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第六章 魔大陸編

361話 毒かオアシスか

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 浮遊魔法を使って、空から現在地の確認とと周辺になにかないか、探す。
 できれば魔力はあんまり消費したくないんだけど、今は少しでも手がかりがほしい。ただただ歩いて体力を消費するか、少しでも手がかりを見つけるために魔力を消費するか、だ。

 上空に飛び、周囲を見渡す。
 浮遊魔法っていうのは、要は体を軽くして浮かばせる、ってことだ。ただこれが、案外難しい。
 使い方を誤れば、体は勝手に空を飛び、そのまま制御が効かず帰ってこれない……なんてことも、あるみたいだ。

 まあ、今はそれはいい。問題は、別のことだ。

 周囲を確認している。すると、視界の端が光った。
 急いで、首ごとその方向に視線を向ける。そこには……

「ギェエエエエエ!」

「鳥!?」

 巨大な、漆黒の翼を持つ鳥が、こっちに向かって飛んできていた。
 まさか、私を狙って……いや、ただ進行方向に私がいるだけかも……いやでも……

 ……あぁっ! どっちでもいい!

「ギィイイイイ!」

「わっ!」

 口を大きく開けて、私に噛みつこうとしてきた。それと同時に、私は降下する。
 あっぶなぁ……あんな鋭い牙に噛み砕かれたら、怪我じゃ済まない! 怪我じゃ……あっ!

 そうか、そうだ……! ここじゃ魔術がいつものように使えない。ってことは、回復魔術もってことじゃん。
 怪我しても回復魔術で治せばいいと思ってたけど、回復魔術がちゃんと機能するかわからないし、これは……

「怪我も、できない!」

「おいっ、なんで降りてきてんだてめえ!」

「そんなこと言われてもさぁ!」

 気づけば私は、地上に向かって全速力で走っていた。浮遊魔法中なので、走るかって表現が正しいかはわからないけど、とにかく走っていた。
 先には、ルリーちゃんとラッへの姿。

 普段ならあんな鳥、迎え撃つのに……今は魔力が限られているから、あんまり使いたくない!
 それに、空を飛んでいる相手に、浮遊魔法使ったまま魔力を消費し続けるのも、得策じゃない。

「おいダークエルフ、お前の大好きなエランちゃんがピンチだぜ」

「か、からかわないでください!」

 ルリーは、私に……向かって魔導の杖を構え、魔力弾を放つ。……ただし、狙いは私じゃない。
 あの鳥に知能があるのなら、近くにいたら私も巻き添えになる……だから、地上からの攻撃はないと思っている。

 私は、魔力弾が迫る中で、当たる寸前に横にそれる。すると、どうなるか……私を追ってきていた鳥に、魔力弾が命中する。
 私が目隠しになって、当てられたのだ!

「ギャオオオオオ……!」

「やった……!」

「油断すんな!」

 私は地上に着地し、鳥を見る。魔力弾が衝突した鳥は、悲鳴のようなものを上げ、飛ぶこともなく地上に落下する。
 少しの間警戒するけど、動かない……もしかして、死んだ?

 そう思っていると、鳥は砂のようになり、消えていく。
 これは、魔物や魔獣が死んだときと、同じ現象。

「じゃあ、あれも魔物か魔獣だったんだ……
 す、すごいよルリーちゃん!」

 消え去った鳥を見て、私はルリーちゃんに飛びつく。
 あんな凶暴で、大きな鳥を、たった一発で倒しちゃうなんて。

「え、えぇ……で、でも、あんな威力が出るなんて……」

「ここがエルフにとって毒、ダークエルフにとってはオアシス……そういうことだろ」

 魔法の威力に驚くルリーちゃんに、ラッへが口を挟む。
 表現はアレだけど、理屈はそういうことだ。ここは、ダークエルフにとって悪くない場所なのだ。

 元々、魔力を消費している私とラッへ。魔力がほぼ万全のルリーちゃんに頼るしか、ないとは思っていたけど。

「ということは……回復も、早いんでしょうか」

「知るかよ、私はダークエルフじゃねえんだ」

 消費した魔力の回復方法は、主に休息と食事。だから私たちは、あてもなく歩いたりはしたくないし、食べ物がほしい。
 のんびりと座っているだけでも、まあ回復はできる。

 ただ、ここだと回復の度合いが、私たちとダークエルフのルリーちゃんとでは、違うのかもしれない。

「じゃ、こっからああいうのの相手は、お前にお願いしようかね」

「はいっ、がんばります!」

「……おう」

 ラッへの言葉を素直に受け取り、ルリーちゃんは元気に返事をする。
 その方が効率的とはいえ、面倒事押し付けられてるんだけど……いや、私もフォローすればいいだけだ。

 それにしても、あんなでかい鳥……すごかったな。
 あんなのがうようよいるってことだよね。

「にしてもお前、なんで杖を使ってんだ」

 ラッへが、ルリーちゃんの杖を見ながら、聞く。
 そういえば、ラッへは杖なしで魔法を放ってたっけな……

 魔導の杖の意味は、魔導を制御することにある。
 なので、別に杖がなくても、魔導は使えるには使えるのだ。

「そ、それは……私はその、魔導の使い方に、自信がないと言いますか」

「エルフ族なのにか」

 魔導の制御……それは、誰にもできることじゃない。ほとんどの人が杖を使っている。
 でも、エルフ族なら……

 そういや師匠も、杖なしで魔導使ってたな。絶対杖使ったほうがいいとは言ってたけど。

「エルフ族は、人間よりも魔力の扱いに長けてる。エルフ族なら、杖なしでも使えて当たり前だろうが。
 お前もエルフ族の端くれだろ」

「うぅ……」

「ちょっとちょっと、自分ができるからって誰でもできると思ってるの、よくないと思うな」

「ふん」

「それに、そう! ルリーちゃんは学園に通ってたから、正体を隠すために、杖使ったほうが、ごまかせるんだよ!」

「なんだその取って付けたような物言い。
 だいたい、なんでそこまでして、人間が多く通う学園に通うのかね」

 吐き捨てるような、ラッへの言葉。
 言葉は乱暴だけど……言っていることの、意味はわかる。私だって、認識が甘かったのかもしれない。

 ルリーちゃんの正体を知った、クレアちゃんの反応……あれは、すさまじいものだった。
 あんな思いをする可能性を持って……それでと、ルリーちゃんは、人と仲良くなろうと、していたんだ。
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