史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第十章 魔導学園学園祭編

751話 隅から隅まで知った仲

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 その後も私たちは、ひと気のない場所を見て回った。
 学園祭マジックというやつか、それともカルさんがそういうのを見つけるのがうまいのか……行く先々で、イチャイチャしているカップルを見つけた。
 これを仕事ができていると誇ればいいのか、見つけてしまった残念と言えばいいのか。

 はじめに見つけた、ちゅーしているようなカップルはいなかったけど。それはよかったけど。
 誰も彼もが、二人でこそこそと抱き合ったり身体を触り合ったりしているのだ。

「はぁー……」

「お疲れねぇ、エランちゃん」

 ったく、どいつもこいつもあちこちでイチャイチャイチャイチャと……
 いや、別にうらやましくはないんだよ? うらやましくはないんだけどさ……

 なんか、ムカつくじゃん。

「そんな眉間にしわを寄せないの、かわいい顔が台無しよ。はい、どうぞ」

「はぇ?」

 どうやら眉間にしわが寄っていたらしい私は、指先でグリグリと額を押さえていた。
 すると、目の前に白い棒状のなにかが差し出される。

 なにかっていうか……これ、アイスだ。

「えっと……?」

「さっきそこで買ったの。甘いものでも食べて、頭をスッキリさせなさいな」

 これ……私に、奢ってくれているんだろうか?
 見上げると、カルさんはにっこりと笑ってくれる。

「ほら、先輩からの奢りよ。ありがたくもらっときなさい」

 私の迷いを感じたのだろう、カルさんは安心させるような笑顔を浮かべてくれた。
 それを見て私は、棒アイスに手を伸ばす。

「ありがとうございます」

 棒アイスを受け取り、口元に運ぶ。私は舌を出してアイスをぺろっと舐める。
 うぅん、冷たい。それに甘い。疲れが吹き飛ぶようだ。

 疲れには二種類ある。肉体的な疲れと、精神的な疲れ。
 今回のは主に精神的な疲れだけど、それさえも吹き飛ばしてくれるなんてアイスはすごい!

「ぺろぺろぺろ」

「あぁ、いいわねぇそれ。棒アイスを舐めている姿、なんだかきゅんときちゃう」

 ……本当に疲れは吹き飛ぶだろうか。
 カルさんをジロリと見つめると、笑いながら「冗談よ冗談」なんて言った。

「……カルさんは、食べないんですか?」

「それならー、エランちゃんと半分こしたいなー」

「えぇと……」

「そんな嫌そうな顔しないの、冗談よぅ。ここにあるわ」

 私が舐め回したアイスを半分くれと言われ、どうしようかと思ったけど……どうやら、自分の分を買っていたようだ。
 そしてカルさんは、棒アイスをぺろぺろと舐め……るのではなく。

 歯を立てて、一気に噛み砕いた。

「むしゃ……んん、やっぱり甘いものは最高ねぇ」

「……カルさん結構豪快なんですね」

「そうかしら?」

 まあ、ものの食べ方なんて人それぞれだから、別にいいんだけど。

 冷たくて甘いアイスは、疲れを癒してくれる。
 周囲では、アイスを食べている人もいれば串焼きやリンゴ飴のようなものを食べている人もいる。

 本当に、なんでもやってるんだなぁ。

「ぺろっ。……食べといてなんなんですけど、いいんですか? 見回り中なのに」

「いいのよ。見回りだって目を光らせてるより、こうして学園祭を楽しんで歩いてたほうが、みんなも安心でしょ」

 アイスをかじりながら、カルさんは腕に巻いた腕章を指す。
 それは、生徒会のメンバーあるいは手伝いである証。

 腕章をつけた人が、ジロジロと周囲を警戒して歩き回っている。それじゃあ、他のみんなも楽しめない。
 だけど、みんなと同じように学園祭を楽しんでいれば……みんなも気兼ねなく、学園祭を楽しめるってことだ。

 この人、変なとこもあるけど、ちゃんと考えてるんだなぁ。

「……カルさんは、去年も生徒会の手伝いをしたと言ってたけど……ゴルさんに頼まれて?」

 今年はカルさんは、メメメリ先輩に頼まれていたと言っていた。でも、去年はメメメリ先輩はいない。
 生徒会の手伝いをするなら、立候補したのでなければ生徒会長メンバーから頼まれるのが自然だ。

 それに、カルさんはゴルさんのことを、ゴルちゃんなんて親しげに呼ぶし。ひょっとして、ゴルさんとも仲が良いのかもしれないと思ったのだ。

「そうねぇ。彼とは、ずいぶん深い付き合いだから……お互い、身体の隅から隅まで知った関係だからねぇ」

「……」

 ぽっ、と頬を赤らめさせて話すカルさん。身体をくねくねさせるその仕草と言葉の内容に私は、背筋が震える感覚がした。
 なぜか頭の中で「アーッ」という声が聞こえた。

 油断したら、アイスを落としてしまいそうだ。

「くすっ、あはははは、す、すごい顔してるわよエランちゃん! あははは!」

「ぁー……」

 自分でも変な顔をしているという自覚は、まあある。だって仕方ないじゃないか。
 お腹を抱えて笑うカルさんは、ポンポンと私の頭を撫でた。

「へ、変な言い方しちゃったわね、あははは。半分くらい冗談だから聞き飛ばしてちょうだい」

「そ、そうですか。ほっ……
 ……半分?」

 目に涙が浮かぶほど笑ったカルさんは、指先で涙を拭いながら言う。
 半分くらいは冗談だから、聞き流してくれと。

 ……どこからどのへんが、冗談なんだ?
 あんまり、深くは追求しないでおこう。なんだか怖い。
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