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第四章 魔動乱編
140話 お前があいつのなにを知っている
しおりを挟む……魔物とは、モンスターが魔石を体内に取り込むことで生まれる獣。
それはあるいは、進化と呼べるものかもしれない。
ならば、人が魔石を取り込んだらどうなるのか。それが気にならないかと言われれば嘘になるか、わざわざ試そうとは思わない。
そもそも、モンスターと人とでは根本的な違いがある。
魔力が元々、あるかないか。モンスターには魔力がないため、魔力の源である魔石を取り込めば魔力を持つ魔物になるのは、まあわかる。
でも、人は魔力を持っている。だから、新たに魔力を取り込んでも進化するどころか、体内の魔力が暴走し死に至る……
それを確認したのが、今私の背後を取っているダークエルフ……ルラン。ルリ―ちゃんのお兄さん。
「わからない」
「うん?」
「わからない。人が魔石を取り込んだらどうなるか……人を殺すのはいけないことだけど、気になったことならもう検証できたでしょ?
なんでまだ、事件を続けているの」
「……」
「それに、魔石を溶かすとか、わけわかんない……!」
あぁもう、さっきからわけのわからないことばかりだ。それとも、ただ私がバカなだけか?
かすかに、彼の笑った声が、聞こえた気がした。
「そう、その疑問が生まれた瞬間から、試さずにはいられなくなる……それはエルフも人も、変わらない。
腹の立つことだがな」
「違う!」
「違わない! だからお前たち人間は、エルフに対してああもむごいことができた! そうだろう?」
……わからない。この人は、なにがしたくて……なにに、怒っているんだ。
エルフが人々に迫害されている理由は、以前図書室で調べた。確か、"殺戮の夜"とかいうやつだ。
まだなにか、私の知らないことがあるのか……
「だからオレは、試した。今のように、魔石を溶かし……それを、奴らの口の中に流し込んだ。
すると、どうだ。途端に奴らは苦しみだし……あっという間に、肉の塊になった」
「……ルリ―ちゃんは、人に歩み寄ろうとしてる。
でも、お兄さんのあなたが、こんなことしてたら……」
「人間との溝は埋まらない、か。そんなことはわかっている。
どうかしてるのさ……妹はな」
人と歩み寄ろうとしているルリ―ちゃんをこそ、悪だと思っているのか……この人は。
多分、この人はルリ―ちゃんのこと自体は大切に思っている。
ただ、彼女の行いまでを、是としていないだけで。
「魔石は固体だ、これを人の体内に入れるのは骨だ。
だが、液体とすればどうだ? 魔石を魔力の状態へと変化させる……そうするだけで、簡単に人の体内へと流し込める」
……魔力を操る。そんな芸当ができる者は多くない。
ただ、この人の言い方だと……魔石の中にある魔力に干渉して、魔力を液体状に変化させた、ということだろうか。
実際にできるのかはわからない。でも、実際に被害者が出ている。
そして、そんな方法があるなら……それが誰でもできるようになったら、大変なことになる。
「魔石は固い。そこらに投げつけても、割れることはない……
だが、不思議なことにな。食べることはできるんだよ。なぜか噛む力にはその固さを発揮しない……だからモンスターは、魔石を食べられる。
ただそれがわかっても、自ら魔石を食べようとする人間はいないだろう……あぁ、もちろんオレも、魔石を食べてはいない」
「……さっきから、なんで私に、そんな話をペラペラと……」
「発見したことは、語りたくなるものじゃないか。
とはいえ、話せる間柄の者なんて限られている……人間であるキミにこんな話をしたのも、キミがルリ―の友人だと自称したからさ」
……話に夢中になっている間に、隙を見つけて抜け出そうと考えていたけど。
この人、全然隙が無い。
背後を取られているだけじゃなくて、いつの間にか杖を持っている手も押さえられてるし……全然油断もしてくれない。抜け目がない。
「自称って……私は、ルリ―ちゃんの友達だよ」
「お前があいつのなにを知ってるって?」
「知ってるよ、頑張り屋さんなとこも、寂しがり屋さんなところも、笑うとかわいいところも!
あなたこそ、お兄さんがこんなことしているって知ったらルリ―ちゃんは……」
「話せるのか? ルリ―に……あいつに、今世間を騒がせている"魔死事件"を起こしているのは、お前の兄だと」
「!」
くっ……痛いところを、ついてくる。
確かに、身内が殺人犯なんて……ルリ―ちゃんに、教えられない。ルリ―ちゃんから、家族の話を聞いたことはないけど……きっとルリ―ちゃんだって、お兄さんのことが大好きのはずだ。
今回、この人が私の前に現れたのも、私の気持ちを弄ぶためだって気さえしてくる。
「別にオレは構わねえぜ? 死んだと思ってた兄が、実は大量殺人犯……オレは人間なんざ、何人死んでもいいと思ってるが、あいつは違う。この事実を知ったら……
……あぁ、考えただけで唆るだろ?」
楽しんでいる……人を殺すことをなんとも思ってないし、それによってルリ―ちゃんがどんな反応をするか、想像して楽しんでいる。
聞き逃せない事実ばかりだ……その中でも、特に聞き逃せないものがあった。
「死んだと、思ってる?」
「あぁ、俺のことは死んだと思ってるだろうさ。
魔獣から逃がすため、魔獣に食われたか刻まれたか……ま、親父とお袋はマジで逝っちまったが。
……その顔、やっぱりなにも知らないって顔だな?」
心臓が、跳ねたような気がした。
そんな話、聞いたこともない。魔獣から逃がすために、お父さんとお母さんが犠牲になった?
……あの夢……いや、記憶って、もしかしてそのときの?
まさか、魔獣騒ぎのとき……あんなに、魔獣におびえていた理由って……!
「ぷっ……っはははは! なにも知らない、なにも聞いてない。
それでよく、友達だなんて言えたもんだな! いーっひひはははは!」
「……く」
「……もう一度聞いてやる。
お前があいつの、なにを知ってるんだ? ルリ―のお友達さん?」
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