839 / 1,141
第十一章 使い魔召喚編
826話 モンスターとの契約
しおりを挟む使い魔召喚の授業がついに開始。一番手は、カリーナちゃんだ。
習った技術を、得た知識を、それらを動員して丁寧な動きで魔法陣を描く。惚れ惚れするほどにきれいな魔法陣。
カリーナちゃんの小さな口が動き、言葉を漏らしたあと……それに反応するように、魔法陣が青白く光り出す。
魔導の杖の先端も呼応するように光を増し、その時が来るのをじっと待つ。
「……ぁ」
召喚中は声を出してはいけないのか、そんな決まりがあるのかはわからないけど、誰もが固唾をのんで見守っていた。
だけど、ふと誰かの声が漏れた。それは周囲の誰か……もしかしたら、カリーナちゃん本人だったのかもしれない。
声が漏れた理由は、簡単だ。魔法陣に変化が訪れたから。
いや、魔法陣に……というのは少し違うかな。魔法陣そのものではなく、魔法陣の下からなにかが現れたのだ。
それは、ゆっくりと魔法陣の上へと姿を現す。まさしく、召喚という名前にふさわしい。
そして、全身が現れ……魔法陣の光は消え、光の中から姿を現したのは……
「キィー!」
バサバサと翼を動かし、飛んでいる……鳥だった。
白く、ちょっと大きめな体。元気な鳴き声を上げるその姿は、確かにモンスターだった。普通の鳥と違うのは、翼が二つではなく四つあること。
そう……カリーナちゃんの召喚魔術に応じ、召喚されたモンスターだ。
「おぉ……!」
私を含めて、声が漏れる。
使い魔契約をしたことも、見たこともある。けれど、こうして召喚魔術を目にして目の前で成功したのは、初めてだ。
みんながそれぞれ声を上げる中、固まったままだったカリーナちゃんが肩を震わせた。
「こ、この子が……私の……」
「そうだ、無事成功したようだな。後は、契約を済ませるのみだ」
自分がモンスターを召喚したことに唖然としていたカリーナちゃんが、先生に肩を叩かれ振り向いた。
その顔に、先生はうなずくと……召喚で終わりではないことを告げる。
そう、使い魔召喚は、モンスターを召喚し……そのモンスターと契約し使い魔とすることで、完了する。
今はまだ、ただモンスターを召喚しただけだ。
それを思い出し、カリーナちゃんは再び前を向き……大きく息を吸って、吐いた。
「……あなたは、私と契約を結んでくれますか?」
「キィ!」
元気な鳴き声。まだ契約を交わしていないため、カリーナちゃんにもモンスターがなにを言っているかは聞こえないはずだ。
だけどカリーナちゃんは、なにかを確信したようにうなずき……自分の人差し指の先を、軽く切った。
「……」
そして、腕を伸ばし……指先から流れる血を一滴、魔法陣へと垂らした。
同じくして、モンスターもまた自分の翼を突き、そこから流れる血を魔法陣に流す。
私たち、術者だけじゃない。モンスターも、契約の仕方はわかっているのだ。
もふもふだって、そうだった。なにも知らないフィルちゃんの血と自分の血を使い、契約に至った。
多分、モンスターの中にもやり方とか、そういうのはあるんだろうな。
「では、これより契約を行う」
一人と一匹、召喚した側とされた側の血が魔法陣に落とされ、混ざり合う。その瞬間、魔法陣は再び光を放つ。
いや、これはさっきよりも大きな光だ。
「名前を」
それを見て、先生が言う。契約に必要なもの……それが、名前だ。
モンスターに名前をつけ、お互いの意思が完了したことで、契約は成功する。
カリーナちゃんは、少しの間考えるように黙り……しかし、思い浮かんだのかゆっくりと口を開いた。
「……ミュー。あなたの名前は、ミュー」
「キィイィ!」
それが、合図だったようだ。……光は、さらに輝きを増していく。
カリーナちゃんとモンスターを包み込むように大きく輝いていく。大きな輝き……でも、それは一瞬のこと。
眩しさに目をつぶり、でも開いた次の瞬間には……光は収まりを見せていた。
「……よし、完了だ」
それは、傍目からはちゃんと完了したのかどうかはわからない。だけど、先生は満足そうに言う。
みんなにはわからない……でも、私にはわかる。モンスターとの契約が済んだら、本人にはすぐにわかるのだ。
カリーナちゃんも、きっと自覚している。
「……今日から、あなたが私の、使い魔です……」
「キィイ!」
自分の手を確かめるように握っては開き、そしてモンスターの姿を見て……にこりと微笑んだ。
使い魔召喚、そして契約。それがここに完了した。
カリーナちゃんが召喚した白い鳥……ミューと名付けられたモンスター。種類はキュクノスって分類らしい。
きれいな鳥だ。思わず見惚れちゃうくらいに。
「では、次!」
だけど、そうやって見惚れている時間はない。
先生は次の名前を呼び、生徒は入れ替わるように移動する。
二クラス一緒とはいえ、テキパキ回していかないとね。
「次は、ナラン・ケイヤル」
「!」
一人の男子生徒が呼ばれ、前に出る。
そして先ほどと同じように魔法陣が展開され……モンスターの召喚、契約が成される。
それを繰り返し、みんな次々と順番を回していき……
「次、クレア・アティーア」
「はいっ」
ついに、クレアちゃんの番がやってきた。
10
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる