすぎてか、私の質問が届く前にみんな、うっとりした表情になってしまう。
 そんなにすごいのか、師匠。

 結局あのあと……私の師匠がグレイシア・フィールドだって明かしたあとの騒ぎはすごかったもんな。
 次の授業始まるまで、質問攻めだったし。

 お昼になってからは、誰に話しかけられるよりも先に、クレアちゃんを連れて食堂に来た。
 目立たないように、ひっそりと食堂の隅に座っているのだが……

「……やっぱり、購買でなんか買ったほうが、よかったかなぁ」

 目立たない位置に座っているのに、ちらほらと視線を感じるのだ。
 この視線は……さっきの、クラスメイトから受けたものとおんなじだ。

 隠れているつもりでも、この黒色の髪が周囲の注意を引いてしまうみたい。
 誰も話しかけてこないのは、少しは遠慮してくれているのか……

「クレアちゃん、私と一緒で居心地悪くない?」

「え? そんなことないわよ。
 視線くらい慣れてるし」

 キョトンとした様子で、クレアちゃんは言う。
 それは強がりではないようだ。

 そういえば、クレアちゃんは宿屋の娘だもんな。
 お客さんの前に出ることも多いし、視線にさらされるくらいワケはないか。
 視線の意味はまったく違うと思うけど。

「でもこれじゃあ、ルリーちゃんを見つけることもできないかも」

 別のクラスであっても、食堂でなら会える。
 そう思っていたのだけど。

 ルリーちゃんを探そうと席を立てば、その瞬間わっと話しかけられそうな気がする。
 みんな、きっかけを待っているのだ。

「すごい注目度よね、エランちゃん」

「私が師匠の弟子だって、もうみんな知ってるのかなぁ。師匠の力やばくない?」

「それもあるだろうけど……
 その珍しい黒色の髪の女の子が、入学試験で【成績上位者】になった貴族……って話が広まってるのが大きいと思うわ」

 ぱくり、と食べながら、クレアちゃんは言う。
 なるほど……納得がいったよ。
 みんな、私個人というより、黒色の女の子イコール【成績上位者】という認識を持っているのか。

 そりゃ、いくらすごい成績だったとはいえ、入学してわずかでみんなに顔を覚えられるはずもないか。
 じゃあ、この髪染めちまうか……?

 うーん、それもそれで、根本的な解決にはならないような……

「おまけに、ここにダルマス家長男を決闘で破ったグレイシア・フィールドの弟子、って肩書きまでつくんだもの。
 てんこ盛りね」

「えぇ、ダルマ男のことまでー?」

「人の噂はどこまで広まるかわからないからね。
 それに、ダルマス家といえば上級貴族、名家中の名家だもの」

「それを、グレイシア・フィールドと同じ家名の、謎の黒髪美少女が倒しちゃった、と。
 その上、その美少女は成績優秀ときたもんだ」

「そうねー、これから大変よ……
 ん? 美?」

 言われて気づく、私の肩書きの多さ。
 別にこれが原因でちやほやされても、あんまり嬉しくないんだけどな。

 ……とはいえ、すでについてしまった肩書き、払拭することはできない。
 特に、師匠の弟子であることを否定するなんて、絶対にしないし。

 クレアちゃんも言うように、これから大変だ……
 その気持ちを噛み締めつつ、私はコップに注がれたお水を、一気に飲み干した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

異世界でカイゼン

soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)  この物語は、よくある「異世界転生」ものです。  ただ ・転生時にチート能力はもらえません ・魔物退治用アイテムももらえません ・そもそも魔物退治はしません ・農業もしません ・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます  そこで主人公はなにをするのか。  改善手法を使った問題解決です。  主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。  そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。 「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」 ということになります。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...