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第二章 青春謳歌編
48話 私の師匠
しおりを挟む……グレイシア・フィールド。
それが私、エラン・フィールドの師匠の名前だ。
彼は、行き倒れていた私を拾ってくれた。そして、『エラン』という名をくれた。
その後、十年もの間面倒を見てくれた。
彼は私の、恩人だ。
それだけではなく、彼は私に魔導について、深く教えてくれた。知識も、技術も。
彼は私の、師匠でもある。
師匠は、エルフ族の青年だ。
まあ青年といっても、エルフ族は長寿……見た目が若くても、その中身は人間の何倍も生きているのだろうけど。
師匠はあんまり、自分の歳について話したがらなかった……というより、あんまり興味がなかったみたい。
私を拾う前は、いろんな所を旅して、周っていたらしい。
けれど、私を拾ったことで拠点を構え、一つの場所に留まり続けた。
その師匠は、私が魔導学園に入学するにあたって、再び旅に出た。
その際、私は師匠から『フィールド』の家名を与えられた。
まあ与えたっていっても、家名がないと不便だと思った師匠が、名乗っていいよと計らってくれただけだろうけど。
……今では、どこでなにをしているのか、わからない。
そんな師匠が……
「この魔導学園の、卒業生だったなんて……」
それも、首席で。
現在、お昼休憩中の私たちは、食堂でご飯を食べている。
先ほどのやり取りを、思い出していたのだ。
ここ、魔導学園で学ぶことにした私は、先ほど衝撃の事実を知った。
師匠が、魔導学園を首席で卒業した、というのだ。
全然知らなかった。
そもそも魔導学園は師匠に教えられたのだ。
自分が首席で卒業など自慢話に聞こえるから言わなかったのかもしれないが……やっぱり、教えてほしかったな。
「私も驚いたわ、エランちゃんの師匠がグレイシア様だったなんて。
エランちゃんがグレイシア様が首席だって知らないことも」
「あはは……」
どうやら師匠は、グレイシア・フィールド様として敬われているらしい。
学園を首席で卒業し、各地でいろんな問題を解決したりして伝説を残している……
……美しき、エルフ。
「……ぱくり」
師匠がよく言われているのは、私としても嬉しい。
ただ、それはそれとして疑問も残るのだ。
師匠、グレイシア・フィールドは、凄腕の魔導士。最強と言って差し支えないほどに、世間では周知されているらしい。
そして、彼がエルフ族であることも。
だけど、師匠がエルフで、それでもすごいと思われているなら……
世間の、エルフに対する評価はなんなのだろうか?
ルリーちゃんは、ダークエルフであることを理由にいじめられていた。
クレアちゃんは、エルフと関わっちゃだめだ、と言っていた。
……エルフとダークエルフの種族の違い?
いや、でもなぁ。
「うーん……」
「どうかしたの、エランちゃん」
「うん、ちょっとね」
嫌われているエルフ族、でもエルフである師匠は敬われている。
師匠が自分の正体を隠していたならともかく、そうではないみたいだし。
うむむ、師匠め……
この世界の一般常識教えてくれるなら、エルフ族がどう思われているのか、なにがあったのかも教えといてよ。
「ねぇ、クレアちゃ……」
「でも、あのグレイシア様の……最強の魔導士の弟子だったなんて!
エランちゃんのあの、とんでもない魔力も納得だわ!」
師匠がすごすぎてか、私の質問が届く前にみんな、うっとりした表情になってしまう。
そんなにすごいのか、師匠。
結局あのあと……私の師匠がグレイシア・フィールドだって明かしたあとの騒ぎはすごかったもんな。
次の授業始まるまで、質問攻めだったし。
お昼になってからは、誰に話しかけられるよりも先に、クレアちゃんを連れて食堂に来た。
目立たないように、ひっそりと食堂の隅に座っているのだが……
「……やっぱり、購買でなんか買ったほうが、よかったかなぁ」
目立たない位置に座っているのに、ちらほらと視線を感じるのだ。
この視線は……さっきの、クラスメイトから受けたものとおんなじだ。
隠れているつもりでも、この黒色の髪が周囲の注意を引いてしまうみたい。
誰も話しかけてこないのは、少しは遠慮してくれているのか……
「クレアちゃん、私と一緒で居心地悪くない?」
「え? そんなことないわよ。
視線くらい慣れてるし」
キョトンとした様子で、クレアちゃんは言う。
それは強がりではないようだ。
そういえば、クレアちゃんは宿屋の娘だもんな。
お客さんの前に出ることも多いし、視線にさらされるくらいワケはないか。
視線の意味はまったく違うと思うけど。
「でもこれじゃあ、ルリーちゃんを見つけることもできないかも」
別のクラスであっても、食堂でなら会える。
そう思っていたのだけど。
ルリーちゃんを探そうと席を立てば、その瞬間わっと話しかけられそうな気がする。
みんな、きっかけを待っているのだ。
「すごい注目度よね、エランちゃん」
「私が師匠の弟子だって、もうみんな知ってるのかなぁ。師匠の力やばくない?」
「それもあるだろうけど……
その珍しい黒色の髪の女の子が、入学試験で【成績上位者】になった貴族……って話が広まってるのが大きいと思うわ」
ぱくり、と食べながら、クレアちゃんは言う。
なるほど……納得がいったよ。
みんな、私個人というより、黒色の女の子イコール【成績上位者】という認識を持っているのか。
そりゃ、いくらすごい成績だったとはいえ、入学してわずかでみんなに顔を覚えられるはずもないか。
じゃあ、この髪染めちまうか……?
うーん、それもそれで、根本的な解決にはならないような……
「おまけに、ここにダルマス家長男を決闘で破ったグレイシア・フィールドの弟子、って肩書きまでつくんだもの。
てんこ盛りね」
「えぇ、ダルマ男のことまでー?」
「人の噂はどこまで広まるかわからないからね。
それに、ダルマス家といえば上級貴族、名家中の名家だもの」
「それを、グレイシア・フィールドと同じ家名の、謎の黒髪美少女が倒しちゃった、と。
その上、その美少女は成績優秀ときたもんだ」
「そうねー、これから大変よ……
ん? 美?」
言われて気づく、私の肩書きの多さ。
別にこれが原因でちやほやされても、あんまり嬉しくないんだけどな。
……とはいえ、すでについてしまった肩書き、払拭することはできない。
特に、師匠の弟子であることを否定するなんて、絶対にしないし。
クレアちゃんも言うように、これから大変だ……
その気持ちを噛み締めつつ、私はコップに注がれたお水を、一気に飲み干した。
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