史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

160話 ルリーの過去⑦ 【変化】

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 ダークエルフの住む森、その中に作られた小さな村……そこに、新たに住人が加わることとなった。
 ダークエルフとは違い、金髪白肌の特徴を持つ、エルフ……

「り、リーフェルです……よ、よろしくお願いします」

 集められた村人の前で、エルフ……名を、リーフェルという彼女は、ぺこりと頭を下げた。
 その姿に、村人たちはしばし沈黙した後……パチパチパチと、拍手が起こり始めた。
 それは、リーフェルに対しての否定や、嫌悪ではない。

 顔を上げたリーフェルはぽかんとした様子で、後ろに立つラティーアを見た。
 目が合い、ラティーアは小さくうなずく。

「みんな、受け入れてくれてるみたいだね」

「うん……」

 その様子を見守るリーサは、嬉しそうにルリーに話しかけた。
 しかし、ルリーの表情は思いの外暗い。

 どうしたのだろうと、リーサはルリーの視線の先を追うと……

「ははーん」

「な、なに」

「いやぁ、リーフェルさんに嫉妬?」

「んなっ」

 ルリーの表情が暗い理由……それは、嬉しそうに笑っているラティーアの姿を見てだ。
 おそらく、ラティーアとリーフェルの様子に、嫉妬しているのだ。

 それを受け、ルリーはわかりやすく慌てる。

「そ、そんなんじゃないもん!」

「えー、そうかなー」

 にひひ、とリーサは意味深に笑っている。まったくもう、とルリーは赤くなった自分の顔を覚ますため、パタパタと自分の手で顔を扇ぐ。
 とはいえ……リーサの指摘は、図星とも言える。が、別にリーフェルだけが特別というわけではない。

 少し前から、ラティーアが女の人と話をしているだけで、もやもやするのだ。
 自分は、どこかおかしいのだろうか……

「よ、よろしくお願いします!」

 再度頭を下げるリーフェルを見つめ、ルリーははもやもやを振り払うように首を振り、精一杯の拍手を送った。


 ――――――


 リーフェルが村で暮らし始めて、およそ一年が過ぎた。彼女は、家を借りて一人で暮らしていた。
 一人とはいっても、日中は仕事をして、ご飯は誰かと一緒になることがほとんどだったので、寝る時以外には常に誰かと一緒にいた。

 当初は、少し過剰な反応を見せることもあった。人間に襲われ、同族からも嫌われていた過去が、そうさせていたのだろう。
 しかし、次第にそれも落ち着きを見せていった。

 ラティーアの評判は、いいものだった。物腰柔らかい態度に嫌味はなく、この村唯一の金髪は目を惹く。
 実は、最初から村人すべてが彼女を歓迎していたわけではない。エルフ族とはいえ、身内以外の存在を入れることに抵抗を見せた者もいた。
 だが、気づけば誰とも仲良くなっていた。それは、彼女の人柄によるものだろう。

 中でも、若者の中心的人物であるラティーアとは、よく一緒にいることが多かった。

「むぅー」

「あはは、おまんじゅうみたい」

「ネル、つつかないの」

 木陰に座り、ぷくっと頬を膨らませているのはルリーだ。そんな彼女の頬を、ルリーはおもしろそうにぷにぷにつついている。
 少し強めに押せば、ぷしゅーと空気が抜けていくのだ。面白い。

 しかし、ルリーは抵抗するでもなく、ある人物を見つめている。
 その先にいるのは、リーフェル……そして、彼女の隣で楽しそうに笑っている、ラティーアだ。

「まーたあの二人見てる」

「ま、またって……」

「そんなに気になるなら、さっさと告白しちゃえばいいのに」

「こっ……」

 ルリーの隣に座るリーサは、足を伸ばしプラプラさせながら、空を見上げながら言う。
 なんでもないことを言うような口調で、とんでもないことを言われたルリーの顔はとたんに真っ赤だ。

 いきなりなにを言い出すのだと。しかし、リーサは極めて冷静だ。

「だってさー、告白もしてない男に近づいて話をしてるってだけでいちいちにらまれてたんじゃ、リーフェルさんが気の毒だよ」

「うぐっ……」

 すさまじいほどの正論を投げられ、それはルリーの心臓に見事にヒット。
 ラティーアがルリーの恋人なら、他の女への嫉妬も当然だ。なにせ、自分のものなのだから。
 しかし、ラティーアは恋人でもなんでもない。それに、この一年、二人の関係を見ても行動しなかったのは、ルリーだ。

 わかっている、わかっているのだが……

「だ、だって……私なんて、子供っぽいし……異性として、見られてないよ……
 告白して、今の関係が壊れたらって、思ったら……怖いし」

 今、きっとラティーアはルリーを子供としてしか見ていない。そんな相手に告白しても、勝算はないだろう。
 そうなれば、告白したことで少なからず関係は変わる。ラティーアは優しいから、その後も変わらず接してくれるかもしれないが……ルリーが変われない自信は、ない。

 今ならば、少なくとも今は……ラティーアの近くに行っても受け入れてもらえる。頭も撫でてもらえる。それが心地いいのだ。
 それすらも、なくなってしまうのだとしたら……

「でも、行動しなきゃなにも変わらないよ。どころか、リーフェルさんにラティーアさん取られちゃうよ」

「うぅー、わかってるよぉ。だってぇ……」

「あの二人最近いい感じだもんね」

「かはっ」

「ネル!」

 頭をかき思い悩むルリーを、ネルの言葉が容赦なく抉る。
 リーサは当然、ネルだってルリーの気持ちには気づいている。鈍い男共は気づいていないだろうが。

「まあでも、ネルの言う通りよ。
 その気になるなら、私たちならいくらでも手伝うのに」

「恋愛ってめんどうなんだねー」

「……ネルがそれを言うのね」

「?」

 基本ぽやーっとしているネルだが、実はアードが彼女にひっそりと想いを寄せているのをリーサは知っている。ネル本人どころか、ルリーも気づいていないだろうが。
 思えば、予感はあったのだ。リーフェルと初めて会った時、彼女に手を弾かれたネル……その光景に一番怒っていたのが、アードだった。

 もっとも、その気持ちが自覚しているものなのかどうかは、わからないが。
 どのみち、ネルは罪作りな女である。

 いずれにしても……

「リーフェルさんが来てから、関係も変わってきた、か」

 新たな住人が増え、それにより村のダークエルフの関係も少しずつ、変わってきた。それは、今まで外との接触がなかった彼らにおって、新しい風となっている。平和で隔離されたこの生活の中では、決して味わえなかったものだ。
 それがいい風であろうと悪い風であろうと、自分たちがこの先も生きていくためには……進化するには必要な"変化"だ。

 変化なき生活に、進化はないのだから。

「ま、存分に思い悩めばいいよー」

「むぅ……リーサだって、お兄ちゃんのこと好きなくせに……」

「なんだってー?」

「なんでもない……」

 はぁ、とため息を漏らすルリー。いろいろ考えることはあるが、二人の言う通りではある。
 このまま、なにもせずに、ラティーアを取られるというのは……いやだ。

 進むためには……変化が、必要だ。

「リーサ、ネル、私……」

 しばしの沈黙の後、ルリーは一つの決意を固める。
 両隣に座る二人に、それを伝えようと、口を開いた……

 その、瞬間……

「ゴギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「!?」

 森中に響き渡るほどの……大地を、大気を震わせる雄叫びが、轟いた。
 初めて聞くその声……のようなものに、誰もが、本能で感じた。なにか、危険が迫っていると……

 ……この先も、平和な生活が続いていくと。誰もが、そう思っていた……
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