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第七章 大陸横断編

463話 魔女のいたずら

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「……寝ちゃってたのか」

 目を覚ますと、昨日寝たのと同じベッドの上だった。
 まさか魔女さんが、あんなに師匠のことを語るとは思わず……逃げるように、布団に潜り込んだわけだけど。

 ……うん、リーメイの水のベッドも気持ち良かったけど、やっぱりこういうベッドはまた違うな。
 魔大陸でガローシャに泊めてもらったところは、ベッド固かったもんなぁ。

 おかげで、すっきり眠れたみたいだ。

「ふぁ、あ……」

 目覚めに大きなあくびをして、ベッドから出る。
 一人だけ、か……なんかちょっと、寂しいな。

 ま、昨日の広間みたいなところに行けば、少なくとも魔女さんはいるでしょ。

「……わ、長い廊下」

 部屋を出ると、そこには長い廊下が広がっていた。
 確かラッヘとリーメイは、この家に来たときに部屋の奥へ行ったけど……私は、家の奥に来たのは初めてだ。

 昨日だって、食事の途中に寝てしまった私を運んでくれたのは、魔女さんだし。
 迷わずに、行けるかな……

「ま、一本道だし大丈夫か」

 長くても、道は一本。迷う心配は、どこにもない。
 私は部屋の扉を閉めてから、廊下に出て……あ、これ右と左どっちに行けばいいんだ?

 まあ……なんとかなるか。広いって言っても、家の中だし。

「レッツゴー、なんちゃって」

 声を上げても、当然返事は返ってこない。寂しいなぁ。
 とりあえず右に向けて、私は足を進める。

 コツコツと、靴の音が響く。窓はあるけど、全部閉まっている。開けたいけど、鍵がないんだよなぁ。
 外は明るくなってきていて、朝みたいだ。

「うーん……廊下しかない」

 歩いてしばらく経つけど、広間どころか廊下しかない。
 一本道の廊下……他に道はないし、部屋もない。ただただ前に進むだけ。

 おかしい……確かにこの村一番の大きさの家ではあるけど、ここまで大きくはないはずだ。
 歩いた感じで、だいたいの大きさはわかる。明らかに、外観よりも広い。

 しかも、廊下が一本しかないのもおかしい。
 迷うはずのない道に、迷ってしまったかのようだ。

「おーい、みんなー! 魔女さーん!」

 私は焦れったくなり、声を上げる。
 声は室内に反響するが、それだけだ。返事はないし、声が反響するってことは完全な密室だ。

 私、これ閉じ込められてない?

「どうしよう……杖もないしなぁ」

 最悪壁を破壊して外に出ようにも、手元に魔導の杖はない。
 杖がなくても魔法は撃てるけど、威力を誤ったらまずいよな。こんな場所じゃ、自分にも被害が及ぶ。

 まあそれは最終手段だから……いや、最終手段というからにはクロガネを召喚してしまえばいいか。
 クロガネの巨大なら、この廊下を破壊することも可能だろう。

「それも、みんなに被害が及ぶ可能性があるから、使いたくはないかな」

 魔法を撃つなら自分だけに被害が及ぶだけで済むけど、家を壊したらみんなに被害が及ぶからなぁ。
 それは避けたいし、なしかな。

 となると、やっぱり力技以外の方法でなんとかしないと。
 ……とりあえず歩き続けるしかないのか。

「もー、家の中でこんなに歩くってなにさー」

 ぶつぶつと一人でなにを言っても、誰も聞いてくれないんだもんな。寂しいよー。
 それからもしばらく歩いていくと、ようやく一つの扉を見つけた。ここが広間に繋がっているのだろうか。

 扉を開き、部屋の中へと入る。すると、そこには見覚えのあるベッド……
 シーツが、よれたままだ。あれって……私がさっきまで寝ていた、ベッドだよね。

 え、戻ってきた? まっすぐに進んでいたはずなのに、元いた場所に戻ってきた? なにそれ怖い。

「わぁー! ふざけやがってぇ!」

 私は昂る気持ちを拳に乗せて、壁をぶん殴る。
 魔力強化した拳だけど、壁にはヒビ一つ入らない。バカな……

 こうなったら、全力の魔力強化をして壁に一点殴りつけて……

「おいおいおい、待て待て待て」

 魔力を高めていると、どこからともなく少し焦ったような声が聞こえた。
 すると、どこに隠れていたのか魔女さんが部屋の中に姿を現した。

「あ、いた」

「あ、いた……じゃない。なにをやろうとしているんどキミは」

「壁をぶち壊そうと」

「乱暴すぎるだろ!」

 派手な魔法が使えないのなら、身体強化をすれば問題はない。そう思って、今から実行に移そうとしていたんだけど。
 それを危惧してか、魔女さんが出てきた。

 ていうか、このタイミングで出てきたって……確実に、見ていたよね。

「じゃああの長い一本道も、魔女さんのせい?」

「いやぁ……寝起きのサプライズ、みたいなものをな」

「いらないよそんなの!」

 魔女さんの余計な気遣いは、本当に余計だった。
 魔女さんはなんとか私を落ち着けようと、ポンポンと背中を叩いてくる。気安く触んじゃねぇよぉ……

「悪かった、少し驚かせようと思ったんだ」

「少しどころじゃないよ。まったく、私だからまだよかったものを……
 まさか、ルリーちゃんたちにも同じことを……!」

「いや、キミだけだ。安心してくれていい」

 私だけに、この長い一本道サプライズを仕掛けたのか……全然嬉しくない。
 とはいえ、他のみんなに同じようなことをされてなくてよかった。

 結局その後、魔女さんの案内で部屋を出て、右へ歩いていくと……その先にあった扉を開き、そこは広間だった。
 十秒で着いた。
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