史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第十章 魔導学園学園祭編

752話 どうしよう

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 生徒会としての見回りは、カルさんのおかげでスムーズに進んでいた。
 入学してからそれなりに時間は経っているけど、行ったことのない場所も当然ある。なんたって、大きな校舎なのだ。

 カルさんみたいに、道に詳しい人がいてくれてよかった。
 そうでなければ、また校内で迷っちゃうところだったかもね。あははは。

「エランちゃん、疲れてないかしら?」

「大丈夫」

 私を気遣ってか、ちょいちょい休憩を挟んでくれる。
 さっきはアイスも奢ってくれたし、やっぱりいい人だ。

 なかなか個性的な性格をしているのが印象強いけど、こうして話している分にはなんの問題もない。

「イチャイチャしているカップルはいたけど、それ以外に問題はなさそうね」

「そうですね……」

「おいてめえ、なにぶつかってやがんだ!」

 なんの問題もなく、見回りを終えることが出来そうだ……そう思っていた矢先。
 なにやら、誰かの怒鳴り声が聞こえた。一瞬、自分のことかと思ってびっくりしてしまった。

 私は、反射的に声の方向を見る。
 ここは中庭……人もたくさんいるっていうのに、どれだけ大声を出してるんだ。

「いや、だから謝っているじゃないか」

「はぁん!?」

「行ってみましょう」

 穏やかではない雰囲気だ。私は、カルさんと共に声の中心部へと向かう。
 人だかりができていたけど、その人物を中心に一定の距離が広がっていた。

 そこにいたのは、二人の男。いや、三人か……片方の連れなのだろう、距離が近い。
 ただ見ただけでは、どっちが声の主かはわからないけど……

「謝罪の言葉が聞こえねえってんだよぉ!」

 あきらかに怒鳴り声をあげているのが、あっちの方、か。
 それは、大柄のスキンヘッドの男のものだった。全身に毛が生えているし獣人かぁ。見るからに凶悪そうだ。

 その男の近くにいるのが、ヤモリ型の亜人。そして、二人と相対しているのが、困ったようにしている女の人だ。
 ……これだけで、なんとなく状況が読めた。

「……というか、なんかあの二人見たことがあるんだよなぁ」

 あのスキンヘッドとヤモリ亜人、なんだか見覚えがある。
 いや、この国の人間ならば、どこかですれ違っている可能性もあるんだけど。とはいえ、国の中ですれ違う人間を覚えてるなんて、よほど印象がないと。

 うーん、誰だっけなぁ。

「なぁ、あれって」

「あぁ、冒険者の……いや、元冒険者のグリムロードだろ?」

 近くで、叫んでいる男を見て話している人たちがいる。
 そのセリフが聞こえ、私は耳を澄ませた。

 なんだろう、なんか聞いたことある名前のような……グリムロード、グリムロード……

「あぁ! あの野蛮なスキンヘッド!」

「エランちゃんっ?」

「あぁ?」

 あ、やべっ。声出しちゃった。思い出したからつい。えへへ。
 でも、間違いないよあの小物じみた顔。それに、後ろのヤモリ腰巾着もそうだ。

 カルさんは、もちろん出ていくつもりだったけどそれより先に私が声を上げたので驚いている。
 スキンヘッドは、鬱陶しそうに私を見て……そしてなにかに気づいたかのように、目を見開いた。

「てめえ、あのときの……!」

「あら、エランちゃん知り合い?」

「知り合いというかなんというか……」

 私は思い出すのに時間がかかったけど、向こうはそうでもなかったみたいだ。
 ま、私のように黒髪黒目で印象深い美少女、忘れろって方が難しいだろうけどね。

 グリムロード……以前、王都でビジーちゃんに因縁を付けていたBランクの冒険者だ。
 あのときは、小さな女の子に絡んでいた。今回も、懲りずに誰かに絡んでいるらしい。

 ……ビジーちゃん。当時は、黒髪黒目の女の子ってことで妙な親近感があったけど。ふたを開けてみれば、実はエレガたちの仲間だった。
 なにも知らなかった頃に戻りたいよ。

「てめえ、なんでここにいやがる!」

「なんでって、ここは魔導学園で、私は学園の生徒だからだけど」

 グリムロードは、標的を目の前の女性から私に変えて、足を進める。
 大柄な男が近づいてくるというのは、なかなかの威圧感があるはずなんだけど……

 どうしよう、全然怖くない。

「それに、生徒じゃなくても今日は学園祭で、学外のお客さんも多い。あんた自身そうだろうに、『なんでここに』なんてよくも頭の悪い質問ができるね」

「てめっ……また、この俺を……!」

 あぁ、どうしてだろう。私ってば元々思ったことは口に出ちゃうタイプだけど、この男に対してはそれがあからさまになってしまう。
 やっぱり、ムカつく奴だからかな。

 結果的にビジーちゃんはダークエルフにとって因縁のある相手とはいえ……見た目は、小さな女の子だ。
 そんな相手に、大人気もなく因縁をつけているこの男が見るに堪えないのだ。

 今だって、若い女の人相手に……

「だっさ」

「ぐっ……!?」

「ぁ」

 また言っちゃった。
 そのせいだろうか、スキンヘッド男のスキンヘッドがみるみる赤くなっていく。

 まるで、いつか『ウミ』で見たタコのようだ。いや、茹で上がっているようだから……

「茹でダコか」

「殺す……!」

 またまた言っちゃった。
 よほど苛ついたのだろう、スキンヘッド男は私に敵意……いや殺意を向けて、拳を握ってそれを繰り出す。

 こいつ、以前私に拳を受け止められたこと忘れてるのか?
 ……忘れてそうだなぁ、バカそうだし。

 まったく。だったら、思い出させてやらないと……


 パシンッ


 ……私は、拳を受け止めようとしたけど。それよりも先に、拳が止まる。
 もちろん、私はなにもしていない。なにかしようとしたけど。スキンヘッド男が自発的に止めたわけでも、ない。

 ならば、拳が止まった理由は……

「あらぁ……私のかわいい後輩に、なにをしようとしているのかしら?」

 ……笑顔で、スキンヘッド男の手首を掴むカルさんが、そこにいたからだ。
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