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第六章 魔大陸編

418話 唱えられるはずのない詠唱

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 白い魔獣、プサイ。
 ただ強いだけではなくて、相手の負の感情を増大させるという特性も持っている。

 自分の負の感情に押しつぶされ、自滅してしまう……そんな危険も、あった。
 でも、もう大丈夫だ。気をしっかり持って、もう惑わされない!

「行こう、クロガネ!」

「グォオォ!」

 私の呼びかけに、クロガネは力強く応えてくれる。
 頼もしいパートナーだ!

「ゴォオオオ……!」

 それに対峙するように、プサイもまた静かな雄叫びを上げる。
 重く、胸の奥に響くような声だ。

 それからプサイの体に、変化が起こる。
 腕と腹部に取り付けてある黒い鎧……それが、気のせいだろうか波打ち始めたのだ。

 そして……そこから、白いなにかが、無数に出てきた。

「なっ……なにあれ!?」

 白いそれは、うようよと蠢き……なんらかの形を、成していく。
 それは、まるで生き物のように、動いていた。形も、決まったものではなく、それぞれ違う。

 小さく数の多いそれは、まさか……

「魔獣……!?」

 間違いない。あれは、魔獣だ。
 嘘だと思いたい。魔獣が、魔獣を生んだってこと……!?

 プサイから生まれたのは小さい魔獣だ。とはいえ、プサイはクロガネほどの大きさがある。
 だから生まれた魔獣は、私から見れば充分な大きさがある。

「あれも、プサイの能力かなにか!?」

『いや……見たところ、あの鎧のようなものに、その力があるようだな』

「あれ、鎧じゃないの!?」

『鎧をかたどってはいるが……新たに魔獣を生み出すなど、不可解なものだ』

 とにかく、放置していたら次々魔獣が生まれちゃうってことだ。
 あの鎧みたいなのを、まずは壊さないと……

『案ずるな、契約者よ』

 クロガネは落ち着いた様子で、周囲を警戒する。
 すでに、迫ってくる数体の魔獣……それを、尻尾を振るい打ち落とす。

 さらに、咆哮を上げるだけで魔獣は動けなくなり、その隙に鋭い爪で斬り裂いた。

『有象無象が増えようと、敵ではない』

「お、おう……うん、さすがクロガネ」

 ただの魔獣では、クロガネの相手にならない。それは、わかっていた。
 それでも、プサイは魔獣を生み出すのをやめない。数がいればどうにかなると思っているのか……

 それとも、単純に無駄だとわかっていないだけか。

「……いや、あいつの狙いは……」

 ……違う。あいつは、ただむやみに魔獣を生み出しているわけではない。
 気づいたときには、プサイの周囲に魔獣が、群がっていた。

 それを、プサイは……仮面に隠れていた、口を開き、大きな口を開けて、食べた。

「ぅ……!」

 魔獣が、魔獣を食べている……それは、すさまじい光景だ。
 バリバリと、嫌な音がする。

 一体、また一体と、次々に魔獣を食べている。
 そしてその度に、プサイの力が、体が、大きくなっていくのを感じる。

「あいつ、もしかして……自分で魔獣を生み出して、食べて、パワーアップしてる?」

 モンスターが魔石を食べて魔物に。魔物が魔石を食べて魔獣に。という話は、聞いたことあるし見たことだってある。
 獣だって、進化するためになにかを体内に取り込むことがある。

 けれど……魔獣が、同じ魔獣を食べるだなんて。
 そんなこと、考えたことすらなかった。

「ォオオォ……!」

「!」

 プサイの巨体が、さらに大きくなり……肩に、ギョロッと目が開く。いや、肩だけじゃない。
 白い体の、あらゆるところに目が、開いていた。

 それらは、目玉がキョロキョロと動き、なんて気持ち悪い光景だろう。

「ゴォォォオオオ!」

 これ以上、パワーアップさせるわけにはいかない。
 咆哮を上げ、クロガネはプサイへと飛びかかる。私も振り落とされないように、しっかり捕まる。

 クロガネの、巨体から繰り出される体当たりを、四本の腕で受け止められた。
 だけど、そのおかげでかなり接近できた……だからクロガネは……

「ォオオオォオオ!!」

 超至近距離からの、竜魔息ブレスを放った。
 高密度の魔力が、プサイを飲み込んでいく……けど、やっぱりプサイには効果が薄い。

 キョロキョロ動いていた目玉が……一斉に、クロガネを見た。

「……!?」

「どうしたの、クロガネっ?」

『これは……動きを、封じられた!』

 無数の目玉に睨みつけられ、動きを封じられた。
 信じられない状況だ。でも、それだけの力が魔獣には、備わっている。

 クロガネが動けないという点では、さっき結界に閉じ込められたことと同じだ。
 でも、これは違う。あの無数の目が、クロガネを捕らえて……動きを、封じている。

「じゃあ、あの目をなんとかしなきゃ……」

『だが、この状態では……』

「私がやるよ」

 魔導の杖をぎゅっと握り、私は立ち上がる。
 あの目を……視界を封じれば、問題はない。ならば、どうする?

 強い攻撃をして気を散らす? むしろ魔獣を倒してしまう?
 ……いや、違う。もっと、効率的な方法があるのを、私は知っているじゃないか。

 それを"見た"のは、二回や三回程度。だけど、それがどれほどの効果を持っているのか、私は良く知っている。
 だからだろうか、私は……

「全てを包み込みし、漆黒の闇よ……」

 魔導の杖を、構えて……

「その者を、永久なる常闇に覆い隠せ」

 本来、唱えるはずのない……唱えられるはずのない詠唱を、唱えていた。

闇幕ダークネスカーテン……!!!」

 ……魔獣の体全体を、黒いもやが、覆っていった。
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