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第六章 魔大陸編

362話 魔族の街へ

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 襲ってきた魔物だか魔獣を倒し、一息。多分魔獣だ。
 あんなのが飛んでたんじゃあ、迂闊に浮遊魔法も使えやしない。

「で、なんか見えたのか?」

 ラッへが、聞いてくる。
 今の一瞬で、そんなに遠くまで見えたわけじゃない。けど……

「あっちに、街みたいなのがあったよ」

 私は、とある方向を指して、言葉を返す。
 あの鳥に気を取られてしまったが、その前……まだ鳥を見つける前、周囲を見渡しているときに、発見した。

 この殺風景な中に、人の気配があった。
 いや……この場合、人じゃなくて魔族の気配、か。

「なら、行くか」

 私が指さした方向を見て、迷いなくラッへは歩き出す。
 その後ろ姿に、なんだか頼もしさのようなものを覚えつつ、私たちも続く。

「あの……でも、大丈夫でしょうか」

「あん?」

「魔族……って、どんな方たちなのでしょう」

 不安そうなルリーちゃん。
 そりゃそうだよな……魔族なんて、話に聞いたことある程度の存在だ。しかも、魔族って響きは、魔物や魔獣を連想させる。

 あれを思い浮かべると……魔族ってのは、粗暴な種族なんじゃないか、ってイメージが出てきてしまう。
 それに、ダークエルフは世界中から嫌われている……って話だし、それは魔族も例外じゃないんじゃないかと思う。

 そのため、ルリーちゃんが不安なのはよくわかる。

「さあな。村に足を踏み入れた瞬間、ガブッと食われちまうかもしれねえなぁ」

「そんな……!」

「ま、ダークエルフならそうなる可能性は高いわな。不安だってんなら、せめてそのフードで顔隠しゃいいだろ。
 認識阻害の魔導具なんだろう?」

 ルリーちゃんの不安が、ダークエルフに対する扱いも含むなら……せめて、フードを被ることで、それは防げるはずだ。
 私とラッへには、もう正体がバレているから、意味ないけど……初めて会う相手には、魔導具の力が働くはず。

 ……魔導具かぁ。

「はぁ、こんなことなら、"賢者の石"持ってくればよかった」

 以前、王国で暴れまわったレジーを捕らえた報酬としてもらった魔導具、"賢者の石"。
 確か国宝だかいうそれは、指輪に嵌められた小さな石のことだ。

 指輪を嵌めている……正確には石を持っている……人物の、魔力をすんごく上昇させてくれるらしい。
 今それがあれば、魔力が枯渇するかも……って心配せずに、済んだのに。

 魔導大会の際に、部屋に置いてきたんだよなぁ。
 大会では、魔導具の使用は認められているけど……やっぱり、自分だけの力でどこまで行けるか、試したいじゃん?

「……なんつったお前、"賢者の石"?」

「うん。もらったの」

「……今持ってねえのか?」

「うん。置いてきちゃった」

「…………はぁ」

 深いため息を吐かれた。ラッへはどうやら、"賢者の石"のことを知っているようだ。
 国宝ってくらいすごい魔導具だし、長生きのエルフなら知っているのかな。

 うーん、ラッへも残念がってるし、ないのは痛手だよな……結果だけ見たら。
 考えてみれば、別に身につけていても、魔導具の力を使おうとしなければ効力は発揮しなかったんじゃないか、と思わないでもない。
 今更遅いけど。

 ルリーちゃんの魔導具、認識阻害のフードを除けば……私たち、なんにも道具持ってないな。
 魔法もあんまり使えないし、生き残れるのかこれ。

「……これからルリーちゃん頼みになりそうだよ」

「! 任せてください!」

 ボソッとつぶやいた言葉に、ルリーちゃんが反応する。
 その目はキラキラと輝いていて、豊かな胸をどんと張っていた。いいなぁ。

 頼られることが嬉しい……ってことかな。あんまり負担をかけすぎちゃうのも、悪い気がするけど。

「頼りにしてるぜ、ダークエルフ」

 前を歩くラッへは、悪いなんて微塵も思ってなさそうだ。
 案外これくらいの距離感の方が、気兼ねなく話せていいのか?

 エルフも、ダークエルフのことは憎んでいる……もしかしたら他の種族より、憎んでいるかもしれないのに。
 ラッへは、ダークエルフとしてじゃなくルリーちゃん個人を、見てくれているってことか。

 ……ダークエルフは、かつて始まりの四種族……命族を除いた、竜族、鬼族、魔族を次々と、ほふっていったと、本には書いてあった。
 当時の闇の魔術士である、ダークエルフの力は膨大で……壊滅的な被害を被ったそれを、"殺戮の夜"と呼んだらしい。

 発端は、ダークエルフの魔導士。エルフは、ダークエルフと同じエルフ族という括りだけで、同じような扱いを受けてきたようだ。
 最近では、師匠のおかげでエルフに対する風当たりは、弱くなってきているみたいだけど。

「ま、こっちが敵対の意思を見せなきゃ、相手だっていきなり襲っては来ねえだろ。多分」

 ……多分、かぁ。

「とりあえずダークエルフ、お前は顔を隠せ。私もエルフだが……まあ、なんとかなるだろ」

「適当だなぁ」

「こんな場所に飛ばされた時点で、なにを考えても無駄だっつの。なるようにしかならねえ」

 ……ラッへは、投げやりになったようにも見えるけど……初めて訪れたこの場所で、いちいち考えて行動していても、どうにもならないのは確かだ。
 行き当たりばったり、ってわけじゃないけど、あんまり考えすぎるのもよくないか。

 そうこう考えているうちに、視界の先には、街らしきものが映ってきた。さっき空から見たより、当然鮮明だ。
 ここに来るまでに、さっきの鳥のような魔獣には襲われなかった。よかった。

 さて……この街に、魔族ってやつがいるのかどうか……
 敵意を持って挑むつもりはないけど、警戒も、しておかないと。
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