史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第六章 魔大陸編

359話 私の人生を奪ったやつ

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 ラッへ……いや、本名エラン・フィールド。
 私と同じ名前、同じ顔をした彼女は……私の師匠、グレイシア・フィールドの娘だという。

 正直、本当に娘なのかの証拠はないけど……なんとなく、わかる。
 これは、うそではないって。

 それに……

「死んだと思ってた娘の名前を……って、どういう……」

「……はぁ。ここまで言ったら、もう全部ぶちまけたほうが楽か」

 そう言って、彼女は近くの岩の上に座る。
 彼女は、私を……師匠にとって、娘の代わりだと言った。

 師匠に限って、そんなことない……と、思いたい。でも、師匠に娘がいること自体知らなかったんだ……なにが本当なのか、わからない。

「てめえは、あいつのことはどこまで知ってんだ」

「……いろんなとこを、旅してた、ってくらい」

「はっ、なにも知らねえんだな」

 改めて、気づく……私、師匠のことなんにも、知らないんだ。
 彼女の言葉は悔しいけど、事実だ。なにも、言い返せない。

 師匠と、十年も暮らしてたのに……私は、師匠のこととは、なにも知らない……

「なら、てめえが拾われる前のことも、知らないわけだ」

「……うん」

 師匠は、旅の中で私を拾って、私を育てることを決めてくれて、それからは一緒に暮らしていた。
 元々師匠は、自分のことは話さないし、私もあんまり聞こうとはしなかった。自分から話さないのなら、私から聞くことでもない、と思って。

 だから、師匠が私を拾ってくれたそれより前のことは……ただ、旅をしていた、くらいしか知らない。
 師匠に家族がいたのかすらも、知らない。

 私は、なにも聞かなかった……なんで、なにも聞かなかったんだろう。

「あの、グレイシア様は、どうしてあなたを、死んだと思って……?」

 恐る恐る、といった感じで、ルリーちゃんが聞く。それもわりと突っ込んだことを。
 キミ、結構大胆だよねやっぱり。

 ただ、さっき全部ぶちまけたほうが、と言ったためか……ルリーちゃんの言葉にも、彼女は不機嫌そうにはしていなかった。

「私も、小さかったからよく覚えてるわけじゃねえ、事故のショックで記憶も曖昧だしな」

「事故?」

「ま、単純な話だ……事故に遭って、私は生死不明の状態に陥った。あいつは、回復魔術でも治らない私を死んだと思い込み……そんで、私を捨てたってことだ」

 ……師匠が、娘を捨てた……
 それは、少し捉え方の問題なんだと思う。師匠は、娘が亡くなったと思ってしまった……だから、娘を置いていった。
 でも、実際にまだ生きていた彼女は、そうは思わなかった。

 自分が死んだものとして、置き去りにされた。だから、彼女は師匠に捨てられたと……

「じゃあ、あなたは……師匠に、自分を捨てた復讐をしたいの?」

 ラッへという言葉の意味は、復讐だという。
 もし、私の考えていることが正しいのなら……

「さあな……少なくとも、私にとってはてめえにも、我慢ならねえんだ」

 そう言って、彼女は私を、見た。

「私……?」

「驚いたよ。私はグレイシア・フィールドの弟子だって? 名前がエラン・フィールド?
 ……あの男は、死んだ娘の名前を、どこの馬の骨とも知れねえガキに付け、育てていた。とんだ家族ごっこだよ」

「……っ」

 ……彼女にとって、私は……自分のものだったはずの名前を付けられた、わけのわからない人間。
 名前だけじゃない。師匠と暮らして、本来は彼女が過ごすはずだった時間も……なぜかそっくりな、この顔も……全部……

 師匠が私を拾ったのって、娘の顔に、よく似ていたから……?

「そ、それは……エランさんには、関係ないことじゃないですか。エランさんはなにも、知らなかったんですよ」

 言葉を失う私をフォローするように、ルリーちゃんが言葉を返す。
 なにも知らずにいた私は、無関係だと……

 ……でも……

「そんなの、知ったことじゃない。私にとっては、勝手に死んだことにされ、私とそっくりな顔の赤の他人……それも人間なんぞに、私の名前をつけられ、そいつは能天気に暮らしてたんだ。
 私の人生を奪った奴を憎んで、なにが悪い?」

 彼女からしたら、それこそ、関係ないことだ。師匠も、私も……
 知らなかったとはいえ、私は彼女の本当の名前を名乗って、今日まで過ごしてきた。それは彼女にとって、どれほど我慢出来ないことだっただろう。

 ……エルフ語で、『復讐』という意味を持つ、ラッへという言葉。その意味を、向ける相手っていうのは……

「本当なら、今にでもてめえをこの手で締め上げたいんだ」

「……そうしないのは、ルリーちゃんがいるから?」

 ここに転移される前、ルリーちゃんは結果的に、彼女を助けるために乱入してきた。
 だから、彼女はルリーちゃんに免じて、気絶していた私に手は出さなかった。

「それもある。あとはまあ、てめえを殺そうと思ったら、そこのダークエルフも相手取ることになる。
 この魔大陸で、ダークエルフを相手にするのはキツい」

 ルリーちゃんは、彼女が私を殺そうとすればそれを阻止し、私の味方についてくれるだろう。
 そうしたら、二対一。いくら彼女でも、キツいのだろう。

 ………いや、それだけじゃないか。この魔大陸は、エルフにとっては体調が悪く、ダークエルフにとってはむしろ体調が優れる環境だったんだ。
 そういった意味でも、ルリーちゃんを敵に回したくはない……か。

「そんなことまで、素直に教えてくれるんだ」

 ただ、そんな弱気なことまで教えてくれるとは、思わなかった。
 これじゃあ、自分に自信がないと明かしているようなものだ。

「少なくともこの魔大陸にいる間は、てめえを殺そうとはしない。お互いに協力して、この窮地を脱しようじゃねえか。
 それとも、先んじててめえらが組んで、私を殺す……ってんなら、私に抵抗する手段はないけどな」

「そんなこと……」

 しばらくは、私に対する殺意は引っ込めてくれるという。
 それが本当かはわからないけど、わざわざ弱みまで見せたんだ。信じてみてもいいと思う。

 私が、彼女を殺すなんて、そんなこと考えもしない。というか、あんな話を聞いて、できるはずもない。
 彼女は、それをわかって、あんな話をしたんだろうか……
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